カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

子どもや女性の人身売買の実態<望まれる取り組み3>

2006年08月31日 18時39分54秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)

みなさんこんにちは、平野です。前回は大人の人身売買防止について、「安全で権利の守られた出稼ぎの実現」という枠の中で人身売買をとらえ、より現実的で実効的な手段が必要ではないか、という意見を述べさせていただきました。今回は「子どもの」人身売買の防止に焦点を絞って私の意見を述べたいと思います。

【貧しければ子どもも働いて仕方ないのか】

人身売買や出稼ぎの問題に取り組んでいる人々の多くは、「出稼ぎの危険性はわかった。しかし、ではこの貧困の現状どうすればいいのか」と村人に言われたことがあると思います。また、悪いのは人身売買であって出稼ぎに行くことが悪いわけではありません。

しかしながらそれは大人の場合の話です。子どもたちについては、カンボジアも批准している「国連子ども権利条約」にある「生存・保護・発達・参加」の4つの権利が守られなくてなりません。子どもの権利は、人身売買の被害にあって初めて侵害されるのではありません。出稼ぎという行為はほとんどの場合それら4つの権利を侵害する要素を多く含んでいるのです。

【子どもの成長を妨げる児童労働】

児童労働は「原則15歳未満の子どもが大人と同じように働く労働」(ILO138号条約)とされます(開発途上国の場合「14歳未満」とする例外もあり)。また、子どもが嘘の職業斡旋で人身売買されるなどして性的搾取された場合は、通常の児童労働と区別され、18歳未満の子ども全てが対象となる「最悪の形態の児童労働」(ILO182号条約)とされます。しかし職業斡旋業者が約束どおりの仕事を斡旋した場合でも、危険な環境で長時間働かされるなど、「最悪の形態の児童労働」に分類される子どもの健康、安全、道徳を害する仕事であることは少なくありません。

【子どもたちを学校に】

子どもの権利は、子どもであれば無条件に保護されるべき人権です。そして同時に、貧困を削減し社会全体を発展させる上で子どもの権利の実現は大変重要なものです。子ども時代を健康に過ごし教育を受けた若者にはより広い職業の選択肢がありますし、出稼ぎに出るにしても人身売買や労働搾取の被害にあう危険性は大きく減少します。そしてそういう子ども/若者が増えれば、家族が、地域が、そして社会が発展し、次世代の子どもたちが健やかに育つ環境を与えることができます。

とはいえ、実際に今現在貧しいのですから、奨学金や収入向上といった具体的に通学を支援する取り組みも必要です。しかし子どもの権利と教育の重要性は、そういった支援のあるなしに関わらず共有されるべきものです。そのためには「国際条約にそう書いてあるから」ではなく、人々と向き合い、子どもの権利と教育の重要性についてなぜそれが重要なのかをきちんと説明していく必要があります。

そして「人々」は大人だけではありません。国際子ども権利センターは、子どもが自分たちの権利の実現のために主体的な役割を果たすことを推進してきました。次回はこの「大人と子ども両方が」の重要性についてお話させていただきます。

※ 写真は農村部の学校の子どもたちです。校舎は老朽化していますが、とにかく毎日通学している限り子どもの最低限の安全は確保されていると言えます。

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子どもや女性の人身売買の実態<望まれる取り組み2>

2006年08月25日 16時18分42秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)

みなさんこんにちは、平野です。前回に続いて子どもや女性の人身売買の根絶のために望まれる取り組みについて私の意見を書かせていただきたいと思います。今回は全般についてお話させていただき、次回は子どもに焦点を絞りたいと思います。

【今後とも望まれる意識啓発活動の継続】

これまで国境地帯などを中心に人身売買防止のために多くの機関、団体が意識啓発活動をしてきており、一定の成果を挙げてきています。農村部で村の人に話を聞くと、人身売買防止を呼びかけるメッセージに触れたことのある人も少なくなく、その経緯は村の集まりで村長から、あるいはNGOや国際機関のワークショップに参加して、あるいはラジオやテレビのキャンペーンで、など多岐に渡ります。

しかしながら、村の寄り合いやNGOなどのワークショップに参加する人は比較的余裕のある人の場合もあります。例えば、頻繁に出稼ぎに出ている人はそういった機会にも不在だったりしますし、最貧困層の人は読み書きができないことなどから参加に及び腰になることもあります。つまり、実際に危険にあう可能性が高い人が意識啓発を受ける機会を逃している場合も少ないのです。よって意識啓発活動は今後とも継続していく必要がありますし、もっとも必要とする人々に届くようこれまで以上の工夫が必要とされていると思います。

