カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

NGOへの期待と憧れ

2008年06月27日 15時11分49秒 | カンボジアの子ども
こんにちは、中川香須美です。これまで2年間にわたってブログでカンボジアの子どもたちについて紹介させていただきましたが、今回はわたしが書くブログの最終回になります。最後のしめくくりとして、カンボジアの子どもたちがNGOに寄せる期待と憧れを紹介します。

5月に、ある仕事の一環で、私はへき地の女子高校生を集めて話を聞く機会を得ました。地方都市から車で2時間ほどでこぼこ道を行ったところにある村の高校です。本題は女性に対する暴力についての情報収集でした。でも若い女子高校生と話していて一番印象に残ったのは、彼女たちのNGOに対する強い憧れの気持ちです。その地区ではこれまでNGOがほとんどまったく活動していません。女子高生も、NGOの職員に会ったのは、私と一緒に同行した数名の若いカンボジア人たちが初めてだったそうです(実際はNGOとして行ったのではないのですが)。彼女たちは、NGOの職員が自分たちと話に来るということで、嬉しくって楽しみにして待っていたと言うのです。

彼女たちは、こちらがインタビューして意見を聞くのを知っていたので、最初は一生懸命質問に答えてくれました。でも、こちらからの質問が終わって、「もし質問があればどうぞ」と彼女たちに投げかけると、水を得た魚のように次々と質問が出てきました。その理由は、NGOには知り合いがいないけれど、将来はNGOの職員になって社会のために役立ちたいという強い希望を持っているからでした。高校まで進学はしたけれど大学に行かなくてもNGOで働けるのか、プノンペンにいけばNGOで働く機会はあるのか、どういう能力がNGO職員として必要なのか、次々と質問されました。NGOという名前が、テレビやラジオなどを通じて広く知られていて、かっこいいという印象を彼女たちに与えているようです。また同時に、社会に貢献できるような仕事をするには、ぜひNGOで仕事をしたいと考えているのです。

カンボジアは内戦が終結した後、政府がさまざまな政策を作って国家の発展を進めているものの、予算や人材不足から行政サービスが住民に十分に行き届いていないのが実情です。そのような状況の中、NGOが政府の役割を側面支援する形で、さまざまな分野で活動しています。子どもの権利普及活動についても、国際子ども権利センターをはじめとして多くのNGOが教育省に現場で協力しながら二人三脚で実施しています。高校生にとっては、行政官や自治体職員といっても身近に接することもなく、むしろメディアなどで報道されるNGOなどの活躍に注目がいっているようです。

政府職員であってもNGO職員であっても、カンボジアの将来をよりよくしていきたいと思う若い世代が育っているのは、とても心強いです。カンボジアは人口の半数以上が子どもです。将来を担っていく子どもたちに、できるだけ学ぶ機会を提供し、将来の夢が持てるような環境をつくっていくのは、わたしたち大人全ての責任だと思います。暴力から自由な社会、悲しみから自由な社会、個人が自由に生きられる社会、国境を越えてそういった社会を作っていくのは、わたしたち、大人の責任です。国際子ども権利センターの活動を通じて、またブログを通じて、日本人の間でもそういった意識が高まることを期待しています。

最後になりますが、これまでわたしが書くブログを読んでくださった皆様、コメントをくださった皆様、本当にありがとうございました。長年住んでいるカンボジアから日本向けに情報を発信していきたいと思っていた時に、国際子ども権利センターの甲斐田万智子さんからお誘いいただき、これまで細々と情報発信ができる機会をいただけて本当にありがたく思っています。

なお、わたしは6月28日から2年間、国際協力機構(JICA)のジェンダー主流化プロジェクトの専門家として、カンボジアの女性省に派遣されることになりました。今後はどういった形になるか分かりませんが、引き続きカンボジアからさまざまな情報発信をしていきたいと思っています。

写真は、子どもの人身売買防止ネットワークで活動する女子中学高校生


走れトゥクトゥク 笑顔をのせて  スタディツアー報告その9

2008年06月26日 22時03分49秒 | 性的搾取防止プロジェクト(意識啓発)
こんばんは。甲斐田です。今日、NHKの「クローズアップ現代」でカンボジアの特別法廷を取り上げ、ポルポト時代の虐殺を証言する人がいなくて、裁判が困難に直面しているという報道をしていました。
 加害側当事者が村のすぐそばに住んでいる被害側当事者の人たちは、今でも恐怖に怯えているということを生々しく描いていました。一方、カンボジアの子どもたちがポルポト政権による大量虐殺について学校で教わるようになったのは、つい最近のことだということも伝えていました。私がカンボジアに住んでいるときも、虐殺を知らない・信じない若者がどんどん増えているという新聞記事を目にして驚いたものです。

