内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

網野善彦『日本中世に何が起きたか 都市と宗教と「資本主義」』、あるいは解説を読む愉しみ

2018-11-14 13:50:43 | 読游摘録

 本書の解説を書いているのは、『一揆の原理』『戦争の日本中世史』『応仁の乱』『陰謀の日本中世史』の著者、日本中世史が専門の歴史家呉座勇一氏である。氏自身の著作も大変面白い(あるいは面白すぎる)けれど、氏はまた解説の名手でもあると思う。後期網野史学の代表作である本書の各章の内容を手際よく紹介しつつ、網野の学説がその研究人生を通じて大きく変化していること、最大の変化は「無縁」論から「資本主義」論への移行であること、その移行によって前者と後者とが両立不可能になってしまった理由などを簡潔・的確に指摘している。
 呉座氏は、現在朝日新聞に「呉座勇一の歴史家雑記」を連載中だが、その中にも興味深い論点がいろいろとわかりやすくユーモアを交えて紹介されている。
 同じく朝日新聞の「呉座勇一の交流の歴史学 ブックガイド篇」も私には大変参考になった。五味文彦、黒田日出男、石井進、笠松宏至、勝俣鎮夫といった錚々たる歴史家たちの業績の勘所をこれまた簡潔明瞭に説明し、ブックガイドとしても行き届いている。
 石井進を紹介している今年の2月3日の記事では、その出だしに、「私は新聞などでは「注目の若手研究者」のように紹介されるが、現実にはアラフォーだし、学界での評価がさほど高いわけではない」とさらっと書いてある。問題の本質を鮮やかに洞察する慧眼とこういう自己に対する軽やかな距離感とが絶妙にミックスされた文体が彼の著作を魅力あるものにしている理由の一つであろう。