遊心逍遙記その2

ブログ「遊心逍遙記」から心機一転して、「遊心逍遙記その2」を開設します。主に読後印象記をまとめていきます。

『浄瑠璃寺の365日』  佐伯功勝  西日本出版社

2024-05-27 14:40:56 | 宗教・仏像
 奥書のタイトル表記は標題の通りであるが、表紙と背表紙には、「石仏の里に佇む静寂の寺」という冠語句が記されている。浄瑠璃寺は探訪したことがある。まさにそんなお寺だなと思う。浄瑠璃寺という寺名をご存知ない人には、「石仏の里」という言葉が魅力を加えることになるだろう。
 池の西側に横長の本堂が見え、そこに九体の阿弥陀如来坐像が祀られているお寺。九体阿弥陀堂は平安時代に幾つも建立された歴史があるが、現存するのはここ浄瑠璃寺の本堂だけという。ひょっとすると、九体の阿弥陀仏よりも、年に3回、厨子の開扉期間にのみ拝見できる秘仏・吉祥天女像の方がよく知られているかもしれない。

 本書はお寺の365日シリーズの一冊として2023年7月に刊行された。
 カバーの裏の折り込み部分には、興福寺、金峯山寺、大安寺という3寺の先行本が紹介されている。

 本書は浄瑠璃寺の現住職が、浄瑠璃寺について語ったエッセイ集である。
 ここには浄瑠璃寺の365日の日々の営み、浄瑠璃寺の沿革、浄瑠璃寺の立地、現在のお寺の伽藍や池、境内で眺められる季節の花々、境内で一番広い面積を占めている池について、浄瑠璃寺とこの石仏の里周辺のお寺について、また諸寺との関係について、著者の子供時代の心象風景、お寺という存在について・・・等が、静寂の寺と照応するかのように、淡々とした平静な筆致で綴られていく。難解な語句はほとんど出てこない。平易な文で語られている。祖父から三代目のお寺の子としての思い出も含め、浄瑠璃寺について、いろんな視点から見つめた本である。

 目次の続きに、池越しの本堂全景、三重塔の正面全景、池三景と浄瑠璃寺伽藍(案内図)がまず載っている。そのあと、エッセイの内容に照応する形で、適宜、写真が併載されていく。境内の四季の変化、境内の四季の花々、秘仏として扱われている、大日如来像・薬師如来坐像・厨子入義明上人像・厨子入弁財天像・地蔵菩薩立像・役行者三尊像・厨子入吉祥天女像の諸像、また、九体阿弥陀如来坐像、延命地蔵菩薩立像、四天王像、子安地蔵菩薩像、不動明王三尊像、馬頭観音立像が載っている。
 「当尾の里の石仏」と題して、石仏の里に佇む石仏たちも紹介されている。
 巻末には、「浄瑠璃寺花ごよみ」と「浄瑠璃寺略年表」が併載されている。
 結果的に総合的な浄瑠璃寺ガイドになっている。
 
 このエッセイ集を読み、知ったこと、再認識したこと、並びに印象に残る一節をご紹介しておきたい。
 まず、知ったことと再認識したこと。
*浄瑠璃寺の境内にある池(外周約200m)の水は湧水であること。
*浄瑠璃寺の本寺(本山)は、中世より明治初頭までは奈良の興福寺(法相宗)で、それ以
 降は奈良の西大寺(真言律宗)になった。
*九体阿弥陀仏の中尊の光背は「千体光背・千仏光背」と呼ばれる。
 令和2年度の修理で、寛文8年(1668)の後補と判明。千仏個々には願主が存在した。
*平成期に飛び地境内に地蔵堂を建立した。 
*顕教四方仏の世界観
  東の薬師と西の阿弥陀は「相対的な時間軸」 太陽の運行、繰り返しの生死観
  南の釈迦と北の弥勒は「絶対的な時間軸」 過去の釈迦から未来に出現する弥勒
*寛文6年(1666)に本堂の屋根が桧皮葺きから瓦葺きに改変され、建物の構造変更の工事
 などもこの時に行われた。
*平成20年代に約10年がかりで庭園整備が行われ、その折に弁財天の祠の修理を実行
*発掘調査により、以前は本堂前に通路がなく水際が近くまであり、そこに州浜が造
 られていたことが判明した。現在の水際付近に州浜を復元する折衷案で整備された。
*鐘楼の鐘は昭和42年(1967)に再興 ⇒もとの鐘は戦時中に金属供出の対象に
*平成20年(2008)に三重塔内にアライグマが入り込み巣作りして被害を及ぼした。
*境内に咲く花の多くは「野生の」、またはそれに準ずる品種である。
   ⇒その花の多くは通路の脇、足元で咲くことが多いとか。

 エッセイ中の印象深い一節をいくつか引用する。
*参拝の方々に花に関わる話をする際には、こういった足元に咲く花にも目を向けてほしい、とよくお願いしている。花に限らず、目立つものや一番多いものを見て納得してしまうのでなく、頭上や足元、全方位を意識する広い視野が何ごとに対しても大事だと。p28

*いわゆる明治政府の発した神仏分離令は、それまでの日本の信仰のあり方に大きな歪を生み、それは現在にも続いている。一方を否定し、一方を礼賛することの不条理、危険姓を見ることができる例だと思われる。・・・・・お互いが尊重し合い、わかり合おうとする努力、それを続ける限り争いは起こらない。  p31

*顕教と密教、この2つの教えが重なって、浄瑠璃寺全体の世界観となっている。p146
  ⇒ 東の三重塔内に秘仏薬師如来、西の本堂に九体阿弥陀如来
    飛び地境内に地蔵堂。将来は更にその北側に弥勒菩薩を祀るお堂の建立構想
    境内北の灌頂堂には密教(真言系)の大日如来

*正直自分の寺の宗派以外と接する機会が少なく、わかっていないことも多い(自分の宗はですら心許ないが)
 宗教に限った話ではないが、全体の姿と、今自分がいる位置を俯瞰的に見る習慣を持つことはとても大切だと感じている。偏りすぎず、こだわりすぎず、広い視野と気持ちの余裕を持って。  p147

 エッセイを通して、読者が浄瑠璃寺に親しみをもてる内容に仕上がっていると思う。
 本書を読んでから浄瑠璃寺を訪れれば、市販観光ガイドブックとは一味違う浄瑠璃寺に触れられるのではないだろうか。

 ご一読ありがとうございます。

補遺
浄瑠璃寺(木津川市) :「京都やましろ観光」
浄瑠璃寺  :「木津川市」
浄瑠璃寺について  :「京都南山城古寺の会」
浄瑠璃寺  :ウィキペディア
九体阿弥陀仏に込められた人々の願い  1089ブログ :「東京国立博物館」
国宝 阿弥陀如来坐像(九体阿弥陀)  :「TSUMUGU Gallery」
秘仏 吉祥天女立像(秋季)(浄瑠璃寺)  :「祈りの回廊」

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もう1つの拙ブログ「遊心六中記」で浄瑠璃寺の探訪をまとめている。
こちらもご覧いただけるとうれしいです。
歩く&探訪 [再録] 京都・木津川市 加茂町 -1 まず常念寺へ
  6回のシリーズとして探訪記をまとめた。
  その中で、
  歩く&探訪 [再録] 京都・木津川市 加茂町 -5 浄瑠璃寺  を記している。

  

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