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木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

チーズバーガー(2)

2011-08-13 07:41:28 | 憲法学 判例評釈
チーズバーガーというのは、
日常ありふれたなじみのある単語であるが、
それについて深く考えたことのない者は多い。

しかし、トミナガ(仮名)とそのクラスメイトは、
文化祭実行委員会のわけのわからない通達により、
この単語について、深く考えざるを得なくなった。

さて、そんな中、最高裁は一つの判決を下す。
すなわち、森林法違憲判決である。


この判決のキモは、
「単独所有」というのは近代民法の大原則であり、
森林「経営の安定」などというふざけた理由で、
森林「共有持ち分の分割請求権」を制限することは
公共の福祉に反する、というところにある。

ローマ法以来の伝統のある単独所有云々という
大上段の構えから、ズンバラリンと違憲判決。
とても、さわやかな判決であった。

ところで、この判決を読んだとき、
最初に、思い出されるのは、森田ゼミである。


私は、学部4年の初頭、ゼミを選ぶことにした。
目にとまったのは、森田修先生のドイツ語文献購読のゼミである。

当然のことながら、
学部時点でドイツ語の文献を読もうという
変わった趣味をもっている人間は少なく、
申し込むかどうか、迷っていた。

その時、当時友人であったアキラ(仮名・研究者志望)が、
「研究者ヲ志望スルナラ、コノ演習ニサンカセザルノミチアラザルナリ」と
帝国大学の学生風の発言をしたため、
この男も、申し込むのだろうと思い、私は森田ゼミに申し込んだ。

ゼミ受講許可者発表の当日、
私は目を疑った。
森田ゼミの受講許可者は「1名」とあり、私の名前がある。

後日、アキラ(仮名・研究者志望)に確認をすると、
「いや、ま、いっかと思って」と、
現代風の発言をしたため、
私とアキラは「友人」から「知人」の関係になった。

その後、森田ゼミでは・・・。
(この話は、長くなるので、というより既に長くなっているのでやめよう)


結論だけを述べると、この期の森田ゼミは学部時代に参加したゼミの中でも
もっとも楽しいゼミであった。

ところで、森田ゼミの中での指導教官の発言中、興味深いものに
「現今、余ハ民法総則ヲ講ジル也。
 共有ノ章ニテ、共有・合有・法人ト話ス。
 是、『分かる人には分かる話の流れ』。」というものがある。

確かに民法総則では、
単独所有からはじまり、共有、法人と続いてゆくと
結合の強さが強くなっていく様子がよくわかる。

・・・。


既に、読者の間には濃厚にイヤな予感が漂っていることと思われるが、
話を続けよう。


森林法違憲判決は、
「経営の安定」なる目的で共有物の分割を制限することは許さないとしている。
いろいろ議論はあるが、ここに強い批判はない。


ただ、一方で、法律は「法人」という分割請求が否定された共有形態を定めている。

株式会社の株主が経営方針に反対だからといって、
一方的な会社財産の分割請求などを認めていては、安定的な会社経営などできない。

会社法は、現代社会で最も重要な法典の一つである。
ある裁判官が、会社法による分割請求の否定を違憲などと断じれば、
その行く末は、目を覆わんばかりであろう。


単独所有は近代法典の大原則であり、共有物分割請求権の制限は違憲である(森林法判決)。

株式会社は近代社会の最重要制度で、そこでは持ち分分割請求を制限せざるを得ない(会社法)。


まさにチーズ入りバーガーを禁じつつ、チーズバーガーを命じるものである。

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8 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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チーズバーガー (あとうともき)
2011-08-14 09:54:40
木村草太先生



こんなに早くコメントへのレス&記事更新がなされるとは思っていませんでした。
長文のコメントでしたが,お読みいただきありがとうございます。


先生の「チーズバーガー」,お見事というほかありません。
私はトミナガさんの遠足のエピソードに引きずられ,難しく考えすぎていたことがわかりました。

結合の強さはチーズ入りバーガー>チーズバーガーなんですね。


先生のブログには砂川政教分離取材記事や,審査基準についての記事等,ほかにも楽しみな連載がありますので,また訪問したいと思います。


あとう
返信する
>あとうともきさま (kimkimlr)
2011-08-15 19:08:21
どもありがとうございます。

ええ、この回の指摘の通りですと、
会社法違憲にしなければならないので、
森林法判決の射程をきるのはどうしたらいいか、
も考えてみてください^-^>

ではでは、またお会いいたしましょう。
返信する
Unknown (かめ)
2011-08-18 10:51:47
チーズバーガーの記事は2つの判例が素材になっているのではないかと考えた者です.長文のコメントを読んでいただきありがとうございます.

先生の記事では,森林法共有林事件判決が素材だったのですね,確かに!と納得しました.お見事です.チーズバーガーを作らなければならないとばかり考え,柔軟な考え方ができませんでした.私はまだまだ精進が足りないようです.

ただ,1つだけ疑問がありました.先生の,あとうともきさまに対するコメントにもあるように,会社法の合憲性です.そもそも会社法では,社員が会社財産を所有することが認められていない点が,そもそも共有物分割の前提に欠けますので,社員の財産権を侵害するのではないかという点です.ここでは,共有物分割を否定する立法の合憲性ではなく,共有物分割の前提を否定する立法の合憲性が問題となっているのが重要だと思いました.

この点,私は次ように考えました.
①団体の結成は結社の自由によって保障される.

②団体の活動も結社の自由によって保障される.

