カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

カンボジアに見られる暴力の文化

2005年09月30日 17時18分05秒 | カンボジアの人権状況
みなさんこんにちは、平野です。これまで国際子ども権利センター支援によるHCCのプロジェクト地、プレイベン州コムチャイミア郡への出張報告の中で、ドメスティック・バイオレンス(以下DV)について触れてきましたし、また別枠でDV法の制定についてもお伝えしました。暴力はさまざまなかたちでカンボジア社会を蝕んでいます。今回のテーマは広く“暴力”についてです。

【カンボジアのDV法とDVの定義】

“しつけ”の名のもとに家庭内で暴力が容認されてきたことは日本でもカンボジアでも同じですが、カンボジアのDV法が日本のそれと違うのは、対象に配偶者だけでなく子どもたちも含めていることです。日本では、DV=配偶者からの暴力、とされ、また基本的に身体的暴力が対象になっています。(下記内閣男女共同参画室の用語集参照)
http://www.gender.go.jp/
また、村や学校でDVについて聞くと、身体的な暴力そのものとならんで「暴言」がよく取り沙汰されます。これは若干意外だったのですが、「暴言」は「目に見えやすいあからさまな暴力ではないけれど」といった前置きなしに、DVの一種として扱われています。

【村での問題になっている暴力】

DVではありませんが、暴力問題として村の人々が口々に懸念を表していたのが、若者による暴力です。祭りなどのときの不良少年たちのケンカ騒ぎなどが絶えないようで、以前(9月13日付けブログ)お伝えした「村の法律」の制定の大きな理由の一つも、そういった暴力沙汰でした。女の子の取り合いなどが原因だったりもするようで、こう書いてしまうと、“若い頃はそういうことも”と感じる方もいるかもしれませんが、村の人々の話しぶりからすると、事態は深刻です。最近の日本の若者同様、殴り合いのケンカではなくすぐ刃物などが出てしまうのです。都市部では、小さないさかいですぐに発砲事件になることが問題視されています。ふだん穏やかなカンボジア人が、時として非常に暴力的になることは、書物で、またカンボジアを知る人々の話の中で、度々指摘されてきたことです。そしてそこに内戦の影響を見る人もいます。

【弱きものたちの暴力】

たまに新聞で見かけて、やるせない気分にさせられるのが、犯罪者に対するリンチ事件のたぐいです。先日読んだ記事にも、近隣の犬を盗んでは、妻の営む犬肉屋でさばいてた夫が、現場を村人に押さえられ、殺されるまでリンチされるという事件がありました。取り押さえる際に殴るというのならばともかく、その後で大勢でリンチする、しかも死ぬまで痛めつける。そしてそれを行ったのが、名もなき貧しき人々であることを考えると、私には、こうした行為が、普段ネアックトム(大きい人=権力者)に従順なカンボジア人が、内心に溜め込んでいる怒りや不満を吐き出す一つの形態にも感じられます。クメールルージュ以来長きに渡って内戦と暴力にさらされてきた歴史も背景にあると思われ、カンボジア社会の闇の深さを見る思いです。

※写真は村の結婚式で陽気に踊る筆者の友人。暴力沙汰など起こしそうにない笑顔です。

子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告第2弾<テレビの力>

2005年09月26日 18時28分00秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)
みなさんこんにちは、平野です。
これまで国際子ども権利センター支援によるHCCのプロジェクト地、プレイベン州コムチャイミア郡への出張報告を中心にこのブログに記事を投稿してきました。その中で、SBPN(School Based Prevention Network=学校ベースの人身売買防止ネットワーク)の子どもメンバー活動ぶりについてもご報告してきましたが、意識啓発を進めていく上での困難として、「話を信じてもらえない」という声が挙がっていたのを覚えているでしょうか。今回は、村で行ったインタビューなどから、その悩みを解決するヒントを探ります。

【聞いてくれない】

「“面白くない”といって聞いてくれなかった」
「“子どもなのにそんなこと分かるの?”と言って、友達が信じてくれなかった」
「HCCのトレーニングを受けたことも伝えたが、信じてもらえなかった」