 さて、今日は3月のスタディツアー報告の最終回となる「その9」です。子どもを狙う観光客からストリートチルドレンを守る活動について古川さんが報告してくれました。

 写真は、子どもを守るためのトレーニングをフレンズから受けたドライバーで、左下に見える指のOKマークがチャイルドセーフのステッカーです。

走れトゥクトゥク!笑顔を乗せて                     
                   古川 直子(大学生)


 暑い太陽が照りつけ、バスや車、バイクのクラクション音、立ち上がる砂ぼこり。3月24日に訪れた、プノンペン市内のニックロバム停留所。地方からのバスの終着所である、この場所は、とても賑やかで交通量が激しい場所です。すぐ隣りの広場は週末となればナイトマーケットに様変わりし、工芸品や食料、衣服等様々な物が売られ、観光客や地元の人で溢れかえります。

 今回、カンボジアで私たちの足となる欠かせない乗り物がありました。その名は「トゥクトゥク」。東南アジアから、南アジアにかけて、普及している軽便な交通機関です。三輪タクシーとも呼ばれ、料金は交渉制で各国の庶民のための足でもあり、都市に流入する労働者の受け皿となる産業でもあります。

 今回は、フレンズ・インターナショナルのプロジェクトの一環でもある、トゥクトゥクやバイクタクシーのドライバーにチャイルドセーフ*のメンバーであることを証明するグッドマークの印のついたシャツを着用させたり、トゥクトゥクにグッドマークのステッカーを貼る等の、子どもの性的搾取や人身売買防止を促すキャンペーンに積極的に参加しているドライバー8人にインタビューを試みました。

*【編集部注】チャイルドセーフ・プログラムは、ドライバーなどに子どもの権利、子どもの性的搾取、法律などについて知らせ、疑わしい客を乗車拒否したり、危険な目にあっている子どもがいるときに通報したりすることを訓練するもので、シーライツ(国際子ども権利センター)はそのトレーニング、バイク、ホットラインの運営などを支援しています。

 以下はドライバーの名前とドライバーになってからの勤務年数や、経験談をもとに書き示しました。

リッ・ソポワールさん(バイクタクシー)

・ 地方から来た2人の子どもを保護したことがある。
見知らぬブローカーに連れていかれるストリートチルドレンを何度も見てきて、助けたいと思い参加。

ティエリティヤさん(バイクタクシー)

・ フレンズで3年間、トレーニングを受けた。
・ ストリートチルドレンが非常に多く、虐待を受けている子どもを助けたいという思いから参加。
・ ドラッグの広がりにも、とても悲しく思っている。

ナンバーナンさん(トゥクトゥク)

・ 3年間勤務。
・ 子どもを保護し、出稼ぎや性的搾取から子どもを守りたいと思い参加。

リアップ・トアさん(バイクタクシー)

・ 3年間勤務。
・ 孤児を守りたいと思い参加。外国人観光客が近年、非常に多くなった。悪いことはしてほしくない。

ハエポリーさん(トゥクトゥク)

・ 3年間勤務。
・ 貧困から、子どもたちを守り、フレンズの活動を沢山の人達に知ってもらいたいと思い参加。

ノイパリーさん(バイクタクシー)

・ 3年間勤務。
・ 孤児を助け、ストリートチルドレンを守りたいと思い活動に参加。

スンセンさん(トゥクトゥク)

・ 2年間勤務。
・ このプノンペンの繁華街の通りには、危険な状態にある子どもたちが多い。
3~4人の出稼ぎに行こうとしていた子どもたちを救助した。フレンズの活動を是非、支援してほしいと思う。

ソンバニーさん(トゥクトゥク)

