「お父さんは何故…。」
私は父に如何言ったものかと言葉を考える為に沈黙した。何でも分かってくれない父の事だ、この時の私は故意にそう思った。きちんと父に分るような言葉で話さなければ、人の言いたい事が彼には伝わらないぞと自分に言い聞かせ、彼の事を見くびる事にした。
『先ず、何時、何処でだったな。』と思う。何故はその後でいいかなと聞く順番や、その時に使う言葉を考えてみた。
「お父さんは、何時、何処で、」
そうだなこの言い方でいいと私は頭の中で反復してみる。
「私がどんな事をしたから、」「何故、私が嘘吐きだと思ったの?。」
父は、えっという様な顔をした。思いも掛けなかった事を私が言い出したという様な感じで如何にも鳩が豆鉄砲を食らったような顔付になった。ややぽかんとした形に口を開いた。
「私が嘘吐きだという理由があるから、お父さんはそういうんでしょう。」
私はその出来事を話して欲しいと訴えると、それは何時の事でどんな出来事だったのかと真っ向から父に問い掛けた。そして父の言葉の根拠を問い質した。
父は顎に片手を遣って、そのまま顎を押し上げるような形で彼の開いていた口を閉じた。ちゃんと話してくれという私に、如何ともいえ無い様な表情をした。彼は思案する様な、後悔するような、少し沈んだ感じで目を伏せると俯いた。嘘なぁとか、何時、どんな、と言われてもなぁと、彼は呟いていたが、
「お、覚えが…。」
と口ごもる様に、顔を上げて私に向かってそう言うので、私はこの父の言葉に、私の方に覚えが無いのかと問われたのだろうかと、彼から視線を外して考えてみた。私はそう言った出来事を忘れているのだろうか?。否、全然心当たりはない。
「全然そんな、私には嘘を吐いた覚えが無いけど。」
そう言って私は父を見直した。
すると、やや父の顔が小さくなった気がした。私はこの事にちょっと不思議な感じがした。が、それより、父の言葉の根拠になる、過去に起こった出来事の真実を知りたい、そちらの方が優先だと考えた。この変化を気にせずに私は言った。私の方に全く覚えが無いので、父の方から私に分る様にきちんとその出来事を話して欲しいと迫った。
「お父さんは、その出来事を知っているから、私の事を嘘吐きというんでしょう。」
ちゃんと言ってくれと私はきっぱりと父に言った。本当にそんな出来事があったのなら、嘘でないなら、ちゃんと私に言えるはずでしょうと言うと、私はそれこそ父の方が嘘をついているのかという剣幕で問い質した。
父の方は私が問いかけていたこの間、殆ど何も言葉を発しなかった。私の何がいけないというのだろうか?私は沈みがちに目を伏せた。が、次の瞬間、思い立ったこの時に、きちんと物事を問いたださなければ、何時彼に問い掛ける事が出来るのだと気持ちを奮い立たせた。私は内心ふん!とばかりに勢いをつけると、自分の視線を上げて父を見た。
すると、じりじりと動く父の足、彼が後方へと少しずつ引いている足に気付いた。父はゆっくり後方へと下がり、私からの距離を開いていたのだ。それで父の顔が小さくなったように感じたのだった。
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