カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

最悪の形態の児童労働

2007年08月25日 20時00分52秒 | カンボジアの子ども
みなさんこんにちは、以前カンボジア事務所に勤務していました平野です。前回は児童労働や子ども時代のあり方についての定義や考え方について書かせていただきました。児童労働の定義については、各地域や国の実情によって様々な考え方があり、受け止め方があります。しかし一方で、国連子ども権利条約を批准する国が増える中、「最悪の形態の児童労働」については早急に撲滅すべき、という方向で世界的合意があります。

【最悪の形態の児童労働とは】

最悪の形態の児童労働は「危険な児童労働」と「断固として最悪な形態の児童労働」に分けられます。前者は炭鉱労働などの過酷な労働の場合、あるいは仕事の内容自体は過酷でないが、労働時間が非常に長い場合などを指します。国によって様々な産業があるので、どの仕事を有害とするかについては、各国である程度調整することが許されています。これに対して「断固として最悪な形態の児童労働」は、国際子ども権利センターがカンボジアで取り組んでいる人身売買や子ども買春、あるいは奴隷労働、子ども兵士などで、ある意味で「労働」ではなく「犯罪」という考え方もありますが、労働として分類したほうが対策を取っていきやすいとされています。

【形成されつつある合意】

一般的な意味での児童労働の定義には様々な考え方がある中、この最悪の形態の児童労働については、かなり多くの援助機関、NGO、市民団体、そして市民が「早急に撲滅すべき」という考え方で一致してきています。これには1989年の国連子ども権利条約をきっかけに子どもの権利を守ろうという動きが大きくなったことも関係していると思われます。1999年のILO(国際労働機関)による「最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃のための即時の行動に関する条約」でもILOの条約としてははじめて「子どもの権利」が明記され、世界的な動きが加速しました。

【カンボジアにおける最悪の形態の児童労働】

上に述べたとおり、最悪の形態の児童労働には犯罪そのものや、限りなく犯罪に近いものが含まれており、カンボジアに限らず最悪の形態の児童労働に従事する(させられている)子どもの数を推計するのは困難なことです。しかしある国際機関の資料によると、カンボジアでは23万2000人の子どもたちがこの形態の児童労働で働いているということです。人口1300万人のカンボジアにおいて、これは大変な数と言っていいでしょう。中でも人身売買や子ども買春については、カンボジアは地域でももっとも深刻な問題を抱えた国とされています。最悪の形態の児童労働の体験は、子どもの将来に大きな影を落とすケースが多くあります。例えば現在のカンボジアは内戦が終わってから時間がたつため、子ども兵士はいませんが、そうした過去に苦しんでいる人は少なからずいると思われます。

改めてではありますが、国際子ども権利センターが取り組む人身売買や子ども買春の問題が世界的に大変問題とされていること、そしてカンボジアには支援を必要としている子どもたちがたくさんいることがお分かりいただければ幸いです。


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写真はプノンペンの川辺で果物を売る少女です(撮影:甲斐田万智子)



児童労働の定義

2007年08月16日 04時06分32秒 | カンボジアの子ども
みなさんこんにちは、以前カンボジア事務所に勤務していました平野です。前回は児童労働の量的な意味での世界的動向とカンボジアでの状況について簡単に書かせていただきました。今回は児童労働という言葉の定義について書かせていただきます。

【児童労働の定義】

児童労働と一口に言いますが、その定義については意見の違いが非常に多く、統一的な見解はないとされています。ILO(国際労働機関)の定義によると、まず12歳未満の子どもの場合はすべての経済活動、12歳から14歳については有害な仕事についている場合、あるいは通常の仕事でも週14時間以上働いている場合、15歳から17歳については有害な仕事についている場合に、児童労働に従事していると考えられています。ここでいう経済活動は賃金労働に限りません。自給自足の農家をやっている親を手伝ってもそれは経済活動です。

【子ども時代の定義】

しかしこのILOの定義には様々な異論反論があります。これは「子ども時代」の定義にもよるかも知れません。国連子ども権利条約は国際子ども権利センターはもちろん多くの子どもに関わる援助機関、NGO、市民団体などでその理念の柱として取り入れられている大切な条約です。また、実際には各国の法執行力の問題もあってそのような力はなかなか持てていませんが、批准している193カ国においては、本来は憲法と同様に法的拘束力のあるものとされています。

一方でこの条約は「西洋的な理想の子ども時代に対する考え方」に基づいているという考え方の人たちもいます。例えばアフリカでは、労働には従事せず、勉強と余暇にだけに費やす子ども時代、というのはアフリカの実情にも文化にも即実際にはさない、として、アフリカ版の子ども憲章を作りました。そこには子どもには権利とともに義務がある、として、「家族を助けるべき」と明確に書いてあります。

