諮問第499号
答申
1 審査会の結論
「公立学校教職員(一般教職員)の年度途中退職者に対する個別勧奨の事務手続について」ほか1件を非開示とした決定について、「平成19年3月 27日付18教人職第2578号公立学校教職員(一般教職員)の年度途中退職者に対する個別勧奨の事務手続について」については開示すべきであるが、「個別勧奨に係る質疑 Q&A」については非開示が妥当である。また、別表に掲げる文書について対象公文書として特定し、改めて開示又は非開示の決定を行うべきである。
2 異議申立ての内容
(1) 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、東京都情報公開条例(平成11年東京都条例第5号。以下「条例」という。)に基づき、異議申立人が行った「18教人職第 2577号 平成19年3月27日の通知文書」、「18教人職第2578号 平成19年3月27日の通知文書」及び「個別勧奨に係る質疑 Q&A」の開示請求に対し、東京都教育委員会が平成19年8月31日付けで行った非開示決定について、その取消しを求めるというものである。
(2) 異議申立ての理由
異議申立人が、異議申立書及び意見書で主張している異議申立ての主な理由は、次のように要約される。
ア 非開示部分は東京都教育委員会の公式な見解であり、この内容を知ることは、都民として当然であると考える。
イ 東京都が主張するように、公にすることにより人事管理に関する事務に支障が生じるとは認められず、条例7条6号には該当しないと考える。
ウ 教職員を含む東京都職員の人事の基準を都民が知ることは、都民の権利であると考える。東京都職員により利益を、あるいは、不利益を受けるのは都民であり、その人事の基準を東京都及び東京都教育委員会が示すことは当然であると考える。
エ 開示された「18教人職第2577号」だけでは、どのような運用がなされるのかわからない。当該文書では、勧奨退職についての「勧奨事由」として、「疾病・介護・育児(家族介護等)」が上げられており、これらを否定的にとらえるならば、人権を踏みにじり、法律にも違反することとなる。しかも、「当該事由により「現に職務の十全な遂行が難しい場合、もしくは今後そのおそれがある」場合」とどこまでも解釈によっては、勧奨の範囲が拡大されるおそれがある。したがって、実際の運用をどのように行おうとしているのかの基準は、当然都民に開示されるべきものと考える。
オ この非開示決定は条例の精神に反している。目的を定めた1条の中で「東京都(以下「都」という。)が都政に関し都民に説明する責務を全うするようにし、都民の理解と批判の下に公正で透明な行政を推進し、都民による都政への参加を進めるのに資することを目的とする。」と規定している。私をはじめ、「障害者」やその家族、関係者は、「18教人職第2577号」の内容に危惧を抱いている。こうしたことについての都民に説明する責務は、非開示とされた部分を開示することによって(それだけで十分かどうかは読んでみないとなんとも判らないが)果たされるのではないか。
カ 非開示理由は「条例」を不当に拡大解釈している。人事の基準を開示すると「公正」さが失われるとはなんということか。開示されてこそ「公正」さが確保される。そして、「公正」さがあれば、当然円滑に人事も進むことだろう。非開示理由の中で「公正」という言葉が一言も出てこないが、それが拡大解釈の動かぬ証拠ではないか。
私の求めている人事の基準が「人事当局側の具体的な事務手続及び質疑例」に当たるならば、それを示すべきだと考える。そもそも「公にすることにより人事管理の自律性を確保できず」とはどういう状況を想定しているのか。都民に基準を示さない「自律性」とは、独裁的行政運営を意味することになるのではないか。
3 異議申立てに対する実施機関の説明要旨
実施機関が、理由説明書及び口頭による説明において主張している内容は、次のように要約される。
(1)個別勧奨は、人事の刷新と行政効率の向上を目的として、職員の早期退職を勧奨する制度であり、その取扱いについては、文書等により職員に周知しているところである。本件請求で非開示とした文書には、職員に周知している文書とは別に、本制度を円滑に運営するための、人事当局側の具体的な事務手続及び質疑例が詳細に記載されている。
(2)これらは、人事当局が自らの判断と責任において処理すべき事項、いわゆる人事管理上の管理運営事項として詳細を明らかにしていない事項であり、公にすることにより人事管理の自立性を確保できず、東京都教育委員会が行う個別勧奨の事務に関し、適正かつ円滑な事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、東京都情報公開条例7条6号に該当する。
