*『原発ゼロ』著者 小出裕章 を複数回に分け紹介します。22回目の紹介
『原発ゼロ』著者小出裕章
原発を廃絶させるまで、私は闘いたい。
原発は、都会では引き受けることができない寛大な危険を抱えています。「原子力マフィア」はまさか大事故は起きないだろうと高を括り、人々に対して「原発 は決して大事故を起こさない」と嘘をつきました。それでも不安を払拭できない彼らは、原発を過疎地に押し付けたのです。私は破局的な事故が起きる前に原発 を廃絶させたいと活動してきましたが、福島第一原発事故が起きてしまいました。私の人生すべてが否定されてしまい、自分の非力を無念に思わずにはいられま せんでした。しかし、この事故を忘れまいとする人々もまだ大勢いてくれることを、本当にうれしく思います。被害者の苦しみを少しでも減らし、嘘をついてき た巨大な権力を処罰するために、私自身も決して挫けずに闘いたいと改めて思います。
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**『原発ゼロ』著書の紹介
「第5章 これでも原発を続けるのですか」
7 日本の原子力技術はあてにならない P220~ より
日本は原発後進国
それから、「日本の高い原子力技術が海外に流出する」と心配する記事を時々新聞などで読みます。誤解している方が多いようなので言いますと、日本の原子力技術は決して高くありません。日本の人たちは、日本が科学技術先進国だと思っていて、原子力の世界でも日本が世界の最先端を走っていると思い込まされているわけですけれども、決してそんなことはないのです。原子力技術ということでは、むしろ日本は後進国です。
1977年に東海再処理工場をフランスにつくってもらいましたが、その時点では英国とフランスの再処理工場に頼っていることはすでに書きました。そして、東海再処理工場で少しずつ技術を学び、六ケ所処理工場こそは独自の力でつくろうとしたのですが、結局つくれずに、またフランスに頼んでつくってもらいました。しかしそれではあまりに格好がつかないということで、再処理をした時に出てくる高レベルの放射性廃液をガラス状に固めるその部分だけでもなんとか日本の技術でやろうとしたのですが、それが上手くいかずに現在は停止したままという状態になっています。
それから、1999年に茨城県東海村の核燃料加工施設で臨界事故が起こりました。「東海村JCO臨界事故」と呼ばれるものです。(中略)
事故の原因は、現場の作業員がマニュアル通りにやらなかったからだとされていますが、原子力を推進してきた人たちは、原子力の現場というのは、フェイルセーフ、フールプルーフ、つまり、何か故障が起きても安全だし、作業員が馬鹿なことをしても大丈夫なんだと言ってきたのです。
作業員がマニュアルと違うことをやったのは事実ですが、そのようなことがあったとしても臨界などにはならないように、もともと工場をつくらなければならなかった。私は、そんな工場にお墨付きを与えた学者、あるいは、政府に責任があると思います。しかし彼らは一切の責任をとらないまま、作業員にすべての責任を押し付けて、この事故に幕を引いてしまいました。ともあれ、日本が世界の常識であるウランの基本的な管理さえできない国だということです。
そして日本はこれまで58基の原子炉をつくってきました。どれも絶対に安全ですと自民党がお墨付きを与えたものですが、その原子炉で大小含めてたくさん事故が起こりました。そして2011年3月、本当に残念なことに、福島第一原子力発電所で過酷事故が起こってしまいました。以来3年近く経った今でも、収束の方策すらわからないまま、たくさんの作業員たちが被曝をし続けてしまっていますし、放射能が環境に流出することを止めることもできない、という現実が目の前にあるのです。(中略)
原発の海外輸出は、企業が巨額なリスクを背負うことにもなります。例えば三菱重工業は、米国カルフォルニア周のサンオノフレ原発に納入した蒸気発生器の配管から放射性物質を含む冷却水が漏れて廃炉となり、2013年10月に発注元の南カルフォルニア・エジソン社から廃炉費用を含む40億ドル(訳4100億円)の損害賠償を請求され、裁判で争うことになりました。これは、三菱重工業の2012年度の経常利益の3倍近い額だそうです。また、原発先進国であるフランスのアレバ社(三菱重工業と提携)でも、2009年にフィンランドで新型原子炉を受注したものの、工事の遅れや安全性を高めるための費用がかさんで賠償請求を起こされてしまい、資金を工面するための部門の一つを売却したという事です(『朝日新聞』2013年12月2日)。
賠償にリスクだけではありません。同じ記事によれば、最初の受注の仮約束のようなもので、大枠で合意してから地質などの自然条件や経済性の調査を数年かけて行うといいます。そこで万一、その建設予定地に活断層でも見つかれば、本契約には至らないこともある。それなりに企業体力がなければ、できるものではありません。
安倍首相は満面の笑みを浮かべてセールス活動に励んでいるようですが、原発を海外に売るということは、売れば売っただけ、地球上に原発事故が起きる可能性を広げることになります。また、同時に核兵器を拡散し、世界に平和を脅かすことにもなりかねません。そしてさらに、原子力メーカーが抱えることになる大変なリスク。これらの事の重大さをどれだけわかっているのか疑問ですが、表層的な儲け話を進める前に、まずは日本の原子力技術の対して検挙な目を向けること、そして海外に原発を輸出するとはどういうことなのか、それが何を導くことになるのか、常識的な視点で捉え直し、想像力を働かせるべきだと思います。
※続き『原発ゼロ』著書の紹介は、2016/1/6(水)22:00に投稿予定です。