カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

勇気をくれた子どもたち スタディツアー報告その2

2008年05月21日 17時39分49秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)
 こんにちは。甲斐田です。中国四川大地震では、たくさんの子どもたちが被害にあって、痛ましいですね。唯一の子どもを亡くした親御さんたちの報道を見ると胸がつまる思いです。ミャンマーでは、援助が届かず、タイの国境の町まで被災した方々が避難してきています。バンコクの英字新聞では連日、援助を受け入れず被災した人々より自分たちのことしか考えないビルマ政府を批判する意見が掲載されています。
 04年12月の津波のときに親を亡くした子どもたちが人身売買ブローカーから狙われたので、今回も心配になっていたのですが、ビルマの被災センターにも人身売買のブローカーがやってきて、子どもたちを連れていこうとする事件が起きました。幸い、警察が介入し、加害者は逮捕されましたが、このようなことが人知れず起きているかもしれません。親や住むところを亡くして、ショックの中にいる子どもたちは一日も早くおとなの優しさに触れて癒されなければならないのに、そうした子どもが、逆に、自分を守ってくれると信じてついていったおとなから自分は騙されていたと知ったらどんな気持ちになるでしょう。そんなことが起きていないことを祈ります。
前置きが長くなりましたが、スタディツアーの報告その2を掲載します。
写真はメンバーの子どもたちとゲームをする高橋さんです。
(強調は編集部でつけさせていただきました)


学校ベースの人身売買防止ネットワーク(SBPN School Based Prevention Network)
                      高橋友紀子(会社員)
スバイリエンでの小学校訪問

教室に入ると、私たちも教室の生徒の皆さんも緊張した様子でした。そしてひとりひとりの自己紹介。当然私も緊張しました。するとクラス以外の子どもたちが興味津々といった感じで教室の窓からたくさん覗きにきていました。キラキラした瞳と笑顔がとても印象的でした。カメラを向けると嬉しそうにはしゃぎとてもかわいらしかったです。
私たちはコミュニケーションとして日本から持っていった写真を見せたり、歌を歌いました。ギターや振り付けありで『幸せなら手を叩こう』を歌い、ゲームをして楽しみました。以下、子どもたちへの質問と答えです。

Q1.トレーニングで何について知りましたか?

A:子どもの4つの権利について(これらは国連の子どもの権利条約で定められている)
  
  「生存する権利」・・・生きることの保証。そして簡単に直すことのできる病気で命を無くさないようにする権利

  「発達する権利」・・・心や体の発育に伴なった成長をする権利
  
  「守られる権利」・・・有害な労働・経済的性的搾取から保護される権利

  「参加する権利」・・・自分達に関係することが決められる時には意見を表し、それが充分尊重される権利。

 :家庭内暴力、性的搾取、ジェンダーについて学びました。
 
 :麻薬の危険性について学びました。

 :学校の先生や村長は自分たちを守る人たちだと知りました。
  
《感想》
日本で暮らす子どもには日常では学び得無い内容をこんな小さな頃から学び、身に付けていかなければならない環境にショックを受けました。子どもたちの「学校の先生や村長が自分たちを守ってくれる存在だということが理解できた」という答えに安心しました。
親以外に頼ったり助けを求めることは、日本と文化や発展の違いがあるにしろ、『人』にとってとても大変なことであり、とても密接な信頼関係が無い限り難しいことだと感じます。 しかしながら、親や大人の言いなりでなく深い意味で自分の権利を守るためにも村長や先生の存在があることを学べることはとても良いことだと感じました。

Q2 どのような活動をしていますか?

A:学校で学んだことについて広報活動をしています。
  児童労働、ドメスティックバイオレンス、人身売買、ジェンダー、出稼ぎ労働の危険性について同学年の友人、近所の子どもに話しています。

Q2① すぐに信じてもらえましたか?
  
 a・友人、子どもたちは信じました。しかし、年上の人たち、大人の人は聞いてくれなかったり信じてくれませんでした。
  ・自分たちが学んだことを、親や大人の人たちに伝えることの難しさを知りました。

Q2② 何を信じてくれなかったのですか?
  ・人身売買についてです。

《感想》
学んだことを周りの人に伝える。受け入れてもらう。という行為は大人の私達でもとても多くのエネルギーと根気、そしていちばんに勇気が必要です。そのような地道で勇気の要る活動を子ども達がしているのを聞いて わたしの方が勇気をもらいました。

Q3 なぜこのネットワークに参加したのですか?
  
  ・自分の村での人身売買、ドメスティックバイオレンス、家庭内暴力が起こらないようにするためです。そして村の安全を守るためです。

Q4 村にドメスティックバイオレンスの問題がありますか。

  ・家庭内暴力の原因として子どもが親を軽視したような態度をとるために  親が暴力を振るうという傾向があります。
  ・私の村の話ではありませんが、親からの暴力により家を出て自分の村に住んでいる子どもがいます。

Q5 出稼ぎに出て騙されたという話を聞いたことがありますか?

