内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

無名の民衆によって生きられた歴史をいかに「一人称」で語るか

2018-10-24 00:00:00 | 講義の余白から

 今回の中間試験問題は、要約すると以下のような問題である。
 鎌倉あるいは室町のいずれかの時代を選び、非農業民の中から一つ特定の職業あるいは社会的身分を選択し、その視点に立って、当時の社会の変化を如実に示すある一つの歴史的出来事に即して、特に東国と西国との違いについて、一人称の〈語り〉として叙述せよ。
 実際の課題には、もっと詳細な条件設定がA4一枚いっぱいに与えられている。職業・身分だけでも、例として、職人(このカテゴリーからさらに一つの職種を選べ)・商人(左に同じ)・芸能者(左に同じ)・陰陽師・仏師・絵師・能書・山伏・比丘尼・遊女・白拍子・傀儡子などを挙げ、それら以外でも構わないとしてある。他方、与えられた諸条件が遵守されていなければ、その数に応じて当然減点の対象になる。課題についての事前の質問はもちろん受け付ける。
 先日、こうした試験形式を最も得意とする二人の女子学生からメールで質問が来た。
 一つは、「婆娑羅大名の佐々木道誉について書きたいが、課題条件から逸脱することになるか」という質問。私の回答は、「視点を佐々木道誉自身にしてはもちろん条件違反である。しかし、道誉をめぐる歴史的事実を民衆の視点から描くことは条件違反にはならない」。もう一つは、「課題条件の一つに、『語り手は京・鎌倉間の徒歩旅行の途上』とあるが、行商人ならば、商品を運搬するための荷車を使っていたこともあるだろう。当時の京・鎌倉間の東海道はそれが可能なほど整備されていたはずだから、それを加えてもよいか」という質問。私の回答は、「いい質問だ。もちろんそれを加えることは構わない」。
 この二つ目の質問をしてきた学生は、与えられた条件から当時の様子をより具体的に想像しようとしていることがわかる。その具体的な記述のためには当時の道路事情について調べる必要がある。そして、そこから東国と西国とのインフラ整備の差異についても言及可能になる。だから、これはいい質問なのだ。
 ただ、日本語でならば、授業中にも紹介した武部健一『道路の日本史』(中公新書、2015年)など、この分野に関して手軽に参照できる文献が何冊もあるが、仏語文献では私の知るかぎり皆無だ。あったとしても、それは高度な専門書だろう。だから、日本語文献を参照するしかないわけであるが、これは修士レベルの要求であり、学部生にそれを求めるのはさすがに行き過ぎであろう。












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2 コメント

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これ狂言を参考にすると書けそうな・・・。 (mobile)
2018-10-24 13:46:51
鬼瓦(おにがわら), 柿山伏(かきやまぶし), 蝸牛(かぎゅう)あたりを参考にして・・・。
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Re:これ狂言を参考にすると書けそうな・・・。 (kmomoji1010)
2018-10-24 17:03:16
ご示唆、ありがとうございます。今回の試験には間に合いませんが、後期に活かせそうです。
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