ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その1

2010-01-22 20:30:05 | 事件
昨年11月初旬、広島県北部の臥龍山で、10日ほど前から行方不明だった島根県立大の女子学生がバラバラ遺体となって発見された。それ以来、警察は、死体遺棄事件として大規模な捜査を続けているが、二か月以上が経過した今でも、犯人逮捕には至っていない。

10月26日の夜、アルバイトを終えた被害者が、バイト先であるショッピングセンターを出たことは、確認されている。しかし、その後、2kmほど離れた学生寮に向かったはずなのだが、途中で何が起こったのか、未だに分からない。

帰宅ルートは、八幡宮の境内を通るコース、浜田駅まで行ってバスに乗るコースなど、複数あると言われているが、その夜は、どのコースを通ったのか。帰る途中に、誰か知り合いに会ったのか。どこかに寄り道したのか。それとも面識のない人物に襲われたのか。

被害者の行動や起こった出来事が見えてこない。

被害者の遺留品については、唯一、彼女が履いていた靴が、帰宅ルート近辺で発見されたが、失踪時からそこにあったのか、それとも、犯人が後から置いたのか、「特定は困難」のようで、現在のところ、何かを具体的に物語る手掛かりとはなっていない。

帰宅途中で起こったことについては、不明なことだらけだが、一方、遺体を損壊した時の状況については、発見された遺体の状態から、いくつかのことが推論出来るように思う。

この事件は、発端ではなく、終端から見たほうが、近づき易いかもしれない。

少し考えてみたい。

<遺体損壊現場の条件>

報道されているような、大がかりな損壊を行うためには、それなりの設備がないと、かなり難しい。

まず、上水道と下水道が稼働している風呂場もしくは大型の洗い場。

さらに、手元を上から照らす電灯。それも、懐中電灯のような狭い範囲を照らす弱い明かりではなく、室内蛍光灯レベルの広くて強い光のもの。つまり、100ボルト電源からの電気が必要である。

遺体の一部に焼かれた痕跡があり、別の部分は、煮た可能性もあるので、ガスが使える環境かもしれない。ただ、「焼く」という作業は、程度によっては、室内で行うには危険なので、焚き火が出来るような庭、もしくは、焼却炉付きの庭、を持っていることも考えられる。

また、電話帳を無料配布する袋の一部が発見されているので、固定電話を設置している可能性がある。

遺体の切断には、通常の包丁以外に、大型の刃物が使われた可能性があると報道されている。推定される刃物の種類などは公開されていないが、特殊な大型刃物は、それなりの保管場所がないと、置くのに困るものである。

例えば、鉈 (なた) や斧 (おの) のように屋外で使うものは、台所や押入れに入れておくわけにいかない。汚れの問題もあるし、収納スペースの問題もある。こういった刃物は、屋外に設置された納屋か倉庫に入れておくのが、普通である。

これだけの設備が揃っているとすれば、それは一軒家であるか、あるレベル以上のマンション・アパートの一室、もしくは事業所で、犯人はその空間を一人で日常的に使っている可能性が高い。特に、焚き火が出来る庭があり、小さくとも納屋か倉庫があるような家屋ならば、遺体の状況を無理なく説明出来るだけの設備ということになる。

つまり、損壊が行われたのは、犯人の自宅、もしくは、自ら所有する事務所か作業場のような場所である可能性が高く、人の住んでいない空き家やちょっとした離れとは思えない。

確かに、刃物さえ用意すれば、さほどの設備がなくても、空き家、あるいは屋外ですら遺体をバラバラにすることは可能だろう。

実際、戦後間もない1946年、横浜で発生した事件では、33歳の工員が、通りすがりの22歳女性をわいせつ目的で空き家に連れ込んだ後、殺害し、その空き家で遺体の損壊を行っている。また、1954年埼玉では、29歳の男が、19歳の女性を、夜、畑で襲って絞殺し、その場で、遺体をバラバラにしている。

しかし、今回の事件では、犯人は、かなり手の込んだ損壊を行っている。しかも、手袋を使うなど、自分に結びつく証拠が残らないように、慎重に作業を進めたふしがある。捕まることなど気にしていないような、上記二つの事件とは、異なる点である。

そんな時間と労力の掛かる作業を行う以上、犯人にとって、その場所は、そこに居る限り自分は不審者ではなく、他人に見られたり、不意に誰かが入ってくる心配のない、安全な空間だったのではないだろうか。

<殺人現場と遺体損壊現場の関係>

過去に起こったバラバラ殺人事件を見ると、殺人が行われた場所と遺体が損壊された場所は、ほとんどのケースで一致している。

戦後の主な事件を50件ほど調べてみたが、両者が異なっていると確認できたケースは、1979年福岡の病院長殺人事件、1989年東京の幼女連続殺人における最後4番目の事件、1995年埼玉の愛犬家連続殺人事件の3件だけである。

殺人現場と遺体損壊現場は、実に、94%以上の確率で一致している。

上に挙げた3件のうち、最初と最後の2件は、男女ペアの複数犯による犯行で、真ん中の1件は、男の単独犯だが、被害者は5歳の保育園児だった。殺人現場と遺体損壊現場の一致は、小さな子供でもない限り、重くて大きな遺体を人知れず動かすのが難しいこと示している。

また、複数犯による2件は、いずれも、犯人の自宅や職場で殺人が行われた後、自分たちとは関係の薄い場所に遺体が移され、損壊されている。逆に、犯人が遺体を自宅に持ち込んだケースは、幼女連続殺人事件における4番目の殺人のみである。しかも、その犯人も、前に起こした三つの幼女殺害では、遺体は屋外に遺棄している。

今回の事件では、被害者の方は身長150cmくらいの、小柄な女性だったと報道されている。しかし、それでも、体重は少なくとも40kg近くはあったはずで、遺体を動かすのは容易なことではない。殺人が別の場所で行われた後、これほど重くて、目立つ遺体を、わざわざ、自宅あるいは職場に運び込んで損壊する。過去の例から考えても、滅多に起こらないことである。

従って、遺体の損壊場所が、犯人の自宅もしくは所有する事務所・作業場ならば、同じ場所で殺人が行われたと考えるのが、まずは妥当なアプローチだろう。

ただ、連続幼女殺人事件のように、犯人が、遺体自体に強い興味を持っている場合は、危険を冒してでも、自宅に運び込む可能性を排除はできない。殺人現場が、遺体損壊現場と異なっている可能性も、少しは念頭に置いておくべきかもしれない。

(つづく)

<関連ブログ>
島根・女子大生殺人事件 ~ 過去のバラバラ事件を調べると
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その1
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その2
島根・女子大生殺人事件 ~ 可能性を考える・その3
島根・女子大生殺人事件 ~ 公式プロファイリングが意味するもの





この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 島根・女子大生殺人事件 ~ ... | トップ | 島根・女子大生殺人事件 ~ ... »
最新の画像もっと見る

事件」カテゴリの最新記事