  ・付き合っている男と出稼ぎに出て、その男に騙されたという人がいる。という話を聞いたことがあります。  

   
(小学生からの質問):日本ではどのような問題がありますか?
(日本人参加者からの答え)
  ・児童虐待、少子化、いじめ、各家族の問題があります。
  ・日本にもフィリピンなどから人身売買でつれてこられたり、ポルノ被害にまきこまれたりする被害者がいて、本国へ送り返しています。

(編集者注:最近は、フィリピンよりインドネシアからの被害者が多くなっています。やっと近年、加害者処罰が法律で決められ、被害者は帰国援助が受けられるようになりました。)

Q6これからの活動としてどうしていきたいですか?

  ・活動するメンバーを増やしたい
  ・広報を広める側になりたい

《感想》
子ども達が自分たちを守る権利や、安全に暮らしていくために、とても真剣に取り組んでいる様子がうかがえました。これからより多くを学校で学ぶことにより、より多くの知識や知恵が個人個人に身につくことで、今は困難な広報活動も確実に力を増していくだろうと思います。 そして、それは確実にメンバーが増えることに繋がるはずです。
 なかなか信じてもらえない!と言う周りのお友だちそして大人たちに、学んだことや見たり聞いたりしたことを伝えることは本当に大変な勇気が必要だと思います。そして 子ども達がこのような「地道でありながらも確実」な活動を続けていくためには、大人たちの万全なサポートが必要だと思います。
彼らはいくつもの勇気を持って活動しているのだな・・・と思うとかえって私の方が勇気をもらいました。
日本は離れていますが、私は日本で「身近にできること」をひとつでも多く行動することを精一杯、一生懸命頑張ります。 
私の小さな一粒の行動がカンボジアの子どもたちを手伝うエネルギーに通じることを信じています。


子どもたちによる人身売買禁止ネットワーク (2)

2007年12月29日 09時37分48秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)
こんにちは。中川香須美です。今回も前回に引き続き、学校を拠点としたネットワークによって、人身売買の被害から自分たちを守る子どもたちの取り組みについて紹介します。2007年12月5日、スバイリエン州のチュレ中学校でチュレ中学校とトロペアントロー小学校のネットワーク立ち上げのためのワークショップに、国際子ども権利センター代表甲斐田万智子さん、プノンペン事務所の近藤千晶さんと一緒に参加してきましたので、以下内容を報告します。

人身売買防止ネットワークを学校に設立するにあたって、子どもたちはHCC(カンボジアのNGO)のトレーナーから、子どもの権利や人身売買について学びます。子どもたち自身が正確な知識を得た後に、子どもたちがクラスメートや家族・地域の人たちに学んだことを普及させていくことがネットワークの活動だからです。学習の内容は、子どもの権利条約、重要な子どもの権利の概念、児童労働、および人身売買についてです。ほとんどの子どもが子どもの権利条約について学んだことがなく、なぜ子どもの権利条約が必要なのか、なぜ子どもに権利を持たせることが重要なのかについて話し合うところから学習は始まります。子どもたちは、「大人が子どもに対して悪いことをしないように」「学ぶ機会を得るために」「社会の活動に参加するために」、あるいは「子どもはカンボジアの発展に重要な将来大人になる資源だから」などなど、色々な意見を出し合います。カンボジアの学校では子どもが積極的に意見を言うことが奨励されているので、全員ではないとしても、かなり多くの子どもたちが挙手して自分の意見を述べているのは頼もしいです。発言内容がまとまらないうちから挙手して、先生に指名されると緊張もあってか発言できない子どももいて、子どもたちの積極的に学ぼうとする姿勢がとても印象的です。

子どもの権利条約は、生きる権利、保護される権利、発達の権利、参加する権利の4つの分野に分かれています。子どもたちは、権利とは何か、という先生の質問から学習を開始します。「正しいこと」、「全ての人がもっているもの」「えこひいきしないこと」「尊厳」「法律に書いてある」など、色々な意見がでます。今回は、一人一人が条文の絵が描かれているA4サイズのカードを使って、それぞれの絵が示す権利が上記の4つの分野のどの権利に属するのかをグループで話し合いました。トレーナーからは、権利を知ることが大切であると同時に、他人の権利を侵害しないように自分の権利を行使しなければならないという点も学びます。
 児童労働については、村の中で子どもたちがどんな仕事をしているかを検討します。圧倒的に多いのは牛の世話をしている子ども、その次がごはんの準備など家事手伝いです。まきわりや稲狩りの手伝いなど、カンボジアならではの労働もあります。また、ベトナムに送られて物乞いや宝くじ売りをさせられている子どもも数多くいます。学校に通える子どもが豊かだというわけでは決してありません。でも、学校に通えない貧しい家庭の子どもたちは、学校に通っている子どもたちよりもつらい仕事に従事させられていることが多い点について改めて考えます。参加している子どもたちによると、学校教育では児童労働が禁止されていることなどを学んだことがないそうです。身の回りで児童労働に従事させられている子どもを見ているものの、それが搾取である、権利侵害であるという認識はもったことがないということです。大人の手伝いをしていると思っていても、それが子どもの学業の妨げになるような仕事であれば、児童労働であり子どもの権利侵害につながることを、子どもたちは自分たちの生活に照らし合わせて考えます。
人身売買については、どういった手口で子どもたちがだまされるかを話し合いました。「お金をあげると約束する」「恋人になるという」「遊びに行こうと誘う」など、子どもたちの間でも「悪い大人が使う手段」についてはある程度の認識があることが伺えました。印象的だったのは、「飴などお菓子を与える」という子どもの発言に対して、学校の先生が「この地域では、飴をくれるといったら、その大人に子どもは簡単についていってしまう」と発言された点です。飴を食べることなどほとんどない子どもたちは、その程度の簡単な手口でもだまされる可能性があるのです。