4 審査会の判断
(1) 審議の経過
審査会は、本件異議申立てについて、以下のように審議した。
(2) 審査会の判断
審査会は、異議申立ての対象となった公文書並びに実施機関及び異議申立人の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。
ア 個別勧奨について
職員の退職手当に関する条例(以下「退職手当条例」という。)6条1項は、勧奨を受けて退職する者について、「その者の非違によることなく勧奨を受けて退職した者で東京都規則で定めるもの」と規定し、職員の退職手当に関する条例施行規則(以下「退職手当規則」という。)5条においてその要件を具体的に定めており、退職手当条例5条に規定する自己都合により退職する者に比べ、退職手当の支給率が優遇されることとなっている。
東京都教育庁一般職員及び公立学校一般教職員で勧奨を受けて退職する者については、退職手当規則5条1項2号、4号及び5号において「次号に掲げる職員以外の職員であって、退職の日の属する会計年度の末日の年齢が58歳以上で退職したもの」、「在職期間が20年以上の職員であって、会計年度の末日の年齢が55歳以上58歳未満で退職したもの」及び「在職期間が25年以上の職員であって、会計年度の末日の年齢が50歳以上55歳未満で退職したもの」と規定されている。従前、退職手当規則に定める年齢や勤続年数の要件を満たせば、年度途中の退職であっても勧奨退職に準じて取り扱ってきたが、勧奨制度本来の趣旨に沿った取扱いに改めるため、平成19年4月1日から個別勧奨を実施することとした。
公立学校教職員(一般教職員)及び学校経営支援センター一般職員(以下「公立学校教職員(一般教職員)等」という。)を対象とした個別勧奨については、「平成19年3月27日付18教人職第2577号 公立学校教職員(一般教職員)及び学校経営支援センター一般職員の年度途中退職者に対する個別勧奨の取扱いについて」で、勧奨要件を満たしている職員に対して、退職勧奨を行うこととされた。
イ 本件対象公文書について
本件異議申立てに係る対象公文書は、「平成19年3月27日付18教人職第2578号 公立学校教職員(一般教職員)の年度途中退職者に対する個別勧奨の事務手続について」(以下「本件対象公文書1」という。)及び「個別勧奨に係る質疑 Q&A」(以下「本件対象公文書2」という。)である。
本件対象公文書は、個別勧奨の導入に当たって、当該制度を円滑に運営するために、個別勧奨を行う都立学校長又は所属課長等(以下「校長等」という。)に配付された文書であり、本件対象公文書1には、個別勧奨事務を行うに当たっての具体的な事務手続等が、本件対象公文書2には、質疑応答例が記載されている。
ウ 条例7条6号該当性について
条例7条6号は、「都の機関又は国、独立行政法人等若しくは他の地方公共団体が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を非開示情報として規定している。以下、本件対象公文書1及び2の条例7条6号該当性について検討する。
(ア) 本件対象公文書1について
審査会が見分したところ、本件対象公文書1には、個別勧奨の概要や具体的な事務手続の説明、その他個別勧奨実施時の注意事項等が記載されている。また別添として、個別勧奨の勧奨要領として掲げられている個別勧奨の流れについて記載された図や個別勧奨事務を行うに当たって必要な書類の5つの様式が添付されている。
実施機関は、本件対象公文書1に記載及び添付されている情報は、人事当局が自らの判断と責任において処理すべき事項、いわゆる人事管理上の管理運営事項として詳細を明らかにしていない事項であり、公にすることにより人事管理の自律性を確保できず、東京都教育委員会が行う個別勧奨の事務に関し、適正かつ円滑な事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるため、条例7条6号に該当する旨主張する。
確かに、本件対象公文書1には管理職を対象とした文書である旨の記載が認められる。しかしながら、審査会が個別勧奨についての一連の文書を見分したところ、職員の退職手当に関する条例及び同規則、平成18年度公立学校教職員勧奨退職実施要綱には個別勧奨の勧奨事由は示されておらず、「平成19年3月27 日付18教人職第2577号 公立学校教職員(一般教職員)及び学校経営支援センター一般職員の年度途中退職者に対する個別勧奨の取扱いについて」(以下「職員向け周知文書」という。)により、個別勧奨の概要、勧奨要件、退職勧奨の記録の様式等について公立学校教職員(一般教職員)等に対しての周知が図られていることが確認された。
