カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告<ワークショップの雰囲気>

2005年08月31日 00時11分51秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)
みなさまこんにちは。平野です。今回はこれまでお伝えしたSBPN(School Based Prevention Network=学校ベースの人身売買防止ネットワーク)フォローアップワークショップの雰囲気について述べさせていただきたいと思います。

【カンボジアにおける先生・生徒】

カンボジアにおける先生は、かつての日本における先生のように、尊敬され、権威のある存在です。現在の日本でも尊敬され、権威のある先生はたくさんいると思いますが、もっと絶対的という意味で、かつての日本の先生(私は実体験がありませんが)のような存在ではないかと思うのです。実際には、給料のあまりの低さから、お金を払う子どもしか教室に入れない、塾での副業に熱心で学校の授業をきちんとやらない等々の「尊敬できない」行為も多く耳にしますが、先生の前に立つ生徒の態度は、今の日本の子どもたちの多くとは、良くも悪くも明らかに違います。

さて、なぜカンボジアにおける先生と生徒の関係について触れたかと言いますと、NGOスタッフとワークショップやトレーニングに参加する子どもたちの間にも、似たような雰囲気を感じることがあるからです。実際、参加者がNGOスタッフを「ロックルー(先生)」と呼ぶことは珍しくなく、特に農業技術トレーニングのような場合、実際に先生っぽく振舞ってしまうNGOスタッフもおり、「NGOスタッフは先生じゃなくてファシリテーターに」というのは多くのNGOで気をつけている点かと思います。
HCCスタッフについては、やはり子どもと話すことに慣れているせいか、上からものを言う感じのスタッフはおらず、冗談も交えながら楽しくやっています。ただ生徒はそれでも「ロックルー」と呼びます。場所が教室で、子どもたちは学生服を着て来ていることもあるので、自然とそうなるのかも知れません。そして生徒はHCCのスタッフの質問だけに答えるため、ともすればやや紋切り型のやり取りになる可能性はあります。ある生徒の発言に別の生徒が反応し、自然発生的にディスカッションになる、といったふうになると、もっと子どもたちの考えが引き出されてよいのだが、というのが私の印象です。

【前回の記事の補足】

以上のような状況も踏まえて、前回の記事について補足させていただきたいと思います。SBPNメンバーの子どもたちが直面しているさまざまな困難に対する解決策は、全面的に子どもたちからの発案であったものもあれば、子どもたちの発案をもとにHCCスタッフが膨らましたもの、HCCスタッフが促して子どもたちが思いついたもの、とさまざまあります。前回の記事の書き方は「全て子どもメンバーたちの提案」とも受け取れるような書き方になっていたので、ここに補足させていただきます。

【成果を見せたい】
これはカンボジアに限らず、子ども、もしくはおとなも含めて、なにかの成果を期待されている人たちにありがちなこととは思いますが、どちらかと言うと良いことを言おうという心理が働いていたのかもしれません。日本人が来ていることも、もしかしたら、影響したのかもしれません。

私見でもあり、また同じような話を耳にすることも少なからずあるのですが、受益者と言われる立場にグループ分けされる人たちは、NGO等援助機関のスタッフに対してできるだけ良いことばかりを言おうとする傾向があるのかもしれません。そしてそれは決して「できるだけ援助を引き出そう」という戦略的な側面からではなく(それもあるかもしれませんが)、「期待外れだった」と思われたくないという心理からではないかと私は考えています。村人の中には、さまざまな経験から、NGOを「勝手に来て勝手に去っていく」存在として捉えている人も少なくありません。


遠慮なく問題点や不満を述べることができるのは、その地域に入ってくる援助機関が多いため、ある団体に去っていかれてもかまわない、という人たちか、特定の団体との長い間の信頼関係で、率直にものを言えるようになった人たちだけだと思います。現状のNGOといわゆる受益者の人々との関係は、ほとんどの場合この点で対等でありえないと私は考えています。