今回参加した人身売買防止ネットワークは、12月5日から活動を開始しました。「子どもは親や保護者の指示に従って行動するべき」だと考えられているカンボジア社会で、子どもたちが主体となって自分たちの権利を主張していく機会を提供する貴重な活動がSBPNです。国際子ども権利センターの支援でエンパワーされていく子どもたちが、今後どうやって学んだことを友だちや家族に普及していくのか、みなさんも一緒に見守っていきませんか。


人身売買防止ネットワークの活動を成功させるため、ぜひ国際子ども権利センターの会員になってください。


http://jicrc/pc/member/index.html

写真は、ワークショップで子どもの権利について学ぶSBPNのメンバーの少年
©甲斐田万智子

子どもたちによる人身売買禁止ネットワーク

2007年12月18日 14時08分30秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)


こんにちは。カンボジアの中川香須美です。今回は、スバイリエン州において国際子ども権利センターが支援している事業について紹介します。国際子ども権利センターが同州で実施している支援には、貧困家庭を対象に収入向上のために牛などを支給する支援、貧困家庭の女子に対する奨学金制度、さらに学校を拠点とした人身売買防止ネットワーク(SBPN)活動支援が中心になっています。以下は、それらの中から、学校を拠点とした人身売買防止ネットワークについて紹介します。

ベトナムと長い国境で接しているスバイリエン州は、土地がやせているだけでなく、灌漑(かんがい)制度もほとんど整っておらず、農業のみで生計をたてることが極めて困難な地域です。ところが農業以外の生活手段としては、ベトナム国境付近のカジノ、縫製工場や建設現場に出稼ぎに行くしか現金収入の方法がありません。首都プノンペンや遠いタイにまでも、多くの人が職を探して危険を犯してまで出稼ぎに行きます。

貧困に苦しむ家庭では、大人だけでなく、子どもたちも学校をやめて都市部へと出稼ぎに行きます。特に女の子は、15才程度でも縫製工場に出稼ぎに送られる場合があり、初めて都会に出た少女が人身売買の被害にあう場合も少なくありません。縫製工場は18歳以下の子どもを大人と同じ条件で雇用できませんが、実際には多くの子どもが年齢を偽って工場で働いています。現状をみると、子どもたちが出稼ぎに出ることを止めることはできないものの、せめて出稼ぎ先で人身売買にあわないように知識を持っておくことがとても重要です。そこで、国際子ども権利センターは、学校に通っている子どもたちを対象として人身売買から自分を守る方法を学ぶ活動を支援しています。もちろん、自分自身だけでなく、友だちにも自分を守る方法を伝えてもらうことも目的としています。

学校を拠点とする人身売買防止ネットワークは、カンボジアのNGO「子どものためのヘルスケアセンター(Healthcare Center for Children、略 HCC)」と国際子ども権利センターが協力しています。このネットワーク活動の目的は、学校内に子どもたちのネットワークをつくることによって、まずネットワークのメンバーの子どもたちが子どもの権利や人身売買から自分を守る方法を学び、さらには学校の友だちや地域の人たちに学んだ内容を広く伝えていく点にあります。活動に対する最初の動機づけはHCCのスタッフが子どもたちにトレーニングを実施することに始まりますが、その後は子どもたち自身が大人のアドバイスを受けながら自分たちでネットワークの活動を運営していきます。

この一連の活動は、学校ベースのネットワーク(School-Based Prevention Network, 略SBPN) と名づけられていて、従来プレイベン州で実施していましたが、昨年の2006年からスバイリエンでも始めるようになりました。

現在スバイリエンでの活動地は、チャントリア郡という貧困層が多く出稼ぎに数多くの村民が出ている地域で昨年はバティ、プラサート、バベットという3つの地区で、今年からはチュレッとプレイコキーという地区でも始まりました。農業に依存しているため、天候が悪かった一昨年はほどんど稲の収穫がなく、昨年も収穫はあまりよくありませんでした。そのため、多くの人たちが出稼ぎに行かざるをえなかった村です。ベトナムとの国境に近い地理的条件から、多くの子どもたちが5年生か6年生で学校をやめ、ベトナムへ物乞いをさせられに行っています。多くの場合、母親が子どもを連れて国境を違法で渡り、子どもだけブローカーなどに預けて物乞いや宝くじ売りをさせています。


