木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

法令の審査方法(1)

2011-09-12 21:58:51 | 憲法学 憲法判断の方法
法学部図書館に行くと、そこにはツツミ先生がいた。

ツツミ先生は、英語雑誌コーナーで、楽しそうに論文を読んでいる。
気付かれないように注意してツツミ先生の後ろを通ったところ、
ツツミ先生は英語の雑誌を読みながら、
「あ、キムラ先生、ちょうどいいところに」と言った。

ツツミ先生は、英語が出来る先生だが、英語が出来すぎたため、
日本語用の頭脳と英語用の頭脳が完全に分離されており、
何の苦もなく日本語で会話しながら、英語の論文を読めるのである。
迷惑な話だ(特にこの瞬間は)。

ツ「あのさ、この前、合憲限定解釈と部分無効の関係について
  お話してただろ。そしたら、また質問がきた。」

 こういうとツツミ先生は、メールをプリントアウトしたものを渡してきた。
 そこには、次のように書いてある。


  「法律を解釈する」ということと「法律から法命題を導く」ということは、
  どのように区別するのでしょうか。

  基礎的なことだと思うのですが、
  なんとなくわかるようなわからないような、多分私が聞かれたら説明できないです。すみません。


  例えば、あおり行為の処罰規定だと、
  その規定が適用されるかは「あおり」の意味を確定しなければ判断できません。

  そこで、その意味を①悪質なあおりとするならば、それによって、
  適用範囲が明らかになります。このように法律の適用される範囲を確定させる作業
  (物をいれるための器の大きさを決めるみたいなイメージでしょうか)を「法律の解釈」といい、
  この解釈によって確定された適用範囲に、
  ある想定される行為が含まれるかどうかを検討した結果が、
  法文から導出された「法命題」である、ということでしょうか。


 
私「ふーむ。法命題っていう概念が、なかなか伝わらなかったようだな。」

ツ「そのようだね。法命題っていうのは、わたしらにとっては、馴染み深くても
  今の学生さんには、なじみがないのかもしれない。」

  それは違う。恐らく、ツツミ先生の勉強がマニアックだっただけで、
  最近の法学部では、あまり法命題という言葉自体を教えない。

  もし、学部生や法科大学院生で、この法命題という概念を知っている人がいたら、
  その人は、石川先生の論文を読みあさっているヘンタ・・・いや勉強家か、
  ものすごくクラシカルな講義をやる先生に出会うことのできたラッキーパーソンだろう。

私「どこから説明したもんだろうね?」

ツ「そりゃあんた、法的三段論法からだろ。」

私「ずいぶん、根本的な話だな。」

ツ「法命題っていう概念自体が、そういう根本的な概念なんだよ。」

私「そうか。じゃ、そっからやってみよう。
  法的三段論法っていうのは、
   大前提  違法有過失行為に起因する損害(A:要件)は、賠償(B:効果)しなくてはならない。
   小前提  このツツミ先生の運転ミスに起因する私の傷(C:要件事実)は、違法有価質行為に起因する損害(A)である。
   結論   よって、ツツミ先生のミスから(C)、損害賠償責任が発生している(B:効果)
  っていうやつだね。」

ツ「うん。これは、あらゆる法的判断の基礎的な枠組みだ。
  法学のイロハのイと言える。」

私「そうだね。あらゆる法は、要件と効果からなる命題の形をとる
  それに事実を包摂し、効果を発生させる。これが、法的判断だ。
  そして、この法的三段論法の大前提部分である
  要件と効果からなる命題が、法命題。」

ツ「そういえばさぁ、法命題と法文を同じものだと誤解している人がいるよね。」

私「さっき、あんたは法命題という概念を知らない人が多いっていってたぞ。」

ツ「だから、法命題の概念を知らないっていうより、
  法文と法命題を混同して、意識しない人が多いってことだよ。」

私「なるほどそうかもね。法文と法命題は、異なる。
  法律の文章、つまり法文が、法命題をそのまま書いたものであることもあるけど、
  多くの場合は、法命題は、複数の法文をかけあわせて、いろいろな操作をして
  ようやく得られるものだ
。」

