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ジャン・アレチボルトの冒険

ジャンルを問わず、思いついたことを、書いてみます。

「収束」できない原発事故 ~ 「排水」が管理できない

2011-05-01 11:51:49 | 原発事故
数日前、政府・東京電力の事故対策統合本部は、タービン建屋や立て坑に溜まった高濃度汚染水の処理計画を発表した。放射性物質をゼオライトに吸着させるなどして「浄化」して、再び冷却水として使うというものだ。

しかし、汚染水の処理で肝心なことは、高線量の放射性廃棄物をどこにどのように保管するかという点である。発表された計画では、高線量の汚染水をさらに高線量の放射能ゼオライトに変換するようだが、では、その超高線量ゼオライトはどう処理するのだろう?

そのまま地下深く埋めるのか、さらに別の形にするのか、それはどの場所なのか、受け入れ可能な施設はあるのか、そこの自治体は承諾してくれるのか。

対策本部の答えは「今後、考える」。

これでは、ほとんど意味のない「処理計画」である。

さらに、放射能汚染水を「どうやって処理するか」という以上に、「どうやって原子炉配管系の外に出ないようにするか」こそより深刻な問題である。

事故が発生してから一ヵ月半。原子炉への冷却水注入はどうにか行えるようになってきた。しかし、注入された毎日500トンもの水が、溶融燃料棒と接触して高濃度汚染水になった後、しかるべき排水配管系を通して、しかるべきタンクに回収するシステムは全く実現できていない。

それどころか、どこから漏れているのか、どうやってタービン建屋や立て坑に流れ込んでいるのか、それすら不明である。

当然のことだが、タービン建屋は高濃度汚染水を貯蔵するように作られてはいない。そもそも、この場所は管理区域外であって、放射性物質が漏れ出すこと自体が「想定外」の出来事だ。

そのため、タービン建屋地下に溜まった汚染水は、土壌にしみ込んだり、地下水に流れ込んだり、海へ流れ出たり、さらなる外部汚染を引き起こし続けている可能性が高い。

一ヶ月ほど前、2号機取水口付近で、この汚染水が大量に海に流出しているのが発見され、水ガラス注入で何とか食い止めたが、地下水路への流出自体が止まったわけではない。実際、タービン建屋付近の地下水の汚染が、さらに進んでいることを示すデータが最近のニュースでも流れている。

しかし、圧力容器から出てくる高濃度汚染水を一度も外部に漏らさず回収する仕組みを作るのは、現状ではほぼ絶望的だ。

原子炉建屋は1号機から3号機まで、とても作業員が入れるような線量ではない。汚染水が漏出している箇所を見つけるだけでも、大変な仕事である。それを補修するなど、想像すら出来ない難事業だ。

対策本部は、タービン建屋地下からポンプで汚染水を回収して「処理」を行い、再び冷却水として使うことを「循環式冷却システム」と呼びたいようだ。

しかし、これは誤魔化し以外のなにものでもない。配管からの漏出やタービン建屋地下など、汚染水の流れを管理できない場所を経由する以上、それを「循環」と言うことは出来ない。

「注水」には成功したが、「排水」は全く管理できない。管理できるメドすら立たない。

福島第一原発事故の偽らざる現状である。

政府がこの認識を持たず、「工程表」や「汚染水浄化処理計画」で原発事故の「収束」を世界にアピールするようであれば、次のフランス、ドービルサミットで日本が袋叩きにあう可能性が高い。

安全でないものを安全ということの危険性は、今回の事故で嫌というほど分かった。この上、終わってもいないものを終わったという過ちは犯すべきではない。

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放射線による発がんリスクの個人差

2011-04-28 14:35:15 | 原発事故
福島第一原発の事故以来、放射線がどの程度危険なものか、メディアで連日のように取り上げられている。

何ミリシーベルトまでなら浴びてよいのか、汚染された野菜や水道水を口にしてもいいのか。テレビに登場する専門家は「この程度なら大丈夫」と安全を強調することが多い。

曰く、低レベルの線量であれば、被ばくしても発がんの危険性はほとんど上がらない。

しかし、こういった話を聞いて気になるのは、発がんリスクの個人差が無視されていることである。

何ミリシーベルトで発がんリスクが何パーセント上昇する、というのは社会全体を見た統計的な数字である。がん患者がそのパーセントだけ増えるということで、平均的な発がん確率の話である。