カンボジアも経済発展がここ数年でめざましく、バベットという地区はベトナムとの国境にあるためカジノなどの建設ラッシュに伴い、農民は土地を売り、カジノや縫製工場、建設現場で働き始めています。その際に仕事を紹介する話をもちかけられ前金を払ってしまい、職の紹介はないままお金を失うという問題も発生しています。



人身売買防止ネットワークの活動を成功させるため、ぜひ国際子ども権利センターの会員になってください。

(つづく)

写真は人身売買予防ネットワークのメンバー

さまざまな形での通学支援(トイレ建設の場合)

2007年07月20日 18時08分30秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)
みなさんこんにちは、以前カンボジア事務所に勤務していました平野です。だいぶ以前になりますが、カンボジアの学校にはあまりトイレがないこと、そしてそれがカンボジアにおける女子教育の普及の妨げになっていることに触れたことがありました。今回もう少し詳しく説明させていただいて、さまざまな形の子どもたちの通学支援、そしてそれを通じた人身売買、児童労働の撲滅があることをお伝えできたらと思います。

【低いトイレの普及率と高い生徒の年齢】

世界銀行のある報告書によると、カンボジアの小学校でトイレのある学校は35%ということです。つまり多くは校舎のみなのです。水道のない農村部ではなおさらでしょう。農村部では、遅い入学と留年が珍しくないため、小学校にいる子どもたちの年齢はいろいろです。8歳で入学する子もいますし、ある小学校には17歳で結婚している6年生もいました。学校にトイレがないことは、やはり女子生徒たち、とりわけ月経のある女子生徒にとって学校に行くことに対する妨げになっているのです。このことは、安全な水と衛生設備へのアクセスをテーマにした最新版の国連開発計画の人間開発指数報告書でも指摘されています。また、世界銀行の報告書は農村部に女性の先生が少ないことも指摘しているのですが、このような農村部の学校の設備状況も影響しているのではないか、と思われます。

【児童労働、そして人身売買への影響】

児童労働は長らく貧困とダイレクトに結びつけられてきましたが、最近ではそれ以外にもさまざまな原因があることが指摘されています。その中で、学校の質、教育そのものと設備の両面での質、も児童労働の発生に少なからず影響のあるものと言われています。例えば学校にトイレがないことで嫌な思いをした子どもが学校に行かなくなってしまったときに、ひどく貧しい家庭ではなかったとしても、「だったら働きなさい」ということになる場合などです。そしてそれが女の子の出稼ぎだったりすると、人身売買をはじめとしたさまざまな危険に遭う可能性が増してしまうのです。もちろん学校におけるトイレの有無を直接人身売買に結びつけることはできません。しかし、みなさんの生活同様カンボジアの農村部の生活、そしてその中で人々が下していく判断にも多様な背景があり、トイレの問題もまたその一つの要素なのです。

【保健衛生の観点から】

排泄行為を衛生的に行わないことは下痢などの病気の原因になり、適切な医療が受けられないことが多い農村部では、これは大きな危険につながります。あるユニセフの保健衛生啓発パンフレットには、幼い子どもたちの死亡や病気の原因の半分以上は、不衛生な食べ物、水、あるいは手を通じて口に入るばい菌によるものだ、とあります。こうした状況を受けて、政府や国際機関、NGOはTVでのキャンペーンや村でのワークショップなどを通じて衛生管理の意識啓発をしています。そんな中で、学校の設備や環境は「隠れたカリキュラム」と言われます。授業で説明しないことからも子どもたちはさまざまなことを学ぶからです。マイナスの面を言うと、トイレがなく先生も校庭の隅で用を足している学校では、子どもたちに衛生管理の大切さを教えるにも限界があるということにもなります。逆を言えば、適切に管理された衛生施設があれば、子どもたちが手洗いなどの適切な衛生的行為を学び、実践していく場にもなるということです。また、トイレ建設を支援の一環とする場合は、トイレが欲しいかどうか、欲しいならばどのように維持管理できるかなどを子どもたちと考えていくことで、責任や協調を教えながら子どもたちをエンパワーしていくよい機会にもなるのです。

国際子ども権利センターが支援しているプロジェクトでは、以上のような観点から、子どもの人身売買・性的搾取・児童労働を防止する目的で、トイレ建設を支援しています。

久しぶりの投稿となりましたが、学校へのトイレ建設支援の意義について、あるいはカンボジアの貧しい農村が抱える問題の多様性について考える上での参考になれば幸いです。

写真は国際子ども権利センターの支援で学校に建設されたトイレです。

子どもたちが学校に通い続けることができるために
http://jicrc.org



新しいかたちの人身売買

2006年09月27日 07時22分06秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)