ツ「うーんと、民法709条なんかは、法命題をそのまま書いたといっていいくらいの
  条文だよね。」

 ツツミ先生は、不法行為と法人の話が好きである。
 なぜ、不法行為の話が好きかを聞いたところ、「恋がからむから」。
 (故意と恋のダジャレは、民法・刑法専攻の必修科目である)
 では、法人好きなのはなぜかと聞いたところ、「二次元に興味があるから。」
 (法人とは、二次元の存在だったのか・・・。)

私「でも、その法文だけ読んでも、どんな法命題を表現しているのか
  良く分からないものもたくさんある。
  例えば、民法の行為能力なんかの規定は、
  それだけではどんな法命題を示しているのか良く分からないし、
  憲法上の権利の規定もよくわからない。」

ツ「そうだよね。憲法21条1項は、憲法98条とともに
  『表現の自由を侵害する国家行為は、無効となる』ちう
  法命題を表現している。
  刑法なんかの法命題は、さらに複雑で、
  『窃盗をした者で、正当防衛でも正当業務行為でも・・・・でもなく、
   責任を持つ者には、・・・という減刑を施した範囲で、・・・刑を科す』
  みたいな、えらい長い法命題を、たくさんの条文で表現している。」

私「で、このsnowさんの質問への回答だけど、
  法解釈ってのは、法文(より正確には法源)から法命題を導出する作業だ、というのが
  まず、最初の答え。」

ツ「じゃあ、『あおり』という文言の解釈ってのは、
  法解釈じゃないのか?」

私「うーん、『あおりとは、悪質なあおりを言う』とかっていう言明や論証も
  解釈ということがあるけど、
  こういう言葉の解釈っていうのは、法命題を導くための法解釈の
  途中作業の一つってことになるかな。」
 
ツ「ふーん。じゃあさ、
  『この解釈によって確定された適用範囲に、
   ある想定される行為が含まれるかどうかを検討した結果が、
   法文から導出された「法命題」である、ということでしょうか。』
  っていうのは、誤りなのかな?」

私「そうだと思う。法解釈により画定された適用範囲に事案をあてはめる作業は、
  法命題への包摂って言う作業であって、そこから導出されたのは、
  その事案での効果の命題(法的三段論法の結論部)だね。」

ツ「なるほど。
  しかし、ちょっとした疑問が残る。」

  ツツミ先生は、白熱中のマイケル・サンデル先生のような口調になった。
  但し口調は、あくまで日本語吹き替え版であり、サンデル先生本人の口調ではない。

ツ「君は、この前、法命題には
  ①『~という要件があれば、~という処分をしろ』という命題と
  ②『~という要件があれば、~という処分をしてもいいし、しなくても言い』という命題がある
  って言っていたよね。」

  サンデル先生の口調は鋭い。しかし、日本語吹き替え版である。
  私は、ぜひ次回の白熱教室ではツチノコは実在するかどうかについて、議論してほしいと思った。

私「いかにも。」

ツ「しかし、『法解釈』ってのは、
  『~のような処分』をしなきゃいけないように解釈するか、
  そうじゃないように解釈するかを決めて、
  法命題を確定させる作業なんだから、
  ②みたいな許容文の法命題ってのはありえないだろう。」

 確かに鋭い。しかし、やはり日本語吹き替え版である。

私「・・・。ふーむ。そこまでお気づきなら、
  もう少し厳密な話をする必要があるな。」

 こうして、我々は、南大沢の知る人ぞ知る洋菓子屋、
 キングに向かうことになった。

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1 コメント

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Unknown (初学者に分かりやすく面白い書き口でした!)
2023-08-03 03:32:54
数学科の学生です。
法命題という言葉が数学における命題とどんな関係にあるんだろう、と
法学について何にも知らないの調べてみたら、貴方のブログが分かりやすくて発見がありました。
法律三段論法など基礎が分かりやすかったです!ありがとうございました
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