そこで、審査会が、本件対象公文書1と職員向け周知文書を比較対照したところ、本件対象公文書1に記載されている内容のうち、個別勧奨の概要、個別勧奨事由該当者の把握、個別勧奨の必要性の判断等、個別勧奨の流れについて記載された図の内容、退職勧奨の記録の様式については、職員向け周知文書に添付されているものと同一又は同趣旨の内容である。個別勧奨の必要性の判断等の項目には、一般的な判断基準が示されており、職員向け周知文書には示されていない記述もみられるが、判断の際の例示として容易に推測が可能なものと認められる。
また、具体的な事務手続の説明やその他個別勧奨実施時の注意事項等については、実施機関が説明するとおり一部を除いて職員向け周知文書に記載はないものの、その内容は東京都教育庁への報告の方法、添付様式の点検・確認方法や提出先等、事務を円滑に行うための一般的な注意事項であり、退職勧奨の記録以外の様式類についても、個別勧奨事務を行うに当たって必要となる一般的なものである。
したがって、本件対象公文書1が公にされたとしても、このことにより、実施機関が主張するような個別勧奨事務の適正かつ円滑な遂行に支障を及ぼす具体的なおそれがあるとは認められず、条例7条6号に該当しないものと認められる。
(イ) 本件対象公文書2について
本件対象公文書2は、個別勧奨の実施者である校長等を対象に作成された文書であり、審査会が見分したところ、個別勧奨の認知の方法、個別勧奨の必要性の判断にあたっての具体的な取扱いの考え方や判断基準等が、質疑応答形式で詳細かつ具体的に記載されている。
実施機関の説明によれば、個別勧奨は退職を強要するものではなく、校長の認知と本人の申し出に基づき、本人の同意のもとに実施されるものであり、それぞれの職場の管理者による正しい制度理解のもとで教職員一人ひとりの状況に応じた柔軟な運用を行うことが必要である。そのため、本件対象公文書2を各校長に配付した際には、対象公文書が示す質疑応答例は一般的な取扱例であり、校長に画一的な判断を求めるものではないことなどを、直接、校長に対して口頭で詳細に説明している。
このような性格を有する本件対象公文書2を公にすると、口頭説明で補われた制度運用の詳細が省略されて広く流布することとなり、制度についての誤解や無用の混乱を招くとともに、対象公文書2の質疑応答例が画一的な基準と受け止められて、校長等による柔軟な運用を妨げるおそれが認められる。また、外部からの干渉や圧力を懸念して、質疑応答の内容が簡略化され表面的なものになれば、結果として校長等に必要な情報が十分に伝わらず、教職員一人ひとりの状況に応じた弾力的な運用が損なわれ、個別勧奨事務の適正かつ円滑な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められることから条例7条6号に該当する。
エ 本件対象公文書の特定について
本件開示請求に対して、実施機関は、都立学校長等あての「平成19年3月27日付18教人職第2578号 公立学校教職員(一般教職員)の年度途中退職者に対する個別勧奨の事務手続について」及び「個別勧奨に係る質疑 Q&A」の2文書を本件対象公文書として特定し、平成19年8月31日付けで非開示決定を行った。
しかしながら、審査会の審議の過程で、本件対象公文書と同一起案番号・同一日付で宛先の異なる区市町村教育委員会教育長等あての「平成19年3月27日付18教人職第2578号 公立学校一般教職員の年度途中退職者に対する個別勧奨の事務手続について」及び「個別勧奨に係る質疑 Q&A」(以下「区市町村教育委員会あて文書」という。)が本件対象公文書とは別に存在することが判明し、当該文書についても本件開示請求の対象となる文書であると認められる。
したがって、実施機関は、区市町村教育委員会あて文書についても本件対象公文書として特定し、改めて開示・非開示の判断を行うべきである。開示・非開示の判断に当たっては、宛先及び個別勧奨事務を行う部署名の記載以外については、本件対象公文書と同じ内容が記載されているものであるので、上記ウの判断の趣旨に従って行われるべきものと考える。
よって、「1 審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
西谷剛、浅田登美子、神橋一彦、隅田憲平
別表
本件追加対象公文書一覧
1 審査会の結論
「公立学校教職員(一般教職員)の年度途中退職者に対する個別勧奨の事務手続について」ほか1件を非開示とした決定について、「平成19年3月 27日付18教人職第2578号公立学校教職員(一般教職員)の年度途中退職者に対する個別勧奨の事務手続について」については開示すべきであるが、「個別勧奨に係る質疑 Q&A」については非開示が妥当である。また、別表に掲げる文書について対象公文書として特定し、改めて開示又は非開示の決定を行うべきである。