みなさんこんにちは、平野です。前回前々回の記事で縫製工場で働く女性の生活や、村の少女たちの彼女たちへの憧れなどをご紹介しました。だからこそ人身売買業者は「縫製工場で働けるよ」という嘘の職業斡旋を利用するわけですが、嘘の職業斡旋は職業斡旋全体のごく一部です。では、無事縫製工場で仕事を始めたらそれでもう安全と言えるでしょうか。今回は新しい形の人身売買についてお伝えします。

【辛い仕事や寂しい都会暮らし】

前回前々回の記事でお伝えしたように、縫製工場労働者には、狭い部屋に大人数で住み、特に娯楽を楽しむわけでもなく、家族への仕送りのお金を貯めている人が多くいます。カンボジアの縫製工場の労働条件は年々向上していると言われますが、それでも雇用側による虐待などがないわけではありません。また、仕事の適性や職場の人間関係、ホームシックなど悩む理由はいくらでもあります

【工場の周辺に集まる人々】

このようなさまざまな悩みを抱えた人々に「もっと楽で給料も高い仕事があるよ」などといって近づいてくる危険な人間がいます。彼らは時には悩みの相談にも乗り、友達、あるいは頼れるお兄さん/お姉さんのような存在になったりもします。そして結局他の州の買春宿に売り飛ばしてしまったりするのです。

また、プノンペンは農村部と違い自由恋愛が黙認(あるいは強行)されている都会であり、そういった華やかな雰囲気に飲まれる少女や女性もいます。夕方の工場付近にはそこにつけこもうとする男性が沢山集まってくるとも言われています。彼らの中には、女性と恋愛関係になり信用させた挙句に買春宿に売り飛ばす人間もいます。それどころか、買春宿のオーナーがバイクタクシーの運転手を雇ってリクルート活動をしているという報告もあります(註)。

また、例えそのようなことはされないまでも、「将来結婚する」という約束で(あるいはそう騙されて)婚前交渉を持つが結局その男性とうまくいかず(あるいは捨てられ)、将来を悲観する女性が増えています。彼女らの中には自殺を図る人や、それがきっかけで性産業に足を踏み入れる人もいます。その背景には女性だけに婚前交渉を禁じる伝統的価値観の根強さと外国のテレビ等の影響から来る自由恋愛への憧れがあります。

【ある雑誌の取り組み】

このような状況は新しいものであり、支援活動は出稼ぎ者を出す農村に向けたものがほとんどです。そんな中、ある英国人女性による縫製工場労働者をターゲットにした雑誌が創刊されました。その雑誌「precious girl(大切な女の子)」は、若い女性が関心を持ちやすいテーマ(洋服や化粧など)をメインに扱いつつ、「本当の愛ってなに?」「信頼できる友だちって?」といった内容の特集を組み、少女や女性たちが慣れない都会暮らしの中で傷つくことがないよう啓発しています。人身売買が新しいかたちを取るのに対し、このようなかたちの啓発活動も新しいものです。多様化する人身売買に対抗するには、支援する側も常に新しい動きに敏感であり、かつ自分たちの活動を常に見直すことが必要と言えるでしょう。

(註)今回のテーマは最近の動きのためまだあまりリサーチ等はないのですが、ここではLegal Assist for Children and Womenのリサーチペーパー“Gender Analysis of the Patterns of Human Trafficking into and through Koh Kong Province”を参考にしました。

※画像は“precious girl”のウェブサイトです。

複雑化する人身売買には、これまで以上の取り組みと支援が必要です↓

http://jicrc.org/pc/member/index.html

おとなと子ども両方で達成する子どもの権利

2006年09月08日 22時27分39秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)

みなさんこんにちは、平野です。前回は人々が子どもの権利を理解し、苦しい状況にあっても子どもの権利を守ることの大切さについて書きました。そしてその中で「人々」はおとなたちだけではないこと、そして国際子ども権利センターは子どもの権利の実現における子どもの主体的な関わりを推進してきたことにも触れました。今回はこの「おとなと子どもの両方で実現する子どもの権利」について、ライツベースアプローチ(RBA=Rights-Based Approaches)の観点も交えて紹介したいと思います。

【地域ぐるみで子どもを守る】

2005年度のプロジェクト「プレイベン州コムチャイミア郡における、児童労働および子どもの性的搾取、人身売買を防止するため学校ベースの防止ネットワークづくりとハイリスクの生徒のいる家庭の収入向上プログラム」については、SBPN(School Based Prevention Network=学校ベースの人身売買防止ネットワーク)の活躍を中心にこれまで度々ご報告してきました。国際子ども権利センターは2004年には同郡において「児童労働および子どもの性的搾取、人身売買を防止するため地域ベースの防止ネットワークづくりプログラム」を実施しました。ここでの意識啓発活動の担い手はCBPN(=Community Based Prevention Network=地域ベースの人身売買防止ネットワーク)でした。