これらはSBPNメンバーに対するフォローアップワークショップでメンバーの子どもたちから挙がった声です。これまでもお伝えしてきた通り、これらの問題に対しては、粘り強く意識啓発を続けることや、HCCが作成した絵入りのパンフレットを活用することなどが対策として話し合われ、またHCCのトレーニングを受けたことを示すIDカードを希望するメンバーもいました。

【テレビで言ってた】

「HCCが来る前から、ラジオなどで情報を得ていたので、(人身売買には)気をつけなければと思っていた」
「ラジオでドメスティック・バイオレンスをなくそうと言ってたのを聞いていたので、DVは違法だと知っていた」
「子どもが言うだけでなく、ラジオやテレビで同じこと言っていると、信じる」

一方これらは村でさまざまな人にインタビューした結果、人々から聞かれた言葉です。そう言えば、私のボキャブラリーにも「本当だよ、だってテレビで言ってたもん」という言葉が、子供の頃にはありました。

【テレビの可能性】

カンボジアでは、かつての日本のように、テレビは娯楽の王様です。農村でも、悪路を揺られながら田舎道を行くと、想像以上に多くの家々にアンテナの姿を確認できます。「食べるものにも事欠くと言いながらテレビか」と、テレビを村人の物欲や計画性のない金遣いの表れとして苦々しく見る人もいます。しかしテレビといってもかなりの年代もので、そこに映る白黒とカラーの間のような画面に、限られたバッテリーの電源が許す時間、熱中するだけです。

そんな村人のささやかな楽しみにとやかく言うのではなく、この“テレビの威光”を人身売買防止や子どもの権利普及に利用できないものか、と(ちょっと大きな命題ですが)考えたりしています。

※写真はラジオの影響を語るお母さんとその息子、そして娘(安達祐実似)です

ドメスティック・バイオレンス禁止法制定

2005年09月20日 22時38分11秒 | カンボジアの人権状況
こんにちは、平野です。先日(9月13日)のカンボジアだよりで、国のドメスティック・バイオレンス法(以下D止法)制定よりもずっと早くから、暴力防止に村の法律を活用していた村人たちのことを紹介しましたが、DV法もついに9月16日金曜に下院を通りました。法案の詳しい内容はまた後日お伝えしますが、今回は、9月17日付けの現地英字新聞the CAMBODIA DAILYより、可決を報じる記事をご紹介します。

※写真は同法制定に尽力した、ムー・ソクア前女性省大臣です。
出所:www.samrainsyparty.org/

【下院、ドメスティック・バイオレンス法を可決】

長らく制定が待たれ、激しく議論されてきたDV法が金曜、88人の代議士の投票によっての下院で可決されたとき、女性議員たちは安堵の表情を見せ、フンシンペック党のある男性議員はブツブツとつぶやいた。

女性省大臣のIng Kantha Phavyは議員たちに謝辞を述べ、DV法は暴力を防止し、被害者を救済するだろうと語った。
彼女は、同法は効果的に執行されなければならない、と付け加えた。

下院の保健、社会問題、労働、及び女性委員会の委員長でもある人民党のHo Naun議員は、法執行の前に全国規模の意識啓発キャンペーンを行う必要性を訴え、同法はクメール人の伝統的な家族のあり方にとって大きな脅威になるようなことはない、と述べた。

「DVの防止と被害者救済のための法は、クメール人の家族の生活のあり方に必要以上の変革をもたらすものではありません」と彼女は語った。

フンシンペック党の代議士、Monh Saphannは法案可決には賛成票を投じたが、法案の細部には満足しておらず、同法がカンボジアの家族の亀裂を深めることを恐れている

「暴力を防止することは我々の共通の目的ですが、私にはいくつか納得できない点があるのです」と彼は語り、同法は、夫婦が法廷以外の場所で和解することを不可能にしてしまう、と付け加えた。

【注目したい発言】

以上の記事を読んでいると、注目すべき発言がいくつかあります。赤字の部分を再度ごらんください。

☆同法は効果的に執行されなければならない
確かにそうです。カンボジアでは特にそうです。名ばかりの法になってしまわぬよう、関係各方面が最大限の努力しなくてはなりません。

