Jun日記(さと さとみの世界)

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うの華4 22

2022-01-12 11:51:41 | 日記

 早く、早く…。遂には焦れて、私はうんうん、もう、と声に出すと、玄関で地団駄段を踏んだ。そんな私の様子に、店中にいた清ちゃんの母はその異変に気付いた様だ。彼女はこちらに背を向けた儘、振り向きもせずしんとして佇んでいたが、背中越しに頃合いを伺うと、そそっとさり気なさを装いながら階段登り口に移動した。

「向こうさんに早く来いって。」

そう言っておくれ、と彼女は憚る様な言い方で2階に声掛けした。

 2階からは何かしら返事があったのだろう、苛ついた雰囲気に変わった彼女は、次にきっとした感じで上を見上げると、「本格的におかしくなって来てる。」、「私と変わって。」、等、上を見上げるながら言う声にも顔付きにも、彼女の懇願する様子が見られた。私はと言うと、そんな清ちゃんの母の様子を垣間見ながら自分の抱え込んでいる問題に悩み続けていた。

 う〜ん、う〜ん…。頭を抱え込んで唸る私の姿に、2階から降りて来たこの店の店主も本当だな、と、彼の妻に相槌を打った。

「如何したんだ、何があったんだ?。」

さっき迄は未だまともだっただろ。と、彼は困惑して暗く沈み込んでいる彼の妻、自分よりは階下に位置している彼女に問い掛けた。彼女の方はそんな夫に答える時間ももどかしく、無言でさっと夫の横を押し退け、すり抜けると、だだだと階上に駆け上がって行った。ひゃっと驚いた夫が、思わずおい!と声を掛けた。

 彼女が2階に上がって部屋を眺めると、自分の息子はきちんと着替えており、息が上がり血相を変えて上がって来た母親の顔を目を丸くして迎えていた。

「着替えたのかい。」

1人で?、偉いね。等、忙しく声を掛けて、そうしながら彼女が一心に向かったのがこの部屋に設置されていた私事用の電話機だった。急いでダイヤルすると、彼女は小声で直ぐ来てくれ、ホントに変になってると真剣に相手方に訴えた。

「旦那さんじゃ埒が開かない、奥さんを出しておくれ。」

彼女はそう受話器の向こう側に訴えると、苛々ともどかしそうに指をトントン、受話器のコードをくねらせたりしていたが、求める相手が向こうの受話器に出たらしく、ああと何か言い掛けたが、向こうの反応が早かったのだろう。何も言わずに向こうの言葉に耳を傾けていた。彼女はほっとした様子で微笑むと受話器を電話に掛けた。安堵した彼女の目に妙な形で捻くれている受話器のコードが目に付いた。彼女は今置いたばかりの受話器を再び手に取ると、その妙な捻くれをせっせと直し始めた。

 容易に電話機のコードの形が復旧しないので、2階の部屋にいる彼女は焦れていた。そんな彼女の姿を見守りながら、彼女の息子は階下の物音に耳を傾けていた。

「こんにちは。」

如何やら近所のおばさんが来た様子だ。彼は部屋の片隅で電話のコードと格闘する自分の母親に声を掛けた。


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