カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

少女達の可能性を制限する考え方

2007年01月27日 16時06分38秒 | カンボジアの子ども
ーなぜ少女は若くして結婚するのかー

中川香須美です。カンボジアの人口の8割が生活する農村地域では、16歳程度で少女が結婚することは珍しくありません。法的年齢では18歳で結婚が出来ることになっているものの、それ以前に多くの少女が結婚します。教育が投資ではなく不必要な費用であるとみなす両親が多いため、初等教育を終えた少女たちには中等教育を受ける機会が与えらません。少女達は学校に行けず、自宅で母親の家事手伝いをしているうちに、両親の決定に従ってお見合い結婚します。クロムゴイというカンボジアで最も有名な詩人は、「両親が決めた相手と結婚しなさい」と謳い、その詩は学校教育で教えられています。その背景には、娘が自分でボーイフレンドをつくってしまう前に結婚させる必要があると考える大人たちの価値観があります。

カンボジア社会において、女性のセクシャリティを社会がコントロールしようとする傾向は非常に強く、独身女性の価値は性体験があるか否かで判断されます。例えば、農村地域では、レイプの被害を受けた少女が加害者と結婚させられることは珍しくありません。独身なのに「性体験を持ってしまった無価値な女性」に求婚する男性などいないと理解されるためです。家族の恥さらしだとして両親にまで非難される被害者も少なくありません。カンボジアではレイプの被害者の大多数が18歳未満の少女であるにもかかわらず、被害者が差別の対象となるのです。また男性だけでなく、女性自身も自分達のセクシャリティには厳しい規律を守ろうとしています。首都プノンペンにおいて、ミニスカートで最新型の携帯電話を持って大学に通う女子学生ですら、「結婚まで性体験を持たないことはとっても重要!」と真剣に主張します。カンボジアでは、なぜそれ程までに女性の「処女性」が重要視されているのでしょうか?

カンボジア社会では、女性が持つべき10の美徳の中に「貞操」が数えられています。女として生まれたからには結婚まで男性と特別な関係を持たず、両親の指示に従って結婚した後は夫のみに尽くすことが重要だと、少女たちは親族や年配の女性から繰り返し教えられます。もし結婚以前に夫となる男性以外と性的関係を持った場合には、「悪い女」との烙印を押される可能性が極めて高いのです。初夜に妻の側にすでに性経験があったことが発覚すると、夫が妻の両親に結納金返還を求めることも当然とみなされた時代すらあったそうです。

1960年代に絶大な人気を誇り、現在でもカンボジア人に人気の高いシン・サモットという男性歌手(日本では美空ひばりに匹敵する人気)は、女性の「処女」を神聖化する歌を何曲も歌っています。例えば、「処女はどこに?」という歌の中では、「結婚前に、私の妻と関係を持ってしまったのは誰?」と繰り返し歌っています。歌の中では、結婚した妻が他の男性とつきあった経験があったことが分かり、彼女が誠実でなかったと嘆き悲しむ男性が表現されています。「価値の低い黄金」と題する歌の中でも、結婚した妻が実は既に性体験があり、結婚後6ヶ月で子どもを出産してしまい、妻を恨む男性の気持ちが表現されています。この男性は「騙された」と悲しみ、妻だけでなく妻の両親をも恨んでしまうのです。これらの歌は、シン・サモットの美声とその美しいメロディーで大変人気があり、ラジオで頻繁に流されています。「結婚まで女性は処女であるべき」というステレオタイプ的な考えは、両親や少女達の心にメディアを通じて深く根付かせられているのです。(続く)

写真は川べりではすの実を食べる少女たち。本文とは一切関係ありません。

子どもの性的搾取をなくすために
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