子どもたちの雰囲気の話からそれて、だいぶ私の私見に基づく見解を述べてしまいました。次回はワークショップ中に挙げられた、人身売買業者の誘いやドメスティックテックバイオレンスの実例についてお話します。


子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告<子どもたちによる意識啓発活動>

2005年08月26日 19時36分19秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)
みなさんこんにちは、平野です。今日はいよいよSBPN(School Based Prevention Network=学校ベースの人身売買防止ネットワーク)のメンバーによる活動報告についてお話します。

【学校で、村で、メンバーたちの熱心な活動】

ネットワーク結成後、前回掲載したテストの内容(つまり子どもの権利、児童労働、人身売買業者の手口、人身売買関連の法律などについての知識)をHCCによるトレーニングで勉強したメンバーたちは、今度は自分たちが担い手となり、学校や村でそれらのことについて話し、人身売買の防止に努めます。それが「SBPNメンバーによる意識啓発ワークショップ」です。今回は、具体的にどのような活動をしたのか、そしてどのような困難を経験したのか、子どもたちの話に耳を傾けてみましょう。

<学校での活動>
学校での活動には、

・朝礼でみなの前で話す
・クラスでクラスメートに話をする

といった活動が挙げられます。人数という意味で最大のワークショップは、クラバオトマイ小学校で朝礼のときに行われたものでしょうか。対象人数は全校生徒678人!(欠席がなければ、ですが)このときは事前にミーティングも行い、1回につき2人のメンバーが2つのトピックについて話し、計4回行われたそうです。学校・先生側の積極的な協力があったことがうかがえます。

またクラスで話したというメンバーも少なからずいました。朝の時間や休み時間の後を利用して話をしたということです。対象人数は、クラスですので、平均して40人程度。今回聞き取りをした限りは、自分のクラスで話した、というケースが多く、他のクラス(学年)のはほとんど進出していないようでした。今回訪問したの3つの小学校では、メンバーが5・6年のみでしたので、今後他の学年にも積極的に進出して欲しいところです。アンチャン小学校では、「他のクラス(学年)の先生にも、話をさせてもらえるよう頼もう」という頼もしい声が挙がりました。

<村での活動>
今カンボジアは夏休みの真っ只中ですが、メンバーたちは学校のみならず、村でも意識啓発活動をしています。友達が家に来たときに話す、牛を草を食べに連れて行くときなどに、一緒に行く友達と話す、といった草の根における意識啓発活動が展開されたとのことでした。

【信じてもらえない??】

活動を行う上で苦労した点としては、「聞いてくれない」「信じてもらえない」という声が想像以上に多く、ある学校では、メンバーの1人から「半分くらいの人しか分かってくれなかった」という声が挙がると、周りの生徒たちも「うんうん」。これについては、純粋に農作業が忙しい、という意味と、話の内容を信じてくれない、という2つの意味があります。

前者については、「決まった場所でなくていいのだから、相手に合わせてこちらから出向いて行こう」「お祭りや集会など色々な場を活用しよう」「あきらめずに何度もトライしよう」という解決策が話し合われました。そして後者については、「みなの役に立つことだということを分かってもらおう」「具体例に触れよう」「村長など村の有力者の人たちに支援してもらおう」といった解決策のほか、HCCのトレーニングを受けた、というIDカードを作って欲しいという要望がありました。話を聞いている限り、信じてくれないのはおとなに多いようで、子どもたちが自信を持って大人たちに話をするためにもよい方法かもしれません。

一方で、自分たちの側の問題として、

・話すことを忘れてしまう
・緊張してしまう
・自分たち自身が忙しい(友達に話そうと思ったら牛の世話に行く時間になった)

といった声が挙がり、それらについては、「ノートを活用しよう」「繰り替えしやることで慣れよう」といった解決方法が話し合われました。

また、HCCへの要望として、もっとポスターやパンフレットなどが欲しいという意見が出たため、HCCが持参したパンフレット類が配布されました。それらを活用し、みなで話し合った解決策をいかせば、ますます充実した意識啓発活動ができるものと期待しています。


