Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 104

2019-11-26 16:47:28 | 日記

 縁側で転んで、床の木目を間近に見た日から、私は目を凝らすと縁側で板の観察をするようになった。尖ったささくれでまた怪我をしたくなかったからだが、床板をよくよく眺める内に、私は模様としてそこに有る年輪に興味が湧いて行った。

 最初は怪我した個所を特に念入りに見つめて、私は割れた先が尖ってい無いかどうかと確認していた。床から垂直方向に飛び出ている棘の様なささくれを見つけると、私は指先でそれを押して均し始めた。そんな私の姿を祖母は直ぐに見つけたものだ。危ない!、止めなさいと即座に注意された。

 何でそんな危ない事を、お前は如何してそんな事をしているのかと、しかめっ面をして祖母が問うので、私は父から自分の事は自分でと言われているからと説明した。

「自分が怪我しない様に、尖った所を均しているんだよ。」

そう答えると、祖母はまぁという感じで、「そんな物、親にしてもらいなさい。」と不満気に言った。続けて彼女は激しい語調で、

「危ない事は親がする物だ。子供のお前がする事じゃ無い。」

と付け足した。

 私は驚いて祖母の顔を見上げた。その時の祖母は言葉の激しさと同様の険しい顔付きをしていた。そんな彼女の雰囲気から私は自分が怒られているのだと感じた。それで私のしていた行動が彼女の癇に障ったのだろうと考えた。私は彼女に取り付く島が無いかと祖母の様子を観察し始めた。何とか彼女に機嫌を直してもらい、何時ものにこやかな祖母に戻ってもらいたいと願っていた。

 祖母は両手を腰に巻いた前掛けの前できちんと合わせると、ぴんと背筋を逸らせるようにして座敷に続く敷居の上に立っていた。かんかんになる内面の怒りを抑えているらしく、ぐっと足を踏み締めた彼女の頬は硬直していた。

「あの娘(こ)にも言っておかないと。」

そう言って祖母は私に一瞥をくれると次の瞬間には障子の陰に消えた。この時、室内から祖父の声が全く無かったのは、如何やら彼が家の中に不在だったからのようだ。

 その後は、祖母は母に言いつけて、糠袋で縁側を拭き上げるよう指図したらしかった。次に私が縁側を覗きに行くと、そこには母の蹲る姿があった。私が最初にささくれを指で均してから1時間程が過ぎていただろうか。思いがけず縁側で母の姿を見つけた私は何事だろうと訝った。

 それ迄の私は縁側にいる母の姿など殆ど見掛けた事が無かった。祖父母のいる座敷に入る為彼女が台所から縁側へ、そして彼等の部屋へと、縁の端を素通りする姿を見る事は有ったが、今日の様にどっぷりと縁側の真ん中にまで侵入し、しかもそこで蹲って何やらしているらしい姿は初めて見たと思った。内心おやっ、と呟く位に私には物珍しかったのだ。


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