木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

違憲審査基準の言葉づかいについて

2011-12-24 13:24:52 | Q&A 憲法上の権利
次のようなご質問を頂きました。

LRAの基準について (えるれ)
2011-12-22 15:35:37
はじめまして。
芦部「憲法」5版p202のLRAの基準について聞きたいことがあります。
「立法目的は表現内容には直接かかわりのない正当なもの(十分に重要なもの)」
と記載してありますが、立法目的が正当な場合には合理性のテストで、
立法目的が重要な場合は中間審査となるので、矛盾があるように感じます。
「正当なもの(十分に重要なもの)」と記載されている理由はなぜでしょうか。

お忙しいとは思いますが御回答よろしくお願いします。



実は、このように違憲審査基準のそれぞれの言葉や要件を
非常に厳密に読もうとする(読んで下さる)法学徒の態度と、
学者やアメリカの判例の違憲審査基準の定式の在り方には
かなりギャップがあるように思っておりました。

そこで、この点について、私の雑感でお答えしようと思います。

こんにちは。はじめまして。

この辺りは、学部生・法科大学院生としては衝撃的かもしれませんが、
芦部先生をはじめ、違憲審査基準論者というのは、
目的が「重要」「正当」、手段が「必要」「LRAがない」といった
違憲審査基準の表現に、それほど、
細かいこだわりや配慮がないのがふつうです。

アメリカの憲法判例もそうなんですが、
重要や正当という言葉には、必ずしも厳密な定義はなく、
同じ基準が別々の言葉で表現されることも多いのです。

例えば、厳格な合理性の基準というのを調べてみると、
教科書ごとに、あるいは同じ教科書でも場所ごとに
定式が違うということはよくあります。

初期の違憲審査基準論者にとって重要なのは、
厳しい審査と緩やかな審査の違いだったように思い、、
要件の厳密な定式化には、
芦部先生にしても、アメリカの判例にしても
細かいこだわりはないように思います。

発見された記述も、そういう芦部先生が、
ある意味では適当でいいだろうと考えている気持ちが
表現された箇所といっていいかなというのが
私の解釈です。

というわけで、
芦部先生は、厳密な言葉づかいをすると
「重要」と書いておくべきだったとこを
「正当」と書いてしまったのかと思います。
(いや、もう少し言うと、芦部『憲法』って、
 専門家の間では、必ずしも評価が高い書物ではなく、
 芦部先生の記述としてはいい加減なものが多くて、
 初学者には却って大変な個所もたくさんあるな、
 という評判もあるのです・・・。)


ちなみに、
私は、そうした言葉にきちんとした定義を与えた上で、
基準を定式化すべきだと思っており、
『急所』では、最大公約数的な言葉の使い方で
言葉の意味をフィックスして、
違憲審査基準論の体系を整理しております。

こんな感じでいかがでしょうか?

最新の画像もっと見る

11 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
御回答ありがとうございます。 (えるれ)
2011-12-24 16:18:21
お忙しいなかご回答ありがとうございます。
木村先生のお話では、LRAの基準に要求される目的は中間審査で要求される「重要」であり、「正当なもの(十分に重要なもの)」との記載の理由は芦部先生が厳密に書かれなかったためということですね。
ただ、私としては芦部先生がわざわざ()書きにされた理由、そして、補訂を担当する高橋先生が当該部分に何も加筆・修正を加えていない点に疑問が残ります。
やはり、何か意図があるように感じてしまいます。
返信する
>えるれ様 (kimkimlr)
2011-12-25 06:19:07
高橋先生が修正をしていないのは、
本文は一切修正しないという方針のためだと思いますよ(まえがき参照)。

芦部先生の意図は、有斐閣の『憲法学』を読むほうが、
よりよく理解できると思うので、そちらを参照ください。
返信する
Unknown (ハイドロ。)
2011-12-25 20:02:31
木村先生のご指摘、賛同いたします。

R大学のI先生も、芦部憲法では違憲審査基準の用語が適切に用いられていないことを指摘していました。「芦部劣化版コピー」が受験界で蔓延したひとつの要因に、芦部憲法の不徹底さもあるとか。
返信する
御返事ありがとうございます。 (えるれ)
2011-12-26 18:01:43
>木村先生、ハイドロ様
お二方ともお返事ありがとうございます。

高橋先生も本文に加筆修正が分かるように挿入している個所があったので、なぜ当該部分でそうしなかったのかなと邪推してしまいました。
細かいことが気になるのが僕の悪い癖でして。

まだまだ未修1年ですので余裕があったら芦部先生の「憲法学」まで手を伸ばしてみたいと思います。
お忙しい中ありがとうございました。
返信する
Unknown (usgmst)
2011-12-27 03:57:07
議論が収束したのに蒸し返すようで申し訳ないのですが

平成20年採点実感4頁によりますと
「審査基準の内容を正確に理解することが、必要不可欠である。中間審査基準における目的審査で『正当な目的』とするのは誤りである。中間審査基準では『重要な目的』であることが求められる。」と試験委員様は述べておられます。

