ピーンと冷え切った工場へ
暗いうちから出勤し、
熱い油の前で、油の跳ねに注意しながら
すり身をひとつひとつ丁寧に
しかしすばやいスピードで、ちぎり(成形し)揚げていく。
「ちぎり天も 蛸天と 笹がきごぼう天では
ちぎり方、手の動きが違うんや。
ほらほら、こうやって平たくしないと、油がたまって、美味しくできんやろ。
はたはた天は、くっつかないようにきちんと開いて揚げてよ」
そう言って、19年間 嶋七の天ぷら・さつま揚げの揚げ・包装の要となり、
そして姉御のようにみんなに慕われ、
みんなを引っ張ってきたYさんが
今年60歳を迎え、 退職した。
Yさんの成形した蛸天は、
食べやすい大きさのきれいな丸で、
笹がきごぼう天は、平たくパリっとしていて
難易度の高い はたはた天も
きれいな魚の形をくずしていない。
「まだまだ、働けるやろ」
との社長の言葉だったが、
Yさんの意思はかたかった。
Yさんの涙を浮かべた最後の挨拶。
ジーンときた。
毎日毎日、嶋七の天ぷら・さつま揚げを作り続けた
この19年間。
Yさん、本当に本当にお疲れさまでした。
これからは、だんな様と二人仲良く
セレブな生活を ゆったりと楽しんでくださいね。