放射線を浴びて、まさにこの自分ががんになる確率のことではない。

放射線以外の発がん刺激を考えると、体質的に放射線に弱い人と強い人がいてもおかしくない。そして、もし自分が弱い体質であれば、がんを発症する確率は統計的な数字よりもずっと高くなる。

例えば、喫煙は肺がんリスクを高めるが、ある人は毎日何本も吸うヘビースモーカーなのに肺がんにならず、ある人は一切吸わないのに副流煙でがんになってしまうことがある。

明らかに、喫煙という発がん刺激に対して、体質的に強い人と弱い人がいる。

さらに顕著な例として、色素性乾皮症(XP)という病気がある。

紫外線も発がん刺激の一つであるが、真夏の海水浴に行っても、ほとんどの人は皮膚がんにならない。しかし、XPの方は紫外線によるDNA損傷を修復する機構が弱く、少しの紫外線でも皮膚がんのリスクが高まってしまう。そのため、出来るだけ日光を浴びないという生活を送る必要がある。

社会全体で見ると、日常生活で浴びる程度の紫外線なら、皮膚がんになるリスクの上昇は微々たるもので、まったく安全と言ってもよい。しかし、XPの方にとっては、同じレベルの紫外線でもリスクは極めて高くなり、非常に危険である。

放射線もDNAを損傷するが、その修復機構の強さにも個人差がある。また、がん化した細胞を攻撃する免疫系の強さも人によって異なる。さらに、遺伝あるいは生活習慣から、もともとDNAの損傷程度が大きい人もいれば小さい人もいる。

従って、低線量の放射線、とくに内部被ばくによる発がんリスクが個人個人で異なるというのは、間違いなくあるはずなのだが、現在のところはっきりしているのは、小さな子供は弱いということだけである。

放射線感受性にどの程度の個人差があるのか、特定の生活習慣、特定の病気でとくに注意すべきものがあるのか、そういったことはほとんど分かっていないと思う。

そして勿論、自分や自分の家族がどういう体質なのかを知る術も、現在のところはない。

今回の日本のように、数千万の人が相当程度の放射線を浴びるのは史上初めての事態で、過去の事例から今後我々一人ひとりに何が起るかを推測するには、規模と多様性が大きすぎる。

そのため、政府や専門家が提示する「安全なライン」は、一つの参考意見として捉えた方がよいと思う。少なくとも、彼らが語っているのは社会全体の安全であって、テレビの前に居る「あなた」の安全ではない。

やはり「放射線は出来るだけ浴びない方がいいし、汚染された食物は出来るだけ食べない方がいい」ということが、多くの人にお勧めできる考え方である。

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まずは放射性汚染水の発生ルートを調査すべき

2011-04-27 11:41:27 | 原発事故
2号機のタービン建屋地下と立て坑にある高濃度汚染水は、数日前から始まった集中廃棄物処理施設への移送作業が難航している。汲めども汲めども水位が下がらないらしい。

保安院と東京電力は地下水が流れ込んでいる可能性を示しているが、それを証明する調査は行っていない。

また、4号機タービン建屋地下のたまり水は、1ヶ月前と比べて放射性物質の濃度が250倍に跳ね上がっていたが、政府・東電は3号機タービン建屋からの流入を示唆するだけで、裏付け調査をしていない。

加えて、4号機の原子炉建屋地下は5メートルもの深さで水没していることが判明したが、この水の出所を曖昧にしているうちに、建屋上階にある核燃料貯蔵プールから水が漏れていることが分かってきた。

さらに、1号機タービン建屋にも汚染水が存在し、1号機原子炉からの漏出が強く疑われているのに、さしたる調査もないまま、格納容器に大量の水を注入する「水棺」作業が進んでいる。

