Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華4 44

2022-05-23 11:54:51 | 日記

 さて、それと無く庭の周囲を見回した彼は、特にここには如何という異常も無い様だがと思う。そこで彼は自分の子に向かって言った。

「智ちゃん、何が有るんだ。」

お父さんが見る所、ここには、裏庭にはだが、何も不思議な物は無さそうだがなぁ。彼は子に向かって普段通りの、彼の平生の声音で言った。しかし彼の内心にはイライラが募って来ていた。『あー、イライラする。』。

 さて、これより遥か前の事だが、彼は両親から子育ての極意は気長になる事と教えられていた。

 「なぁにが気長にだ。」

彼は呟いた。もう怒りの尾がブッツン!と、と彼はそう思うと、「切れそうだ。」と言葉に出した。そうしないと、「こっちがおかしくなりそうだ。」フン!と、彼は鼻息荒く口にした。

 「修行が出来てない父親ね。」

母家から如何にも呆れたという様な女性の声がした。本当だね、両親の顔が見てみたいものだね。これまた相槌を打つ様に意外そうな男性の声がした。ハハハハハ、おほほほほ。いかにも嘲る様な男女の笑い声が発しられた。その声声は、影になった屋内、庭にいる親子からは見えない場所から、そこはかと無く響いて来るのだ。彼の子にさえ、その微かだがキッパリとした声音は聞き逃す事なく聞き取る事が出来た程だ。

 聞こえてるよ。彼は自身の顔の向きをそう変える事なく彼の後方、母屋への入り口方向へ抗う様に言い捨てた。

「だから如何だというんだ。」

彼は自分の前方、自分の子のいる方向へ彼の口を滑らせた。

「自分達で面倒見て無いのに、言いたい事だけ言って。」

子供の面倒は全部俺に押し付けて、子供のいいとこだけ自分達でよそって行くくせに。如何言う親達なんだ。彼は不平を並べ始めた。

「そんな態度が親らしく無いのだ。」

待っていたと言わんばかりに、屋内で如何にも不穏な男性の声がした。『お祖父ちゃんだ。』庭にいた子供は思った。

 屋内の男性の声に子供は聞き覚えがあった。子供の方は、てっきり今まで見知らない男女が自分達親子の家の中にいるのだと思っていたのだ。何しろ、子供の祖父母はそれ迄他所行きのお上品な声音を使って喋っていたのだから、要領の分かる子の父にしか、実際には誰が喋っているのか事実は把握出来ていなかった。なので、父の方は慣れた物だったが、彼の子供の方は、漸く自分が聞き取った祖父の声から、通り一遍の祖父の怒りをのみ汲み取るばかりだった。

 『如何したんだろう、おじいちゃん機嫌が悪いみたいだ。』

しかも、かなり悪い。子は思った。『祖父の機嫌を損ねた原因は自分にあるんだろうか?』、子供にはその事ばかりが案じられて来る。子供はみるみる眉間に皺がよりその顔色を曇らせた。


うの華4 43

2022-05-23 10:39:15 | 日記

 お父さんが、呼んでいた?。私の事を?。私は父の言葉を繰り返した。すると父は私の事を、おやと、何事か気付いたように眺め始めた。

 「お父さん、私の事を呼んでたの?。」

もしかしたらと、私は父に問い掛けた。父が黙ったまま怪訝そうに頷くので、私はそうだったのかと、自分のその少し前の状態を思った。確かに、私は自分の目前に有る奇妙な何物かに心奪われていた。その為だろう父が裏庭に現れた事にも気付いていなかった。普段なら自分が気付くだろうその彼の足音や気配さえ、何時今彼が立つその場へ来たのかさえも私は気付けないでいたのだ。多分父の私への声掛けにも気付かなかったのだ。そうか、それで父は怒っているのだ。私は漸く彼の怒りの元に合点した。それだけ私の意識は私が感じた奇妙な事に集中していたのだ。私は自身の周囲への意識がここに無く、所謂頭がお留守の状態になっていたのだと言う事を自覚した。

 ごめんね。私は父に謝った。私は不思議に思い考え事をしていたのだという事を彼に告げた。すると、父はぼうっとしていたのだなと私に対して言った。しかし私にすると、私は一応怪しいと感じた物について考えていたのだから、如何にも頭の中に思考も何も無い状態をいうらしい言葉、ぼうっと、の表現がこの当時の私の気持ち妙に引っ掛かり意に沿わなかった。

 「違う、考えていたの。」

私は父に答えた。一生懸命考えていたのだと、私はぼうっとしていなかったのだと言い張った。少し前の父の私への怒り、その時には理不尽に感じた事に対して、私は今更の様に腹立たしくなっていた。

「ぼうっと何かしてないの。考えてたんだから。」

腕組みして父から身を外らせた私に、今度は父の方がしょぼくれた。はーっと息を吐くと、あっちもこっちも世話の焼ける、と零した。

 「それで、お前さんは、お前の方は何を考えていたと言うんだい。」

一呼吸置いて、落ち着きを取り戻したらしい私の父は、不機嫌な私のご機嫌を取る様に問い掛けて来た。不思議な事と私は答えた。子供というのはこれだからなと父は独り言ちた。

 「はあて、不思議な事とは、」

父はさも予想も何も付かないと言う様に、私に対して白々しい言葉を掛けてきた。