【出稼ぎ、という大きな枠の中で】

危険があるので出稼ぎには出ないように、と訴えても人身売買の被害を根絶することは困難であること、また「よそ者は信用するな」という伝統的なアプローチだけでは現実に対応しきれないことは前回までにご説明させていただいたとおりです。

人身売買は、出稼ぎが村で常態化している中で起こされています。確率としては小さいが被害にあった人々の人生に与える被害が甚大である、というのが人身売買という凶悪犯罪です。こういった現状を踏まえると、人身売買対策は「安全で権利の守られた出稼ぎの実現」という枠組みの中でとらえるのが現実的かと私は思います。

【具体的で実効的な出稼ぎ対策を】

国際子ども権利センターが支援している団体を含め、安全な出稼ぎを推進するための意識啓発活動をしている団体は少なくありません。ただ、安全で信用できる職業斡旋とそうでないものを見極めることは大変困難です。その中で実効的な支援を行うには、職業斡旋業者のデーターベース化や問題が発生した際の(個人情報に配慮した上での)地域における情報の共有化、そして出稼ぎ先の情報/雇用主の照会/労働条件の確認/緊急時の連絡先(行き先が国外の場合現地の大使館の番号や国際電話のかけ方も教える)/労働法など労働者の権利、といった情報を出稼ぎする人々に提供することが必要です。これらは、NGOなどと協働するにしても、最終的には政府機関主導でないと達成は困難と思われ、政府機能の向上が望まれます

次回は子どもの出稼ぎについてお話します。大人の出稼ぎと子どものそれは同じくくりでは語れないものです。

※写真はタイ入国を待つ人々と荷物です。のちに性的搾取や労働搾取を受けることになってしまう人々も、国境を越える時点ではこのような人々に混じって普通に入国することもよくあります。

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子どもや女性の人身売買の実態<望まれる取り組み1>

2006年08月16日 09時46分49秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)

みなさんこんにちは、平野です。これまで4回に渡り人身売買の実態についての記事を投稿してきました。今回は私が国際子ども権利センターカンボジア事務所での1年間で学んだそれらのことに基づいて、今後の人身売買撲滅への取り組みのあり方について、3回に分けて私なりに意見を述べさせていただきたいと思います。

【よそ者に気をつけろ、で充分か】

これまでの意識啓発活動においては「よそ者に気をつけろ」(stranger, danger)という言葉に象徴されるように、甘い話を持って村にやってくるよそ者を信用してはいけない、ということが意識啓発の基本に据えられていることが多々ありました。しかし、これまでご説明の通り、このような「まだ見ぬ異邦人」を警戒するだけでは不充分です。実際には、人身売買業者は自らは姿を現さずに村人を利用するケースが多く、親戚や友人知人隣人による就職斡旋を信用した結果、人身売買の被害に遭う人が多いからです。

それについては、もちろん意識して戦術を変えてきている団体もあり、国際子ども権利センターのパートナー団体であるHCCのスタッフも、実際にそういった身近な人々を信用した結果被害に遭っている人がいることをワークショップなどで説明しています。

【それでも出稼ぎに行く人は行く】

意識啓発活動はこれまで一定の成果を挙げてきたと思います。しかし意識啓発を受けた人々は、みな出稼ぎを止めるでしょうか。貧困と一口に言っても家族によって差がありますので、そのようなリスクをおかすくらいなら行かない、という家族も当然いるでしょうが、一方でそれでも出稼ぎに行く、あるいは子どもを行かせる、という家族も多いと思います。それだけの意識啓発を受けたのになぜ?と思われる方もいるかもしれませんが、それは以下の理由からではないかと私は考えています。

・身近で出稼ぎの成功例を見ており、具体的な被害体験を聞く機会は少ない
・たとえ人の被害体験を聞いても、自分は大丈夫だろうと思う

第一の理由ですが、人身売買による性的搾取の被害に遭うのは、出稼ぎ者の中でごく限られた人々です。その性質上許しがたい犯罪である一方、数の面で言うと(重労働低賃金だったり、辛い思いをすることも多いとしても)縫製工場なりで職を得る人が圧倒的に多いのです。また、被害に遭った人がなかなか表立って体験を話そうとはしないのも当然です。

