木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

突然ですが、クイズです。

2012-07-12 10:33:55 | Q&A 憲法判断の方法
さて、最近、やりとりしている憲法問題がございまして、
皆様にお知恵を拝借したいと思います。

端的に言うと、次のような問題です。



「悪いことをした者は、十年以上の懲役に処する」

という刑罰法規は、

1 不明確・漠然性ゆえに無効
2 過度の広汎性故に無効
3 合憲限定解釈が可能

のいずれでしょう?

理由も付して、ご回答いただけると幸いです。






ちなみに、この問題のきっかけになったのは
次のような横山さんさんからの
ご質問です。
ご参照ください。


ありがとうございます!追加で質問させてください。 (横山さん)
2012-07-09 21:52:28
丁寧なご回答ありがとうございます!これを踏まえて,もう一度よく考えてみたのですが,さらなる疑問が出てきたので,質問させてください。

平成23年司法試験の出題の趣旨には,「明確性」につき,「本問の法律で,『個人の権利利益を害するおそれ』等の文言の明確性が,一般的に問題になるわけではない」,「本問で明確性を問題にするとすれば,『生活ぶりがうかがえるような画像』が『個人権利利益侵害情報』に含まれるのか否かが明確ではない,という点である」との記述があります。

この記述は,木村先生が,他の方の質問に対して,「文面審査の典型例とされる明確性の問題も,実は,文面だけからは審査できず,あくまで当該行為との関係で明確か,という形で問題になります」と回答されているのと同じ意味であるように思います。

そこで,さらなる質問です。
「当該行為との関係で明確か」が問題となる場合には,①法令の文言がおよそ意味が通じないという意味で不明確な場合と,②法令の文言を文字どおり読んだ場合には,その意味が広すぎて,当該行為がその適用を受けるのかどうかが明確でない,という2つの場合があると思います(①の場合はほとんどあり得ないと思いますが…。)。

現実の事案で問題となるのは②の場合であり,それは,「明確性」の名で呼ばれているものの,実は「過度の広汎性」の問題にほかならないのではないか,というのが私の疑問です。

このような意味における「明確性」の問題(実質的には「過度の広汎性」の問題)を判断する過程で,「合憲限定解釈」の可否が問題となり,明確な解釈を選択することにより違憲的な部分を取り除くことができるのかどうかが問題となる,というように理解したのですが,いかがでしょうか。

物分りが悪くて申し訳ありません。。
ご回答よろしくお願いいたします。

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6 コメント

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Re:突然ですが、クイズです。 (あとうともき)
2012-07-12 19:59:46
木村 草太先生

いま,畑違いのアルバイト中のために資料が参照できませんが,
久しぶりにコメントさせていただきます。


モケピロの記事(法令の審査方法(8))の続きですね。
私の結論は,


「悪いことをした者は、十年以上の懲役に処する」という条文は,
「脅迫をした者は、三年以上の懲役に処する」とモケピロ級条文(法令の審査方法(7)より。html使えなくてすみません・・・)との間に位置すると考えます。

「脅迫」であれば,「人に向けられた,一般人を畏怖させるに足りる害悪の告知」という定義が「一般人」の観点から明らかであるといえます。

しかし,「悪いこと」というのは,窃盗などの一般人の観点から悪いことにあたるど真ん中のものがある一方,
人の変顔を勝手にキットカットのパッケージにする,などの一般人が「悪いこと」と考えるか明らかでない行為もあるわけです。

そうすると,「悪いことをした者は、十年以上の懲役に処する」という条文は,当該行為が「悪いこと」にあたるかが不明確であるから,1.不明確・漠然性ゆえに無効となり,3.合憲限定解釈が可能という選択肢は消えます。


では,2.過度広汎性ゆえに無効といえないかが問題になります。

表現行為として21条の保障のど真ん中にあたる行為を行ったにもかかわらず,「悪いこと」に含まれうるために,当該行為との関係で法文が無効というふうに考えれば
過度広汎無効となるともいえます((横山さん)さんはそう考えていると読めます)。

しかしながら,さきに述べたように,窃盗などのど真ん中行為との関係では明確である以上(そして明確な行為の数が僅少でない以上),
「悪いこと」法文はあらゆる行為との関係で不明確といえず,2.過度広汎無効とはならないといえそうです。

横山さんさんのように,文言の意味が広すぎるというのは過度広汎性ではなく明確性の問題なのではないでしょうか。


あとう
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通りすがりですが… (せんぷうき(羽あり))
2012-07-13 01:04:55
木村先生

はじめまして、最近急所のそのあたりをやっていたので、理解確認もかねて回答させていただきます。


まず、広汎性ゆえに無効についてですが、自由権の侵害にならないように対象を限定すると、
悪いこと=人を殺す、財物を盗む、文書を偽造する…etc
とすれば、自由権侵害とならない解釈は一応可能ですが、etcと使ってしまったように、その範囲は広汎になり無効となると思います。