CBPNのメンバーは、村長、警察官、教師、女性と子どもの代表などの地域の主だった人たちです。子どもの権利、人身売買問題、人身売買関連法、及びジェンダーの役割などについて研修を受けたCBPNメンバーが、地域の人々に意識啓発活動を実施しました。のべ17,189人が参加した大規模なキャンペーンのほか、メンバーは仕事や日常の場で人々に働きかけ、またレイプやDVなどの問題にも積極的に介入しました。

【子ども自身の主体的関わりを促進するSBPN】

105名のCBPNメンバーには9名の子ども代表が含まれ、また意識啓発キャンペーンに参加した17,198人のうち9,242人は子どもでした。国際子ども権利センターは、CBPNの活動に手ごたえを感じるとともに、子どもたち自身のより主体的な関わりが欠かせないと考えました。このCBPNからSBPNへの移行は、RBAの考え方に基づいています。RBAは人権の視点から開発や開発協力を行おうとするアプローチで、権利を保有する者(rights holder) の権利実現を要求する能力、およびrights holderの権利実現のため努力する責務を負う者(duty bearer)の義務を履行する能力の両方を強化するものです。子どもたちの人身売買防止においては、子どもたちがrights holderで周囲のおとなたちがduty bearerということになります。責務を負うおとなとともに、権利を保有する子どものエンパワーメントが重要だと考え、2005年度はSBPNの活動へと進んだのです。

※ RBAの概念は、ここで触れた内容だけで説明されるような単純なものではもちろんありません。興味のある方は、開発と人権の研究で知られる川村暁雄さんの論文などを参考にされることをおすすめします。

※ 写真は子どもたちと子どもたちに出稼ぎについて話を聞く郡の役人です

遠く離れていても、カンボジアの子どもたちのエンパワーメントに協力できます↓

http://jicrc.org/pc/member/index.html

子どもや女性の人身売買の実態<望まれる取り組み3>

2006年08月31日 18時39分54秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)

みなさんこんにちは、平野です。前回は大人の人身売買防止について、「安全で権利の守られた出稼ぎの実現」という枠の中で人身売買をとらえ、より現実的で実効的な手段が必要ではないか、という意見を述べさせていただきました。今回は「子どもの」人身売買の防止に焦点を絞って私の意見を述べたいと思います。

【貧しければ子どもも働いて仕方ないのか】

人身売買や出稼ぎの問題に取り組んでいる人々の多くは、「出稼ぎの危険性はわかった。しかし、ではこの貧困の現状どうすればいいのか」と村人に言われたことがあると思います。また、悪いのは人身売買であって出稼ぎに行くことが悪いわけではありません。

しかしながらそれは大人の場合の話です。子どもたちについては、カンボジアも批准している「国連子ども権利条約」にある「生存・保護・発達・参加」の4つの権利が守られなくてなりません。子どもの権利は、人身売買の被害にあって初めて侵害されるのではありません。出稼ぎという行為はほとんどの場合それら4つの権利を侵害する要素を多く含んでいるのです。

【子どもの成長を妨げる児童労働】

児童労働は「原則15歳未満の子どもが大人と同じように働く労働」(ILO138号条約)とされます(開発途上国の場合「14歳未満」とする例外もあり)。また、子どもが嘘の職業斡旋で人身売買されるなどして性的搾取された場合は、通常の児童労働と区別され、18歳未満の子ども全てが対象となる「最悪の形態の児童労働」(ILO182号条約)とされます。しかし職業斡旋業者が約束どおりの仕事を斡旋した場合でも、危険な環境で長時間働かされるなど、「最悪の形態の児童労働」に分類される子どもの健康、安全、道徳を害する仕事であることは少なくありません。

【子どもたちを学校に】

子どもの権利は、子どもであれば無条件に保護されるべき人権です。そして同時に、貧困を削減し社会全体を発展させる上で子どもの権利の実現は大変重要なものです。子ども時代を健康に過ごし教育を受けた若者にはより広い職業の選択肢がありますし、出稼ぎに出るにしても人身売買や労働搾取の被害にあう危険性は大きく減少します。そしてそういう子ども/若者が増えれば、家族が、地域が、そして社会が発展し、次世代の子どもたちが健やかに育つ環境を与えることができます。

とはいえ、実際に今現在貧しいのですから、奨学金や収入向上といった具体的に通学を支援する取り組みも必要です。しかし子どもの権利と教育の重要性は、そういった支援のあるなしに関わらず共有されるべきものです。そのためには「国際条約にそう書いてあるから」ではなく、人々と向き合い、子どもの権利と教育の重要性についてなぜそれが重要なのかをきちんと説明していく必要があります。

そして「人々」は大人だけではありません。国際子ども権利センターは、子どもが自分たちの権利の実現のために主体的な役割を果たすことを推進してきました。次回はこの「大人と子ども両方が」の重要性についてお話させていただきます。