第二の理由ですが、例えば日本で免許更新のときに飲酒運転による人身事故の映画を見せられてゾッとした人たちは、みな生涯飲酒運転を控えるでしょうか?あるいは、身近な人に騙された人の話を聞いた人は、即座に自分の身近を疑うでしょうか?誰にでも「自分は大丈夫」という考えがある上に、過酷な貧困状態にあるのですから、(確率の面で言えば)必ずしも高くない危険性に目をつぶってしまうことは非難できることではありません

次回は、こられの現状を踏まえた上で、今後の人身売買撲滅のあり方について書かせていただきたいと思います。

※写真は前回に続き国境の風景です。古着を売りに行く人々の後のリヤカーを引く少年が見えます。

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子どもや女性の人身売買の実態<摘発の難しさ>

2006年08月14日 13時33分36秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)

みなさんこんにちは、平野です。前回に続いて人身売買の実態についてです。前回は人身売買には多くの人々が関与しており、また関与の深さや意識のレベルが違うことについてご説明しました。つまり、完全な悪意の犯罪者、自分自身騙されて親戚などに嘘の職業斡旋をしてしまう村人、そしてよく分からずに全体の一部に関与する人々などがいるということです。今回は、前回の最後に触れたとおりカンボジアの人身売買業者の「個人事業主」という特徴を考察し、それらの要因から人身売買事件に対する警察の捜査が非常に困難になっていることをご説明します。

【“本当の悪”は滅多に捕まらない】

近年人身売買は組織犯罪の枠組みでとらえられることが多く、大規模な犯罪組織の関与は、日本やロシア、東ヨーロッパ、コロンビア等に多く見られます。しかし末端では小規模なグループや緩やかな結びつきしかない個人によって行われる人身売買も少なくなく、カンボジアの場合もそれにあてはまります。よって俗に言う「芋づる式」のようなかたちで一度に多くの人身売買業者を逮捕するのは容易ではありません。

何らかのかたちで被害に遭った人が救出され警察が動いた場合、警察は村でその子どもなり女性なりに職業斡旋をした人を逮捕します。これまでお伝えしている通り親戚や知人であることが多いわけですから、逮捕は困難ではありません。しかし、警察が彼らを捕らえてもその先にいる人身売買業者の正確な住所等を知っていることは少なく、また電話番号を聞きだしたとしても、プロの人身売買業者は見知らぬ電話番号からの電話に安易に応答することはありません。これらのことから、タイ国境で人身売買に取り組むある警察官は、「中間の業者を逮捕することは不可能に近い」とまで述べていました。

【人身売買事件を起こしても、職業斡旋を続けられる】

こうして、プロの人身売買業者でなくもっとも逮捕しやすい人々が逮捕され、無罪を主張し、そして最終的に裁判を受けて釈放される、ということが繰り返し発生します。就職斡旋した人々が本当になにも知らなかったのか、それとも本当は承知の上だったのか、これは判別するのが困難な場合が多く、証拠不十分で釈放されることが多いわけです。人身売買問題に詳しい弁護士によると、国境付近で職業斡旋業を営んでいる人々の中で、かつて人身売買の罪に問われたが無罪となり、釈放後も同じ職業を続けている者も少なからずいるということでした。

これに対する見方は色々です。「親戚や知り合いに嘘の職業斡旋をしてしまった村人のほとんどは、自分自身も騙されている」と主張する人も多いですが、「いや、彼らも知っているはず」と主張する外国人NGOワーカーにも会いました。それぞれ自分の見解がありますし、そうあってほしいという思いもあるでしょう。しかしいずれにしても、こうしたカンボジアの現状は、計算され尽した組織犯罪とはまた違った取り組みの難しさを生み出しています。

※写真はある国境付近の町でタイ国境に向かうカンボジア人の人々です。最近は、人身売買のケースでも合法的に越境するケースが増えているといいます。

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子どもや女性の人身売買の実態<人身売買業者とは>

2006年08月12日 15時59分32秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)
みなさんこんにちは、平野です。前々回から、私が国際子ども権利センターカンボジア事務所での1年で学んだことをもとに、人身売買の実態について書いています。前々回は人身売買の被害と加害の実態について、そして前回は「嘘の職業斡旋」に焦点をあてて村の女性や子どもが出稼ぎにでる背景をご説明しました。今回は、人身売買業者とは何者なのか、についてです。

【誰が最終的に子どもや女性を騙すのか】

誰が村人に甘い話を持ちかけて騙すのか。ある種の典型として、宝石などで着飾った都会風な女性が村人を言葉巧みにあざむくイメージがあり、実際に人身売買防止を呼びかけるポスターにもそういったシーンを描いているものがあります。そのポスターでは、派手な女性が親にお金を渡しており、少女はいやそうにしているのですが、やや強引にその女性に引っ張られています。

