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「雨族」 断片55-風のなかで眠る女:「10章・ライブハウスをヤレ!」:kipple

2010-01-29 18:34:00 | 雨族(不連続kipple小説)

ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代


               「雨族」
     断片55-風のなかで眠る女
         「10章・ライブハウスをヤレ!」


「都心で何をやるって?」

「遠い昔、静かに失われた時の底に、深く深く眠り続ける犯罪だ」

「どういう事?」

「ライブハウスを、やっつける」

「それが、どうして静かに失われてしまった・・・何だっけ・・・時の底に深く眠る犯罪なの?」

「簡単には説明できないけれど、これは僕の逆襲劇なんだ。散弾銃とプラスチック爆弾を用意する」

「わかった」

「そう、仇討ちさ」

「何に対する?」

「僕の失われた真に聖なる幻想に対する」

「どうやる?」
と、マユミ。

「とにかく、3人でやるんだ」
と、僕。

「あたし、抜ける。イミないもん」
と、チカ。

「じゃ、2人でやるんだ」
と、僕。

「どうやってよ!」
と、マユミ。

「プラスチック爆弾は僕の戦争マニアの叔父さんから調達できる。散弾銃は弟が免許を持っている。僕と弟はそっくりだ。散弾銃を買える。明日の夜までにそろえる」

「決行時刻は明後日の午後7時半。演奏中でなければ意味がない」

「血は流れるのかしら?」

「血は流れる」

 チカは、ぷぅっと頬をふくらませて、くちびるを突き出したまま、僕のアパートを去って行った。

 その後、僕はマユミにあたりまえの質問をされた。

「どうして、ライブハウスを、ヤらなきゃならないのか、もっと詳しく説明してよ」

 僕は少し考えたけど、すぐに途轍もない混乱におちいった。

 僕は、その理由を思い出したくないのだ。

 胸が、だんびらで、バッサバッサと切り裂かれるみたいだ。

 涙まで出てきた。

 声は、かすれて出てこない。

「もう、いいわ、わかったわよ。忘れるがいいわ」

 僕は苦しみながらも声を絞り出した。

「ライブハウスは象徴だ。問題は別にある。別のものに付随する厖大なものの中の一つが、ライブハウスなんだ。僕は、その、厖大なものが内包する無数の呪いを1つずつ、物凄く憎み、逆にこっちも呪っているんだ。だから、代表としてライブハウスに死んでもらう」

 僕がそう言うとマユミは、何やらケータイで話をしており、とろぉ~んとした表情で仕事があるからと去って行き、結局、一人で決行する事になった。


 *** *** *** *** *** *** ***


 無数の中の、そしてかなり重要でやっかいな、この呪いは実際的にはクロエがもって来た。

 クロエと出合った、あの夜に、僕は内心、ライブハウスを殺す事を決意していた。

 そして、ライブハウスに散弾銃とプラスチック爆弾で死んでもらう決行前夜、僕はクロエとアパートで、話し合った。

 もちろん、現在のクロエを作った男、クロエがライブハウスで出会ったギタリスト、5年間クロエと徹底的に愛し合いクロエを完膚なきまでスポイルした男、僕の前の男、クロエに飽きて恋愛関係を一方的に解消した男、その男がクロエの全部に何から何まで、すっかり居ついてしまっているという事についてだ。

 その事が雨族たる僕の心を、巨大なだんびらで、バッサバッサと切り刻み続けるという事。

 しかし、本当の問題は、僕の内部にあると言う事も、分かりすぎるくらい分かっている。

 だから、僕は半分、納得はした。

 何回か頭を上下左右に振り回し、デパスを1mgと抗鬱剤を何錠か飲んだ。

 それを、クロエはじっと見ていた。

 僕はクロエに言った。

「嫉妬は憎しみだ。そして僕はとても弱いんだ。僕は、おそらく本質的に、雨族的呪いにがんじがらめに封じ込まれている」

「また、呪いね。あなたは呪いのスペシャリストね。いいわ。それは、それとして、これから、どうするかよ。私とあなたは協力して、癖になってしまった、それらの呪いを解き放たなければいけないのよ。問題は、あなたが私と組む気があるかどうかよ。まず、そこから初まるわ」

 身体中が波打っているような気がした。

 僕は選ぶのが嫌いだ。

 いつも何もしないできた。

 だから、明日こそ、必ず、ライブハウスを殺してやろうと思った。


 しかし、次の日、散弾銃とプラスチック爆弾で武装した僕は、ライブハウスの前を通り過ぎるだけで、あっさりと何もせずに終わってしまった。


 風のなかで眠る女が、僕の確執を削除したのだ。





断片55     終


This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)