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白峰旬氏「新関が原合戦論」の序を読んで・徳川史観について

2019年06月24日 | 関ヶ原
白峰旬氏の「新関ヶ原合戦論」の序を読んで。

ここでは本書の内容については触れません。あくまで「序」のみに限定した書き方をします。

徳川史観という言葉は見たことはあったのですが、ピンと来ませんでした。私は「徳川家康は立派だ」と思ったことはほとんどないからです。そういうドラマも山岡荘八の大河「徳川家康」ぐらいのものでしょう。ウソばかりでツッコミながら見ると面白いという作品です。何度か書きましたが、司馬さんなど「城塞」において「家康の行動はほとんど犯罪的」とまで書いています。

ところが、白峰さんの「序」にも「日本人は徳川史観に騙されている」という記述があります。2011年の本です。

・徳川家康は勝つべくして勝ったと思われている。
・石田三成は人望がなく、毛利輝元は凡庸で、勝てるわけなかったと思われている。
・徳川家康は善政を行い、戦にも連戦連勝だったと思われている。
・日本人は勧善懲悪が好きで、三成は悪人、家康は善人と思っている。
・関ヶ原のイメージも徳川の正統性を主張する軍記物等によって作られた。
・こうした歴史小説的理解・歴史ドラマ的理解は、本当の歴史的理解を妨げる要因となってしまっている。
・徳川史観による虚像を剥ぎ取る必要がある。

本書は「石田、毛利公儀」というものを想定していて、それはそれで面白いのですが、この「序」に見える「時代錯誤感」は何なのだと思います。

たまには小説とか大河ドラマを見たほうがいいのにと思います。

江戸時代、軍記物によって徳川の正統性が主張されたのは確かでしょう。しかし明治維新によって一旦徳川の価値は下がります。慶喜が明治天皇に拝謁するのは明治30年です。

しかし1950年台に山岡荘八によって新たな徳川家康神話が作られ大ヒットしました。中国では今でもベストセラーとのこと。全26巻もあります。

それから60年以上が経つのです。1983年に大河化されていますから、再生産は繰り返されているものの、徳川家康を「聖人君子みたいに」描いたドラマはあれぐらいでしょう。

この本が出た2011年には既に「葵徳川三代」も放映されていますし、「功名が辻」も放映されています。

白峰さんの指摘のうち、当たっているのは「毛利輝元は終始凡庸と描かれてきた」ということぐらいです。石田三成が人望がないと描かれるのも確かです。しかし悪人とか能力がないという描かれ方はしません。むしろ知恵があり過ぎて、能力があり過ぎて人と距離ができてしまうという描かれ方です。

大河「功名が辻」においては
・徳川は負けそうだったが、「小早川に鉄砲ではなく大砲を打ち込んで」裏切りを誘発してので、「やっと勝った」とされている。
・三成は人望はないが能力は極めて高いと描かれている。また「三成死すとも」というタイトルの回があり、彼の「立派な側面」も描かれている。さらに役者は中村橋之助という大物が起用されている。
・家康はたぬき親父であり、善人とはほど遠く描かれている。

さらに家康が描かれる場合、時代劇では「三方原」が描かれる事が多く、連戦連勝とは全く違うイメージで描かれる。

というのが実情です。問鉄砲だって聞こえないだろうということで問大砲に変化しています。そりゃ白峰氏の主張のような「布陣」は描かれません。また「小早川秀秋はすぐに裏切った」とも「戦場は関ヶ原の中の山中という土地」だとも描かれません。そこまで白峯氏の学説を採用するわけないし、そもそもフィクションです。

わたしは「徳川史観の虚像」というものは「今のドラマにはさほどない」と考えます。家康は立派には描かれないし、勝つべくして勝ったとも描かれません。

真田丸では「立派な敵役」です。その上本能寺段階でも「へたれ」です。神君伊賀越えなんて「コント」にされて、逃げ回ってばかりです。最後は流石に人並み以上の武将に成長しました。さらに石田三成はかなり魅力的というか「準主役」という扱いで描かれます。淀殿が悪女として描かれることもありませんでした。

功名が辻の永作博美さんの淀殿は悪女ですが、気合の入った悪女です。信長のめい、浅井長政の娘として「秀吉を破滅させてやる」と考えていますし、「三成の遺志を継いで、自分が徳川を滅ぼしてやる」とも考えます。戦闘的悪女です。

白峰氏は「一次資料を読む」ことにかけてはわたしなど足元にも及ばないほどの能力と博学を備えていると思います。しかし小説・ドラマの家康像に関しては、山岡荘八の段階で止まっているか、あるいは司馬さんの「城塞」における辛辣な家康批判を読むことなく、また大河における家康の像の変化に注目することなく「なんとなくイメージで批判」していると思われます。


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