しかし実際にこのようなケースばかりなのでしょうか。もちろんそれも存在しているのでしょうが、同時に就職斡旋業者や親戚、友人、知人、隣人に話を持ちかけられて出稼ぎに出て被害に遭うケースも多々見られます。またそういった知人隣人は、往々にして地域で信頼のある人だったりします

【人身売買に関与する人間は複数いる】

先ほど触れたポスターの例では、その派手な身なりの女性が都市部まで少女と同行し、そして買春宿等に連れて行ってしまうことが想像されます。しかし多くのケースでは、村から最終的に連れて行かれる場所までに複数の人間が関与していると言われます。特にタイやマレーシアなど国境を越えるケースでは、その数は5人6人になることも珍しくありません。例えば、村で職業を斡旋する人間、国境沿いの州まで連れて行く人間、国境で受け渡しする人間、タイ側であるところまで連れて行く人間、最終目的地まで連れて行く人間といった感じです。単に人間の運搬を頼まれる運転手なども含めていくと、相当な数になります。

【どこまで分かって関与しているのか】

そして複数の関係者の中で、どの人間とどの人間が確信的に関与しているのか、それが判然としないことも多いのです。例えば、ある村から10人の出稼ぎ者がある地点まで一緒に行き、そこから二つのグループに分けられ、さらにその先の地点で分けられ…その結果10人中9人は普通の仕事に就き、1人が人身売買の被害に遭ったとします。その場合、10人を束ねて運んだ業者はその被害を事前に知っていたのでしょうか、いなかったのでしょうか?

もちろんどこかに悪意ある人間がいるわけですが、関係する複数の人間には、自分も騙されて親戚に嘘の就職斡旋をしてしまった、過程の一部分に関与したが全貌は理解していない、怪しい話かなとちょっと思ったが気にしないことにした、といったさまざまな意識レベルでの関わりがあるのです。そしてそれは、次回お伝えしますが、カンボジアにおける人身売買が絵に書いたような明瞭な組織犯罪ではない、ということでもあります。これらのことが人身売買の摘発や予防を困難にしているのです。

※写真はカンボジアの農村の風景です。のどかな風景ですが、貧困から嘘の職業斡旋に騙されて村を出て行く人々があとを絶ちません。

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子どもや女性の人身売買の実態<なぜ出稼ぎに出てしまうのか>

2006年08月10日 09時28分58秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)

みなさんこんにちは、平野です。前回は、私が子の1年で現地で学んだことをもとに、どのような経緯で子どもや女性が人身売買という犯罪の被害にあってしまうのかについて書かせていただきました。その中で職業斡旋を装ったケースが多いことを述べましたが、今回はそもそも人々が、特に子どもや女性が、出稼ぎに出る背景についてご説明したいと思います。

【貧困】

農村の人々がなぜ出稼ぎに行かなくてはならないか、その背景にあるのは、一言で言えば貧困です。ユニセフの「世界子供白書2006年」によると、カンボジアでは人口の34%が1日1ドル以下で生活しています。そして1981年の調査で670万人程度とされた人口は、今ではその倍以上に膨れ上がり、さらに増えています。しかしながら、80%が農民と言われるカンボジアですが、1ヘクタールあたりのお米の収量は1.2~2トン程度(日本は6トン)であり、人口の増加に対応できていないのが現状です。

さらに2000年の大洪水、それに続く干ばつと自然条件からも農村の生活が圧迫されている一方で産業に乏しく、農村部に農業以外の職業の選択肢はあまりありません。カンボジア国内で言えば、数少ない巨大産業である縫製産業はプノンペン近郊に工場が多く、国外に目を向けると、タイでは安価な労働力としてカンボジア人の需要があります。こうした背景のもと、国内であれ国外であれ出稼ぎを希望する村人が増えてきているわけです。

そのような貧困の中、子どもたち自身も“家族を支えなければ”という義務感を強く感じている場合が多く、建設現場などで辛い児童労働を経験した子どもでも、家族の困窮を見かねて再度出稼ぎに行くことも少なくありません。こういった場合、必ずしも身体的な、あるいは言語による親からの「強制」を伴っているとは限らず、また周囲からも「家族のために働くよい子ども」とみなされ、子どもの権利侵害が発生している事実は見過ごされてしまいます。

