カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

女子教育の重要性

2006年10月20日 18時04分19秒 | 子どもの権利の普及

みなさんこんにちは、平野です。前回の記事では教育が人身売買や労働搾取をなくす上で大きな役割を果たしうることについて書きました。今回はその流れから、女子教育の重要性について書きたいと思います。カンボジアに限らず、多くの国で女子は男子よりも教育を受ける機会が与えられることが少ないのが現状です。女子教育はどのような観点から大切なのでしょうか。

【人権としての教育】

教育の大切さは、これまでさまざまなかたちで語られてきました。かつては「経済発展に必要な良質な労働力の創出のために学校教育を」と考えられたこともありましたが、最近では教育の“手段としての重要性”という側面だけでなく、“それそのものとしての重要性”に光をあてる考え方が主流となってきています。経済発展との関連に関わらず、教育を受けることは人間の基本的な権利なのだという考え方です。そして教育が基本的人権であるならば、当然すべての子どもが教育を受けられるようでなくてはなりません。

もちろん、すべての子どもたちに教育を、ということは随分前(たとえば1948年の「世界人権宣言」)から唱えられていることですし、女性という観点から見ても1979年の「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」などがあります。ただ最近そういった「教育=人権」の考え方が主流になり、女子教育の重要性が改めて注目されているということです。手段としての重要性とそれそのものとしての重要性、という考え方は子どもの権利とも通じる部分があります。子どもの権利の実現は、立派なおとなへの成長につながると同時に、それ自体として大切な、例えばおとなになるまで生きられない子どもでも享受すべき、基本的人権であるからです。

【生活向上に大きく寄与する女子教育】

教育は人権であると同時に、教育は手段としての重要であることもまた事実であり、女子が教育を受けることについても、それによってさまざまな社会的利益があると考えられています。例えば本人を含めた家族や子どもの栄養、衛生状況の改善などによる乳幼児死亡率の低下、あるいは子どもの教育への良い影響、良質な労働力としての経済発展への貢献などが挙げられますし、また前回の記事にあるように人身売買の防止にもつながります。また教育はエンパワーメントをもたらすため、エンパワーされた女性は妊娠や出産に決定権を持つようになり、一般的には結果的に適正な人口に向かうと言われます。さらには、より民主的で平等な社会の実現にも女性のエンパワーメントは寄与するでしょう。

【教育の中身 】

学校教育では、通学と同時にその中味も大変重要です。カンボジアの学校については、「道徳の時間」の中で旧来からのジェンダー観を植え付けるような教育がされているという批判があります。男の子女の子それぞれの「守るべき規律」が暗唱されており、その中には「娘は家族のために犠牲に」「夫が怒ったら妻は口答えしない」などの記述があるからです。

女子教育というと女子の通学率の向上が議題に上りがちですが、学校教育の中味にも着目していかないと、旧来の価値観の再生産につながり、結局通学率の向上にもつながりにくいと言えると思います。

※写真はとある小学校の女子生徒たちです。先生が来るかわからない、と言いつつじっと待っていました。

すべての子どもが教育を受けられる社会に↓
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いただいた質問にお答えします(2)<教育と人身売買の危険の関係>

2006年10月08日 19時36分40秒 | その他

みなさんこんにちは、平野です。前回に続いてこれまでにコメントというかたちでいただいていた質問に答えさせていただきたいと思います。今回は教育機会の増大と人身売買や労働搾取のリスクの低減の関係についてです。

【質問2:なぜ教育を受けないことが人身売買や労働搾取につながるか】

8月31日の記事「子どもや女性の人身売買の実態<望まれる取り組み3>」について9月2日にいただいたコメントです。

初歩的な質問になるのですが、教育を受けないというのが、なぜ人身売買や労働搾取の被害にあう原因になるのでしょうか??

<お答え>
子どもにとって教育を受けない、ということは学校に行っていない、ということであり、それは子どもが労働させられたり出稼ぎに出されたりする可能性を飛躍的に高めます。逆に定期的に学校に行っているということは、家の手伝いがあったり学校のないときに働くといったことがあったとしても、その子どもの安全が最低限保たれていることを意味します。ですから就学年齢の子どもにとっては、「教育を受けている(学校に行っている)」ということ自体が「人身売買されてない、最悪の形態の児童労働に従事していない」ということとイコールに近いわけです。