そして、以上のように「悪いこと」をいくら強引に定義しても、違憲である部分を完全には除去できないと思うので、合憲限定解釈は不可能であると思います。

たとえば、「悪いこと」を仮に上にあげた三つに限るとすれば、ある特定の宗教を信じても、「悪いこと」にあたる可能性が出てきて信教の自由を侵害する気がします。(←具体例がこれでいいのか自信はないです…)


次に、漠然性についてですが、
とりあえず、僕が「悪いこと」の定義を一応できてしまった以上、まったく意味不明ではないと思います。(直知可能であると思います)
そうだとすれば、容易にどんな行為か確定できれば、漠然性がないことになると思いますが、
「悪いこと」がここでは刑法上のものに限るか不明であるので、明確性がないと思います。
そのため、漠然性ゆえに無効であるともいえると思います。


このように考えて漠然性・広汎性両方の問題だと思いました。

初めてでコメントの勝手も分かっておらず、内容も微妙な気がしますが、どうでしょうか?
返信する
Unknown (ヒデヨシの野望)
2012-07-13 03:20:16
昔投稿していた者です。
先日の講演は大変勉強になりました。山本先生の「景観は共有財産である」そして、街の未来を考えるということは今までの自分になかった新たな発見でした。

答えは2だとおもいます。今まで先生のブログを見てきた自分なりの理解です。(根本的な部分が間違っているかもしれないですが…)



「悪いことをした者は、十年以上の懲役に処する」

「悪いこと」は、刑法など他の刑罰法規を参照すれば
懲役10年という刑罰の中でも比較的重い犯罪にあたるといえる。

そこで「社会的相当性を欠く、法益侵害を惹起する違法かつ比較的悪質な行為」とでも解釈することは可能

だから、モケケピロピロ級のいかなる法命題も導けない場合とは異なる。よって、明確性審査1はパス(問題設定上事案はないから明確性審査2もパス<よって解答は1でない>)

もっとも、「社会的相当性を欠く、法益侵害を惹起する違法かつ比較的悪質な行為」とした場合には、違憲の適用を受ける場合が出てくる。

そこで、合憲と違憲の適用を区別する基準を定式化する必要がある(一部違憲の処理の大前提)が、
「社会的相当性を欠く、法益侵害を惹起する違法かつ比較的悪質な行為」を合憲的な場合と違憲的な場合に分ける基準を出せるはずがない。

よって、一般人が理解可能という解釈のルールにたどり着く前提の、一部違憲の処理(適用違憲の部分無効の処理・合憲限定解釈の処理)ができないことが判明するため、合憲限定解釈はできない。<よって解答3はない>

以上より、不明確な法文によって処罰されない権利(21条・31条)に反することになり(過度の広汎性の理論)、合憲と違憲の適用が不可分なものとして法文全体が違憲無効となる。









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傍観者ですが (太宰お侍さん)
2012-07-13 11:52:02
憲法の理解が浅く、間違い覚悟で回答します。

私は、1か2だと思います。理由は、『悪い事をする』という抽象的な文言が規定されているという事は、司法又は行政に要件解釈の裁量を認めているものだと考えました。

そして審査原理である1、2ともに裁量の逸脱・濫用を審査するものであり、逸脱、つまり裁量の範囲を越えてしまった場合は過度に広範として1が、濫用、つまり裁量の範囲内で不明確に適用してしまった場合には2が適用されると思いました。
間違ってますよね。討ち死に覚悟で投稿しました!
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Unknown (はいどろ。)
2012-07-14 19:33:39
直感的に考えられたのは1の主張ですので、2・3について検討します。
(1)合憲限定解釈…×
刑事処罰は比例原則が働くので、本件でいえば、「10年の懲役を処するに十分な行為」が必要です。当該規定では「悪いことをした者」とするのみで、いかなる行為が処罰に妥当するか、法文自体から読み取れません。従って、合憲限定解釈に必要なヒントが法文から読み取れないので、(合理的な)合憲限定解釈は不可能といえます。
(2)過度の広汎性…×
1も2も、憲法31条から導かれる法理ですが、芦部p197によれば、過度の…法理は「法文が一応明確でも、帰省の範囲があまりにも広汎で違憲的に適用される法令」の場合に適用されるとされます。本件法文の「悪いこと」は規範的な文言であり、何をもって「悪い」とするかは不明確です。従って、法文自体が「一応明確」とはいえず、過度の…法理の適用場面ではない、ということになります。
(3)漠然性…○
本件法文があいまい不明確なのは(2)で述べたとおりです。これは、徳島公安条例判決の定式によって判断しても、適用範囲が読み取れず、よって漠然性…法理を適用して無効と考えます。

従って、1の法理を適用するのが妥当と考えます。

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>みなさま (kimkimlr)
2012-07-15 09:30:28
ありがとうございました。
どうやら、この問題について
最終的な解決ができそうです。

記事にしてみました。
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