・ ストリートチルドレンが非常に多い。できるだけ多くのストリートチルドレンを助けていきたい。

 彼らは、非常に積極的に、経験談や目標などを話してくれました。

 そして、子どもの性的搾取の具体的な内容も話してくれました。
 ある日の夕方頃、兄弟と思われる子ども2人に言い寄っている外国人がいて、またその場所に戻るとすでに子どもたちはいなくなっていて、近くにいたストリートチルドレンに聞いてみたところ、20~30ドルで、兄弟は売られていったと聞き、とても後悔したということでした。

 ドライバーが18歳未満の子どもたちに向けて、注意していることは、カンボジア人と外国人をよく見極めること、少しでも怪しいと思ったら相手を疑うことだそうです。

 特にバックパッカーが多く、安宿が立ち並んでいるボンコック湖近辺や、外国人オーナーの店が多い240通りは要注意だそうです。
 
 そして、子どもたちが危険な目に遭いそうなときにはフレンズに連絡するよう、連絡先を教えているそうです。電話代などは、後で子どもたちに返すそうです。
出稼ぎに行く子どもたちは、家に返してしまうと、親に虐待される可能性が高いということで、職業訓練センターに送り、そこにいれば安全であるということも伝えるそうです。

 保護を試みようとした際に、ドライバーを信じられず、騒いだり抵抗したりする子どももいるそうです。そんな時は警察を読んだり、フレンズから女性スタッフに応援にきてもらったりと、彼らは安全で、子どもを守るために保護をしているのだというふうに説得するそうです。

 フレンズのスタッフは、僕達や彼らがいるから安全が保障されるというわけではないと言います。トレーニングを受けたからといって良い仕事をし続けるかどうかは分からないからです。常に、訓練をし続け、広報活動を続け、沢山の人に活動を広めていくことが大切なのだと言っていました。 そして、彼ら自身の友達や家族、周りの人達に、自分の活動を伝えていくこと。仲間同士の賭け事や、揉め事をせず、飲酒運転は絶対にしないこと。何よりも、責任感を持つことが自分達の使命でもあり、目標でもあると言っていました。

 今回、ドライバーの方達から話を聞かせていただき、連携が大切なのだと強く感じました。まず、フレンズとドライバーの連携、地域住民とドライバーとの連携、公の機関との連携。
 これらが全て、子どもたちを守り、治安を改善し、犯罪を減らしていくことへと繋がっていくのだと思いました。広報活動を続けながら、子どもたちへの視線を閉ざすことなくしていくのは、とても大変なことだと思いますが、カンボジアという国を安全で、安心な国にしていくには、このような活動は欠かせないと思います。一人一人の意識、責任感の持ち方が大切であることを痛感しました。

 人の瞳ほど、真っ直ぐで正直なものはないと思います。だからこそ、色々な人の目が必要で、手も必要だと思いました。とても、考えさせられる問題でしたが、生の声や現場に行けたことで、現状が伝わりやすかったです。

 日本でも、同じことが必要だと思いました。地域の目、親の目、周りの目、様々な目が子どもたちを、守ることにつながると確信できる体験でした。

アフェシップの縫製所を訪ねて スタディツアー報告その8

2008年06月23日 22時45分09秒 | 人身売買・性的虐待 被害者支援
こんばんは。甲斐田です。今日はスタディツアー報告その8をお届けします。前回に引き続き、アフェシップへの訪問報告ですが、今回は職業訓練を受けた女性たち(人身売買や性的搾取の被害を受けた女性)が、主にスペインなど海外から服やテーブルマットの注文を受けて仕事をしている縫製所を訪問したときのものです。文中に出てくる保育所を開設することができるように、現在、寄付を募っています。がんばっている女性たちの子どもたちが危ない目にあわず、健やかに成長できるようにみなさまのご支援をお待ちしています。また、アフェシップの女性たちが作る服も注文していただけたらと思います。詳しくはinfo@c-rights.org まで。

