携帯電話大手3社の夏商戦向けの携帯端末の新製品が18日、出そろった。
販売方式の変更で見かけ上の購入価格が高くなったことによる販売不振で、各社は開発費を抑制。また端末メーカーが複数の携帯電話事業者に同様の端末を供給するパターンが増え、携帯3社の品揃えが似通った。
デザインやコンテンツを前面に打ち出す機種が増え、既存の携帯電話端末は機能面で出尽くし感が漂っている。
●1社独占しにくい時代
「メーカーの1社独占がしにくい時代。進化はしているが、ハードで大きな差別化がしにくくなっているのも事実」。ソフトバンクの孫正義社長は同日開いた新商品発表会で記者団にこう語った。
ソフトバンクが同日発表した新製品は簡易ブログ「ツイッター」に対応。
専用のアプリケーションを標準搭載した。商品発表会場の巨大スクリーンにはひっきりなしに集まる「つぶやき」が4万7000件近く映し出され、さながら商品よりもツイッターの発表会の様相を呈した。
孫社長は「ツイッター機能が付いてないと携帯じゃない時代が来る。『ツイケー』という言葉を流行らせたい」と強調。ハードだけの差別化が難しくなる中、SNSなどのコンテンツを前面に打ち出すことで訴求する戦略を描く。
NTTドコモが同日発表したスマートフォン「LYNX(リンクス)」(シャープ製)と「ダイナポケット」(東芝製)もそれぞれauが発売予定の「IS01」と「IS02」ほぼ同型の機種。
メーカーが複数の通信キャリアに端末を供給するケースが増えており、目玉商品でも単独供給によるメーカー囲い込みが難しくなっている。
●携帯端末の販売不振
こうした背景にあるのは携帯端末の販売不振。
電子情報技術産業協会(JEITA)によると、2009年度の携帯電話・PHS端末メーカーの国内出荷台数は、前の期比12.3%減の3142万6000台。
普及期の1998年度並みの水準に落ち込んでいる。07年の販売方式変更による官製不況で携帯端末メーカーの事業環境が悪化。
iPhoneのヒットなどでソフトバンクが最高益を更新する一方で、メーカー側はNEC、日立製作所、カシオ計算機の3社が携帯端末事業を6月に統合するなど、業界再編の幕が開きつつある。
通信事業者によるメーカー丸抱えの端末開発体制も薄れ、今後も「複数キャリア供給」と「開発費抑制」は続く見通し。
こうした中、ドコモは今夏向けに「エミリオプッチ」、「ケイトスペード」などのファッションブランドなどと相次ぎ提携し、デザイン携帯を6機種を発売。
端末の開発コストを大きく押し上げない部分で工夫を凝らすことで他社と異なる商品ラインアップを増やす戦略を描く。
●戦略的低機能化
消費者の価格に対する意識が強まっており、戦略的に機能を下げる場合もあるという。
KDDIは、発売する全10機種で防水対応としたほか、入力の仕方に応じてキーパッドを交換できる「ベスキー」などの携帯電話端末を発表。
「使いやすさ、わかりやすさなど基本性能を追求した」(田中孝司取締役執行役員常務)といい、高機能一辺倒でない商品戦略を描く。
iPhoneなど息の長いスマートフォンが広がるなか、既存の携帯電話を進化させ、季節ごとに他社と違う商品を出すにはハードルが高まるばかり。各社とも開発戦略で転換点に立たされている。
【記事引用】 「日経産業新聞/2010年5月19日(水)/3面」