※ 写真は農村部の学校の子どもたちです。校舎は老朽化していますが、とにかく毎日通学している限り子どもの最低限の安全は確保されていると言えます。

人身売買の撲滅にあなたの力を貸してください↓

http://jicrc.org/pc/member/index.html

子どもや女性の人身売買の実態<望まれる取り組み2>

2006年08月25日 16時18分42秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)

みなさんこんにちは、平野です。前回に続いて子どもや女性の人身売買の根絶のために望まれる取り組みについて私の意見を書かせていただきたいと思います。今回は全般についてお話させていただき、次回は子どもに焦点を絞りたいと思います。

【今後とも望まれる意識啓発活動の継続】

これまで国境地帯などを中心に人身売買防止のために多くの機関、団体が意識啓発活動をしてきており、一定の成果を挙げてきています。農村部で村の人に話を聞くと、人身売買防止を呼びかけるメッセージに触れたことのある人も少なくなく、その経緯は村の集まりで村長から、あるいはNGOや国際機関のワークショップに参加して、あるいはラジオやテレビのキャンペーンで、など多岐に渡ります。

しかしながら、村の寄り合いやNGOなどのワークショップに参加する人は比較的余裕のある人の場合もあります。例えば、頻繁に出稼ぎに出ている人はそういった機会にも不在だったりしますし、最貧困層の人は読み書きができないことなどから参加に及び腰になることもあります。つまり、実際に危険にあう可能性が高い人が意識啓発を受ける機会を逃している場合も少ないのです。よって意識啓発活動は今後とも継続していく必要がありますし、もっとも必要とする人々に届くようこれまで以上の工夫が必要とされていると思います。

【出稼ぎ、という大きな枠の中で】

危険があるので出稼ぎには出ないように、と訴えても人身売買の被害を根絶することは困難であること、また「よそ者は信用するな」という伝統的なアプローチだけでは現実に対応しきれないことは前回までにご説明させていただいたとおりです。

人身売買は、出稼ぎが村で常態化している中で起こされています。確率としては小さいが被害にあった人々の人生に与える被害が甚大である、というのが人身売買という凶悪犯罪です。こういった現状を踏まえると、人身売買対策は「安全で権利の守られた出稼ぎの実現」という枠組みの中でとらえるのが現実的かと私は思います。

【具体的で実効的な出稼ぎ対策を】

国際子ども権利センターが支援している団体を含め、安全な出稼ぎを推進するための意識啓発活動をしている団体は少なくありません。ただ、安全で信用できる職業斡旋とそうでないものを見極めることは大変困難です。その中で実効的な支援を行うには、職業斡旋業者のデーターベース化や問題が発生した際の(個人情報に配慮した上での)地域における情報の共有化、そして出稼ぎ先の情報/雇用主の照会/労働条件の確認/緊急時の連絡先(行き先が国外の場合現地の大使館の番号や国際電話のかけ方も教える)/労働法など労働者の権利、といった情報を出稼ぎする人々に提供することが必要です。これらは、NGOなどと協働するにしても、最終的には政府機関主導でないと達成は困難と思われ、政府機能の向上が望まれます

次回は子どもの出稼ぎについてお話します。大人の出稼ぎと子どものそれは同じくくりでは語れないものです。

※写真はタイ入国を待つ人々と荷物です。のちに性的搾取や労働搾取を受けることになってしまう人々も、国境を越える時点ではこのような人々に混じって普通に入国することもよくあります。

人身売買の撲滅にあなたの力を貸してください↓

http://jicrc.org/pc/member/index.html

子どもや女性の人身売買の実態<望まれる取り組み1>

2006年08月16日 09時46分49秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)

みなさんこんにちは、平野です。これまで4回に渡り人身売買の実態についての記事を投稿してきました。今回は私が国際子ども権利センターカンボジア事務所での1年間で学んだそれらのことに基づいて、今後の人身売買撲滅への取り組みのあり方について、3回に分けて私なりに意見を述べさせていただきたいと思います。

【よそ者に気をつけろ、で充分か】

これまでの意識啓発活動においては「よそ者に気をつけろ」(stranger, danger)という言葉に象徴されるように、甘い話を持って村にやってくるよそ者を信用してはいけない、ということが意識啓発の基本に据えられていることが多々ありました。しかし、これまでご説明の通り、このような「まだ見ぬ異邦人」を警戒するだけでは不充分です。実際には、人身売買業者は自らは姿を現さずに村人を利用するケースが多く、親戚や友人知人隣人による就職斡旋を信用した結果、人身売買の被害に遭う人が多いからです。

それについては、もちろん意識して戦術を変えてきている団体もあり、国際子ども権利センターのパートナー団体であるHCCのスタッフも、実際にそういった身近な人々を信用した結果被害に遭っている人がいることをワークショップなどで説明しています。