子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告<まずはテスト>

2005年08月25日 19時45分21秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)
みなさんこんにちは。平野です。今回はSBPN(School Based Prevention Network=学校ベースの人身売買防止ネットワーク)のフォローアップワークショップで、メンバーが受けるテストについてお伝えします。

【トレーニングで勉強したこと、覚えてますか?】

SBPNメンバーがフォローアップワークショップ(※22日記事参照ください)の最初に受けるのが、子どもの権利や児童労働、人身売買業者の手口、人身売買に関する法律に関するテストです。これはメンバーが選抜され、SBPNの結成されたのちHCCスタッフから受けたトレーニングの内容に基づくものです。以下にテストの日本語訳です。

Healthcare Center for Children (HCC)
子どもの権利、児童労働、性的搾取に関するフォローアップテスト

1.子どもの権利、児童労働、人身売買の手口、人身売買に関る法律について聞いたことがありますか? 
はい□  いいえ□  なぜ?  どこで?                                         

2.1で“はい”のを選んだ方、誰によるものでしたか?校長先生□ 先生□ 生徒□

3.なにを学びましたか? 

                            
4.親が子どもにワクチンを受けさせようとしなかったら、子どもの権利の侵害ですか?  はい□  いいえ□  なぜ?                          

5.HIV/AIDSにはどのようなかたちの感染がありますか?                   

6.親が子どもが学校にいくことを許さなかったら、子どもの権利の侵害ですか? 
はい□  いいえ□

7.もし誰か知らない人があなたに“仕事があるよ”と言ったら、あなたは行きますか? はい□  いいえ□  なぜ?                                      

8.人にむりやり性産業で働かせたり、重労働をさせたりするのは、違法だと思いますか? はい□  いいえ□  なぜ?                           
9-A 親が自分の子どもを売ったら、罪に問われますか?なぜ?                                             
  B 夫が自分の妻を売ったら、罪に問われますか?なぜ?                                               
  C ドメスティック・バイオレンスは違法ですか?□ 合法ですか?□ なぜ?       
10.もしあなたが牛の世話をしているときに、田んぼで女の子が男にレイプされようとしているところを目撃したら、助けますか?どのようにですか?


以上の10項目ですが、すこし補足したいと思います。

補足①…設問1の「なぜ?」は、「意識啓発ワークショップに参加したから」「先生が学校で教えてくれたから」といった答えを想定しています。そいういった意味では、「どういったかたちで?」に近いかもしれません。

補足②…このテストは一般の子ども用に作られています。今回受けたのはSBPNメンバーですので、今回に関しては設問2の選択肢には「HCCスタッフ」が入っていたほうが正確かもしれません。           
            
このテストを受けるメンバーの表情は、真剣は真剣なのですが、できなくてはまずいと思ったのかお隣とゴニョゴニョする子も。一応「自分でやるんだよ」と言いましたが、話し合って思い出すのでもいいかな、とあまり強くは言いませんでした。

さて、このテストは終わると、いよいよSBPNメンバーの活動報告です。次回をお楽しみに。                             

子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告<SBPNフォローアップ>

2005年08月22日 19時32分24秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)
みなさんこんにちは、平野です。今回から数回にわたり、3つの小学校で行われたSBPN(School Based Prevention Network=学校ベースの人身売買防止ネットワーク)フォローアップについてお伝えします。
前回の収入向上プログラム(家畜銀行)に続いて、「子どもが主役」です。

【SBPN=学校ベースの人身売買防止ネットワーク】

今回はクラバオ・トメイ小学校他3校の小学校でSBPN(学校ベースの人身売買防止ネットワーク)のフォローアップが実施されました。SBPNとは“School Based Prevention Network”の頭文字をとったもので、対象地域の14の小中高にそれぞれ形成されます。そしてその子どもたちに子どもの権利、人身売買業者の手口、人身売買に関する法律などについてのトレーニングをおこないます。そうすることで、彼ら彼女らが他の子どもたち、あるいは大人たちにそれらの事柄について広めていく担い手となり、人身売買防止につなげていこうという活動です。各校10名が基本単位ですが、学校によっては10名以上選抜された学校もあり、結局14校で164名となりました。そして各ネットワークごとにリーダー、副リーダー、書記(secretary)が存在します。
※「ネットワーク」という言葉の性質上紛らわしいのですが、学校単位が基本です。学校と学校を結ぶという意味ではありません。