写真はお母さんが仕事をする間、縫製所の床に寝かされている子どもです。

アフェシップの縫製所を訪ねて 

Y. Yさん(会社員)

   2008年3月24日、アフェシップのフェアファッションの代表ロタさんが縫製所の中を案内してくれました。
   
 2ヶ月前に越してきたばかりでまだ散らかっているという縫製所。
入り口を入ると6台のミシンがあり稼働中。女性たちは笑顔で迎えてくれました。

「近くにロシアンマーケットがあり、そこにお店を出したかったのですが、賃料が高いのでこの場所になりました。」

 2階に上がるとまず裁断チームの部屋があり2人の少女がいました。そして、デザインマネージャーのサビ・ベンジョンソンさんのミーティングルーム。

 3階に上がると縫製所があり9台のミシン、4人が作業中。

 かつては20名ほど働いていたのですが、結婚、出産などで現在15名。注文が増えているのでトムディーセンター*に働く人を依頼中。
(*編集注:アフェシップの職業訓練センター。詳しくはソマリー・マム著『幼い娼婦だった私へ』をお読みください) 「アメリカから注文がきていて1ヶ月はかかる。その後、スペインから大量の注文が入る予定です。日本の方にもどうぞ伝えてほしい。

 新しいデザインの服をつくるためにスペインからデザイナーを雇うことになりました。」とのこと。

Q1)アメリカからのオーダーはいくらくらいか?

A)安いものから高いものまであわせて500着、5千ドル(約50万円)の注文。
Q2)日本からオーダーする場合は、どのようにしたらよいのか?

A)ウェブサイトにデザインがのっているので好きなデザインを選んで注文ができます。

Q3)フェアファッションのフェアとは?

A)フェアトレードの基準に従っています。

※フェアトレードとはhttp://www.peopletree.co.jp/fairtrade/index.html
                   
Q4)子どもをそばにおいて仕事をしている女性がいるが、針、ハサミなど子どもには危険が多いと思う。 ここでは保育所はつくらないのか?
(編集者注:トムディセンターにはシーライツの支援で保育室を運営しています)

A)ほとんどが核家族なので、小さな子どもは連れてくるしかない。近くに保育所が
必要だが予算が少なく、場所を見つけて保育士を雇うのは難しい。

Q5)もっと大きな会社にするためアフェシップ以外からも人を雇う予定はないのか?

A)アフェシップより10人ほど受け入れてほしいと話があったが、予算の都合で難しい。しかし、大量の注文が入るときは50人は雇いたい。注文が不定期であるため安定することが大事だ。
 
代表のロタさんは丁寧に説明してくれました。

 たしかに、小さな子どもは長い時間静かにしているのは難しく、針やハサミ等に気をつけなければならず、それゆえに母親までもケガをすることや仕事への集中力が欠けるであろうと感じました。 

 品物はどれもきちんと仕上がっていて、彼女たちの努力がうかがえます。私も服を注文しました。まもなく届く予定で、とても楽しみにしています。
 
【編集部より】
縫製所で保育室を運営できるようにご支援ください。
http://www.c-rights.org/join/donation.html

アフェシップで話を聞いて スタディツアー報告その7

2008年06月13日 18時28分31秒 | 人身売買・性的虐待 被害者支援
こんばんは。甲斐田です。今日(13日)映画「闇の子供たち」(子どもの人身売買、性的搾取が描かれています)の試写会に行ってきました。加害者としての日本人がしっかり描かれているところがいいところだと感じました。映画のパンフレットに書かれているように恵泉女学院大学の斉藤百合子さんが助言された点に対して、監督がきちんと応えていることが評価されると思います。多くの人に見てほしいです。7月から劇場公開だそうです。

さて、スタディツアー報告その7を掲載させていただきます。1月に招聘したソマリー・マムさんが代表をつとめるアフェシップについて渡邊美奈子さんが報告してくれました。なお、明日のスタディツアー報告会で渡邊さんも発表されます。

写真はアフェシップの施設トムディセンターの様子です。
強調は編集部。



AFESIPで話を聞いて
                              渡邊美奈子(大学生)

 AFESIP(アフェシップ)は、カンボジアの7つの州で活動しており、買春宿にコンドームや石鹸を配ったり、売春に従事している女性たちにHIV/AIDSの予防法を教えたり、病気になった時にトゥクトゥク(カンボジア版タクシー)で彼女たちをクリニックに連れて行く、などの活動をしています。

 現場での情報は全てコンピュータに記録し、月に1回の頻度でデータファイルを作っており、センターと関わりを持った1人1人のデータが保管されています(どこで保護してどこへ移動されたかなど)。勿論人身売買や性的搾取の被害者である彼女たちには、AFESIPのルールを伝えてから了承サインをもらい、その人の個人情報などを記録しています。

