ようこそRAIN PEOPLES!超バラバラ妄想小説『雨族』の世界へ! since1970年代
「雨族」
断片38-風のなかで眠る女
「6章・パリのまねき猫ついにあらわる」~4.こころ、ハック
-遙か彼方から-
端末から赤いセラミック結線をバイオ加工して後頭部に開けた穴から、いわゆるティモシー・リアリーのポテンシャル・サーキット神経系に接合した。
僕はモニターを凝視していた。モニターは“READY?”と赤い文字を点滅させている。
僕の心臓は波打っていた。
いよいよ、僕は数値化された電子の沃野に突入するのだ。
このウイルス・ソフトは信頼できる。
僕は確信している。なにせ“イパネマの娘”が三ヶ月間費やした作品なんだから。
“イパネマの娘”は、あの世界最後の予定の日に死んでしまったが、彼女の天才は永久に僕と共にある。僕は彼女の天才をダリの天才指数よりも遙かに信じきっている。
“READY?”
僕は、ためらわず実行KEYを押した。
目に見える世界が消滅し、僕は“イパネマの娘”のウイルス・ソフトを経由して端末から自分の内宇宙に突入した。
現実が消失し星々がみえた。扇形に広がる電子の世界に僕は浮遊していた。星々はデータだ。
僕がめざすのはアカシックレコードのデータだ。そのには“僕の心”が登録されている。
強力なプロテクトに閉ざされ、封印されている。
“僕の心”を僕は、とても知りたい。
“僕の心”は、いったい何を欲していて、どういう状態にあるのか?
“イパネマの娘”の作ったウイルスは、やはり優秀だった。鉄壁のプロテクトを次々と突破し、僕は瞬く間に封印された“僕の心”に辿り着いた。
しかし、僕は封印を破って“僕の心”に侵入する前に撤退を決意した。
“僕の心”に侵入するまでもなく、僕には分かった。とっくに手遅れだったんだ。
“僕の心”はレベル5の雨族に分類されており、さらにとっくに壊れている事が、防壁外部から見ただけで分かった。
それはもう、真っ暗でバラバラでグチョグチョでメチャクチャで手の施しようもないくらい壊れていた。
封印を解いて修復をするにも、僕にはその手段が無かった。
もし、“イパネマの娘”が生きていたなら“僕の心”修復ソフトを作ることができただろうか?
やはり、もう、どうしようもないのだろうか?
僕は、涙をボロボロ流しながら、アカシックレコードから撤退した。
断片38 終
This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)