【おとなになったとしても】

また、就学年齢を過ぎた人たち、おとなと言われる年齢の人たちであっても、教育のあるなしによって人身売買や労働搾取にあう危険性は大きく異なってきます。読み書きや計算ができるのとできないのとでは選べる職業の選択肢が大きく違いますので、できない人々は斡旋業者に全面的に頼らざるをえないような状態に追い込まれがちです。そして不当な労働条件を押し付ける契約書であっても、読み書き計算ができなければ言われるがままにサインしてしまいがちです。また、例えば外国で搾取されてどうにか逃げよう、などということになった場合でも、地図が読めるか、大使館というものの存在を知っているか、「プリーズヘルプミー」という英語を知っているか…などといった事柄がその人の運命を左右しかねません。

教育は自分自身に対する自信や権利意識というものも大きく関係してきます。日本人がカンボジア語の契約書を出されたら、翻訳してくれ、といった要求をして、サインを拒むでしょう。しかし母語の読み書きができない貧しい人々の場合、字が読めないから契約書にサインしない、のではなく、読めないから言われるがままになってしまうことが多いのです。またNGOが人権や労働者の権利についての意識啓発のパンフレットなどを配布しても読めなければ内容がわかりませんし、自分に自信がなければ立ち上がることも困難です。

もちろん世の中には環境に恵まれず、教育を受けたことがなくとも優秀で勇敢な人々もいます。しかし多くの人は家族を中心とした周囲の人たちにケアされ、周囲の人たちから言葉をはじめとしたさまざまなことを学んで成長していきます。これは言い換えれば子どもの権利が守られている状態ということですが、学校教育もその中で大きな重要性を占めています。こうして考えてみると、私たちが当たり前と思っていることの多くが、実は幼児期に受けたケアあるいは学校教育によって初めて得たものであることが感じられます。

※写真は学校で学ぶ子どもたちです。

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質問にお答えします1<児童労働と子どもの権利侵害>

2006年10月05日 08時53分22秒 | その他

みなさんこんにちは、平野です。おかげさまで再開後のカンボジアだよりは以前以上に多くの方々に訪問していただいています。カンボジアの子どもたちの問題に多くの方々が関心を抱いてくださっていることをうれしく思うとともに、訪問してくださるみなさまに御礼申し上げたいと思います。今回と次回はこれまでコメントというかたちでいただいている質問に答えさせていただきたいと思います。いただいてから時間が空いてしまっており申し訳ございません。

【質問1:児童労働によってどのような権利が侵害されるか】

まず8月10日の記事「子どもや女性の人身売買の実態<なぜ出稼ぎに出てしまうのか>」に対して8月31日にいただいているコメントです。

はじめまして、こんにちは。私は今、児童労働によってどんな権利が侵害されているか調べているのですが、どのサイトを見ても教育を受ける権利としか書いていません。
なので、もしよければその他にどのような権利が侵害されているか教えていただけたらと思います。よろしくおねがいします。

<お答え>

このコメントをいただいたその日の記事「子どもや女性の人身売買の実態<望まれる取り組み3>」にあるように、国連子どもの権利条約に定められた子どもの権利には大きく分けて「生存する権利・保護される権利・発達する権利・参加する権利」の4つの分野があります。条約自体は全54条からなるものですが、4つの権利ごとに分けて記述されているわけではありません。ただ全体としてそれらの4つの権利を守るための条項が定められているわけです。教育に関する条項は第28条と第29条に見られますが、これらは通常「発達する権利」に分類されています。

【さまざまな権利を侵害する児童労働】

では次に児童労働が子どものどのような権利を侵害するか、という部分についてですが、実にさまざまな権利を侵害する場合が多いと言えます。例えば子どもが家から遠く離れた外国の危険な建設現場に不法に入国させられ低賃金で働かされていたとします。この子どもに対する権利侵害を見ていくと、第11条(国外不法移総送・不返還の防止)や、第18条の(親の第一次的養育責任と国の援助)、第32条(経済的搾取・有害労働からの保護)そして先ほどの教育関連の条項、とさっと見渡しただけでも数々の権利侵害が発生していることがわかります。そしてこの子どもが雇い主に暴力を受けていたり、強い薬品を使わされてそれに対して文句も言えずに病気になっていたり、病気になっても休みが与えられていなかったりすれば、関係する子どもの権利の条文はさらに増えます。児童労働の現場では往々にしてそのような事態が発生しており、4つの分野の権利全てが侵害されることも多いのです。

今回の記事では国際教育法研究会による日本語訳を参考にさせていただきました。前文を含めた条約全体は「子どもの権利条約ネットワーク」のホームページなどでご覧になれます。http://www6.ocn.ne.jp/~ncrc/doc_1crcj.htm

※写真はタイ国境へとリアカーを引く男の子です。

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