例えば、1号機へ注入する水に、蛍光物質など何らかのマーカーを入れておけば、その水が1号機タービン建屋に出ているかどうかは調べることが出来るだろう。他の原子炉への注入水にもそれぞれ異なるマーカーを入れれば、どの注入水がどの汚染水となっているのか一種の「流出マップ」を作れるのではないか。

そして、地下水や海水に関しても同様の調査を行い、タービン建屋のたまり水を中心に、放射性汚染水の動きの全体像を掴むよう努力すべきである。仮にそれが難しい調査であっても、まず第一に行わなければ、今後の予定など立つはずもない。

しかし、政府・東電はこういった必須の予備調査をしないままに、汚染水の排水作業や原子炉の「水棺」化を工程表通りに進めようとしている。

次から次へと「想定外」の事態が起るのは当たり前である。

保安院は東電に対して、地震・津波発生直後の計測データを「回収」して提出するよう求めたというニュースが入ってきた。

「今まで何をやってたんだ?」という言葉しか出てこない。

地震発生から数時間のデータは、現在原子炉で何が起こっているかを解明する切り札と言っても良い。このデータは、汚染水の流出箇所特定にも、何らかのヒントを与えるかもしれない。

これほど貴重なデータを今まで放置していたのだとすれば、保安院の官僚と東電の幹部は、開いた口が塞がらないほど「無能」と言わざるを得ない。

あるいは、もし何かの意図を持ってデータを「隠蔽」していたのであれば、目を剥くほど「悪質」である。

いづれにしても、原発事故を収束させるには、彼らから指揮権を取り上げるのが一番の早道かもしれない。

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「水棺」というほど穏やかではない

2011-04-26 14:22:45 | 原発事故
福島第一原発1号機で、原子炉格納容器を水で満たす「水棺」作業が進んでいる。

圧力容器にまで水が入り込めば、炉内の温度が下がって一息つけるかもしれない。イメージとしては、グラグラ沸騰する鍋のお湯に、大量の水を入れて冷やすようなものである。

しかし、この作業が成功したとしても、それで目出度しというわけにはいかない。

一時的に温度が下がっても、燃料棒が発する熱量が減少したわけではない。上の喩えで言えば、鍋を置いているコンロの火が消えたわけではない。当然、そのまま放置すれば、格納容器の水まで温度上昇を始めるので、外部からの注水はこれまで通り続けなければならない。

むしろ、水の量が増えた分、温度を下げるのは今まで以上に難しくなるので、さらに厳密な温度管理が必要になるだろう。

また、「水棺」によって、原子炉全体の重量が大きくなったことも心配な点だ。水の重みで格納容器がダメージを受ける可能性は排除できない。さらに、原子炉を支えている基盤構造が地震で破損する危険も大きくなってくる。

政府・東京電力は、数ヶ月のうちに循環式冷却装置を外部に取り付けて、100度以下を連続的に保持する冷温停止状態にもっていくとしている。冷却システムが上手く完成するかどうか自体、大きな賭けのようなものであるが、かりに成功したとしても、冷やす相手は無傷の原子炉に入った無傷の燃料棒ではない。

水素爆発で大破した脆弱な建物のなかに、水の注入で巨大重量に膨れ上がった原子炉が存在し、その中心に溶融した燃料棒が何本も入っている。大きな余震がいつ起るとも分からない状況下で、その燃料棒を何年にも渡って外部ポンプで冷やし続ける。

「水棺」という言葉は「静かに眠りについた原子炉」といった印象を与えるが、それとは程遠い代物だ。

これほど危険な構造物に「水棺」という名前が付いているのは、笑えない皮肉である。

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「想定内の地震」で破損の可能性

2011-04-21 11:55:58 | 原発事故
福島第一原発事故の大きな特徴は、原子炉建屋内に大量の水素が溜まって爆発したことである。しかし、原子炉や配管系に損傷が無ければ、燃料棒がむき出しになって水素が発生しても、これほど多量に外部に漏れだす可能性は低いはずだ。