☆法執行の前に全国規模の意識啓発キャンペーンが行われる必要性を訴え
これもわかります。同法制定の最大の目的は、刑務所を満員にすることではなく、DVの防止。これまで妻をあるいは子どもを殴っても悪いことだと思っていなかった人たちに、それが悪いことであり違法だということを理解してもらい、暴力を未然に防がなくてはいけません。そういえば、日本でも道交法改正(飲酒運転が厳罰化)のときに、施行前日に大規模な取締りを実施し、「これが明日だったら・・・」とやりましたね。

☆同法がカンボジアの家族の亀裂を深めることを恐れている

夫婦別姓法案に反対するセンセイたちも似たようなことをおっしゃっていたような。家族の絆も伝統も大切ですが、それは人権侵害を受け、それに耐える人の犠牲がなければ成り立たない絆であり、伝統なのでしょうか。であるならば、それは「悪しき伝統」ではないのでしょうか。

繰り返しになりますが、法律が制定されただけで、なぜそういった法律が制定されたのかが理解され、そしてそれが厳格に執行されるのでなければ、法律は意味のないものになってしまいます。とはいえ、長らく制定が待たれた同法ですので、まずは喜びを込めてみなさんにお伝えしたいと思います。



子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告第2弾<農業用井戸のインパクト>

2005年09月18日 20時38分13秒 | 人身売買防止プロジェクト(収入向上)
みなさんこんにちは、平野です。前回に引き続き、国際子ども権利センター支援によるHCCのプロジェクト地、プレイベン州コムチャイミア郡への第2回現地出張(9月5日~8日)の報告を行います。
今日はSBPN(School Based Prevention Network=学校ベースの人身売買防止ネットワーク)や人身売買、ドメスティック・バイオレンスの話からちょっと離れて、前回ご紹介した村人の声にも頻繁に出てきた「農業用井戸」についてお話したいと思います。

【田植えの時期にすでにお米が!】

前回の出張時(8月の9日~12日)のことですが、あるお宅にお邪魔すると、これから田植えというこの時期に、なんと既にお米がたくさん!驚いて家の方に聞くと、一年に3回から4回収穫しているとのこと。ということは、乾季米を作っているということ。つまり乾季にも水があるということです。これは、前回触れた以前HCCが提供した農業用井戸の活躍によるもの。

「以前は年に一回の収穫だって、満足に取れたり取れなかったりだったんだ」と力説する村の人々の様子からも、農業用井戸がいかに人々の生活を向上させたか、ヒシヒシと伝わってくるものがありました。干ばつと洪水の両方に悩まされるカンボジアの農民にとって、「水を管理する」ことは常に大きなテーマなのです。

【原油高の影響はカンボジアの農村にも】

この農業用井戸、写真をクリックして大きくしていただくと分かるのですが、見た目は井戸という感じがしません。地中深くにまで埋められた塩化ビニール管にホースを接続し、その先にある動力?ポンプで水を汲み上げ、また放水するのです。HCCスタッフのベルトのあたりに、戦車の大砲のように突き出ているのが放水する管ですね。

HCCがこの農業用井戸を提供したとき(3年前)は、井戸を掘るのに50ドル程度、ポンプが300ドル程度だったということですが、今は値上がりしているとも聞きます。いずれにしてもこれは大金です。そして、農業用井戸が寄贈されたとしても、その後このポンプを動かすのに必要なガソリン代は使う人持ち。昨今の原油高は、カンボジアの農村の人々の頭も悩ませているのです。ちなみに今日通ったガソリンスタンドでは1リットル=3800リエル、日本円で約100円ですので、日本が130円台突破とはいえ、両国の物価の違いを考えるとガソリンがいかに高いかわかります

とはいえ、田植えの時期に目にした大量の収穫済みの米の衝撃、そして農業用井戸の説明をする村人の表情の輝きは、農業用井戸が村にもたらしている恵みが、原油高による負担増を補って余りあるものであることを感じさせました

子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告第2弾<村人からみたNGO>

2005年09月16日 18時03分51秒 | 人身売買防止プロジェクト(収入向上)
みなさんこんにちは、平野です。国際子ども権利センター支援によるHCCのプロジェクト地、プレイベン州コムチャイミア郡への第2回現地出張(9月5日~8日)、今日はその4回目になります。前回に引き続き、さまざまな人々への調査結果から回答をピックアップして、そこから見えてくる村の実情、村人の見たHCCの活動について考えてみたいと思います。前回の【村の問題】の内容を踏まえて読んでいただくと、より理解していただけると思います。