今回訪問したのは3つとも小学校で、各ネットワークとも5・6年生で構成されていますが、こちらは入学時年齢もさまざまなこともあり、12歳から17歳の子どもまでいました。先生による選出ですが、必ずしも成績のいい生徒ばかりというわけではないものの、悪くても真ん中くらいのようではありました。また男女比についてはどの学校も女子が上回っています。いくつかの例を出してみましょう。

クラバオチャハ小学校…5年生1名・6年生10名 
           男女比…4:7  
           平均年齢13.9歳
クラバオトマイ小学校…6年生10名  
           男女比…2:8
           平均年齢15.6歳
           メンバーの平均成績10.9番/41人中

ちなみに三役の顔ぶれですが、クラバオチャハではリーダーと書記が男の子、クラバオトマイでは副リーダーが男の子です。後者はとにかく、前者は人数比の割りに男性優位?しかし選挙の結果ですので、これでいいのでしょう。

【フォローアップとは?】

こうしたネットワークメンバーに対する「フォローアップ」ですが、これは以下のように行われます。

①まずテスト
②そしてネットワークの活動報告
③最後にレポートの書き方

テストは人身売買、子どもの権利、HIVなどについての基本的なものです。活動報告では、学校や村で行った意識啓発活動の回数や内容、そして苦労した点などについてメンバーの子どもたちが話します。そしてそれに対して解決方法や今後の方針について話し合い、それらをすべてを含んだレポートの書き方がHCCスタッフから説明されます。このレポートはコミューン評議会に提出され、その月例会議にもメンバーが出席する予定となっています。そのためコミューン評議会の月例会議の前にネットワークの月例会議が設定されます。

※「コミューン」は村と郡の間に位置するサイズの行政区分であり、日本語では表現しがたく、カタカナ表記としています。

要するに、SBPNメンバーの知識の確認をし、これまでの活動について振り返り、今後の活動について検討するのがこの「フォローアップ」なのです。

SBPNについて、そしてフォローアップについて、大体ご理解いただけたでしょうか?次回はテストについてお話します。






子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告<最貧家庭との家畜貸し出し説明会>

2005年08月19日 17時12分04秒 | 人身売買防止プロジェクト(収入向上)
みなさんこんにちは。甲斐田から紹介を受けました、カンボジア事務所平野将人です。自己紹介につきましては、近々「駐在員のつぶやき」のようなかたちで別にブログを開設いたしますので、そちらをご覧ください。

さて、今回から数回にわたって、8月9日から12日にかけての3泊4日の出張について、いろいろとご報告させていただきたいと思います。純粋な活動紹介からこぼれ話的なものまで、HCCの国際子ども権利センター支援プロジェクトの活動地域の様子がイキイキと伝わる内容にしたいと思いますのでお付き合いください。

※プロジェクトの概要については、18日付けの甲斐田の記事を、また会員の皆様は子夢子明51号をご参照ください。

【子どもが主役の家畜銀行】

到着日最初に訪れたのは収入向上プログラムの対象となった、コムチャイミア郡ソムオンチューンコミューンの10家庭に対する家畜貸し出し説明会です。これはお金の代わりに家畜(雌)を貸し付け、子どもが産まれたら返してもらうという「家畜銀行」です。支援対象の10家庭が一堂に会し、契約書の取り交わしや家畜銀行のルールについての話し合いが行われました。

