富士通と東芝は17日、携帯電話端末事業を統合することで基本合意したと発表した。シャープに次ぐ国内2位の端末メーカーが誕生するが、2社統合で目指すのは国内市場での足場固め。
今月船出したばかりのNEC、カシオ計算機、日立製作所の統合会社が海外展開を旗印にするのとは対象的。
実質的には赤字の続いた東芝の携帯電話事業を、富士通が救済する格好だが、規模の拡大で国内シェアトップを自指す目標も掲げる。
●問われる位置づけ
東芝は10月1日をめどに設立する新会社に携帯電話事業を移管し、富士通がその会社の株式の過半を取得する。共同出資会社へは東芝から360人が出向するが、富士通からの人員移動は当面ない。
富士通が従来行ってきたNTTドコモ向けのビジネスは冨士通内に残し、新会社はKDDIやソフトバンクモバイルへの端末供給に特化する。
ただ、開発や部品調達は一本化して、コスト削減につなげる。
東芝は国内の一需要低迷が響いて、08,09年度と続けて赤字だった。一方で、富士通は業界で屈指の高収益体質で、その端末開発・製造ノウハウを新会社へ展開する。
両社は基本合意を基に、7月末に最終的な契約を結ぶ予定。
2010年度の国内市場は前年度並みの3410万台で、ピーク時の3割減。来年度以降も大きな伸びは見込めないため、シャープやNECカシオモバイルコミュニケーションズは海外市場へ事業の成長を託す。
富士通は以前から海外展開はドコモ次第と言い続けており、新会社も国内重視の姿勢は基本的に変わらない。
成長が見込めない国内市場にとどまっているだけでは縮小均衡に陥りかねない。海外戦略が問われている国内携帯電話端末業界において、今回の統合は本格的な成長戦略にはならず、もう一段のテコ入れが不可欠。
富士通、東芝にはグループにおける携帯電話事業の位置づけがそれぞれ問われることになる。
●情報・データの出入り口
「成長のタネ」を求めた富士通、「選択」を進めた東芝。東芝は西田厚聡会長の社長時代から「選択と集中」を掲げ、社会インフラと半導体を2本柱とする方針を鮮明にしてきた。
米ウエスチングハウス買収による原子力事業の強化、NAND型フラッシュメモリーの積極投資はその代表例。
一方で音楽など非中核事業は売却。収益構造は改善されつつあったが、2008年秋以降の世界同時不況で09年3月期は最終赤字。これで選択ま集中をさらに加速する必要に迫られた。
その1つが携帯電話事業。09年5月に国内生産から撤退、海外企業への生産委託を決めたが、これだけでは再建は困難。国内メーカー各社に内々に打診を続け、手を挙げたのが富士通。
「今後は成長と利益の両面を追う、ポジティブな構造改革を進める」。富士通の山本正已社長はこう話す。
ネットワーク経由でソフトを提供する「クラウドコンピューティング」を今後の成長事業とする富士通にとって、携帯電話機は重要なキーデバイス。
万人が持つ情報端末で、あらゆる情報・データの「出入り□」となるため。
●選択のタイミングと一致
富士通は09年に、ハードディスク駆動装置(HDD)事業を東芝に譲渡、先端半導体の生産を台湾企業に委託するなど不採算事業の改革を進めてきた。
懸案事業の整理に一定のめどがついたことから、攻めの経営に転換するタネを求めており、東芝の選択のタイミングと一致した。
携帯電話によって消費者との接点を広げることが、企業や消費者を結ぶクラウドサービスで攻勢をかけるうえで不可欠と見ている。
【記事引用】 「日刊工業新聞/2010年6月18日(金)/9面」
「日本経済新聞/2010年6月18日(金)/11面」