例えば、1979年のスリーマイル島原発事故でも水素が発生したが、ほとんどが原子炉格納容器内にとどまり、建屋が吹き飛ぶことはなかった。

原子炉を停止中の4号機で、プールに一時保管していた核燃料が原因と見られる水素爆発が起こるのは3月15日。地震発生の4日後だが、この時点で1号機と3号機はすでに建屋の爆発を起こしている。少なくともこの二つの爆発については、使用済み核燃料の貯蔵プール以外、つまり原子炉から水素が漏れ出た可能性が高い。

とくに、1号機に関しては、地震が発生した3月11日夜から12日未明にかけて、圧力容器内の水位が急速に減少する一方、圧力が激減しているデータがある。これは原子炉本体の地震による損傷をダイレクトに示唆している。

また、1号機から3号機の事故経緯が、それぞれ大きく異なっていることも注目すべき点である。津波によって冷却ポンプを動かす電源が喪失しただけであれば、同じような構造を持った機械系なのだから、その後、似たような事故経過を辿るはずである。これほどの相違が出るのは、地震による損傷具合が各機まちまちだったからとするのは、自然な考え方である。

2時46分の巨大地震とその後ほとんど絶え間なく続いた余震によって、原子炉やパイプ・バルブ系が損傷し、大量の水素が漏れ出てしまった。これは、今後の事故原因調査でまず一番に検証するべき説である。

というのも、もしこの説が正しければ、現在稼働中のすべての原発について、耐震設計を見直す必要があるからだ。

東京電力の清水正孝社長は参議院の予算委員会で証言し、「想定外の津波」による事故であることを強調した。しかし、3月11日に福島第一原発で何が起こったのか、地震による被害、津波による被害はそれぞれ何だったのか、現段階では「分からない」という他ない。

「津波被害を受けなかった福島第二原発や女川原発は何事もなかったではないか」という意見もあるが、同じ大きさの地震でも、建っている場所によって揺れの質が違ってくるのは不思議なことではない。第二や女川が大丈夫だったから第一も壊れなかったはずというのは、粗雑な議論と言わざるを得ない。

「原発は地震ではびくともせず、その後の想定外の巨大津波で今回の事故が起こった」というのは、東電にとって最も有り難い仮説であるが、それを支持する根拠は日に日に弱まっている。

少なくとも、本格的な事故原因の調査が始まる前に、事故を起こした会社のトップが「想定外の津波」を強調するのは、責任逃れにしか聞こえない。

そもそも「想定していた津波」が妥当だったかどうかも含めて、検証が始まるのはこれからである。

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「除染」は放射性物質の「消去」ではない

2011-04-19 15:23:08 | 原発事故
福島第一原発事故による避難、屋内退避区域を「除染」すれば、住民の帰宅を早めることが出来るという主張がある。土の部分は表面を薄くさらって、道路や建物は水で洗浄するという考え方だ。

しかし、表面の土を除いたり、アスファルトを水で洗うと、その部分にあった放射性物質は「除染」されるが、新たに汚染された残土や洗浄廃液が出てしまう。

そういった汚染土や汚染廃液は、放射線の線量は低いものの、量が莫大となる。

例えば、半径20キロ避難指示区域の30%が土壌部分だとして、この表面を10センチメートルだけ削り取ると、ギザの大ピラミッド約8個分の放射性汚染土が出現する。

また、その区域の10%がアスファルトだとして、厚さ1センチメートルほどに洗浄水をまいた場合、小中学校にあるような25メートルプール約2500杯分の汚染廃液が出てくる。

線量が低いので、運搬には支障が少なく、保管期間もせいぜい数十年程度でよいと思うが、これだけ大量の放射性廃棄物を受け入れてくれる市町村が、日本のどこにあるのだろう?

