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パーク アンド ラブホテル
2008
熊坂出


ベルリン国際映画祭新人作品賞を受賞した本作。
初日の舞台挨拶込みで鑑賞。

現代を生きる、少しの問題を抱えた女性たちの物語。
登場人物達は皆、言葉少なに自分を語り、いつの間にか去っていく。
その関わりで少しだけ変わる彼女たち。
パンフやチラシには「女性への応援歌」となっているのですが、そこまでのオッスな感じではなく、少しだけ変わる可能性を示唆するだけ。
人によってはただの自閉症から健常者に戻っただけの彼女たちを見て「何を描いているんだ?」と感じることがあるかもしれません。
しかし、本作で一番好きなのが、彼女たちが「気付くだけ」だということ。その後にヒーローが現れるわけでもなく、突然おかしな行動をするわけでもない。
ただ「気付くだけ」で変わる可能性を示す。
そして私たちは彼女たちのその後を思い描く。


ほとんど絵本のようなお伽噺の世界で、それを現代という舞台で描いているからそう思われてしまうのかもしれません。
「リアルさ」というのは本作において蛇足であり、その「リアルさ」をすっ飛ばした上での目線が必要かと。
そういう意味で舞台をラブホテルという日常から切り離された世界に置いているのでは。

大げさな舞台装置は使っていません。
タイトルでもあるラブホテルの上の公園というのも、主人公というかストーリーテラーのりりィの人格として機能しています。
人との関わりに疑問を持つ人々がやってきては去っていく一つの通過点。
ラブホテルの屋上にある公園という、普段ありえない状況に出会ったとき、そしてその時に自分が何らかの問題を抱えていたとき、そこにどういう人格を見いだすか、というお話。その公園の擬人化がホテルのオーナーであるりりィであったのかもしれません。妖精と言ったら語弊があるかと思いますが、そんな感じです。


4人の女優の演技が本当に瑞々しい。まるで、彼女たちの実生活を垣間見た様な感覚になります。
そして、そこにちょっとしたスパイスを効かせる小学生達。

若手監督にして陥りがちな無駄なサービス精神で伏線を回収しまくり盛り上げるラストも無く、かといって自分の思いの強さだけで語る出口のないお話なわけでもない。
全編を通して先を急がず、十分に理解させる間をとる演出。
「オレ!オレ!オレ!」の言いたいばっかりのタランティーノとかのシネフィル作品とは真逆です。それはそれで好きなんですが。
じっくりと人の話を聞き、それをちゃんと反芻し言葉を返してくれる熊坂監督の人柄がにじみ出るような作品でした。

本作の熊坂監督とは大学生の頃にちょっと縁があって、そのころ書かれていた脚本を読ませて貰ったり、撮影に遊びに行ったり。
受賞の記事を読んで何年かぶりに電話して、その後立ち飲み屋でひたすら映画談義。楽しかった。
本作なのですが、知人だと言うことを抜いてもとても良い作品です。これは好き。

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