ごっとさんのブログ

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創薬研究思い出話 その3

2021-06-13 10:30:39 | その他
前回治療薬開発のための初期段階について、ターゲットとなる酵素や受容体に作用する化合物の探索について書いてみました。

このある程度活性を示す化合物が見つかるというのが、我々の目標ですが、実はここから新たなステージに入ることになります。

ここまでは評価も酵素や受容体を使ったいわゆる試験管内でのアッセイで効果を調べているにすぎません。ある程度活性のある化合物が見つかって初めて実際の動物を使った試験が始まるわけです。

例えば1回目に例示した血圧が下がる薬を探索でアンジオテンシンという体内の血管収縮物質の生成を妨げる薬を狙った場合、この生成酵素を阻害ずることができても本当に血圧が下がるかはやってみないと分からないわけです。

私の研究所の場合は、この動物実験は他の専門とする研究所が担当していました。私も最初の動物実験には見学に行っていましたが、かなり緊張するものです。

大部分は動物実験でも効果が出ますが、ごく稀に全く反応しないこともあります。つまり高血圧のマウスやラットに効果があるはずの阻害剤を投与しても、血圧が下がらないことがあるのです。

この場合は、最初の仮説であるアンジオテンシンが無くなれば血圧が下がるという仮定が間違っている場合もあります。また化合物の膜透過性が悪く、体内でアンジオテンシンを作る細胞内に入らないというようなケースもあるわけです。

私の場合は仮説が間違っていたというケースはなかったのですが、化合物の性質が悪いといったことはありました。動物実験で効果が出ても、詳しい実験をするためには吸収や代謝、排泄といったデータを取る必要があります。

そこでまず必要なのが体内での分析法を確立することになります。これは初期には我々が担当し、マウスやラットの血清や尿などを送ってもらい、その中の化合物の分析方法を検討します。

また酵素や受容体のアッセイで強い活性が出たものが、動物実験でよいとは限りませんので、ここから動物実験グループも含めた新たなスクリーニングが始まるわけです。最初に降圧剤を開発しようとしてからここまで大体3年を一つの目安にしています。

このように動物実験でよい結果が出て初めて医薬品開発がスタートします。色々な動物での体内動態や安全性試験が始まりますが、我々にとっては新たな課題が出てきます。

探索段階ではごくわずかな量を(50mg程度)作ればよいのですが、動物実験では場合によってはキログラムという量が必要となります。そこでパイロット工場での大量合成の検討に入るわけです。

創薬研究の大体の流れを書いてきましたが、また思い出したら続けるかもしれません。


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