③団体は様々なものがある.例えば,構成員間の結合が強いものから弱いもの,営利を目的とするものや公益を目的とするもの,財産上の権利(所有権など)の帰属を認めるべきものや認めるべきでないものなど.

④このうち,構成員間の結合が弱く,営利を目的とし,社会的に1つの存在として独立した活動を行い,その資金は株式(個性を捨象した構成員の地位)という形で収集しているような類型の団体に,株式会社として法人格を与えることも許される.なぜなら,この類型の団体に個々の財産の所有権を帰属させることは,この類型の団体の活動を保障する結社の自由の趣旨に合致するから.

⑤他方,④によると構成員に所有権が帰属することを否定するので,株式会社と構成員の財産権の調整が必要となる.これはつまり,構成員の財産権と,結社の自由によって保障される株式会社(法人格の制度)の活動の自由の調整が必要となる(公共の福祉の類型のうちのいわゆる内在的制約).

⑥法人制度を認める会社法は,構成員の財産権の自由を圧迫するものではあるが,同時に,社員の権利行使のルールを定めた法律でもある.構成員との関係では財産権に対する制約として自由権構成で解決すべきである.

⑦目的手段審査において,目的を株式会社の経営の安定とすると,手段は,仮に厳格審査を用いても合理性・必要性・相当性はある(⑧へ).

⑧目的手段審査における手段だが,株式会社の営利活動を円滑に行うには,構成員の変動によっても,株式会社の活動のために実際に用いられる財産が固定している必要がある.つまり,資金の収集を株式という形をとる以上,構成員の個性如何によって具体的な会社財産の内容や基盤が異なるようでは,株式会社の経営が不安定になる.また,株主には剰余金分配請求権や残余財産分配請求権を有し,剰余金は会社財産の中から分配されるため,会社に財産権を保障することによって生じる株主に対する財産権の制約は過大だとはいえない.

⑨森林法共有林事件判決では,相続争いが問題になった事例であるので,共同所有関係から単独所有関係に変更することが直接に問題となった判例である.他方,株式会社の場合相続はありえないので,財産の細分化による財産の管理よりも,社員や経営者の意思決定による財産の所有・管理・処分が適切かどうかが重要な問題である.したがって,株式会社の場合,問題の本質は所有権の形態(共有など)ではなく,株式会社に所有権などの財産権を帰属させることが妥当かどうかにあるので,自然人に財産権が帰属することを前提とした森林法共有林事件とは問題のレベルが異なる.

いかがでしょうか.
コメントが増えて大変だと思いますので,スルーしていただいても構いません.


他の記事も楽しみにしています.政教分離の現地調査は特に興味を持っています.旅行記としても楽しめています.
返信する
>かめさま (kimkimlr)
2011-08-18 21:05:15
こんにちは。
再びありがとうございます。

なるほど。そのように射程を切りますか。ふむふむ。


ここなんですが、
森林法の原告・被告の方には、
相続時に
①森林を、どっちかの単独所有にして清算、
②森林を所有するための会社を設立、
③森林を分割できない共有にしておく、
などの選択肢があり、
その中で、あえて③共有を選んだわけです。

ここで、②を選んでいても
分割請求でけへんという問題は生じていたはずで、
会社と分割でけへん共有との間に
そんなに距離があるだろうか?
そもそも、会社っていうのは、
分割でけへん共有の形式をととのえる
ためのものでは?
と、思われるわけです。

いや、熱いコメントありがとうございます。
チーズバーガーの記事、今後もがんばります。

砂川旅行記は、もうすぐおわり、
次は、建築家集団訴訟の調査の記事
はじまります。

ではでは^-^

返信する
Unknown (かめ)
2011-08-24 22:55:59
木村先生,お久しぶりです.
しばらく訪問していない間に記事が増えていて復習がてら夢中で読んでしまいました.


長文のコメントを読んでいただき,ありがとうございました.
先生の指摘に納得しました.

森林法の事件では,原告・被告ともに複数の取りうる手段があったのにもかかわらず敢えて森林を共有の形態にしていたという点からは,実際の事件に関する限り,合意により森林法に服する合意がある=共有分割の権利を放棄しているとして,そもそも憲法上の権利の制約がないので,森林法の合憲性審査に入る必要はなかったということになりそうですが,このような理解でよいのでしょうか.


また,そもそも会社というのは共有分割を否定する形式の団体であるとの指摘は,会社活動のルールが構成員の権利を制約することを正面から認めることになり,正当化の論理が必要となるという指摘だと理解しているのですが.それでよいのでしょうか.

(団体の人権共有主体性の根拠として,権利の集団的行使による構成員の利益増進が挙げられていますが,憲法が結社の自由及び団体の(自律的)活動の自由を認める以上,憲法秩序構成要素的に,構成員の利益増進が一定程度妨げられても仕方ないという考え方がパッと思いついたのですが,何か違和感がありました.混乱してきたので先生の考え方を早く知りたいなぁと.)
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>かめさま (kimkimlr)
2011-08-25 10:54:58
コメント、どうもありがとうございます。

ご指摘の点なのですが、
森林法の事案はですね、確かに既得権侵害はないのですが、
ちょっと別の憲法問題が発生しているのです。

詳細は、『急所』第五問のテーマ講義をご覧下さい。
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>かめさま (kimkimlr)
2011-08-25 10:55:38
はい。

とにかく続きをちゃんと書きたいと思います^-^>
返信する
アキラくん… (笑笑)
2018-05-06 21:02:21
アキラくんはチャラいoゼミへ…笑笑
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