クリニックに来た女性たちに対しては、まず医者が身体の状態を調べ、精神状態なども一緒に記録しています。そして、女性たちがAFESIPのシェルターを出た後、そこで学んだ職業技術のグレードアップをどうやってしていったかも記録していきます。具体的には、女性たちを必要としてくれる市場にはどのようなものがあるか、その後の職業などです。また、家族が再び彼女たちを売ったりしないかなども記録します。
女性たちを家族の元に戻した後に、後からAFESIPが非難されないためにAFESIPの活動を理解してもらい、村長や福祉省職員にサインをもらっています。

 この記録によってどんな家族構成が被害に遭いやすいかなどを分析することが出来ます。現在のデータに載っている女性は3000人ほど(1996年からのデータなので、年間100人くらいか)です。
 しかし、今現在、全部を分析することは出来ていません。どの地域で、女性が被害を受ける確率が高いかなども不明のままです。これが分析できればもっと効率よく被害を受けている女性を助けることが出来ると思いますので、一刻もはやく分析が進むことを願います。

 セックスワーカーとして働かされていた女性の中には、カラオケやビアガールなど、間接的な性労働に従事させられていた人もいます。ビアガールは、店が終わった後に売春を強制されます。世間でもそういった仕事であるという目で見られているので、普通のクリニックにはいけないという現実があります。 こういった差別をなくす活動はしていないのかどうか少し気になりました。市民に呼びかけて、ビアガール買春反対運動をしたり、警察と協力して取り締まったり、偏見をなくしていく努力をすればもっと状況はかわるのではないかと思います。


AFESIPでは性産業で働く女性が病気になったとき、無料でトゥクトゥクでの送迎を行っており、AFESIPの施設の中には、ITルームやクリニックなど様々な部屋があります。クリニックには婦人科の医者と看護士がおり、3~7日間の滞在が可能です。クリニックの費用は必要な時は50%をAFESIPが負担しています。
お金を持たない女性たちにとって、50%の負担でも大きくてたいへんなのだろうな、と思いました。
また、妊娠した女性はAFESIPのクリニックではなく、病院で出産していますが、もともとAFESIPにいた女性はAFESIP内で出産しています。

 裁判などで法的な保護を得るために、加害者を調査するのも活動の一つです。例えば、女性たちが誰に売られたのか(家族か友人かなど)などです。摘発された後に、どんなケアをしたのかも全て記録します。しかし、現在、カンボジアの法が変わり、人身売買の定義が変更され、現場では混乱がみられます。人身売買の定義が性産業に売られることだけでなく、その他の目的で売られる場合にも広がったからです。また、未成年の定義も混乱しています。カンボジアの法律では15歳以下が人身売買から保護される年齢となっていますが、子どもの権利条約では18歳未満が子どもの定義となっています。この年齢差から生まれるグレーゾーンの扱いが問題となっており、それが汚職にも繋がっていたりします。現在は、国内法が条約よりも重要な位置にあるので、それを条約に沿った国内法に変えていくことが必要です。そのためのロビー活動もAFESIPは行っています。
規模は違えど、日本でも権利条約と国内法の差異はあると思いますので、決して他人ごとではないと思います。

 また、司法関係者が女性の精神状態について正しい理解をしてくれないことも多いので、それも今後なんとか理解を広めなければなりません。現在は、たくさんの男性の前で自分の被害について話さなければならなかったり、加害者の見ている前で話さなければならなかったりします。

 人身売買や性的搾取の加害者の中には日本人もたくさんいるので、日本大使館にそのことを訴えたりもしています。また、タイのAFESIPにかけあって、タイ人のブローカーを15年の刑罰に処することが出来たケースもあります。他に、ベトナム人や中国人や台湾人の加害者がいます。例えば、台湾人が女性たちと偽装結婚し、彼女たちを連れ帰って、売り払ってしまったりすることもあります。その被害者数は5000人ほどだそうです。また、昨年はマレーシアから3人の女性を救出しました。これらの犯罪は組織化されています。

 マレーシアにもたくさんの被害者がいますが、マレーシアは宗教的にも法的にも厳しい場所なので、パスポートを持っていないのが見つかると、売られてきた被害者である女性たちをもが処罰されてしまったりすることもあります。
 このように、カンボジアの女性の被害は日本人とも無関係でないことがわかります。日本では、未だに買春ツアーなどというものがあるそうですが、それらの雑誌の取り締まりを強化し、買春男性にこの被害の状況を知ってほしいと思いました。

