ごっとさんのブログ

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人体の精緻なメカニズム

2019-11-17 10:35:53 | 自然
人間の体内の酵素をコントロールすると健康に良いというような記事を見かけます。

体内酵素は「消化酵素」と「代謝酵素」に分けられ、総量が決まっているので代謝酵素を増やすような食事が望ましいといった説です。これは体内の非常に精緻なメカニズムを分かっていないような気がします。

私が大学で講義をしていたころ、割と早めに学生に体内での酵素反応を説明しました。私の講義内容は医薬品の話ですが、薬を考えるためには身体のメカニズムをある程度はわかって欲しいという事からです。

まず学生に「なぜ腕が曲がるのか」を聞いても正確に答えられることはまずありませんでした。多分大部分の医師も正確には知らないことだと思います。

腕が曲がるためには、内側の筋肉が収縮し外側の筋肉は伸びなければいけません。ではどうやって筋肉が収縮したり、弛緩したりするのかはごく一部の人しか知らないのかもしれません(大学では習っているはずですが)。

筋肉細胞は大部分がタンパク質からできています。タンパク質の特性として、その中に含まれるセリンというアミノ酸にリン酸化が起きると収縮し、逆にリン酸が外れると弛緩するという性質があります。

これを使って筋肉細胞の適当なタンパク質に正確にリン酸化酵素が働き、リン酸化を行います。この時のリン酸はATP(エネルギーの源といわれています)という活性化されたリン酸化合物からリン酸を取り出します。

一方逆側の筋肉からは、適当の部位で正確に脱リン酸化酵素によりリン酸が外され有機リンとなります。これが同時に起こることによって腕が曲がるのです。

この指令は意識するしないに関わらず、脳からの電気指令によって生じますが、この電気刺激が神経伝達物質に伝わり、それが各筋肉部位に必要な反応を起こさせるわけです。腕を曲げようと思ったら瞬時に曲げることができますが、実際はその0.0何秒かの間に何種類もの酵素反応が生じているわけです。

この時遊離されたリンはまたATP合成酵素によってATPへと変換されますが、この時は酸素を必要とします。よく有酸素運動という事を聞きますが、こういった腕を曲げるだけでも酸素を必要とするのです。

こういった酵素というのは体内にストックされているわけではなく、必要になった時にタンパク合成が起き作られ、必要がなくなった時にはすぐに分解されてしまいます。

つまり人間の身体は(すべての生命は)生きている限り、無限といっても良いような酵素反応が常に行われているわけです。

このような複雑で精緻なメカニズムを持つ生命が、どのようにできてきたのかはやはり永遠の謎のような気がします。


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