黒木華も良し、江口のりこもいい味を出すが、尾野真千子はもはや別格の感がある。

社会の強者はトラブルを起こしても、あらゆる手段で保身に走る。
その対極に居る者は、なりふり構わず働けど、弱り目に祟り目の連続である。その中間層は下を見て、弱者をないがしろにする世情である。
尾野真千子より更に若い石井裕也監督が、コロナ禍の世情で、出口が見えない母子家庭の苦闘を、温かい目で取り上げる。
僕がこの監督の作品を観るのは6作目。舟を編むや、最果タヒの詩がベースとなる作品も新機軸を感じたが、今作ではパワーアップした監督の腕を認識する。
内容は書かない。だが劇中、ヒロインが同じセリフを随所で発する。
諦観を込めて、または我が子や職場の同僚への慈しみを込めて。
そのセリフまわしに、尾野真千子の限りないポテンシャルが潜んでいる。