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有機化学は何をやっているのか その4

2017-06-22 10:42:21 | 化学
前回「有機化学とは」ということで、具体例としてA(主原料)とB(試薬類)を反応させてC(主成分、目的物)とD(副成分、不要物)を作るケースについて書きました。

3回にわたり有機化学の流れが、反応実験・精製操作・分析というセットで一段落するという話を書きましたが、ここで反応に至るまでの経緯を書いてみます。

例を言い換えれば、Cという化合物を作りたい時に原料Aを使った場合、どういう反応をすればよいかというところから始まるわけです。私のように新しい薬を目指して化合物を合成していく場合は、大げさな云いかたというわけではなく、世界で初めて作る化合物となるわけです。

ですから原料Aも目的物Cも全く文献などには出ていない物質となります。この場合それまでの経験からたぶんBを反応させれば良いというアイデアが出ることもありますが、それほど確信がある訳ではありません。こういったときは本や雑誌などから類似の反応を探すことになります。

有機化学の分野はこういた場合に備えて、反応のいわば辞書のようなものが非常に多く出版されています。反応のタイプ別に分類して網羅した本や、反応試薬別にまとめた本などなど常に手元に置いてあるものだけでも数種類あり、しかも一種が2,30巻という膨大なものです。

こういったものから目的とする反応を検索する方法といった本も出版されていますが、如何に似たようなものを探すかはかなり根気のいる作業です。

余談ですが、こういった反応の辞書類で最も権威のあるのがバイルシュタインというドイツ語の本です。これは歴史もあり反応数も非常に多いのですが、高価なことでも有名で図書室司書が、1冊が自分の給料より高いといって嘆いていました。私も数回くらいは使ったこともありますが、なにしろ100冊以上あり検索が難しいのと何よりドイツ語という欠点があり、図書室の飾りになっているようです。

こうやって類似の反応を2,3種類探し出すと、そこからが有機化学者の腕の見せどころで、こういった参考反応をどうやって自分の反応に応用するかを考えるわけです。ここで重要なのがそれまでの経験で、過去の実績がものをいうということになります。ですから有機化学は歳をとっても仕事ができる分野となるわけです。

私が若いころある反応がうまくいくかどうかを大学の先輩や先生に尋ねたことがありましたが、皆さんの意見が異なっていました。自分がやったことがない反応の場合は、それに近い反応を思い出しそれがうまく行った人はうまくいくだろうになり、失敗した経験を持つ人はだめだろうという答えになるわけです。

結局有機化学は、やってみないとわからないという学問ですが、その前にどこまで考えたか、また実験者の腕ということが重要になると言えます。