カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

活動報告その3  アフェシップのスタッフと話す 再統合の難しさ

2004年11月01日 16時47分41秒 | 人身売買・性的虐待 被害者支援
 10月18日にアフェシップのスタッフ二人と会いました。二人ともとても美しい女性で、一人は青い目のオードリーさん。もう一人はインド系イギリス人のはっきりした顔立ちのアルティさん。アフェシップは、国際部の局長がフランス人であることや、スペインの賞を受けていることから、外国人のスタッフやボランティアが活躍しています。オードリーさんは再統合部門で、アルティさんは法律部門で働いています。
 再統合部門とは、人身売買や性的搾取の被害にあった少女や女性をかつで住んでいた村や町、あるいは社会に戻す仕事をしています。オードリーさんは、経済が専門なのですが、現在アフェシップで実施している職業訓練で身につけた技術だけでは再統合していくのは難しいと感じています。アフェシップでは、現在、洋裁、調理、美容の3つの分野で職業訓練をおこなっています。訓練期間は、少女たちの能力によりますが、洋裁には9ヶ月から1年、調理には3ヶ月から半年、美容には3ヶ月から9ヶ月かかります。訓練が終わるとそれぞれ200ドルの資本金をアフェシップから支給され、村などで仕立て屋や食堂を開いたりします。しかし、いずれもきちんとした収入を得るのは大変です。性産業で働いていた少女や女性に対しては、最低月60ドルの収入が必要だということです。というのもそれ以下の収入になると簡単にお金が入る、性産業に後戻りしてしまう可能性が高くなるからです。また、それだけの収入があると、結婚できる可能性も高くなります。これは自分の人生に絶望し自殺を考えるような少女や女性たちにとっては大変意味のあることです。性産業で働いていた少女や女性たちは、村ではひどい烙印を押されたり、自己イメージが非常に低くなるからです。
 そこで、オードリーさんは、持続性が高く、収益の上がる製品を新しく開拓したいと考えています。手工芸品に関しては、すでに作っている人々が多く、カンボジア国内の市場はもう飽和状態です。それで、外国に輸出できるような自然のものからできた石鹸やリサイクルペーパー(包装紙)、クリスマス用の飾りなどを考えているそうです。オードリーさんは日本に旅行で1週間ほど行ったことがあるそうで、日本でどんな商品が売れるか情報を寄せてほしいとのことでした。
 アルティさんは、人身売買、性的搾取の被害にあった少女・女性の裁判支援や、カンボジアで子どもポルノ規制法や、子どもの商業的性的搾取規制法の草案づくりに携わっています。昨年11月にベトナムの少女を買春していた現行犯として逮捕された日本人容疑者に関しても彼女はずっとかかわってきましたが、弁護士がワイロを払い、この日本人は不起訴になり日本に帰国してしまいました。警察はこの容疑者が撮影していた6人のベトナム少女のビデオも押収していたので、十分すぎるほどの証拠があったのですが、逮捕されたときの少女が再度裁判所によばれたときには少女が見つからなかったのです。少女は、家に帰りたいと話したため村に戻したところ、その後に母親から娘がいなくなったと電話があったそうです。
 私は、フィリピンの例を引きながら、裁判に勝つことは、社会が「あなたは悪くない。悪いのは加害者だ」ということを少女たちに示すこととなるので、カンボジアの少女もエンパワーされる機会となっているのか?とアルティ尋ねました。すると、「残念なことにカンボジアの少女たちは、正義がなされることよりも補償金のことばかりを考えています。それは彼女たちが強欲(greedy)という意味ではなく、家族のためにお金のことを考えざるをえないほど深刻な貧困状態におかれているということです」という答えがかえってきました。
 アフェシップでは、裁判に勝つためにより有効な証拠集めをするだけでなく、人身売買や性的搾取の被害者の裁判過程において被害者に配慮した手続きをとりたいと考えています。そのためには、すべての被害者の証言をビデオ撮影したり、精神科医とともにロールプレイしながら司法手続きの準備をしたりすることが必要ですが、三脚などの機材や質の高い精神科医が不足していることから、なかなか実現できずにいるとのことでした。