Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 5

2019-06-27 13:36:59 | 日記

 「あんたは嘘を吐いたね。」

あのおじさんが私に向かって言った。私は何の事か分からずおじさんを見詰めた。

 私がこのおじさんを寺の本堂付近で見掛けるのはこれでもう3回目位になると思う。彼と初対面した後日、幼馴染の史君と境内で遊んでいた時、本堂の入り口を出入りする彼の姿を遠くから2人で目にした事があった。その時の史君曰く、

「あの人この寺の住職さんだよ。」

だった。私の幼馴染で遊び仲間の史君は、極めて活発なタイプだった。それだけにおっとりした私の知らない事を何でも良く知っていた事だ。折に触れて、私は彼から色んな遊びやこの界隈の諸事について迄、様々な事を教えられる事が多かった。

「住職さん?。」

お寺さんの事さ、まぁこのお寺のお坊さんだな。彼にそんな事を教えられてから、2、3日位経った頃だったろうか、私はそのお寺の住職さんという人物から、つまり本堂の入り口で泣いていた男の人から、こう嘘つき呼ばわりされたのだ。私はさっぱり訳が分からずきょとんとして佇んでいた。

 「あんたはこの前私に合った時、私に嘘を吐いたでしょう。」

遊び仲間と墓所で逸れた私は、当てもなく墓所から出て来て1人本堂の側面をとろとろと歩いていた。屋根下から続く全面の壁が終わり、本堂の側面から正面へと続く生成りの欄干が有る場所に差し掛かった時、私は欄干の下、石造りの基礎から続く漆喰の上に腰を下ろして、どうやら一服しているらしい人影に気付いた。私はその人の顔を見て、『ああこのお寺の住職さんだ。』と理解した。と同時に住職さんから先の言葉を掛けられて、如何やら初対面時の私への文句が始まったのだ。

 「あんたは4歳でしょう。」

この言葉を掛けられて、私には漸く私の歳の事で苦情が出ているのだと理解し始めた。それにしても、私は確かに満3歳だった。

「満3歳だよ。」

こう私が言うと、住職さんは眉に皺を寄せてほらまた嘘を吐いたなと口にした。

「あんたは数えの4歳だろう。」

こう言われれば、私は確かにそうだと言わねばならない。私は大人の人達が言っていた言葉を思い出した。

 我が家に限ると、明治生まれの祖母と昭和生まれの父が、折に触れて満と数え歳の歳の話をあれこれと何度かしていた事があった。それで自分が満3歳、数えで4歳になるという事は理解していた。また、私は普通、人に歳を聞かれた場合、満年齢を言うようにと父から教えられていた。

 そこで私は住職さんに満で3歳だと言うと、父からそう言うよう教えられていたと説明して彼に弁明した。そして自分は決して嘘を吐いたのではない、世間の通例にしたがったまでだという事を理解してもらおうとした。しかし住職さんは何やら不機嫌らしく、その後も暫し四の五のと私に文句を並べていたが、私があれこれと答える内に案外そうかと了解してもらえた。

 その後、歳の事は分ったがと、

「今もそうだが、この前も何で寺に入って来たんだね。」

と言われる。

 『何で?』、「遊ぶ為に。」と答えながら、これはまた奇妙な事を言われると私は思った。家では毎日のように寺に行って遊んで来なさいと追い出されるのだ。皆そこで遊んでいるから、と。事実、近所の子供達は皆申し合わせたようにこの寺に集まって来ていたし、最初に子供達だけで外遊びに出た時も、この寺の墓地が集会所になっていた。

 初めての集会で、私は家の近隣の世の中に、こんなに沢山の幼い子供がいるのかと驚いたものだ。いつも見慣れている隣近所の子供は勿論、その他、相当遠い場所に家があるらしい見慣れない子供まで含まれていた。歳の差は少々あるが、年少の子は私と大体同じ位の子供達らしいという事は分かった。


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