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出産・救急揺らぐ安心 信濃毎日新聞より

2008-01-02 13:31:28 | 新聞記事
信濃毎日新聞朝刊 2008年1月1日掲載記事 2面

出産・救急 揺らぐ安心

相次ぐ診療科休廃止 勤務医に過重な負担

 県内各地の病院で、医師不足から診療科の休廃止が相次いでいる。県衛生部の調べによると、昨年1年間で少なくとも11病院が14診療科を休廃止し、救急患者の受け入れ休止や里帰り出産の制限など、住民生活への影響が拡大している。県民の安心を支える地域医療を、どう立て直していくのか-。本年度から医師確保対策を本格化させた村井県政にとっても、具体的な成果を示し、展望を見いだせるかが問われる年になる。

 「『お産難民』という言葉は聞いたことはあったが、こうやって地域のお産が崩壊していくんだなと感じています」

 昨年12月8日、松本市の信大で開いた医師不足問題を考えるシンポジウム。上田市の主婦、桐島真希子さん(32)が涙ながらに話す言葉に、会場は静まり返った。

 前日の7日、国立病院機構長野病院(上田市)が、派遣元の大学の産科医引き揚げに伴い、新規の出産受け付けを休止すると発表したばかり。上田小県地域で危険度の高いお産を扱ってきた同病院の出産休止は、地域に衝撃を与えた。「自分の子どもたちが大人になって、身近なところでお産ができないとすれば、とても不幸なこと。どうして、こんなことになってしまったのだろう...」もどかしさが募る。

■地域間に格差

 県衛生部の昨年11月下旬時点の調査によると、2005年4月以降、県内の23病院が医師不足などを理由に、計36の診療科を休廃止。さらに今後少なくとも3病院が産科を休診する方針だ。調査に診療所は含まれず、実態はさらに深刻だ。(イラスト=信毎より)

 医師不足や経営難を理由に長野赤十字病院が昨年6月、分院に当たる上山田病院(千曲市)を今年3月で閉鎖する-と発表。昭和伊南総合病院(駒ヶ根市)や県立須坂病院(須坂市)が産科の休止方針を示し、辰野総合病院(上伊那郡辰野町)の小児科、県厚生連北信総合病院(中野市)の整形外科が救急の受け入れを取りやめるなど、地域の医療体制は揺らいでいる。

 厚生労働省によると、県内の医療機関で働く人口10万人当たりの医師数(06年末)は190・0人。全国平均の206・3人を下回り、都道府県で33番目だ。最も多い京都府の272・9人より3割以上少ない。

 都道府県間に加え、「県内でも地域の『医療格差』が進んでいる」と、県内の病院長は指摘する。10広域圏別で、人口10万人当たりの医師数が全国平均を上回るのは信大病院(松本市)がある松本の298・6人だけ。最も少ない木曽は医師数44人で、人口10万人当たりに直すと132・2人。上伊那郡(134・2人)や上田小県(141・9人)も松本の半数以下の水準だ。

 病院側からは、少ない勤務医に過重な負担がかかっている-との声が上がる。診療科の休廃止で患者が周辺の病院に集中、対応が困難になるといった悪循環も現実化。県内のある病院勤務医は「仕事は増える一方、このままだとさらに医者がいなくなる」と訴える。

■住民側も動き

 「地域の住民として何をしていけば安全、安心な医療を守っていけるか、考えていきたい」

 須坂上高井地区の母親らでつくるグループが昨年12月中旬、須坂市内で開いた学習会。産科医らの講演を聞いた後、代表委員の倉石知恵美さん(43)=須坂市=はこう訴えた。

 地域医療が崩壊しかねないとの危機感を背景に、住民が集まり、医師確保を

 「自分たちの地域の医療機関を自分たちで守っていかなければ結局、自分たちが困ることになる」。駒ヶ根市などの母親でつくる「安心して安全な出産ができる環境を考える会」代表の須田秀枝さん(46)=駒ヶ根市=は語る。

 住民側からのこうした動きを行政、医療関係者はどう受け止め、応えていくのか。「非常事態」ともいえる地域医療の現状を共有し、「いまできること」を議論していく必要がある。(千野雅樹)

