内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

クロード・レヴィ=ストロース『月の裏側 日本文化への視角』を読みながら(四)

2015-02-01 14:18:54 | 読游摘録

 三日前から紹介を始めている講演「世界における日本文化の位置」の中で、レヴィ=ストロースは、日本における神話と歴史の連続性、さらには歴史の神話世界の中への根づきということを指摘する。そして、神話と歴史相互の間にあるこの親密なつながりが最も心を惹かれる日本の魅力だと言う。これは、神話と歴史を一つの深淵が隔てている西洋的世界を相対化し、神話と現実世界との関係という観点から世界の諸文化を見直そうとするときに、日本が特異な位置を占めていることを意味している。
 レヴィ=ストロースによれば、『古事記』と『日本書紀』はそれぞれ異なった仕方で、世界神話のあらゆる大きな主題を、比類のない技法でつなぎ合わせている。そしてこれらの神話は、その中で少しずつ歴史に溶け込んでいる。広大な大陸のはずれで周縁的な位置を占め、長い間の隔離を経験していながら、同時にその最古のテキストが、他の地域では散逸した状態でしか見出だせない諸要素をこの上なく洗練されたやり方で総合できた。これをどうやって説明したらいいか、そこに日本文化が提起する基本的な問題があるという。
 アメリカ先住民と古い日本に共通するすべての神話的主題は、インドネシアにもあり、そのいくつかのものは、この三地域にしか認められない。この三地域の神話は細部にいたるまで一致しているので、個別に考え出されたという仮説はすぐに排除できる。ここから、これら神話はどのように伝播していったのかという問いが出てくる。
 このような比較神話学的観点から、「日本の独自性」について問い直すことができるだろう。しかし、内容的な固有性を日本の神話の中に見出そうとする方向に進んでも、大した成果は期待できない。むしろ、他の地域ではばらばらに見いだされる諸要素を、スケールが大きくかつ緊密な構成でいかに総合しているかというところに日本の独自性は見出されるとレヴィ=ストロースは見る。ここから、世界における日本の位置と役割について、次のような洞察が引き出される。

これらのテクストは日本文化の特質を例証しています。この特質には二つの側面があります。極めて古い時代に、比較的等質性の高い民族のタイプと言語と文化を形成するのに貢献したに違いない要素の多様性を考えると、日本は何よりもまず、出逢いと混淆の場であったと思われるのです。けれども、年古りた大陸の東の端という地理的環境と、断続的に孤立していた状況は、日本が一種のフィルター、あるいはこう言ってよければ蒸留器として働くことも可能にし、日本で合流した歴史の流れが運んできた物語から、希少な一つのエッセンスを分離させたのです。借用と綜合、混合と独創とを交互に繰り返してきたことが、世界における日本の位置と役割とを言い表すのに、最もふさわしいように私には思われます(24-25頁)。

 この一節を、日本の過去の遺産への賞賛としてだけでなく、これからの日本の生きる道を指し示す賢者の言葉として私は読みたい。