【編集部より】
アフェシップの活動を通して被害少女・女性をもっと支援できるように会員になってください。
http://www.c-rights.org/join/kaiin.html



『逞しく生きる少女たち』 スタディツアー報告その6

2008年06月07日 00時23分50秒 | 人身売買・性的虐待 被害者支援
こんばんは。甲斐田です。あさって、帰国し、児童労働反対世界デーのシンポジウムにパネリストして参加します。http://stopchildlabour.jp/modules/articles/mainevent.html
その準備で、今日、カンボジアで最悪の形態の児童労働に従事している子どもたちの写真をスキャンしていたのですが、レンガ工場で働いているときに機械で腕をもぎ取られてしまった男の子の写真が2枚ありました。一人は顔が特定できないように写真が加工されているのですが、背格好が似ていて同じように痛ましいケガをしているので、一瞬同じ男の子かと思いました。けれども、一人は右腕をもう一人は左腕をもぎとられていたので、別の男の子だとわかりました。こんなひどいケガをする可能性がある労働を10歳くらいの子どもにさせるなんて、一日も早くやめてほしい、と強く願いますが、最近のカンボジアの建設ブームでレンガ工場で働く子どもたちはむしろ増えているそうです。

 今回は、過酷な児童労働をさせられた経験をもつ少女たちが保護されているグッデイセンターについての報告です。(強調は編集部)

写真は報告してくださった池谷裕次さんと村の子どもです。

『逞しく生きる少女たち』                  池谷裕次(大学生)


「チョムリアップスオ!」「ナイストゥミーチュー!」少女たちはバスから降りた私たちを、クメール語や英語で迎えてくれた。顔には、これから一晩を共に過ごす私たちへの、ワクワクドキドキな緊張感や期待感、そして不安感もちょっぴり映っているようだった。

 少女たちはみな優しくて、とても丁寧に私たちをもてなしてくれた。作ってくれた夕食もとてもおいしく、センター内にあるマンゴーをもいで剥いてくれたり、あちこちを案内してくれたりした。敷地内の宿舎とは反対側に、大きなため池があり、その前でグッディセンターの所長さんがお話をしてくださった。

 ここグッディセンターは、6歳から23、4歳の少女がいて、100人まで生活できるそうだ。HCCでは、大きく2つの活動を行っている。性的搾取の被害に遭った、または遭う恐れのある少女の保護が一つ。他の人権擁護団体と協力、連携して少女たちは保護され、望むなら、クロマー織りや美容の技術、ドレス作りなどの職業訓練も受けられる。
 
 そしてもう一つが、少女への性的な搾取の防止の広報活動だ。大人たちへの影響力の大きい、尊敬される存在である村長や校長、そして僧侶たちにトレーニングを行い、トレーニングを受けたものたちが地域ベースの人身売買防止ネットワーク(CBPN)を組織し、広報活動を行う。また、基礎保健教育や識字教育も保護活動の一環だ。

 陽はどんどん暗くなり、所長さんの顔はもう分からなかった。宿舎では、少女たちの楽しそうな笑い声が聞こえている。

 少女たちが職業訓練で練習に織ったクロマーを纏い、ツアー中3人だけの男はシャワー代わりに水浴びをした。カンボジアは1年を通して温かいため、寒くはなかった。

 夜も更けてきたが、遠い国からの14人の客を前に、少女たちの興奮は覚めやらない。私の下手なギターで、一緒に「幸せなら手をたたこう」を歌い、ダンスを教えるツアー参加者の女性もいた。お礼に少女たちはアプサラダンスを踊ってくれた。歌って、踊って、騒いで、本当に楽しい夜で、もう一度水浴びをしなくてはならなかった。

 朝、敷地外で寝ていた私たち男3人が寝ぼけまなこでセンターに入ると、宿舎で寝たツアーの参加者の女性たちはすでに起きて少女たちとゲームをしていた。朝ごはんを食べ、日本の写真を見せたり、サッカーをしたり、この後の運動会のプログラムまでのんびり過ごす。高校生ぐらいの一人の少女と仲良くなった。名前をチャリアというその子は、私に「I want to play the guitar !」と言ってくれた。私の下手くそなギターでも、教えて欲しいと言ってくれることが嬉しかった。ただ、残念なことにそのオシャレな少女は、少々爪が長すぎた。