結婚する年齢や子どもを持つ年齢は、その国の平均寿命、教育程度、経済的豊かさによって変わると言われています。例えば、平均寿命が50歳代で高校に行く人が珍しい国の15歳の少年は、その国の大人から見ればもう大人一歩手前、早く仕事を覚えて20歳前には結婚しなさい、という感覚かも知れません。しかし身体的な面を考えると、そのような年齢でおとなと同じようなこと(例えば仕事や出産)をすることには危険が伴いがちです。栄養不足からあまり体格の発達していない若者の多い途上国ではなおさらでしょう。


【子どもの権利】

働く子どもの権利の問題もあります。アフリカのある国では、その国から他の国に渡る船が「人身売買」として摘発された際、船の中の子どもたちが「稼ぐチャンスを潰された!」と怒ったという話があるそうです。「子どもの権利と言うならば、子どもたちの働く権利を尊重するべきだ」と主張する人もいます。働くことをまったく否定してしまうと、働く子どもの権利の実現が難しくなる、ということもあります。確かにそのように地域や国の実情に合わせて現実に対処していくことは必要でしょう。しかしだからと言って、やはり子どもたちは勉強と遊びを中心に健やかな子ども時代を過ごすべきだという理想が間違っている、ということになるわけではありません。また、必要以上に「現実を考慮すべき」と言うだけでは現状は変わりませんし、そういった文句は時には現状を肯定するためだけの言い訳として使われることもあります。


子ども時代をどうあるべきと考えるか、そして児童労働をどう定義するかは簡単ではないのかも知れません。ただし、ひとつ言えることは、人身売買や子ども買春をはじめとした「最悪の形態の児童労働」、これについては断固撲滅すべきである、という世界的合意がかなりあるということです。次回はその最悪の形態の児童労働についてです。


(写真は、プノンペンの川辺ではすの実を売る少女   撮影:甲斐田)

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児童労働は減っている、が…

2007年08月05日 02時08分11秒 | カンボジアの子ども
みなさんこんにちは、以前カンボジア事務所に勤務していました平野です。機会に恵まれましたので、また記事を投稿させていただくことになりました。今回は児童労働の世界的動向とカンボジアでの動向について書かせていただきます。

【近い将来児童労働は撲滅される?】

ILO(国際労働機関)はユニセフなどと並んで児童労働撲滅に中心的な役割を果たしている機関です。そのILOが定期的に刊行している児童労働に関する報告書の2006年に発行された最新版はよい意味で衝撃的なものでした。タイトルはズバリ「The end of child labour: Within reach」(児童労働の終焉は手の届くところに、といった感じでしょうか)というもので、近い将来児童労働は撲滅される、という自信を示した内容でした。

事実、ILOの推計では、2000年には2億4600万人の子どもたちが児童労働に従事しており、それが2004年には2億1800万人に減った、つまり2800万人も減ったということで、これはもちろん大変喜ばしい結果です。

【取り残される国々】

ただしこの数字はもう少し突っ込んで調べてみる必要があります。様々な資料を調べていくと、この大きな減少の大部分がラテンアメリカ、そしてカリブ海沿岸で起きていることがわかります。そして言い換えると、アジアやサハラ砂漠以南のアフリカではあまり減少していないということも見えてきます。もっと言えば、サハラ砂漠以南のアフリカでは、児童労働の発生率はわずかながら減っていますが、働く子どもの数は増えています。これは子どもの人口が増えているからです。

さて、ここでそれぞれの地域で思いつく国々を考えてみてください。ラテンアメリカというと例えばブラジル、チリ、メキシコ…アジアはカンボジアに中国にインドに…そしてサハラ砂漠以南のアフリカというとタンザニアやウガンダ?思いつく国はいろいろだと思いますが、ひとつ見えてくることは比較的豊かな国で児童労働が減り、もっとも貧しいとされる地域が取り残されていると現実です。ラテンアメリカ、カリブ海沿岸での児童労働の減少は大変喜ばしい進歩ですが、あえて言えばもっとも難しいところが残ったままとも言えるかもしれません。

【カンボジアの児童労働】

カンボジアはアジアの中では最貧国とされ、世界でも特に開発の遅れている国として「後発開発途上国」に分類されている50カ国のひとつです。児童労働については、2001年に国で初めての全国的調査がありましたが、あまりデータが豊富とは言えない状況です。また、最悪の形態の児童労働と言われる子ども買春などについては正確な数字は不透明です。ではありますが、ある比較的信頼のおけそうなデータによると、150万人の7歳から17歳の子どもたちが児童労働に従事しており、これはその年齢の子どもたちの40%にあたるということです。これは他のアジア諸国に比べても大変高い割合です。

児童労働が減っていることは事実です。ただ数字の裏にはこのような現実があり、特にカンボジアを含む最貧国においてはこれからも児童労働との厳しい戦いが待っているであろうということもまた言えるでしょう。

写真はフェリー乗り場で働く子どもたち
子どもの成長を阻害する児童労働を防ぐために
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