携帯電話業界ブログ

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東芝、富士通と携帯電話事業を統合 世界で相次ぐ合従連衡、背中押す

2010-06-19 | 端末メーカー/日本



 東芝と富士通は17日、携帯電話機事業を統合することで基本合意したと発表した。

 東芝は縮小する国内市場で下位争いを続ける同事業の競争力強化に向けて、数年をかけて提携先探しを続けてきた。相手を次々に変えた執念の交渉が実り、ようやく懸案の1つにメドを付けた。

 両社は10月をめどに新会社を設立。東芝の事業を移管した上で、富士通が株式の過半を取得する。出資比率など具体的内容を今後詰め、7月末に最終契約を結ぶ予定。


●世界で進む合従連衡

 NTTドコモ向けが得意な富士通と、KDDI(au)向けに強い東芝。重複が少なく、統合効果を引き出しやすい組み合わせだが、その交渉は一筋縄ではいかなかった。

 「スマートフォンのない東芝と統合して、効果はあるのだろうか」(富士通幹部)。

 条件交渉が本格化し出した4月上旬。市場が本格的に立ち上がってきたスマートフォンの扱いを巡って、交渉は暗礁に乗りかけた。

 東芝経営陣は当時、スマートフォンは統合の対象とせず、自社内に留めておくべきだと考えていた模様。富士通には東芝の意図が理解できず、事業統合すべきかどうかで社内の賛否が分かれた。

 しかし、交渉が停滞する中で世界では携帯端末を巡り合従連衡が相次ぐ。米ヒューレット・パッカードが4月に、携帯端末メーカーのパームを12億ドルで買収すると発表。

 さらに、携帯電話機で世界最大手のフィンランドのノキアと、インターネット検索大手の米ヤフーが5月に、携帯電話向けネット事業を一体運用すると発表した。

 「最大手のノキアでさえも、情報端末の未来図を描けているわけではない」。これらの再編を目の当たりにした東芝首脳はこうつぶやいた。

 スマートフォンの台頭や米アッブルの多機能情報端末「iPad」の登場により、ノキアでさえあせっている。

 「日本市場で下位に甘んじる東芝が世界のライバルと戦うには、まず事業規模拡大による経営基盤の強化が必要だ」と考えるようになる。

 交渉が終盤にさしかかった6月上旬。「今回決まらなかったら、もうずっと(再編は)決まらないだろう」(東芝幹部)と東芝側にも焦りの色が濃くなる。

 条件闘争でもたつくうちに、別の企業が富士通の相手として名のりを挙げてもおかしくはない。最終的にスマートフォンを事業統合の対象とすることを決断し、交渉はヤマを越えた。


●背水の陣での交渉

 最終的に富士通との統合を決めた東芝。しかし、交渉相手は富士通だけではなかった。

 5月25日。NEC、カシオ計算機、日立製作所の3社の携帯電話機事業統合に先立ち、記者会見に臨んだNECカシオ・モバイルコミュニケーションズの山崎耕司社長には一つ気がかりなことがあった。

 「果たして、東芝さんはどうなったのだろうか」。実は東芝は、NECにも提携話を持ち込んでいた。しかし、NECはカシオ日立モバイルコミュニケーションズとの事業統合を決め、結果的に東芝は振られた形となった。

 パナソニック、富士通、シャープ、NEC。この数年、東芝はあらゆる組み合わせを検討し、実際に数社と交渉したが全て失敗に終わっていた。

 他社も事情はほぼ同じ。各社は総当たり方式で「お見合い」を繰り返してきた。

 再編に何の答えも見い出せないまま、東芝の携帯電話の競争力はじりじ売りと低下。2008年度の同社の出荷台数は前年度比半減、5年ぶりの赤字に沈んだ。

 尻に火が付いた東芝が不退転の決意を固めたのは、昨年5月。唯一の携帯電話工場である日野工場(東京都日野市)の生産を停止、国内生産からの撤退を決めた。

 同業他社は、これを再編宣言と受け止めた。しかし、依然として相手探しは進まない。「時間をかけすぎじゃないか」。09年暮れ、西田厚聡会長の怒気を含んだ言葉に周囲は凍り付いた。

 半年以上続けてきたパナソニックとの携帯電話事業の統合交渉が破談。交渉事では百戦錬磨の西田会長の目に、結論を出すまでの担当幹部らのもたつきは時間の浪費と映った。

 交渉相手を富士通に切り替えたのは、この直後。西田会長にたしなめられた幹部らは、まさに背水の陣で交渉に臨み、なんとか交渉をまとめ上げた。


●続く東芝の婚活

 携帯電話事業にプレッシャーをかけ続けたのは西田会長だけではない。

 「世界の競争相手に先を越されないロードマップを描くため、構造転換を加速しろ」。09年6月に就任した佐々木則夫社長は、各事業部に世界で勝ち抜くための基盤作りを急ぐよう繰り返しハッパをかけてきた。

 長年の課題だった携帯電話機事業の改革といテーマにひとつの解を出した東芝。

 しかし、同社の集中と選択は携帯電話事業に留まらない。「34事業のうち、9事業が未だに赤字。構造改革は必要だ」。佐々木社長は5月の経営方針説明会でさらなる構造改革に意欲を示した。

 今年度も約600億円の構造改革費用を計上する見込み。特に中小型液晶パネルと、デジタル機器の頭脳であるシステムLSI事業が焦点となる。

 中小型液晶パネルは国内工場の再編などを断行したが、3期連続で赤字が続く。システムLSIでは分社化や他社との事業統合を模索した経緯もある。

 これらの残された懸案の解決に向け、東芝の婚活は続く。





【記事引用】 「日経産業新聞/2010年6月18日(金)/20面」


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