 運動会、最初の競技はつぼ割り。スイカ割りのように、目隠しで、吊るされたつぼを周りの声を手がかりに叩き割る。ツアー参加者と少女たちと交互に割り、うまく割れなくても、それも逆に場を盛り上げた。私も目隠しをされた。棒を振り上げ、少しふざけて「うおぉぉぉぉ!」と走り出すとみな「キャー!」といって楽しそうに逃げ出す。周りの声を頼りにつぼを見つけた私は、やったこともない剣道の動きを真似、「面!」の声と共につぼの破壊に成功し、武士のように一礼をした。その後もリンゴ食い競争や卵スプーンリレーと競技は続き、笑顔の絶えない時間になった。

 そして最後に交流会が行われた。「2人姉妹で妹がいます」「私は今、国際協力について学んでいます。」「私は、あなたたちの日本のお母さんになりたいと思っています。」「学校の先生を目指しています。」それぞれのツアー参加者の自己紹介を少女たちは一生懸命に聞いてくれていた。少女たちは夢を教えてくれた。NGO職員、お医者さん、ガイドさん、みんな色々な夢を語ってくれた。シーライツの後藤さんに後から聞いた話では、「以前に聞いたことと違って、みんな他の人が言う夢に影響を受けているみたい。」とのことだが、夢を沢山持てることは良いことだとも思う。「将来は歌手になりたい」そう語ったのはチャリアだった。私にギターを習いたいと言ったことの理由と、その真剣さが伝わった。

 そしてツアー参加者は「森のくまさん」と、SMAPの「世界に一つだけの花」を歌い、少女たちはアプサラダンスを披露してくれた。チャリアはクメール語の歌を歌ってくれて、それはとても澄んだ声で美しいものだった。
自分の写真をくれる少女や、「Don’t forget me.」と別れを惜しみ、涙する少女たちに引き止められて、ツアー参加者たちの中にも、涙を浮かべる人がいた。全員がいつまでもこうしているわけにはいかず、振り切ってバスに何人かのツアー参加者が乗り込むが、それでもバスはなかなか発車できなかった。

 少女たちと一緒に寝たツアー参加者の一人から「夜寝るときに急に泣き出す子がいたのが、ショックだった」と後で聞いた。昼間、ほとんどの子が見せてくれる無邪気な笑顔の裏に、夜に少女たちを襲う寂しさや、悲しみが沢山ある。笑顔を見せてくれなかった少女も、私たちには何かを求めるような視線を感じた。ここに生きている少女たちは、多かれ少なかれ、みんなそうした影を持っている。それでも、少女たちと過ごした時間からは、日々を活き活き過ごす力強さを感じた。

 水浴びのときに使ったクロマーは、少し不恰好かもしれないが、一織り一織り丁寧に重ねて作られていた。大変な環境でも力強く生きている少女たちの姿に重なるような気がした。このHCCグッディセンターの訪問は、そんな少女たちの過去や、それを乗り越えて生きていこうとする逞しさ、そしてその少女たちを支え、守る人々のつながりの強さと温かさを学ぶものとなった。

牛銀行からの支援を受けている家庭を訪問して  スタディツアー報告その5

2008年06月04日 22時48分30秒 | 人身売買防止プロジェクト(収入向上)
こんにちは。甲斐田です。1週間のカンボジア滞在を終えてバンコクに戻りました。スバイリエン州のコンポンロー地区では、NGOやユニセフの取り組みによってベトナムへの子どもたちの物乞いの出稼ぎがかなり減っていることがわかりました。でも、村のリーダーからは、畑仕事のためにぜひ水牛の支援をしてほしいという要望を聞きました。土地が粘土質なため、牛よりも力のある水牛が必要なのだそうです。今回のスタディツアー報告は牛銀行に関してです。写真は、報告してくださった岩崎さんと支援している牛です。

一頭の牛から広がる希望、支援開始から約一年

                          岩崎浩二(大学生)

 牛銀行!?日本で普通に生活している私たちにとってはなじみの少ない言葉かもしれません。しかし、スタディーツアー2日目、牛銀行の仕組みを学び、その支援を受けている家庭を訪れ、話を伺った私は、牛銀行はカンボジアでは大変重要で効果的な農村支援の手段になっていることを知りました。ここでは、牛銀行についての概要、支援を受けている方のお話、私が気がついたこと、私の感想、の順番で牛銀行と支援を受けてから約1年経った方の想いを紹介していきたいと思います。