【Q HCCが来てから変わったことはありますか?】

A 子どもの権利が広まった(男性・副村長)
A 農業のやり方を教わった(45歳女性・8児の母)
A ドメスティック・バイオレンスが減った(同上)
A 農業技術を教わった。農業用井戸をもらった(65歳男性・自助グループリーダー)
A 牛や井戸をくれたし、農業技術も教わった(40歳女性・2児の母)
A 学校に行く子が増えた(同上)

【Q HCCの活動で印象深いものは?】

A 人身売買予防の取組み(男性・副村長)
A 収入向上プログラム、(子どもの権利や人身売買、DV等についての)意識啓発(65歳男性・自助グループリーダー)
A 人身売買に関すること(40歳女性・2児の母)
A 農業用井戸、意識啓発(初老男性)

【Q HCCのスタッフを信用しますか?】

A 信用します。助けてくれるし、牛や農業用井戸など形になった支援もあるし。他は来てもすぐ去ります(男性・副村長)
A 信じます。定期的に来てくれているので。(65歳男性・自助グループリーダー)
A 信じます。人身売買やDVについて教えてくれたし、物的支援もしてくれました。(40歳女性・2児の母)
A 信じます。牛や農業用井戸を支援してくれました。(45歳女性・8児の母)
※ この女性への追加質問
Q 物的支援がなかったら? 
A 存在を知らなかったのではないかと思います。
Q 物的支援はなしで、意識啓発だけしていたら?
A 信じていたでしょう。ウソをつかないし、いい事を教えてくれましたから。
 
総じてHCCの活動は評価され、スタッフも信用されていることがうかがえます。と、同時に、農業用井戸(国際子ども権利センターがHCCを支援する以前の活動です)や牛といった物的支援が、HCCが活動を円滑に進める上で必要な「村の人々との信頼関係」を作っていくにあたって、大きな役割を果たしていることも浮かび上がってきます。

私自身、HCCの本業は人身売買予防のための意識啓発活動と思っていたので、平行して収入向上プログラムを実施することに対してその効率性などを疑問に思ったこともありましたが、こういった村人の声を聞き、貧しい人々に本当に届く支援とはなにか、日々さまざまな考えが頭を巡ります。

※写真は調査に協力してくださった8人の子どものお母さんです。

子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告第2弾<村の問題>

2005年09月15日 19時52分39秒 | 人身売買防止プロジェクト(収入向上)
みなさんこんにちは、平野です。前回に引き続き、国際子ども権利センター支援によるHCCのプロジェクト地、プレイベン州コムチャイミア郡への第2回現地出張(9月5日~8日)の報告を行います。
今日は、さまざまな人々への調査結果から回答をピックアップして、そこから見えてくる村の実情、村人の見たHCCの活動について考えてみたいと思います。

【村にある最大の問題】

Q HCCがここに来る前の問題とは?
A 干ばつと洪水(男性・副村長)
A 水の問題(65歳男性・自助グループリーダー※)
A 干ばつと洪水(10代男性)
A 干ばつと食料不足(45歳女性・8児の母)

※以前のHCCの活動で結成された貯蓄グループ

今回の調査では、HCCの入る前と後、そしてHCCの活動の浸透度や、HCCに対する信頼度について調べる目的がありました。ということは、「以前は人身売買の被害が多かった、でも今は・・・」「子どもの権利なんて知られていなかった、でも今は・・・」という流れがHCCの活動の性質上、言うなれば最もわかりやすいかたちなわけです。

しかしインタビューされた村の人々の口から出てくる言葉はそういったものではありませんでした。もちろんこれは、村で人身売買や出稼ぎが問題になっていない、ということでは全くありません。こちらから誘導するようなかたちでは、そういった問題も人々の口に上りますし、「HCCが活動するようになって変わった」とこちらに問われるまでもなくおっしゃる方もいます。ただ、前振りも誘導も前提もないとき、単純に「村での問題は?困っていることは?」と聞かれたら、まず挙がるのは干ばつや洪水の問題なのです。

