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「雨族」
断片47-園の内側、赤い空
3.殺人
待ち合わせの時間に30分遅れて奴はやってきた。
奴は深夜の労働を終え、自分の住み家、この高層ビルのてっぺんにある、掘っ立て小屋に帰ってきたのだ。
奴はジーンズの尻ポケットをできものの様に膨らませ、チェックの何ヶ月も洗っていないようなシャツを着ていた。
そして、そのいでたちで、奴は塵一つ付いていないピカピカに光る革靴をはいているのだった。
奴は私に出会うなり煙草をねだり、煙の中から疲れた声で神妙に言った。
「どうでもよかったんだ。」
私は夢の感触を思い出し、少しふらふらした。
私も煙草をくわえ、マッチ棒で火を付けながら言った。
「俺にとっては、そうじゃない。」
奴は1/3も吸わぬうちに、コンクリートでもみ消して、あくびをした。
「うるせえよ。金はやるから、俺にからむなよ。」
彼は言った。
私は奴の汚らしい尻ポケットからつかみ出された数十枚の1万円札を受け取り、奴を殺した。
実際のことろ、私は奴を殺してはいない。
しかし、私は私の世界から奴を抹殺した。
私にとってもう奴は存在しない。
見えない。
何もない。
私は朝の銀色の光の中に消えて行った。
断片47 終
This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)