特徴的なのは、牛はあくまでも少女に対して提供されること。彼女たちが出稼ぎに出ることなく、学業を進められることが大切なので。会では始めに少女たちが一人一人呼ばれ、氏名年齢学年を確認、また成績に将来の夢も聞かれました。気になったのは成績で、1番が4人に2番、3番…ことごとく成績優秀者。選考基準には貧しさ、女の子どもの多さ、などがあり、最終的にはHCCと村のリーダーたちが決めるので、それらの基準を満たした、支援の必要な少女であることは確かなのですが、第一段階は学校長による推薦のため、貧しい子どもたちの中でも成績が優秀な子どもが選らばれたのかもしれません。
 将来の夢としては教師と農民が半々。「プノンペンの大学に通ってみたい?」との質問に何人かの子が「人身売買が怖いからいやだ」と返答。よく分かってくれているようですが、もう少し大きくなったら、怖さを理解しつつ大志も抱いて欲しいものです。

それはそれとして、まわりの大人たち(村長やコミューンの顔役たち)、ちょっと口を挟み過ぎ!「成績は何番だ?3番か?5番か?10番か?ん?ん?」「教師になりたいのか?どうなんだ?ん?ん?」みたいな感じで、困っている女の子もいました。もういいですよ、というムードを甲斐田やHCCスタッフがそれとなく出すのですが、そこは“村の有力者たち(village authority)”(この言葉、頻出です)「ちょっと黙って」とも言えず苦笑いの我々でした。

【ギャンブル禁止!】 

 肝心のローン内容の家畜ですが、原則として皆が牛を欲しがっていることを言わねばなりません。主な理由は、稲作(田起し)の労働力・めったに死ぬことがない・餌が要らない(そのへんの藁や草を食べさせていればいい)といったものです。しかし今回は予算の都合から2家族は豚ということになっています。

牛銀行ルール:

売ってはいけない
交換してもいけない
ギャンブルに手を出さない
種付けして産まれた1頭目の仔牛はHCCに、2頭目はその家族に、そして最初の牝 牛をHCCに返す

といったもの。死んだ場合どうするかはその時相談とのことです。豚については予算内で買えそうな優良な母豚がなかなか見つからず、その時点では未購入、小さい豚を2匹買う案も出たこともあり、豚銀行のルールは後日再検討になりました。ちなみに牛銀行ルールの最後の1つは、ズバリ責任感を持ってもらうためです。1頭目が自分達に来ると、そのあと牛の世話が疎かになるかもしれない、というのがスタッフの弁でした。考えてみれば私だったらその時点で牝牛を返しますね。ということでなるほどと納得。
 面白いのは「ギャンブルをしない」という項目でどうやって監視するんだという気もしますが、要はせっかく牛を貸し付けるのだからしっかり仕事してください、ということでしょう。契約者は少女たちながら、ここだけは、お父さんたち向け?ともあれ全ての牛(豚)が丈夫な赤ちゃんを産むことが待たれます。

売られる少女の劇を演じた中学高校生

2005年08月18日 01時22分32秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)
みなさん、こんにちは。甲斐田@プノンペンです。
 私がカンボジアの8月を経験するのは4回目になるのですが、今年は例年になく、とても涼しいです。日本からきた人も日本より涼しいと言うくらいです。かく言う私も8月3日に約2ヶ月の日本滞在を終えてこちらに戻ってきました。
日本ではほとんどクメール語を勉強していなかったので、だいぶ忘れたのでは?と心配していましたが、結構覚えていたのには嬉しくなりました(といってもまだカタコトなのですが・・・とほほ)。
 今回こちらに戻って、カンボジアでの生活が大きく変わったのは、国際子ども権利センターのカンボジア事務所にもう一人スタッフが増えたことです。これまで、カンボジア便りを一人で発信してきましたが、今後はこのページを新スタッフ、平野将人(ひらのまさひと)と二人で発信していくことになりますので、どうぞよろしくお願いします。