2 異議申立ての内容
(1) 異議申立ての趣旨
本件異議申立ての趣旨は、東京都情報公開条例(平成11年東京都条例第5号。以下「条例」という。)に基づき、異議申立人が行った「18教人職第 2577号 平成19年3月27日の通知文書」、「18教人職第2578号 平成19年3月27日の通知文書」及び「個別勧奨に係る質疑 Q&A」の開示請求に対し、東京都教育委員会が平成19年8月31日付けで行った非開示決定について、その取消しを求めるというものである。
(2) 異議申立ての理由
異議申立人が、異議申立書及び意見書で主張している異議申立ての主な理由は、次のように要約される。
ア 非開示部分は東京都教育委員会の公式な見解であり、この内容を知ることは、都民として当然であると考える。
イ 東京都が主張するように、公にすることにより人事管理に関する事務に支障が生じるとは認められず、条例7条6号には該当しないと考える。
ウ 教職員を含む東京都職員の人事の基準を都民が知ることは、都民の権利であると考える。東京都職員により利益を、あるいは、不利益を受けるのは都民であり、その人事の基準を東京都及び東京都教育委員会が示すことは当然であると考える。
エ 開示された「18教人職第2577号」だけでは、どのような運用がなされるのかわからない。当該文書では、勧奨退職についての「勧奨事由」として、「疾病・介護・育児(家族介護等)」が上げられており、これらを否定的にとらえるならば、人権を踏みにじり、法律にも違反することとなる。しかも、「当該事由により「現に職務の十全な遂行が難しい場合、もしくは今後そのおそれがある」場合」とどこまでも解釈によっては、勧奨の範囲が拡大されるおそれがある。したがって、実際の運用をどのように行おうとしているのかの基準は、当然都民に開示されるべきものと考える。
オ この非開示決定は条例の精神に反している。目的を定めた1条の中で「東京都(以下「都」という。)が都政に関し都民に説明する責務を全うするようにし、都民の理解と批判の下に公正で透明な行政を推進し、都民による都政への参加を進めるのに資することを目的とする。」と規定している。私をはじめ、「障害者」やその家族、関係者は、「18教人職第2577号」の内容に危惧を抱いている。こうしたことについての都民に説明する責務は、非開示とされた部分を開示することによって(それだけで十分かどうかは読んでみないとなんとも判らないが)果たされるのではないか。
カ 非開示理由は「条例」を不当に拡大解釈している。人事の基準を開示すると「公正」さが失われるとはなんということか。開示されてこそ「公正」さが確保される。そして、「公正」さがあれば、当然円滑に人事も進むことだろう。非開示理由の中で「公正」という言葉が一言も出てこないが、それが拡大解釈の動かぬ証拠ではないか。
私の求めている人事の基準が「人事当局側の具体的な事務手続及び質疑例」に当たるならば、それを示すべきだと考える。そもそも「公にすることにより人事管理の自律性を確保できず」とはどういう状況を想定しているのか。都民に基準を示さない「自律性」とは、独裁的行政運営を意味することになるのではないか。
3 異議申立てに対する実施機関の説明要旨
実施機関が、理由説明書及び口頭による説明において主張している内容は、次のように要約される。
(1)個別勧奨は、人事の刷新と行政効率の向上を目的として、職員の早期退職を勧奨する制度であり、その取扱いについては、文書等により職員に周知しているところである。本件請求で非開示とした文書には、職員に周知している文書とは別に、本制度を円滑に運営するための、人事当局側の具体的な事務手続及び質疑例が詳細に記載されている。
(2)これらは、人事当局が自らの判断と責任において処理すべき事項、いわゆる人事管理上の管理運営事項として詳細を明らかにしていない事項であり、公にすることにより人事管理の自立性を確保できず、東京都教育委員会が行う個別勧奨の事務に関し、適正かつ円滑な事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあることから、東京都情報公開条例7条6号に該当する。
4 審査会の判断
(1) 審議の経過
審査会は、本件異議申立てについて、以下のように審議した。
年月日 | 審議経過 |
平成19年10月30日 | 諮問 |
平成19年11月 8日 | 実施機関から理由説明書収受 |
平成19年11月19日 | 実施機関から説明聴取(第84回第一部会) |