【低い女性の地位】

女性、女子の出稼ぎについて言えば、その背景には7月19日付の記事でもご紹介しました「娘が家族のために尽くすのは義務」という伝統的な考え方があります。その象徴ともいえるのが「女性規範(Code for Women)」です。「女性規範」には、「夫が怒ったらそれ以上何か言ってはいけない」といった記述も見られ、問題を指摘する声もありますが、多くの小学校の道徳の時間に女子児童たちによって暗唱されています。

このような考え方のため、農村では中学校に行かずに働き始める女子が多くいます。前出の「世界子供白書2006年」によると、女子の中等教育の入学率は20%しかありません。出稼ぎに出る男性と女性では、女性のほうが行き先や仕事などについての情報を持たずに出稼ぎに出る傾向が強いことが指摘されているのですが、女子・女性の教育レベルの低さが人身売買業者に騙されやすい状況を生み出していることがうかがえます。

次回は、このような農村の現状に乗じて人身売買を企てる「人身売買業者」に焦点をあてます。

※写真は農村部のある小学校の1~2年生の子どもたちです。5年生6年生、あるいは中学校になっても男女とも同じ顔ぶれであってほしいと思います。

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子どもや女性の人身売買の実態<加害/被害の実態>

2006年08月05日 07時00分38秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)

みなさんこんにちは、平野です。今回から何回かに分けて、私が国際子ども権利センターカンボジア事務所に勤務してからの1年で学んだことをもとに、どのような経緯で子どもや女性の人身売買という犯罪が起こされていくのか、そしてどのような取り組みが必要とされているのかについて、簡潔にですが具体的に書かせていただこうと思います。

【就職斡旋を装ったケース】

人身売買業者が子どもや女性を騙すやり方は複雑で多岐に渡りますが、もっとも頻繁に挙げられるのは就職斡旋を装ったものです。プノンペンの縫製工場で働ける、タイのレストランのウェートレスの口を紹介する、マレーシアのお金持ちの家でメイドさんの仕事がある…誘い文句は様々ですが、いずれにしても「簡単な仕事で収入はいい」といった文句で村人をその気にさせるが、実際は買春宿などに売ってしまうのです。

縫製産業は、同国の輸出高の大半を占め、29万人(そのほとんどが女性)の労働者を雇用する人気の就職先で、人身売買業者の嘘の誘い文句にもよく使われます。特に学歴や特殊技能を事前に備えている必要はないため、村の少女や女性たちも「この仕事なら自分にもできるし、家族を助けることができる」と考え、縫製工場で働くことにあこがれるのです。しかし、就職斡旋業者は通常良いことしか言いませんし、役所に届けずに出稼ぎに出る人も多く、結果的に出稼ぎに伴う危険や労働者の権利についての知識がないままに出稼ぎに行く場合が多々あります。

【偽装結婚】

さらに最近は、結婚詐欺というかたちも増えています。行き先としては台湾が最もよく挙げられます。貧しい家庭の親は、娘を豊かな国の男性と結婚させることで、本人もより良い生活ができるだろうし、送金も期待できると考えて娘を海外に送り出します。そうして海外に渡った女性の一部は、性的虐待を受け、中には買春宿に連れて行かれるケースもあります。国際子ども権利センターが支援するHCCのプロジェクト地でも2004年に台湾人との結婚、移住が相次いだことは、7月10日付けの記事にもあるとおりです。

【その他のケース】

その他、拉致や薬物によって意識を失わせての拉致といったより暴力的なものや、養子縁組を装ったケースなども散見されます。また、レイプという犯罪が人身売買という別の犯罪につながるケースもあります。カンボジアには女性(だけ)に婚前交渉を厳しく禁じる風潮が根強くあり、レイプという犯罪の被害による場合でさえ、結婚に支障をきたすのが現状です。そのため被害にあった未婚の女性やその親が、加害者を訴えることもできずに、不本意ながらもその男性に“責任を取ることを求める”ことがあります。そしてその挙句その男性に性産業に送り込まれてしまう、というケースがあるのです。

今回は人身売買という犯罪がどのように起こされるのかについてご説明しました。さまざまな形態が取られてはいますが、その根底には、女性が低い地位に置かれ、自分の意志に基づいた自由な選択が許されていないことがあると言えると思います。次回は女性の地位にも触れつつ、「嘘の就職斡旋」に焦点をあてて「なぜ子どもや女性が出稼ぎに出てしまうのか」についてお話したいと思います。

※ 写真はHCCの職業訓練所でミシンを習う少女たちです。

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