一方、原子炉に関しては、漏れ出てくる高濃度汚染水をゼオライトなどに通し、放射性物質を除去して、再び冷却水として再利用する計画が進んでいる。これも「除染」の一種だが、今度は、超超高濃度の放射性物質が付着したゼオライトが廃棄物として出てしまう。

何万トンという元々の汚染水に比べれば、汚染ゼオライトは量こそ少ないが、あまりに放射線の線量が高すぎて、人間は近づくことすら出来ず、その運搬は困難を極めるだろう。

また、放射能の減衰期間は数百年レベルとなり、それだけの間壊れない耐久性の高い容器がまず必要で、さらに、地下深くなど自然災害の影響を受けない保管場所を探さなければならない。

もちろん、そういう場所が見つかったとしても、自治体や住民が受け入れてくれる可能性はほぼ絶望的だ。

結局、「除染」というのは、そこにある放射性物質を「より低濃度でより大量」か「より高濃度でより少量」に形を変えるだけのことで、放射性物質そのものは1原子たりとも消える訳ではない。

原子炉で一度出来てしまった放射性廃棄物を「消去」するには、放射能が減衰するまで何年、何十年、何百年、ひたすら待つしかない。

人類は、少なくとも現在、それ以外の方法を持っていない。

まさにこれが、原子力発電が極めて危険と言われる所以である。

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東電「工程表」には「現場」という言葉がない

2011-04-18 14:34:36 | 原発事故
三ヶ月以内に、2号機格納容器の損傷部分をコンクリートで固めて補修する。

東京電力が発表した「工程表」の一文であるが、では、誰がどうやってこの補修を行うのだろうか?

そもそも、2号機に関しては、高濃度汚染水のためにタービン建屋にすら満足に入れない状態である。その汚染水が漏洩している本体である原子炉建屋に入ることは、ほぼ不可能だ。

三ヶ月という時間が経ったとしても、セシウムの半減期30年から計算して、放射線量は99%程度にしか減衰しない。事態は今と何ら変わらない。

かりに原子炉建屋内部の汚染状況が思った以上に軽くて、なんとか原子炉付近まで近づけたとしても、超高濃度の放射性物質を含んだ水あるいは水蒸気が噴出する格納容器の損傷部分にコンクリートを打つのは、死に至る被ばくを覚悟しなければ出来ない。

もし、作業を可能にする遠隔ロボットがあるのなら、話は分かる。しかし、そんなロボットがない以上、現場の人間が命の危険に晒されるような作業を「工程表」に入れるべきではない。

断固として、別の方法を模索すべきである。

東京電力のトップは、国内外の厳しい批判にさらされて、「工程表」を出してきた。しかし、そこには、現場作業員が命の危険を伴う無謀な仕事をしなければ実現不可能な目標が、いくつも書き連ねられている。

しかも、東電の取締役たちは、六月をめどに辞任するという話も出ている。「工程表」の第一ステップの結果すら出ていない時期である。つまり、「工程表」が実現できなくても、何の責任も取らないというわけだ。

一方、彼らが辞めた後も、現場の作業員は毎日命を削りながら、事故処理に当たらなければならない。そして、どんなに危険であっても、会社のトップが記者会見で大々的に発表した以上、「工程表」のノルマ通りに作業を完成させることが求められる。

「うっかり線量計をつけ忘れ」たり「作業内容をうっかり記録し忘れたり」。「うっかり」しなければ、達成できないノルマが時間と共に、どんどん増えていくだろう。

一ミリシーベルトも放射線を浴びない安全地帯にいる人間が、自分たちの政治的都合だけで、事故処理の方法やスケジュールを決めていく。その結果、現場の人間が常軌を逸した決死の作業を強いられる。

「工程表」に「現場」という発想がないことが、今回の原発事故の構造を象徴している。

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甘い見通しはもう要らない ~ 海洋汚染の監視強化を

2011-04-14 10:12:24 | 原発事故
福島第一原発事故は、小康状態を保っていると報道されている。確かに、周辺地域での空間線量の値は、水素爆発が相次いだ事故直後に比べると、少なくとも増加傾向にはないようだ。

