内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

夏休み日記⑮ 雲に覆われた肌寒いパリの空の下で

2014-08-18 17:44:00 | 雑感

 今日から「夏休み日記」のフランス篇。
 夏の陽射しに遠く見放されたかのような曇天の下、長袖シャツ一枚だけでは肌寒いパリに昨日午後到着。日中の最高気温も二十度前後。吹く風はもう秋の風。午後6時過ぎ、十六区のアパートに北駅から乗ったタクシーで移動。明日から実際の入居者として暮らす娘の代わりに大家さんと入居手続き。自分自身は普段南仏に暮らし、パリに二つアパートを持っている大家さんから鍵を受け取り、簡単な説明を受ける。室内はかなり高い家賃からすれば文句がないとは言えないような状態だが、何も日用雑貨を買わなくてもすぐに生活を始めるのに必要なものはすべて揃っており、光熱水費のうち電気代以外はすべて家賃に含まれ、インターネットも込みだから、一年未満の滞在のためならば、まあ仕方がないかといったところか。九階建ての建物の最上階、二つの窓からはパリ南西郊外が一望の下。その展望の中には残念ながらパリの観光名所はまったく入っていないが、曇天でも日中は十分な光が室内を満たす。視界の前景にはÉglise d’Auteuil の尖塔だけが虚空に聳える。同名のメトロ十番線の駅の出口の通りを挟んだ斜向かいの建物がアパートの入り口。アパートがある建物は中庭の奥にあり、日曜日の昨日、聞こえてくる音と言えば、教会の鐘の音だけ。高級住宅地である十六区の住人の大半はまだヴァカンス中、辺りはひっそりとしている。月曜日の今日、近所の工事現場の足組用の資材を移動させる音だけが最上階まで響いてくる。
 今日の夕方からこのアパートで来年五月末まで生まれて初めての一人暮らしをする娘は、今フランスに向かっている機上の人。少し過保護だよなあと思いながらも、午後シャルル・ド・ゴール空港まで迎えに行く。昨日、空港まで迎えに来てほしいかと私自身の出発直前に羽田からメールで聞いたら、一言「来ていただきたいです」と慇懃(無礼とまでは言わないでおこう)な返事がすぐに返ってきた。二十歳の娘は、今までろくに自分の部屋の掃除もしたこともなく(掃除が大好きで、いつも部屋が整理整頓されていないと落ち着かない父親の娘がである)、料理もほどんどしたことがない(一人暮らしのフランスでは外食や惣菜にはほとんど頼らず毎日健気に自炊している父親の娘がである)。どうなることやらとどうしても心配になってしまうのは、これまで九年間日本とフランスで離れ離れに暮らしていたとはいえ、それでも失われたわけではない親心というものなのだろうか。明後日の夕方ストラスブールに戻るまでの三日間、一人暮らしの立ち上げに付き合う。