あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

ギュスターヴ・フローベール著・菅谷憲興訳「ブヴァールとペキュシェ」を読んで

2020-01-25 10:34:04 | Weblog


照る日曇る日 第1344回

著者の死後の1881年に未完のままで刊行された本書は、2人の悲喜劇的な主人公が狂言回しとなって繰り広げられる所謂「笑劇的百科事典」で、そこでは19世紀現在における社会、思想、宗教の相関関係が徹底的に総括されていて興味深い。

「笑劇的百科事典」というても「笑劇的」なのは、フ氏が本書の付録として添付した「紋切型辞典」にみられる機知に富んだ皮肉な揚言形式を指すのであって、「衝撃的」な小説形態を模索せんとする氏の真摯な研鑽努力を指すものではありませぬ。

ちなみにこの文字通り画期的なエンサイクロペディアを立ち上げるために、氏が本書で論及したカテゴリーは、「農学から造園術、化学、医学、地質学、考古学、歴史学、文学、政治学、恋愛、体操、オカルト科学、哲学、宗教、教育学」(解説より)などなどの殆ど森羅万象に及んでいますが、そのために氏は、なんと1500冊以上の著作、文献、参考資料を渉猟し、それらを読み込みつつ膨大なメモを作成し、その成果を「百学連環」とでも称すべき本書に取り込んだのです。

思想とは何か?という大問題を、古今東西の始原から当代にまで東奔西走して、考究し尽くそうとする哲学者ならぬ小説家の野望、ゲーテやマルクス、南方熊楠に比すべきこの知的冒険の一大事業は、マラルメの「肉体は哀し。万巻の書は読まれたり」という諦観、ポール・ヴァレリーの「思考は極端なるものによってのみ進むが、中庸なるものによってのみ存続する」という認識に到達し、「すべての知は虚しい」とする相対的な悟達のうちに幕を閉じるのです。

  ジャッキーのチェンがいた頃の香港はポリスは弱きを挫かなかった 蝶人


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