【地域医療をめぐる最近の主な動き】
07年
2月・県が医師不足対策に9200万円を盛った当初予算案を決定。
3月・県の産科・小児科医療対策検討会が広域医療圏ごとの医師の重点配置などを提言。
4月・長野赤十字上山田病院(千曲市)が救急受け入れを休止。
 ・諏訪中央病院(茅野市)が出産の扱いを休止。
6月・上山田病院が08年3月の閉鎖方針を公表。
8月・昭和伊南総合病院(駒ヶ根市)が08年4月以降、出産の扱い休止を決定。
 ・伊那中央病院(伊那市)が08年春から里帰り出産の受け入れ休止を決定。
 ・県立須坂病院(須坂市)が08年4月以降、出産の扱い休止を決定。
9月・国立病院機構松本病院(松本市)が出産の扱いを休止。
11月・飯田市立病院が08年4月から里帰り出産の受け入れ休止を決定。
12月・国立病院機構長野病院(上田市)に産科医4人を派遣する昭和大(東京)が医師引き揚げ方針を通告、出産受け入れを休止。
 ・県が県立阿南病院(下伊那郡阿南町)の療養病床(45床)を08年3月で廃止する方針を表明


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信濃毎日新聞朝刊2面 2008年1月1日掲載記事
医師確保 県政の課題

県の予算要求は倍増 不足、背景に「医局離れ」

 「あらゆることをやっている。私自身が医師に電話をかけまくったり。本当に正直言って参っている」

 昨年12月28日の記者会見。村井知事は医師確保についてそう述べ、「医師不足は解決のしようもなく、来年に持ち越したテーマだ」と厳しい表情を見せた。

 医師不足対策を「県政の最重要課題」と位置付ける県。本年度当初予算では、前年度の約5倍に当たる9200万円の予算を盛り、県外から県内に就職する医師を対象にした研究資金貸与や、就職をあっせんする「ドクターバンク」を新設。年度途中で臨床研修を受け入れる病院への補助事業も新設し、予算額は計1億2000万円余に上っている。

 研究資金貸与はこれまでに6人が利用。ドクターバンクも5人の医師が求職中で、就職に向け調整しているという。ただ、知事は「決意を述べればうまくいくというものでもない。ともかく根の深い話だ」とも漏らす。

■医療費の削減

 なぜ、地域に医師が足りなくなっているのか。

 要因の一つは、国の医療費削減だ。厚生省(現厚生労働省)は1986年以降、医療費増大を防ぐことを狙いに医師の養成数を抑制し、医学部定員はピーク時より1割近く減っている。

 経済協力開発機構(OECD、30カ国)の調査によると、人口1000人当たりの医師数(04年)は先進国の平均が3・0人に対し、日本は2・0人で下から4番目。厚労省は「特定の地域や診療科で医師不足が深刻化している」とするが、そもそも医師の絶対数が足りないと指摘する医療関係者は少なくない。

 そこに04年度から始まった臨床研修制度が追い打ちをかけた。大学を卒業し医師免許を取得した医師はそれまで、大学の医局に残って研修することが一般的だったが、厚労省が指定した病院から選べる仕組みに変わった。

 その結果、研修医が研修制度や設備の充実した一般病院を選ぶようになり「医局離れ」が加速。信大も研修医の募集定員90人に対し、集まるのは毎年4-6割にとどまっている。

 人手不足が深刻化した大学病院は、派遣先の病院から次々に医師を引き揚げた。昨年12月、昭和大(東京)が国立病院機構長野病院(上田市)に派遣している産科医(4人)を段階的に引き揚げると通告したのも、そうした1例だ。

 医師の派遣を求める自治体・病院側と、派遣は困難-とする大学側。「大学病院も人手はぎりぎり。研究や教育も大学の大切な役割なのに、これでは医療の進歩につながらない」。県内の若手医師は現状をこう危惧する。

■工夫と連携を

 国は来年度から医学部の定員増を認め、信大医学部の定員は現在より10人増えて105人となる。厚労省は医師確保対策の予算を本年度の92億円から来年度は161億円に増額し、女性医師の復職支援などに取り組むとする。

 県衛生部は来年度予算で、医師確保対策に本年度の2倍強に当たる2億7000万円余を要求し、研修医の受け入れ態勢支援などを検討中。信大は昨年度開設した「地域医療人育成センター」を拠点に、県外の大学医学部で学ぶ県内に呼び込む試みも始めた。

 短期的な対策、中長期的な対策を組み合わせ、いかに地域医療の「地盤沈下」を食い止めていくか。工夫と連携が問われている。

ある産科医のひとりとごより引用させていただきました。

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