平成19年11月26日 | 異議申立人から意見書収受 |
平成19年12月25日 | 審議(第85回第一部会) |
平成20年 1月30日 | 審議(第86回第一部会) |
平成20年 2月20日 | 審議(第87回第一部会) |
平成20年 4月16日 | 審議(第88回第一部会) |
(2) 審査会の判断
審査会は、異議申立ての対象となった公文書並びに実施機関及び異議申立人の主張を具体的に検討した結果、以下のように判断する。
ア 個別勧奨について
職員の退職手当に関する条例(以下「退職手当条例」という。)6条1項は、勧奨を受けて退職する者について、「その者の非違によることなく勧奨を受けて退職した者で東京都規則で定めるもの」と規定し、職員の退職手当に関する条例施行規則(以下「退職手当規則」という。)5条においてその要件を具体的に定めており、退職手当条例5条に規定する自己都合により退職する者に比べ、退職手当の支給率が優遇されることとなっている。
東京都教育庁一般職員及び公立学校一般教職員で勧奨を受けて退職する者については、退職手当規則5条1項2号、4号及び5号において「次号に掲げる職員以外の職員であって、退職の日の属する会計年度の末日の年齢が58歳以上で退職したもの」、「在職期間が20年以上の職員であって、会計年度の末日の年齢が55歳以上58歳未満で退職したもの」及び「在職期間が25年以上の職員であって、会計年度の末日の年齢が50歳以上55歳未満で退職したもの」と規定されている。従前、退職手当規則に定める年齢や勤続年数の要件を満たせば、年度途中の退職であっても勧奨退職に準じて取り扱ってきたが、勧奨制度本来の趣旨に沿った取扱いに改めるため、平成19年4月1日から個別勧奨を実施することとした。
公立学校教職員(一般教職員)及び学校経営支援センター一般職員(以下「公立学校教職員(一般教職員)等」という。)を対象とした個別勧奨については、「平成19年3月27日付18教人職第2577号 公立学校教職員(一般教職員)及び学校経営支援センター一般職員の年度途中退職者に対する個別勧奨の取扱いについて」で、勧奨要件を満たしている職員に対して、退職勧奨を行うこととされた。
イ 本件対象公文書について
本件異議申立てに係る対象公文書は、「平成19年3月27日付18教人職第2578号 公立学校教職員(一般教職員)の年度途中退職者に対する個別勧奨の事務手続について」(以下「本件対象公文書1」という。)及び「個別勧奨に係る質疑 Q&A」(以下「本件対象公文書2」という。)である。
本件対象公文書は、個別勧奨の導入に当たって、当該制度を円滑に運営するために、個別勧奨を行う都立学校長又は所属課長等(以下「校長等」という。)に配付された文書であり、本件対象公文書1には、個別勧奨事務を行うに当たっての具体的な事務手続等が、本件対象公文書2には、質疑応答例が記載されている。
ウ 条例7条6号該当性について
条例7条6号は、「都の機関又は国、独立行政法人等若しくは他の地方公共団体が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を非開示情報として規定している。以下、本件対象公文書1及び2の条例7条6号該当性について検討する。
(ア) 本件対象公文書1について
審査会が見分したところ、本件対象公文書1には、個別勧奨の概要や具体的な事務手続の説明、その他個別勧奨実施時の注意事項等が記載されている。また別添として、個別勧奨の勧奨要領として掲げられている個別勧奨の流れについて記載された図や個別勧奨事務を行うに当たって必要な書類の5つの様式が添付されている。
実施機関は、本件対象公文書1に記載及び添付されている情報は、人事当局が自らの判断と責任において処理すべき事項、いわゆる人事管理上の管理運営事項として詳細を明らかにしていない事項であり、公にすることにより人事管理の自律性を確保できず、東京都教育委員会が行う個別勧奨の事務に関し、適正かつ円滑な事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるため、条例7条6号に該当する旨主張する。
確かに、本件対象公文書1には管理職を対象とした文書である旨の記載が認められる。しかしながら、審査会が個別勧奨についての一連の文書を見分したところ、職員の退職手当に関する条例及び同規則、平成18年度公立学校教職員勧奨退職実施要綱には個別勧奨の勧奨事由は示されておらず、「平成19年3月27 日付18教人職第2577号 公立学校教職員(一般教職員)及び学校経営支援センター一般職員の年度途中退職者に対する個別勧奨の取扱いについて」(以下「職員向け周知文書」という。)により、個別勧奨の概要、勧奨要件、退職勧奨の記録の様式等について公立学校教職員(一般教職員)等に対しての周知が図られていることが確認された。