 まず、牛銀行について簡単に説明したいと思います。支援は国際子どもの権利センター(C-Right シーライツ)のパートナー団体の現地NGO、HCC(Healthcare Center for Children)が主体的に行って、シーライツはHCCの活動を支援しています。

 牛銀行の第一歩は家庭の選定から始まります。家庭の選定で大切にしていることは、家庭の生活状況と家庭に女の子がいるかどうかです。女の子の方が学校に行かせてもらえないことが多いので、女の子のいる家庭に支援を行っています。家庭の選定には、実際に家庭を訪問したり、学校の校長先生などの意見も参考にされるそうです。HCCのスタッフの方の正義感はとても強く好感がもてもした。選定にあったても公平性が確保されていると感じました。

 その後、2~3日かけて牛の飼育の仕方を支援家庭の人にトレーニングします。さらに、「貯蓄グループ」を作るよう働きかけています。これは、経済的に困った時や牛が病気の時の使えるお金を、牛銀行から支援を受けている人々同士で助けあえるようにするためのシステムです。この貯蓄グループで定期的にミーティングがあります。このように、もし、牛の飼育やその他の問題で経済的に困った場合でも、頼れるシステムがあることで、支援を最も必要としている、最貧困層のセーフガードとしての機能を果たしています。

 HCCから牝牛を借り、子牛が生まれた場合、一頭の子牛はHCCに返します。二頭目は支援を受けた家族のものになります。また、最初の牝牛はHCCに返します。
2005年から2007年の間にHCCは20世帯の家庭にそれぞれ一頭ずつ支援を行いました。20頭の牛から4頭の子牛が生まれました。

 次に、支援を受けている方のお話を中心に紹介したいと思います。私たちはマティー村を訪ね、牛銀行の支援を受けている女性からお話を聞きました。彼女は5人家族で、男の子が二人、女の子が一人います。彼女の夫は村から近い、ベトナムの工場へ日帰りで働きに行っています。食事については「7、8、9、10月は生活がちょっと厳しいので、3回食事はできますが、ごはんや小麦のみ」とおっしゃっていました。「牛銀行の支援を受けて大変だったことはありますか?」という問いに、彼女は「牛の水と餌の心配」と、答えておられました。「一番助かっていることは何ですか?」というと問いに、彼女は「牛を貸してもらっていること」と答えられました。「一番嬉しいことはなんですか?」という問いには、「牛が畑を耕すので、その時間で、子ども達を学校に通わせることができるのが嬉しい」と答えられました。

 私が現地を訪れて感じたことは、子ども達の笑顔が素敵だったことです。また、訪れた家に近所の子ども達が集まって遊んでいたことから、近所付き合いが盛んな様子を伺うことができました。さらに、その場で木から取って頂いたマンゴーの味は、とてもみずみずしくて忘れられません。

 私は、国際子どもの権利センターが支援しHCCが実施している「牛銀行」という援助の仕方はとても有効だと考えています。子どもの商業的性的搾取の問題への対策として、被害が発生してからの支援と発生する前の支援があります。問題の深刻さからも新たな被害者を出さないことが大切です。牛銀行は被害が発生する前の支援です。出稼ぎに行かなければならなくなってしまう危険性が高い女の子がいる家庭を支援しているので、子どもの商業的性的搾取につながる危険性が伴う出稼ぎにでることを的確に予防しています。一頭の牛から子ども達の将来への希望が広がる現場を実感しました。

 最後に牛銀行の問題点を紹介したいと思います。それは、牛銀行などの支援を受ける必要がある家庭すべてを支援することができない点です。そこで、最後まで私の文を読んで頂いた皆さんにお勧めしたいことがあります。もし、まだ国際子どもの権利センターの会員になっていられない方は是非、会員になってみてはいかがでしょうか。カンボジアでの牛一頭の値段は一般正会員2人分の会費とほぼ同じかそれより安価です。小さな一歩がカンボジアの子ども達に大きな可能性を作ります。

【編集部より】
多くの少女たちの家庭に牛を支援し、人身売買を防ぐことができるようご支援ください。↓

http://www.c-rights.org/join/donation.html