
近所に出歩く様になった私は、散歩の途中で疑問に出会うと、早々家に帰っては父や家族に尋ねたものだった。が、ある日の事、その様に態々家にとんぼ返りしなくても、家までの道の途中に有る近所のお店のおじさんやおばさんに、疑問を尋ねる事で自分の用が足りるという事に気付いた。彼等は機嫌よく回答してくれたのだ。
「智ちゃんそんなに急いで何処行くの?。」「家だよ。」「どこの?」「私の。」「あんたの家で何かあるのかい?」。いや、これこれ云々で父に尋ねに行くと言うと、ああ、それならこうだよと、家に行くまでも無い、私が教えてあげる。と来たものだ。
こうなるとちゃっかりしたものである、労力を惜しんだ私は手直で疑問の解答を間に合わせようとしたのだ。するとこれまたある日の事、
「難しいねぇ、難しい事を聞くねぇ。」
と、来た物だ。ここで相手から待ったがかかり、「今度ね、調べておくよ。」という様な正直な答弁が返ってきた。最初にこの返事を聞いた時には、私は酷く驚いたものだ。
大人なのに、どうして知らないの?。そう尋ねる私に、「大人だって、全て知っているわけじゃ無い。」とか、「考えさせておくれ。」等、子供への説明は案外と大人には難しいという話を、これまた近所の人は私に、あれこれ体裁を取り繕う事無く率直に話してくれたものだ。
この様に、御近所の大人達の話を聞く内に、私は家の大人達、父もどうやらそうらしい、やはりそうなのじゃないかなと考え、その真実に追々気付きつつあった。
そこでこの時私は父を深いしなかったのだ。そうして、この時に認めた彼の頬の張りに、私の考察の核心は確定に到達したと言って良かった。私は自分の考えが正しかった事に明快な満足感を得て、そのまま眠りにつきたかった。
ごおうぅ…、ぐがががが…。
物凄く大きな鼾が横に聞こえ、私を眠りから呼び覚ました。
父だ!。私は自分の横で、彼の布団に大の字に横になり、大鼾をかいている父の姿を、自分の身を起こして迷惑気に見た。何という事だ。漸く安堵し、落ち着いて眠れるとばかり思っていた私なのに。耳を塞いで父と反対側に突っ伏し、顔を布団に押し付けて寝ようと試みたが、彼の鼾は大き過ぎた。遂にここで私は、眠る事を全く諦めた。
もう下に降りよう。私は寝床から起き上がると階段へと向かった。そうして、何気なく階段の降り口に目を遣った。私はそこで、そこは屋内で全く日差しが差し込まなくなり仄暗かったが、その影の中に、置かれた様に存在している祖母の顔を1つ発見した。
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