携帯電話各社が中高年層や女性にも使いやすいスマートフォンの開発・販売に力を入れ始めた。
NTTドコモは中高年向けの「らくらくホン」シリーズのスマホ展開を計画。KDDIは冬商戦でデザイン性を高めた女性向けモデルの品ぞろえを増やす。
スマホ市場をけん引してきたパソコンなどに詳しい消費者層への普及が進展。販売競争は新規購入者が徐々に増えてきた女性層や中高年層を巡る第2ステージに突入する。
●乗り換え需要の受け皿作り
NTTドコモは中高年層の携帯電話開発で強みを持つ富士通と組んで、中高年向けのスマートフォン展開を計画している。
中高年になると聞こえにくくなる高音域の音声を聞き取りやすくするスピーカーや、ノイズをカットする「はっきりボイス」といった富士通が持つ技術を活用する。
既存の携帯電話で約2000万台を販売した「らくらくホン」シリーズをスマートフォンに移植し、乗り換え需要の受け皿作りを急ぐ考え。
販売面でも中高年市場の開拓に向けた取り組みを加速する。ドコモショップで初心者にスマホの使い方を教える「スマートフォン教室」を開催し、11年度の受識者数はすでに5万5000人に達したという。
ドコモは冬商戦では、初心者層や女性向けにデザインを意識した商品区分をスマホでも設ける方針。売り場で商品を選びやすい環境を整えていくことで、購入のハードルを下げる。
デジタル機器の初心者層が敷居の高さを感じるのが、スマートフォンに組み込むアプリの選び方。
ソフトバンクモバイルは夏商戦で歩数計、辞書、乗り換え案内アプリなどを事前に搭載した「シンプルスマートフォン008Z」を発売した。
スマートフォンにどんなアプリを組み込めば使い勝手が良くなるかわからない利用者のために、必要なアプリや壁紙などを一括でダウンロードできる「スマセレ」のサービスも提供している。
●次の有力市場
NTTドコモのモパイル社会研究所やNTTレゾナント(東京・港)の調査によると、携帯電話の利用者の3割を60歳以上が占めるが、スマートフォンに限ると60歳以上は4.7%にとどまる。
スマートフォンヘの移行が遅れている中高年層が次の有力市場となるのは間違いない。中高年向けに先行して各社が力を入れているのが女性層。
KDDI(au)は冬商戦でもデザイン性を重視した「iida」ブランドのスマートフォンを新たに投入する計画。
夏商戦では深沢直人氏がデザインしたiidaシリーズの「INFOBAR A01」が女性の人気を集め、同社で一番の売れ筋商品となった。商品構成を増やすことで女性層の掘り起こしに役立てる。
ドコモも、端末を女性の手にもなじむように小型化したソニー・エリクソン製の「エクスペリアray」やパナソニツクモパイルコミュニケーションズの初心者向けスマートフォン「P-07C」などを相次ぎ投入。
女性なども気軽に立ち寄れる「スマートフォン・ラウンジ」を全国展開して、顧客の囲い込みを強める。
UBS証券の梶本浩平アナリストは「スマートフォン販売は、新しい製品が登場した時にいち早く受容する『アーリーアダプター』層から次のステップに移りつつある」と指摘する。
ただ、アプリを組み込んで使い勝手を高めていく方式のスマートフォンは初心者層に難しいのも事実。新たな利用者層を開拓していくには、使い方の支援を含めた体制整備も重要と言えそう。
【記事引用】 「日経産業新聞/2011年9月8日(木)」