 こちらに戻ってすぐに、国際子ども権利センターが支援しているHCCのプロジェクト地であるプレイベン州のコムチャイミア郡を訪問しました。今回は、小学生の人身売買防止ネットワークの活動と収入向上プログラムのフォローアップが目的でした。
 このプロジェクトは、大きく二つの活動に分かれているのですが、簡単に言うと、一つはコムチャイミア郡すべての小・中・高校(計14校)で各10人の子どもたちがネットワークをつくり、人身売買の手口、出稼ぎの危険性、子どもの権利、児童労働、ドメスティック・バイオレンスなどについて研修を受け、それを回りの子どもたちに伝えていく意識啓発活動です。もう一つは、学校に通う少女たちの中で、貧しく、父親がいないなど、出稼ぎに行かざるをえないような家庭に牛などを貸し出し、貧困から抜け出す支援をおこなうことにより、人身売買の危険から子どもたちを守ろうとするものです。
 詳しい報告は、平野から後ほどさせていただきますが、今回印象的だったことは、小学生たちが周りの友達に伝えようとしても、信じてもらえないことが結構あるということでした。それでも一生懸命、自分たちが学んだことを伝えようとする少女たちを見て、エールを送りたくなりました。
また、話がドメスティック・バイオレンスに及ぶと何人かが生々しい話を聞かせてくれて、子どもたちの身近に多くのケースがあることがわかりました。子どもたちの様子をそばで見守っていた年配のコミューン(集合村)長は、「自分は一度も妻を殴ったことがない。でも、子どもの権利や女性の権利、人権、という言葉は、このプロジェクトが始まってから初めて知った。村の内部の人が言うと信じないことでも外からNGOの人が言うと村人は信じるので、もっともっとこの地域にHCCや国際子ども権利センターはきて話をしてほしい」と話していました。
 今回、嬉しかったのは、前回訪問したときに交流した女子中学生がわざわざ訪ねてきてくれたことです。彼女は、中学3年生のヒアングさん(16歳)で、3月にスタディツアーのグループが訪問したときにコムチャイミア高校(中1から高3が在籍)で、売られる少女の役を熱演しました。コムチャイミア郡に高校は一つしかなく、コムチャイミア高校はこのプロジェクトの中心的な役割を果たしています。3月に中高生が演じた劇があまりにも上手だったので、1回で終わらせるのはもったいない、ということで、6月にビデオ撮影をしました。幸い、カンボジアでテレビ番組制作の技術協力をしていらっしゃる青年海外協力隊の方が協力してくださることになりました。
 ところが、撮影の前日、前回演じてくれた女子中学高校生たちが、撮影に参加しないと言っているという連絡が入りました。何でも3月にセックスワーカーの役を演じた少女たちがその後、村の子どもたちにからかわれるようになったというのです。私たちも劇を見たときは、この国でひどい軽蔑や差別の対象となっているセックスワーカーの役を彼女たちがよく演じたと感心していたところでした。劇のあとに話を聞いてみると、演じる前は親からの反対もあったそうですが、彼女たちがこれは大事な活動だからと親を説得することに成功したとのことでした。そんな勇気ある彼女たちのことをあのあと、からかっている子どもたちがいたとは・・・。それで、再び親たちが心配になり、反対しているとのことでした。
 彼女たちが演じることができなければ劇の撮影もだいなしになります。不安な中、6月4日、5時間かけて村に向かうとHCCスタッフや学校の先生の説得などにより、思い直した彼女たちが演じることを決めたことがわかりました。ほっ・・。
 いよいよビデオ撮影が始まると、まるで映画撮影のような本格的なものとなりました。学校の先生は何度も「やり直し」を命じます。みんな汗だくのまま撮影を続け、暗くなるころにようやく最後のシーンを撮り終えることができました。
 ヒアングが演じたのは、連れてこられた買春宿で初めて自分が売られたことを知る少女の役でした。客をよそおって部屋に入ってきた警官に向かって「どうか何もしないで!」と泣いて懇願する彼女の迫真の演技には、思わず涙が出そうになりました。
 村でお酒に酔った夫から妻が殴られる場面を撮影したときは、涙を流す村の女性たちがいたほど、どの生徒も演じるのがうまかったです。この劇のビデオは、今週にも完成します(40分)。今後はこれをほかの学校や地域で上映し、啓発活動に活かしていく予定ですが、日本でも上映する機会をもちたいと考えています。