【なぜ出稼ぎに出るか】
今回訪問したときも、随分長い間雨が降っておらず、苗床から本田に苗を移せない、と困っているときでした。ですから、農家のみなさんの頭が、いつも以上に干ばつの問題に向いていた可能性は大いにあります。とはいえ、それだけとは思えません。

好き好んで町に出る人はあまりいません。牛が田を耕し、稲穂が頭を下げ、豚や鳥が駆け回る庭には野菜や果実が実っている、そんな村なら誰も出て行きたくはない。実際はそうではないから出て行かざるをえない。ではなぜそうではないのか。さまざまな要因がありつつも、辿っていくと、干ばつと洪水にたどり着くということでしょうか。

次回も引き続き、調査に対する回答の抜粋から、村の姿や村とNGOの関係を探っていきます。

子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告第2弾<村の法律>

2005年09月13日 22時30分01秒 | カンボジアの人権状況
みなさんこんにちは、平野です。今回は、村での聞き取り調査から、“村の法律”もご紹介しながら、村におけるドメスティック・バイオレンスへの取組みについてお伝えします。

※今回カメラ絶不調につき、写真は別の男性です。写真がないと寂しいし、せめて雰囲気を、と年恰好の近い方を選びました。ご容赦ください。
【女性の地位の向上】

村での聞き取りでは、良くも悪くも対象者の周囲の人々の口出しが必ずあります。トゥノンカーンカウッという村でも、やはり対象者女性だけでなく、周囲の人だかりからも意見が挙がりました。その中で初老の男性が興味深いことをおっしゃいました。

Q 女性が自分たちの権利を知って強くなることについてどう思いますか?
A 女の人は強くなった。法律も知っている。男性と同等になってきた。だから殴られることも減った。いいことだ。以前は同等とみなされず、男性に罵られていた。

【国よりも早く制定】
(続いて)それに法律も変わった。今は暴力を振るえばお金を払わなくてはならない。
Q いつできた法律の話ですか?
A 2年か、いや3年前かな。

Q DV禁止法はまだ制定されていないし(現在国会で審議中)、HCCがこちらで活動を開始するよりも前ですね??
A ああ、これは村の法律だよ。自分たちで決めたんだ。

Q 皆さんで決めたんですか。それはまたどうして、誰が言い出したんでしょう?
A 問題があまりにも多かったので、どうにかしなくてはと思ったんだよ。特に祭りのときなどの若者の喧嘩が多くてね。結局村長たちが調停に入って、示談にする。そんなことが続くうちに、では罰金を決まりにしよう、と思ったのさ。そういう人たちに懲りて欲しいからね。

Q いくらくらいの罰金なのですか?
A それはケースによるね。でも600,000リエル(150ドル!)ということもあるよ。

いわゆるドメスティック・バイオレンスだけでなく、暴力全般に適用されるようですが、DV禁止法が国会を通るはるか昔に、法律が制定されている村があったことは注目に値すると思います。このように村の人々自身が自分たちで自分たちの問題に気づき、改善しようという意欲を持つことが、NGOの活動に限らずよりよい村を作るあらゆる活動に必要とされています。

村人から無力さばかりを感じるとしたら、それは我々の視線の問題でしょう。よりよい村を作りたいと思っているのは、誰よりも村人です。そしてそのために必要なもののうち、金銭的、物質的な面では足りないものが多いとしても、意欲や知恵は持っているのです。

子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告第2弾<もしあなたの友達が>

2005年09月09日 21時37分05秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)
みなさんこんにちは、平野です。9月5日~8日、3泊4日で再度プレイベン州コムチャイミア郡の国際子ども権利センターが支援するHCCのプロジェクト地に出張して参りました。今回から数回にわたって、いろいろとご報告させていただきたいと思います。

今回は村での聞き取り調査を多く行いました。今日はその中から、SBPN(School Based Prevention Network=学校ベースの人身売買防止ネットワーク)のメンバーの話に耳を傾けたいと思います。

【SBPNメンバーになって楽しいです】

基本データ:トゥールトン小学校、SBPNメンバー16名(男女比4:12)
15才女子・6年生・成績4番


Q HCCが来る前から子どもの権利や人身売買業者の手口について知っていましたか?
A いいえ、私にとって新しいことでした。

Q 中退者は多いですか?
A はい。年齢が高いのに学年の低い子はイヤになってやめてしまう場合があります。先生の話を聞いていなくて落第を繰り返す子もいるし、幼い兄弟の子守りで忙しく、学校に行けなくなり、長く休むと先生に会うのが怖くなって行かない子もいます。遊んでいて先生に殴られたため、怖くなって行かなくなる子もいます。

