カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

虐待事件で子ども使用人社会の暗部が明るみに

2010年01月13日 10時54分47秒 | カンボジアの人権状況
こんにちは、長島です。新年明けましておめでとうございます。
カンボジアでは、お正月は4月にクメール正月としてお祝いをするので、1月1日のみ祝日で、年末年始も普通に仕事をしております。相変わらず毎日暑いので、お正月気分にはならず、こちらの方々は4月の新年を楽しみに待っているようです。

さて、今回のカンボジア便りでは、家事使用人として奴隷のように扱われ、虐待を受けていた少女の記事をご紹介します。国際労働機関(ILO)の統計によると、世界でこのような「最悪の形態の児童労働」に従事させられている子どもは840万人にのぼると言われています。新聞報道によると、近所の人の通報により救出された少女は、その6週間後には学校に通い始め、笑ったり、他の子どもたちと遊ぶようになってきたそうです。
虐待を受けていた少女の心の傷は、簡単に癒されるものではありませんが、新しい環境で少しずつ回復出来ることを願うばかりです。

写真は救出された時の少女の写真©Phnom Penh Post
児童労働をなくすためにご支援ください。

詳しくは、http://www.c-rights.org/join/donation.html


虐待事件で子ども使用人社会の暗部が明るみに

カンボジア・デイリー紙
アビィ・セイフ記者、チェン・ソクホーング記者

11歳の使用人に残忍な虐待を加えた疑いがかかっているメアス・ナリー(41歳)およびその夫ヴァー・サルーン(62歳)両容疑者宅の向かいに住む女性は、プノンペン市セン・ソック地区における2人の暮らしぶりを約2年にわたって見てきた。
この女性は、高校教師のメアス・ナリーと元公務員のヴァー・サルーンが、プノンペン市トメイ地区にあるゲート付きの大邸宅を出て車で仕事に向かう姿や、この閑静で広々とした地区をジョギングする姿を見かけたが、夫婦以外の人が出入りするのを一度も見たことがなかった。数軒先に店を構える店主や近所の飲食屋台の女性も、夫婦以外は見かけたことがないという。

そしてこの隠匿性こそが夫婦の犯行を可能にしていた。両容疑者は孤児の11歳の少女を使用人として置き、洋服のハンガーで繰り返し叩き、ペンチで髪と頭皮をまとめてむしり取り、少女が人に助けを求めることを許さなかった。
木曜日に夫婦の瀟洒な邸宅から警察に救出されるまで、スレイ・ニエングという名前だけ伝えられているこの少女は見えざる存在だった。
これは極端なケースだが、現代カンボジアの家事使用人社会の影に隠されているのは、決して彼女だけではない。

地元の人権保護団体Licadhoおよびキリスト教系団体ワールド・ビジョンが2007年に実施した調査では、プノンペン、コンポンチャム、バッタンバン、シアムレアプにおいておよそ2万1千人の子どもが家事使用人として雇われていることが明らかになったが、現実の数字はこれを大幅に上回っている可能性がある。

国家統計局と国際労働機関(ILO)が行った最新の調査(2003年)によると、プノンペンだけでもほぼ2万8千人の子どもたちが家事労働に就いていることがわかっている。
国際移住機構(IOM)は2007年に子どもの就労について大規模な調査を実施したが、同機構のプロジェクト責任者ジョン・マクジオガン氏は「この数字が増加あるいは減少どちらの傾向にあるのか示すデータがない。」と話している。
「家事労働に就いている子どもの数は闇に包まれている。彼らについてわかっているのは、とても脆弱な存在であるということくらいだ。」と同氏は述べる。
カンボジアの子ども家事使用人(Child Domestic Workers)を虐待、人身売買、さらには危険な生活のリスクに晒しているのは、まさに存在自体が隠され、見えなくされているという現実なのである。
IOMの調査によれば、性産業で働く人の51パーセントが子どものとき家事使用人として働いた経験があるという。

米国労働省が先月発表したレポートでは、子どもが労働力として利用される可能性の高い4産業(レンガ、エビ、塩、ゴム)が指摘されているが、こうした産業への取り締まりは比較的たやすい。子どもがレンガ工場やプランテーションで働いていれば人の目に留まるはずだ、とILO児童労働撲滅国際プログラムのカンボジア主席技術顧問を務めるMPジョセフ氏は語る。
「一方、個人宅は公の場ではないので介入ができない。そこで働いている子どもにアクセスするのは極めて困難である。彼らは見えざる存在だ。」と同氏。
2008年6月、フン・セン首相は「児童労働における最悪の形態に対する国家行動計画」を承認した。このプログラムは、2004年に労働職業訓練省が発布した18歳未満に対する危険労働禁止の改正である。
家事は「危険」な労働に該当するが、場合によってはわずか12歳の子どもが合法的に従事することができる。
子どもが家事労働に就くことは児童労働の「最悪の形態」とみなされるとジョセフ氏は言う。「これは最悪の形態の一つとして、即時撲滅の対象です。」
「そうは言っても、実現が最も難しい問題の一つだと言っておかなければなりません。」と同氏は付け加える。

デイ・トメイ通りでは月曜日、救出された少女の身体のひどい状態について近隣住民が語った。耳は血だらけで、髪は抜け落ち、硬貨大の傷跡が複数あったという。
また、住民たちは、容疑者夫妻がいかに裕福に見え、そして排他的であり、住民と交わることがほとんどなかったことを話し、記者に名前を尋ねられても、「安全のため」と言ってほとんどの人が名乗りたがらなかった。
メアス・ナリーとその夫の両容疑者、そしてトエング・レス容疑者(62歳。2008年、カンポット州において、少女を同夫婦に400ドルで売った疑い)はプレイソー刑務所に移送された。注訳)

現在少女のケアを行っている団体Hagar Internationalの子どもプログラム責任者であるスー・ハンナ氏は、少女の状態について「今は眠っています。我々は医療面ケアと基本的な健康管理に重点を置いています。彼女はひどい栄養失調状態にあります。」と話した。
「彼女は深刻なトラウマを抱えており、生涯、悪影響を及ぼすような数々の記憶が心に焼きついています。」と同氏は付け加えた。

注訳)一部割愛
(2009年12月21日 訳・植田あき恵)