しかし、外部から原子炉へ大量の水を入れ続けているにもかかわらず、タービン建屋地下やトレンチ内の汚染水が増加しているように見えないのは、非常に不気味である。

原子炉から流れ出た高濃度汚染水が何らかの経路をたどって、海や地下水脈に流れ続けている可能性を否定できない。

放射性物質の空中への放出は減少したが、その減少分が海洋や土壌に向かっているのだとすれば、事態は何ら改善されていないことになる。

ところが、政府、東電や原子力工学専門家の発言からは危機感が感じられない。どうやら、彼らは海を果てしなく大きな塩水のプールと見なしているようだ。高濃度の放射性物質も海に出れば拡散して薄まるので、危険は少ないという論法である。

「低レベル」汚染水を一万トンも、地元の漁業関係者にすら知らせずに海洋投棄した事実が彼らの安易な考え方を裏付けている。

しかし、「海=巨大なプール」という発想は大間違いである。そんな単純な話ではない。

海洋での水の動きは、大規模なものから小規模なもの、深海へ潜るものや上がってくるものなどさまざまで、放射性物質の流れの予測は難しい。

さらに食物連鎖による生物学的な濃縮効果も考える必要がある。

海に出た放射性物質は直ちに動植物プランクトンに取り込まれ、食物連鎖に従って、小さな魚から大きな魚へと移っていく。この際にどれほどの濃縮が起こるかも、科学的な予想が難しい。

例えば、放射性元素が水溶性化合物として取り込まれれば、濃縮の度合いは低いかもしれない。しかし、脂溶性であれば相当な濃縮を覚悟しなければならない。クジラから高濃度のダイオキシンが検出される事例があるが、これはダイオキシンが脂溶性であることが大きい。また、ストロンチウムのように骨に吸収される性質を持った元素も、濃縮される危険が高い。

海沿いにある巨大原発から放射性物質が大量に流出、しかもその沖合には親潮と黒潮がぶつかる世界有数の漁場が存在する。こんな事故は人類史上初めてで、今後何が起こるのか、どんな未来が待っているのか、誰にも見通せない。

従って、保安院や一部の専門家のように、最もお気楽な未来を予想して、事故処理を進める姿勢は厳に戒めなければならない。

実際、コウナゴのような小魚から高いレベルの放射性物質が検出されたニュースは、事態がかなり厳しい方向へ進みつつあることを示している。海への流出が完全に止まっていなければ、十年二十年後、遠洋で獲れたマグロから高濃度の放射性物質が検出されても、とくに驚くべき結果とは言えない。

将来の漁業に与える深刻度を考えれば、政府は、最高レベルの危機感を持って、放射性物質による海洋汚染を監視するべきである。陸上への汚染だけに目を向けて、海洋汚染を軽視することがあってはならない。

とくに広域、多種類、多年にわたる生物学的調査は必須だ。これは「海洋汚染監視庁」といった組織を作って臨むようなレベルの問題である。

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「20mSv退避」を勧告する原子力安全委員会に存在価値なし

2011-04-07 04:56:22 | 原発事故
10~50 ミリシーベルトなら屋内退避、50ミリシーベルト以上なら避難。

原子力安全委員会が定めた指針である。この指針に沿って、福島第一原発から30キロ以遠の地域について、政府は「屋内退避も避難も必要ない」としてきた。

だが放射性物質の流出が長期化するに従い、福島県浪江町のように累積10ミリシーベルトを超える場所が出てきた。当然のことだが、安全委員会がしなければならないのは、浪江町を屋内退避エリアにするよう政府に勧告することである。

ところが、突然、自ら決めた指針を変更して「20ミリシーベルトで屋内退避または避難」と言い始めた。これに従えば、しばらくの間、浪江町は今まで通り「屋内退避も避難も必要ない」地域ということになる。しかし、いよいよ屋内退避なのかと心労が絶えない日々を過ごしている住民にとっては、急に政府の方針が変わって、もうあと10ミリシーベルトくらいまでなら大丈夫ですよと言われても、むしろ不安が募るばかりだろう。

安全委員会は、重要な研究論文が最近発表されて、従来の考え方が誤りだと判明したから、指針を変更したわけではない。一方「浪江町はまだ安全」という結論自体は、移動制限区域を出来るだけ広げたくないという政府の思惑に合致する。制限区域の拡大は原発事故の悪化を国内外に印象づけることになるからである。