【それでも出稼ぎに行く人は行く】

意識啓発活動はこれまで一定の成果を挙げてきたと思います。しかし意識啓発を受けた人々は、みな出稼ぎを止めるでしょうか。貧困と一口に言っても家族によって差がありますので、そのようなリスクをおかすくらいなら行かない、という家族も当然いるでしょうが、一方でそれでも出稼ぎに行く、あるいは子どもを行かせる、という家族も多いと思います。それだけの意識啓発を受けたのになぜ?と思われる方もいるかもしれませんが、それは以下の理由からではないかと私は考えています。

・身近で出稼ぎの成功例を見ており、具体的な被害体験を聞く機会は少ない
・たとえ人の被害体験を聞いても、自分は大丈夫だろうと思う

第一の理由ですが、人身売買による性的搾取の被害に遭うのは、出稼ぎ者の中でごく限られた人々です。その性質上許しがたい犯罪である一方、数の面で言うと(重労働低賃金だったり、辛い思いをすることも多いとしても)縫製工場なりで職を得る人が圧倒的に多いのです。また、被害に遭った人がなかなか表立って体験を話そうとはしないのも当然です。

第二の理由ですが、例えば日本で免許更新のときに飲酒運転による人身事故の映画を見せられてゾッとした人たちは、みな生涯飲酒運転を控えるでしょうか?あるいは、身近な人に騙された人の話を聞いた人は、即座に自分の身近を疑うでしょうか?誰にでも「自分は大丈夫」という考えがある上に、過酷な貧困状態にあるのですから、(確率の面で言えば)必ずしも高くない危険性に目をつぶってしまうことは非難できることではありません

次回は、こられの現状を踏まえた上で、今後の人身売買撲滅のあり方について書かせていただきたいと思います。

※写真は前回に続き国境の風景です。古着を売りに行く人々の後のリヤカーを引く少年が見えます。

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子どもや女性の人身売買の実態<摘発の難しさ>

2006年08月14日 13時33分36秒 | 人身売買防止プロジェクト(意識啓発)

みなさんこんにちは、平野です。前回に続いて人身売買の実態についてです。前回は人身売買には多くの人々が関与しており、また関与の深さや意識のレベルが違うことについてご説明しました。つまり、完全な悪意の犯罪者、自分自身騙されて親戚などに嘘の職業斡旋をしてしまう村人、そしてよく分からずに全体の一部に関与する人々などがいるということです。今回は、前回の最後に触れたとおりカンボジアの人身売買業者の「個人事業主」という特徴を考察し、それらの要因から人身売買事件に対する警察の捜査が非常に困難になっていることをご説明します。

【“本当の悪”は滅多に捕まらない】

近年人身売買は組織犯罪の枠組みでとらえられることが多く、大規模な犯罪組織の関与は、日本やロシア、東ヨーロッパ、コロンビア等に多く見られます。しかし末端では小規模なグループや緩やかな結びつきしかない個人によって行われる人身売買も少なくなく、カンボジアの場合もそれにあてはまります。よって俗に言う「芋づる式」のようなかたちで一度に多くの人身売買業者を逮捕するのは容易ではありません。

何らかのかたちで被害に遭った人が救出され警察が動いた場合、警察は村でその子どもなり女性なりに職業斡旋をした人を逮捕します。これまでお伝えしている通り親戚や知人であることが多いわけですから、逮捕は困難ではありません。しかし、警察が彼らを捕らえてもその先にいる人身売買業者の正確な住所等を知っていることは少なく、また電話番号を聞きだしたとしても、プロの人身売買業者は見知らぬ電話番号からの電話に安易に応答することはありません。これらのことから、タイ国境で人身売買に取り組むある警察官は、「中間の業者を逮捕することは不可能に近い」とまで述べていました。

【人身売買事件を起こしても、職業斡旋を続けられる】

こうして、プロの人身売買業者でなくもっとも逮捕しやすい人々が逮捕され、無罪を主張し、そして最終的に裁判を受けて釈放される、ということが繰り返し発生します。就職斡旋した人々が本当になにも知らなかったのか、それとも本当は承知の上だったのか、これは判別するのが困難な場合が多く、証拠不十分で釈放されることが多いわけです。人身売買問題に詳しい弁護士によると、国境付近で職業斡旋業を営んでいる人々の中で、かつて人身売買の罪に問われたが無罪となり、釈放後も同じ職業を続けている者も少なからずいるということでした。

これに対する見方は色々です。「親戚や知り合いに嘘の職業斡旋をしてしまった村人のほとんどは、自分自身も騙されている」と主張する人も多いですが、「いや、彼らも知っているはず」と主張する外国人NGOワーカーにも会いました。それぞれ自分の見解がありますし、そうあってほしいという思いもあるでしょう。しかしいずれにしても、こうしたカンボジアの現状は、計算され尽した組織犯罪とはまた違った取り組みの難しさを生み出しています。

※写真はある国境付近の町でタイ国境に向かうカンボジア人の人々です。最近は、人身売買のケースでも合法的に越境するケースが増えているといいます。

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