Q 出稼ぎについては?誘われたらついていきますか?
A いいえ、もうよく分かっています。買春宿に売られるかも知れないし。

Q 男の子と女の子どちらかが出稼ぎに出るとしたら?
A 男の子です。女の子はより危険ですから。

Q レイプについては?賠償金で解決していいと思いますか?
A いいえ、刑務所に行くべきです。ドメスティック・バイオレンスよりも危険で、被害者は自殺したりするのですから

Q SBPNメンバーになった経緯は?なってみてどうですか?
A 先生に選ばれました。イヤならイヤと言えましたが、やりたいと思いました。なってみて、色々な知識を得られたのでうれしいです。トレーニングも長かったけど楽しかった。

Q 難しいこともあると思いますが、これからも続けてくれますか?
A 私が具体例を出したり、HCCのトレーニングを受けたことを伝えたりしても、関心を持ってくれない友達もいます。私が子どもだからでしょう。友達も子どもなのだけれど・・・でも続けたいと思います。繰り返しやれば聞いてくれるかもしれないし、周りのみんなにも、知識を持ってもらい、人身売買を防ぎたいのです。

【もしあなたの友達が・・・】

Q さっきレイプの被害者が自殺することがあると言いましたね。悪いのは加害者なのに、どうしてでしょう?
A 傷つくし、処女を失って、将来も無くなってしまうから・・・

Q でも周囲の人が優しくしたら、自殺しなくてすむと思いますか?
A そうですね。

Q もし友達がそのような被害を受けたら、優しくしてくれますか?
A はい。寂しいでしょうし、差別されるでしょうから。

長い時間多くの村人に囲まれて(村にNGOが来てインタビューをする場合、これは避けられません。ましてや外国人が来ていては・・・)、ちょっと疲れ気味の彼女、長い時間の協力にお礼を言い、手品を披露して最後は笑顔でお別れしました。

最後の3つは私からの質問でした。レイプは重大な犯罪です。買春宿に売られるのは恐ろしいことです。そういった認識を持つことは重要ですが、“そういった被害に遭ったら人生おしまいだ”という観念がカンボジアに(カンボジアだけにではありませんが)根強くあることを私はいつも危惧しています。実は少し前の新聞でも、人身売買に取り組む女性の警察官僚が「人身売買は憎むべき犯罪です。少女の人生がダメになってしまうのですから」と発言しているのを読み、とても残念に思いました。どんな被害に遭っても、決して人生は終わりではない、人身売買の恐ろしさとともに、そのことを子どもたちに伝えたいといつも思っています。

子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告<子どもを想う気持ち>

2005年09月05日 00時40分04秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)
みなさんこんにちは、平野です。今回の訪問では、3つの小学校におけるSBPN(School Based Prevention Network=学校ベースの人身売買防止ネットワーク)のフォローアップのほかに、村でも調査を行いました。つまりSBPNの活動だけでなく、前のプロジェクトで結成されたCBPN(Community Based Prevention Network=コミュニティーベースの人身売買防止ネットワークの活動の成果という意味も含めて、村に子どもの人権や人身売買防止のための知識がどれくらい広まっているかを知るため、またドメスティック・バイオレンスの状況について調べるため、村の女性たちを中心に聞き取りをおこなったわけです。内容は以前ご紹介したテストに基づいています。

今日はその中で、赤ちゃんを抱いた若いお母さんへの聞き取り調査で、興味深かった部分をお伝えしたいと思います。

☆子どもの権利について知っていますか?  
 いいえ  家が奥まっているので(情報に接する機会が少ないそうです)