そこで、審査会が、本件対象公文書1と職員向け周知文書を比較対照したところ、本件対象公文書1に記載されている内容のうち、個別勧奨の概要、個別勧奨事由該当者の把握、個別勧奨の必要性の判断等、個別勧奨の流れについて記載された図の内容、退職勧奨の記録の様式については、職員向け周知文書に添付されているものと同一又は同趣旨の内容である。個別勧奨の必要性の判断等の項目には、一般的な判断基準が示されており、職員向け周知文書には示されていない記述もみられるが、判断の際の例示として容易に推測が可能なものと認められる。
また、具体的な事務手続の説明やその他個別勧奨実施時の注意事項等については、実施機関が説明するとおり一部を除いて職員向け周知文書に記載はないものの、その内容は東京都教育庁への報告の方法、添付様式の点検・確認方法や提出先等、事務を円滑に行うための一般的な注意事項であり、退職勧奨の記録以外の様式類についても、個別勧奨事務を行うに当たって必要となる一般的なものである。
したがって、本件対象公文書1が公にされたとしても、このことにより、実施機関が主張するような個別勧奨事務の適正かつ円滑な遂行に支障を及ぼす具体的なおそれがあるとは認められず、条例7条6号に該当しないものと認められる。
(イ) 本件対象公文書2について
本件対象公文書2は、個別勧奨の実施者である校長等を対象に作成された文書であり、審査会が見分したところ、個別勧奨の認知の方法、個別勧奨の必要性の判断にあたっての具体的な取扱いの考え方や判断基準等が、質疑応答形式で詳細かつ具体的に記載されている。
実施機関の説明によれば、個別勧奨は退職を強要するものではなく、校長の認知と本人の申し出に基づき、本人の同意のもとに実施されるものであり、それぞれの職場の管理者による正しい制度理解のもとで教職員一人ひとりの状況に応じた柔軟な運用を行うことが必要である。そのため、本件対象公文書2を各校長に配付した際には、対象公文書が示す質疑応答例は一般的な取扱例であり、校長に画一的な判断を求めるものではないことなどを、直接、校長に対して口頭で詳細に説明している。
このような性格を有する本件対象公文書2を公にすると、口頭説明で補われた制度運用の詳細が省略されて広く流布することとなり、制度についての誤解や無用の混乱を招くとともに、対象公文書2の質疑応答例が画一的な基準と受け止められて、校長等による柔軟な運用を妨げるおそれが認められる。また、外部からの干渉や圧力を懸念して、質疑応答の内容が簡略化され表面的なものになれば、結果として校長等に必要な情報が十分に伝わらず、教職員一人ひとりの状況に応じた弾力的な運用が損なわれ、個別勧奨事務の適正かつ円滑な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められることから条例7条6号に該当する。
エ 本件対象公文書の特定について
本件開示請求に対して、実施機関は、都立学校長等あての「平成19年3月27日付18教人職第2578号 公立学校教職員(一般教職員)の年度途中退職者に対する個別勧奨の事務手続について」及び「個別勧奨に係る質疑 Q&A」の2文書を本件対象公文書として特定し、平成19年8月31日付けで非開示決定を行った。
しかしながら、審査会の審議の過程で、本件対象公文書と同一起案番号・同一日付で宛先の異なる区市町村教育委員会教育長等あての「平成19年3月27日付18教人職第2578号 公立学校一般教職員の年度途中退職者に対する個別勧奨の事務手続について」及び「個別勧奨に係る質疑 Q&A」(以下「区市町村教育委員会あて文書」という。)が本件対象公文書とは別に存在することが判明し、当該文書についても本件開示請求の対象となる文書であると認められる。
したがって、実施機関は、区市町村教育委員会あて文書についても本件対象公文書として特定し、改めて開示・非開示の判断を行うべきである。開示・非開示の判断に当たっては、宛先及び個別勧奨事務を行う部署名の記載以外については、本件対象公文書と同じ内容が記載されているものであるので、上記ウの判断の趣旨に従って行われるべきものと考える。
よって、「1 審査会の結論」のとおり判断する。
(答申に関与した委員の氏名)
西谷剛、浅田登美子、神橋一彦、隅田憲平
別表
本件追加対象公文書一覧
○平成19年3月27日付18教人職第2578号 公立学校一般教職員の年度途中退職者に対する個別勧奨の事務手続について(区市町村教育委員会教育長等あて) |
○個別勧奨に係る質疑 Q&A(区市町村教育委員会教育長等あて) |