* 平家物語(百二十句本) の世界 *

千人を超える登場人物の殆どが実在の人とされ、歴史上”武士”が初めて表舞台に登場する
平安末期の一大叙事詩です。

第四十九句「五節の沙汰」(ごせつのさた)

2006-09-24 14:56:08 | 日本の歴史

     「都還り」が決り、愁眉(しゅうび)を開いて浮き足立ち、早くも
     後白河法皇高倉上皇の列が進発して、公卿・殿上人たちは遅れ
     てならじと、供奉の列を追う。

  <本文の一部>

 同じく、福原に、十一月十三日、内裏造り出だして、御遷幸あり。
この京は北は山そびえて高く、南は海近うして低ければ、波の音つねにかまびすしく、
潮風はげしき所なり。

 ただし内裏は山の中なれば、「かの木の丸殿もかくやらん」とおぼえて、なかなか
優なる方もありけり。人々の家々は、野の中、田の中なりければ、麻の衣はうたねども、
「十市の里」とも言ひつべし。

 都には「大嘗会おこなはるべし」とて、御禊の行幸なる。大嘗会と申すは、十月の末、
東川に行幸なって御禊あり。内裏の北野に斎場所をつくりて、神服、神具をととのへ
大極殿のまへ、龍尾道の壇の下に廻立殿を立てて、御湯を召す・・・・・・

 しかるを福原には、大極殿もなければ大礼おこなはるべき所もなし。豊楽院もなけ
れば、宴会もおこなはれず・・・・・・

 五節会はこれ浄御原の天皇(天武天皇)、大友の王子におそはれさせ給ひて、吉野
の宮にてましまししとき、月白く嵐はげしかりし夜、御心をすましつつ、琴を弾じ給
ひしに、神女天降り、五度袖をひるがへす。これぞ五節会のはじめなる。

 今度の都遷りは、君も臣も御嘆きあり。山門(比叡山)、南都(興福寺)をはじ
めて、諸寺、諸山にいたるまで、しかるべからざるよし一同にうったへ申す。
さしも横紙をやぶられし太政入道(清盛)も、「げにも」とや思はれけん、同じき
十二月二日にはかに都がへりありけり。

 いそぎ福原を出でさせ給ふ。両院(後白河法皇・高倉上皇)六波羅へ入り給ふ。
中宮(建礼門院・平徳子)も行啓なる。摂政殿をはじめたてまつり、太政大臣以下
公卿殿上人、「われも、われも」と供奉せらる。入道相国(清盛)をはじめとして、
平家の一門公卿殿上人、「われさきに」とぞのぼられける。たれか心憂かりつる新
都に片時ものこるべき・・・・・・・・

           (注)カッコ内は本文ではなく、私の注釈記入です。   
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  <あらすじ>

(1)治承四年(1180)十一月十三日、新都・福原に”内裏”が落成して、頼盛邸の
   仮御所から”安徳帝”が御遷幸なさる。

(2)しかし、新帝即位後の初の新嘗祭(大嘗会)を行うにも、大極殿(朝賀、即位等
     を行う)も無ければ、大嘗会や五節を行う豊楽院も無い。公卿詮議の上、新嘗
    会は旧都の神祇官で行うことゝした。

(3)この度の”都遷り”は、上下ともに怨嗟(えんさ・恨み嘆く)の声が絶えず、
   その上”高倉上皇”の健康が勝れず、病床に臥しておいでになったことも
   あって、さすがの”清盛”も十二月二日、都を戻す!と言いだした。

(4)不自由をかこつた新都(福原)には、誰もが一刻も早く離れたいと、素早く準備
   をし、”後白河法皇”や”高倉上皇”のお列が出発、やがて六波羅の池殿にお
   入りになり、幼い”安徳天皇”は、五条の内裏に入られた。
   (公卿・殿上人達は供奉に遅れじと後を追ったのであった。)

(5)慌しく屋敷を解体し移送して、道具を運び形ばかり整えて建てたばかりの新都
   の住いなのに・・・・、またもや、突然の”都還り”!、当然元の都には住む
   所も無く、偉い人たちも”つて”を求めてあちこちに散り、寺の御堂・回廊や
   神社の拝殿などを”仮の宿”として、しのぐという有様であった。

(6)同じく十二月二十三日、反旗を翻した”近江源氏”を攻めんと、平知盛(三男)
   を大将軍に約二万騎が、近江の国に向って進発し、源氏を次々と攻め落とし、
   そのまゝ美濃(岐阜)、尾張(愛知)へ越えたという。

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    ◎ 元々、海風を浴び、背後が山地の狭~い”福原遷都”は、内心大方の
      反発をかっていたが、”清盛”がこれを押し切ってしまった。

      しかし、東国の情勢が不穏となり、さすがの”清盛”も還都のきっかけ
      を探っていたのか、直接的には”叡山”の「還都奏請」とされているが、
      ”高倉上皇”の病もあり、”清盛”は、巧みにこれを利用したのではな
      いかと思われる。(わずか六ヶ月のドタバタ劇であった。)

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