☆HIV/AIDSの感染にはどんなパターンがありますか?
 性交渉

☆子どもを学校に行かせないことは違法ですか?  
 はい

☆知らない人から仕事があると誘われたらどうしますか?
 騙されるのが怖いので行きません。

☆親が子どもを学校に行かせなかったら違法ですか?なぜ?
 違法です。自分の子どもなんですから。

☆性産業で働くことや重労働をすることを人に強制したら違法ですか?なぜ?
 違法です。

☆親が子どもを売ったら違法ですか?なぜ?
 違法です。自分の子ども売るなんて。

☆夫が妻を売ったら違法ですか?なぜ?
 違法です。せっかく両親がセッティングしてくれた結婚なんですから。

☆ドメスティック・バイオレンスは違法ですか?なぜ?
 違法です。せっかくお金もかけて結婚したのにそんなことをするなんて。話し合えばいいのに。

☆レイプされそうな女の子を見たら助けますか?どうやって?
 誰かに報告することで助けます。

本人が子どもの権利について知らない、と言っている通り、「権利」とか「法律」という言葉が出てくることはありませんでした。そして論理的というよりも情緒的な回答が大半を占めています。しかし間違っているというわけでもなく・・・。今後CBPNやSBPNがその活動を通じて子どもの権利や女性の権利について広めていってくれることを期待していることはもちろんですが、それと同時に、彼女の言う「自分の子どもを売るなんて」という素朴な言葉もまた胸に響きました。人身売買の恐ろしさ、酷さが伝えられていく中で、アジアにおける封建社会や家父長制度の弊害、人権意識の低さ、女性の地位の低さ・・・等々が喧伝されます。「親が子を売るなんて信じられない」と顔をしかめる方もいるでしょう。しかし一口に「親が子を」と言っても、その背景や事情は千差万別です。豊かな国の人間には計り知れないものもあるでしょう。親が子を想う気持ちは、洋の東西を問いません。さまざまな悲惨なケース、残酷な実例は事実としても、カンボジアを含めた人身売買の行われている国々の人々も、家族を愛する気持ちは変わらないことをお伝えしたいと思います。

これで8月9日~12日のプレイベン州コムチャイミア郡「子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告」を終わります。つたない文章ですが、現地の雰囲気が伝わりましたでしょうか。今後ともご愛読宜しくお願いいたします。

子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告<ワークショップの休憩時間>

2005年09月04日 01時57分54秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)
みなさんこんにちは、平野です。今回はこれまでお伝えしてきたSBPN(School Based Prevention Network=学校ベースの人身売買防止ネットワーク)フォローアップワークショップで見られた、カンボジア独特(おそらく)のおもしろい光景についてお話します。

【教室でアカペラ】

私がこれまで見てきたあらゆるワークショップに共通することですが、必ず休憩のときにおやつがでます。おやつの内容はロンガン、ランブータンなどのフルーツ類かクッキーの類と相場が決まっているのですが、このクッキーが妙に後を引く味です。なんというか、膨らし粉の味がして、懐かしさをそそる味なのです。たいていの場合タイ製なのですが、おかしな形をしていると思ってよく見てみると、どうも象らしき形をしていたりします。
おやつについては「必ず」という点を別とすると、どこの国のでも見られる光景かもしれませんが、私がカンボジアでしか見たことがないのが、その休憩時間中の歌と小話です。今回の現地訪問で見られたのはこの「歌」。休憩時間中に、HCCスタッフがSBPNメンバーに尋ねます。「誰か歌を歌わないか?」ワークショップの休憩中という状況の中、私には唐突にしか思えない提案なのですが、これが必ず誰かしら歌うメンバーがいるのです。少し恥ずかしそうにしつつも、伴奏も何もない中歌を披露する子ども。おどけてみせるでもなく、きちんと起立して生真面目に歌います。他の子どもたちも冷やかすでもなく真面目に聴いています。それでおいて、別に校歌(そもそもある可能性が低い)や国家を歌っているわけではなく、歌謡曲を歌っているのです。こちらの歌謡曲はかつての日本の歌謡曲のように情緒的なので(海外から輸入したダンスポップなどもありますが、こういう場では歌わないようです)、その特徴どおりに丁寧に歌い上げます。どうもこの光景が不慣れな私は、子どもたちが歌っている間どういう顔をしていいのか分からず、一人人知れず困惑しています。

写真は校長先生にご褒美の文房具をもらうメンバー。なんと歌のご褒美なのでした

次回は8月9日~12日のプレイベン州コムチャイミア郡「子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告」の最終回として、村人の声をお伝えします。