私も木村先生がおっしゃるとおり、芦部先生や判例は、言葉づかいを厳密にはこだわっていないように思います。

ただし、司法試験受験生としては、「正当な目的」と書くと試験委員様が「誤りである」と明確に述べている以上、減点を覚悟しなければならないと個人的には思っています。

返信する
>えるれさま、usgmstさま (kimkimlr)
2011-12-28 13:32:49
>えるれさま
未修コースで勉強されているのですが。
芦部憲法でひっかかることは
芦部『憲法学』で確認する、ということを繰り返すと、
大変に実力が付くと思います。
今後も頑張ってください。

>usgmstさま
ご連絡ありがとうございます。
仰る通りかと思います。

実は、最近の司法試験は、芦部憲法では乗り切れない可能性があると思っておりました。
やはり注意が必要ということですね。

私も、中間審査基準は「目的の重要性」を要求する基準だと理解しております。

どうもありがとうございました。

返信する
>ハイドロさま (kimkimlr)
2011-12-28 13:33:51
どうもありがとうございます。
I先生にもよろしくお伝えください。
返信する
Unknown (DINO)
2012-01-07 16:51:09
お初にお目にかかります。
憲法を学修している一法学徒です。

木村先生の『憲法の急所』を購入して、購読し始めております。未だ第1問までしか読み進められておりませんが、それでも自分が誤解していたことが明らかになり、また、今まで不明瞭だったことが明確になるなど、大変良い知的刺激を受けております。
「目から鱗」という表現は『憲法の急所』のために存在する表現だと感じざるを得ません。

さて、違憲審査基準の言葉遣いについて既に議論が収束しているようですが、この点に関連して1つ質問させていただきたいと思います。

司法試験予備校の憲法の議論で「目的が重要で、目的と手段の間に実質的関連性があるか」という違憲審査基準を定立し、それに基づく具体的な事案の検討において、「手段が過剰だから実質的関連性はない」という趣旨の議論を展開するのを何度も見たことがあります。
このような議論は、形式的には『憲法の急所』18頁の厳格な合理性の基準に近い表現が用いられていますが、実質的には規制の必要性を検討しており、中間審査基準を用いて検討しているように思います。

そこで質問させていただきたいのですが、「実質的関連性」という用語を規制の必要性という概念を含意する用語として用いてもよいのでしょうか。私は木村先生のお考えのように、実質的関連性を「国家行為が目的の実現に役立つものであること」と理解するのが、この言葉の文理的な意味からして素直だと思うのですが、この言葉を規制の必要性も加味した概念として捉える学説も存在するのでしょうか(私は、上記の予備校の議論は、芦部先生が経済的自由権との関係で説明している「厳格な合理性の基準」、つまり、立法目的を達成するためにより緩やかな規制手段があるかどうか、それを具体的・実質的に審査することを要求することを「実質的関連性」という用語で表現しているのだと思いますが、芦部先生の言葉遣いからして、芦部先生はそのように考えておられないように思います)。

浅学故のくだらない質問だとは思いますが、昨年度司法試験の採点実感でも実質的関連性という言葉の下での事実分析について、考査委員が受験生を批判しているので、受験生一般の関心事でもあると思い、質問させていただきました。お手透きの際で結構ですので、ご教示いただければ幸いです。宜しくお願い致します。


えるれ 様

芦部『憲法学』をご参照されているので、既に解決済みだと思いますが、芦部信喜『憲法判例を読む』(岩波書店、1987年)107頁に、「立法目的は表現内容には直接かかわりあいがないある一定の正当な利益を追求している点で、重要なものとして是認できる」という表現がありました。LRAの基準の目的審査の内容についてこれ以上の説明は、上記箇所にはありませんが、参考になればと思い引用しました(言葉の修飾関係からして、私は芦部先生もLRAの基準は目的の重要性を目的審査の基準にしていると理解しています。)。
返信する
>DINOさま (kimkimlr)
2012-01-07 19:38:32
コメントありがとうございます。

実質的関連性という言葉は、厳密には
立法事実の存在を推定しないで(違憲の推定を置く)
関連性を審査する場合の用語で、
これは芦部説でもアメリカの判例でもそうなっております。

ただ、過剰な規制という言葉は、
目的達成に役立つが、LRAがあるという規制と
目的達成にそもそも役立たない規制と
二つの意味で使われますので、
過剰な規制だから関連性がない
という言い方は、実は、それほどおかしなものではないと思います。

こんなかんじでいかがでしょう?
返信する
ありがとうございました (DINO)
2012-01-08 09:42:57
木村先生、ご回答いただきありがとうございます。

木村先生がご指摘された2つの「過剰な規制」の意味のうち、後者の意味でこれを用いる場合は初耳で、大変勉強になりました。

なお、私が見かけた文章での「過剰な規制だから実質的関連性がない」という表現は、前者の意味でこの表現を用いていると読めるもの(正確には、目的達成に役立つかどうかを検討せずに、「LRAがあるから過剰な規制であることを理由として、実質的関連性はない」と判断していると読めるもの)でした。

今後も他の記事や『憲法の急所』や基本書を読んで疑問に感じた際には、質問させていただきたいと思います。
その折にはお手数をおかけしますが、ご回答くださいますよう何卒宜しくお願いいたします。
返信する

コメントを投稿