また、現在、屋内退避エリアになっている20~30キロ圏では、物資が届かず、住民の困窮も限界に近づきつつある。政府は何をやっているのか、という声は日増しに高まるっている。だが、「屋内退避で大丈夫」とする従来の方針を変えて、政府が50ミリシーベルトに届かない区域の住民を避難させれば、自らの最初の判断は誤りだったと認めることになる。

「20ミリシーベルトで屋内退避または避難」の勧告は、政府がメンツを潰さず、20~30キロ圏に避難指示を出すことが出来る便法である。同時に、移動制限区域を30キロ以下にとどめておけるのだから、政府にとっては「渡りに船」である。

IAEAが福島県飯館村の住民を避難させるよう勧告した際、安全委員会の一人が「IAEAは葉っぱの上を測定しただけ。日本の方がより正確な測定」とまくし立てていたニュースは記憶に新しい。

その主張が正しいかどうかはともかく、「避難地域を広げるべき」という国際圧力から、日本政府を守ったことは間違いない。どうやら内閣府原子力安全委員会の「安全」は、「政府の安全」であって、「国民の安全」ではないらしい。

政府の都合に合わせて、如何様にも基準値を変更する委員会は、国民にとって百害あって一利なしだ。こんな御用聞き委員会はさっさと潰して、本当に国民を守ってくれる組織を一刻も早く作るべきである。

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福島原発事故の見えない明日

2011-04-04 03:36:48 | 原発事故
2号機取水口付近の立て坑に亀裂が存在し、高濃度の放射性物質を含んだ水がそこから海に流れ込んでいることが判明した。その流出は現時点でも止めることが出来ていない上に、空中へ放散している放射性物質と同様、止めるスケジュールすら見えてこない。

これは放射性物質の深刻な漏洩であり、過去に前例を見ないほど大規模な海洋汚染が進行しつつあると言わざるを得ない。

海に流れ出た放射性物質は、プランクトンを出発点とする食物連鎖の中で濃縮されていく危険性があるが、どの生物が問題となるのか、あるいは心配する必要はないのか、予測するのは困難である。

従って、様々な魚介類や海洋生物、さらには河川の生物やそれを食べる動物について、長期間にわたって放射性物質のモニタリングを行う必要がある。

政府や東京電力は放射性物質や放射線の危険性について、自然界にもともと存在するものを引き合いに出して「さほど心配することではない」という印象を与えようとしている。

しかし、原子炉内部で人工的に発生し、本来ならそこに厳重に閉じ込められている筈の放射性物質が、大気中や海に大量に流れ出て、食べ物や水道水から検出されるというのは、異常事態以外の何ものでもない。

いくら何ベクレル、何ミリシーベルトまでは大丈夫だと言われても、原子炉内部の放射性物質など、1ベクレルたりとも口にしたくないというのが消費者の心理であるし、それを止めることは誰にも出来ない。

実際、水道水の汚染が判明して以来、首都圏では、未だにミネラルウォーターの品薄状態が続いている。また、原発に近い地域の野菜は、勿論出荷制限が掛かっていないにもかかわらず、店頭で大量に売れ残っている。

また、海外では、東北地方のみならず日本の他地域からの物品についても、輸入制限を設ける国が出てきている。

こういった動きに歯止めをかけ、国内、国外の消費者を納得させる方法は、出荷した商品へのきめ細かい放射能モニタリングしかない。市場に出ているものには原子炉内部の放射性物質が一切含まれていないことを証明してみせるしかない。

しかし、今後否応なく強いられるだろう広範かつ長期間の放射能検査には、莫大なコストが掛かる。被災地の直接的な復興費用に上積みされて、日本の再起を妨げる足かせになるかもしれない。

今回の原発事故は、その収束に数年から数十年掛かると言われ始めている。つまり、行く先が全く見えないということである。そして、それは日本全体の復興も先が見えてこないことを意味している。

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