*『原発ゼロ』著者 小出裕章 を複数回に分け紹介します。27回目の紹介
『原発ゼロ』著者小出裕章
原発を廃絶させるまで、私は闘いたい。
原発は、都会では引き受けることができない寛大な危険を抱えています。「原子力マフィア」はまさか大事故は起きないだろうと高を括り、人々に対して「原発 は決して大事故を起こさない」と嘘をつきました。それでも不安を払拭できない彼らは、原発を過疎地に押し付けたのです。私は破局的な事故が起きる前に原発 を廃絶させたいと活動してきましたが、福島第一原発事故が起きてしまいました。私の人生すべてが否定されてしまい、自分の非力を無念に思わずにはいられま せんでした。しかし、この事故を忘れまいとする人々もまだ大勢いてくれることを、本当にうれしく思います。被害者の苦しみを少しでも減らし、嘘をついてき た巨大な権力を処罰するために、私自身も決して挫けずに闘いたいと改めて思います。
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**『原発ゼロ』著書の紹介
「第6章 これ以上過ちを繰り返さないために」より
2 記憶の消去と情報の隠蔽 P244~
成立してしまった特定秘密保護法
日本には、原子力基本法という法律があります。1955年に制定されました。この法律の基本方針にはどんなことが書いてあるのかというと、「原子力利用は、平和の目的に限り、安全の確保を旨として、民主的な運営の下に、自主的にこれを行うものとし、その成果を公開し、進んで国際協力に資するものとする」ということです。「平和の目的に限り」とありますが、実質的には核兵器をつくれる潜在的な力を持つのが狙いで、日本は今日まで大量のプルトニウムを貯め込んできていることはすでに書きました。念のため書いておきますが、これは、私が勝手に思っていることではありません。次の文章を見てください。
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核兵器については、NPTに参加すると否とにかかわらず、当面核兵器は保有しない政策をとるが、核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持するとともにこれに対する掣肘を受けないよう配慮する。又核兵器一般についての政策は国際政治・経済的な利害得失の計算に基づくものであるとの趣旨を国民に啓発することとし、将来万一の場合における戦術核持ち込みに際し無用の国内的混乱を避けるように配慮する。
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これは1969年につくられた「わが国の外交政策大綱」に書かれた一節ですが、日本はすでに45年前に、こういう方針を立てて原子力を進めてきたのです。
また、あくまでも個人の見解としたうえで外務省の幹部が、日本の外交力の裏付けとして、「核武装の選択の可能性を捨ててしまわない方がいい」、「核武装の選択の可能性を捨ててしまわない方がいい」、「保有能力は持つが、当面政策として持たないという形でいく」、そのためにも「プルトニウムの蓄積と、ミサイルに転用できるロケット技術は開発しておかなければならない」という趣旨のことを新聞のインタビューで答えています。(『朝日新聞』1992年1月19日)。
私は原子力の世界にいる人間として、原子力は徹底的に危険なものであり、しかもこんな危険な思惑が日本政府にあるのであればなおさら、しっかりと監視していかなければならないと思います。私だけでなく、約7割の国民が原子力に反対しています。そして、それをさらに上回る約8割の国民が反対する特定秘密保護法案を、2013年11月26日、自民党は衆議院本会議で強行採決しました。前日に開かれた福島での公聴会では、自民党の推進者を含む意見陳述者全員がこの法案に反対していました。ほかにも国連の人権専門家をはじめとする国際的機関・団体からも声明がたくさん上がっていました。原子力についても、特定秘密保護法案についても、これだけ多くの人が反対の声を上げているのに、その民意と世論にまったく耳を貸そうとしないのが自民党です。こういうような人たちに政治を任せてはいけないと強く思います。
それで、この特定秘密保護法案が可決したことにより心配されるのが、原子力に関する情報が閉ざされてしまうことです。というのは、実はこの前年の2012年6月には原子力基本法が改定されています。先に紹介した基本方針に、第二項として次のような文章が付け加えられたのです。
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前項の安全の確保については、確率された交際的な基準を踏まえ、国民の生命、健康および財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的として、行うものとする。
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「安全保障」という言葉はみなさんよくご存知だと思いますけれど、「日本安全保障条約」と言うように、軍事的な専門用語です。つまり日本は、原子力をやるにあたって、「安全保障を目的としてやるんだ」というところにまで踏み込んできている。おそらく、1969年の「わが国の外交政策大綱」の、「核兵器一般についての政策は国際政治・経済的な利害得失の計算に基づくものであるとの趣旨を国民に啓発する」、すなわち、日本というこの国が核兵器を持つか持たないかということは、政策の問題だし、利害得失に基づいて決定されるのだということを国民にちゃんと知らせよう、ということをいよいよやり始めたのだと思いますが、「我が国の安全保障に資する」という言葉が入れば、特定秘密にすることが可能なわけです。原子力の情報というのはこれまでも出なかったけれども、この法律が施行されることになれば、ますます出なくなるでしょう。
戦前の治安維持法の下では、たくさんの人々が殺され、ついに戦争を止めることもできませんでした。その反省を受けて、日本の憲法が作られました。その前文に書かれていることを、ここで改めて確認しておきます。
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政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。
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国家の行き過ぎた権力行使を監視するのが国民の役目であって、公民の自由、人権を侵害してはいけないという大きなルールの下、個人のプライバシーを国家が保護するのは当然のこととしてあっても、国家が国民の知らないところで秘密をつくり、個人を罰するというのは最低、最悪のことです。本当にひどい国だと思います。でも私は、それでも萎縮せずに生きようと思います。たった一度の人生ですから、歴史と事実をしっかりと見つめて、騙されないようにする。脅しに屈しないようにする。そして自分のやりたいことの思いに忠実に生きていきたいと願います。これからも、私は私らしく生きようと思います。
※続き『原発ゼロ』著書の紹介は、2016/1/18(月)22:00に投稿予定です。