カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

学校をやめたら出稼ぎに行く少女たち

2007年04月06日 18時47分10秒 | カンボジアの子ども

危険を知らずに出稼ぎに行く少女たち

こんにちわ、中川かすみです。今回は、前回に引き続き、バンテアイミエンチャイ州で実施されている少女のみを対象とした奨学金制度について紹介します。奨学金を受けた少女は853人でしたが、12名が学校を辞めています。退学後に生徒の家庭を訪問して状況を調査している先生によると、ほぼ全員が貧困のために学業を継続できなかったそうです。他方、少女にインタビューすると、「学校の勉強についていけなかった」「勉強が好きでない」など、貧困と結びつける少女は皆無でした。「学校に行きたい」という発言をすれば、学校をやめさせたとして両親が非難される可能性があるため、両親を守ろうとする姿勢が見られました

ある村では6人も中途退学が出たので、わたしはその村に行って少女たちにインタビューしました。全員16歳から18歳の少女です(カンボジアは数え年なので18歳は実際17歳)。6人のうち1人はすでにバンコクに出稼ぎに行ってしまっていました。残っている5人のうち3人は、すでに何度もタイに出稼ぎに行っていました。1回国境を越えると、1-2週間タイに滞在する場合が多いものの、急にお金が必要になれば日帰りで行く場合もあるそうです。

出稼ぎのパターンは決まっており、朝3時ごろに起きて家を出ます。国境まで数時間歩き、タイ側の雇用主と落ち合う場所に向かいます。カンボジア側から大勢が歩いてその場所に行き、日雇いの仕事、あるいは数日間の仕事を探します。タイの雇用主は、仕事を求めている大勢のカンボジア人の中から、仕事が出来そうな人材を選定して連れて行きます。この選考にもれると、仕事がもらえず、歩いて家に戻るしかないのです。肉体労働の仕事がほとんどであるため、若くなければ仕事がもらえません。したがって、私がインタビューした地域では、若者の出稼ぎが圧倒的に多く、出稼ぎに出ている両親はほとんどいませんでした。

少女たちによると、仕事内容は草刈りとか稲刈りなどで、それほど大変な仕事ではないそうです。まだ身体が小さいので、建設現場の仕事は雇ってもらえないとのことでした。食べ物は自分で調達しなければならないので、1日2回、塩と米のみです。寝るのは森の中で、労働者が集まって寝ます。1日の稼ぎは60バーツ(200円弱)です。合法的に国境を越えるカンボジア人は皆無であり、少女たちは国境を越えるために書類が必要なことを知りませんでした。違法で国境を越えるときにタイの警察に見つかった女性がたくさんレイプされていることを知っているかと聞くと、「聞いたことがあるけれどこの地域ではない」との回答でした。

今回はプロジェクトの評価が目的であったため、少女に勉強を続けることを勧めることは与えられた仕事に含まれていませんでした。それでも、なんとか少女たちが学校に戻りたいという強い気持ちを持ってくれないかと、とても残念になりました。奨学金を得ている少女たちの多くが、両親から「学校に行かず家の仕事を手伝いなさい」という命令を拒否して学校に通っているからです。両親からの命令で少女が3日間学校を休むと、すぐに先生が家庭訪問をし、両親を説得する制度になっているのです。今回わたしに同行してくれた2人の先生も、少女たちに学校に復学したらどうかと話しました。「日本から遠いカンボジアまで来て、仕事をしているようなおねえさんに、あなたもなりたくないか?」と先生は私を例にして、教育が将来自分の希望する仕事を得るためにどれだけ大切かを訴えました。でも残念ながら、学校に戻りたいという希望を隠し持っている少女は1人でした(その少女も、勉強についていけないから学校には行きたくないと回答していました)。彼女はインタビュー中にちょっと泣き始めてしまって、学校を辞めざるを得なかった様子が窺えました。先生によると、彼女の母親に恋人ができて家庭を捨て、その後父親も子どもを捨ててどこかに行ってしまったため、兄弟姉妹4人全員が叔母に面倒を見てもらっているそうです。その叔母に面会しましたが、「借金があるのだから、子どもたちには働いてもらわないと!」と少女の教育にはまったく関心がないようでした。

今回の評価プロジェクトは、EU(欧州連合)の支援を受けてさらに3年継続します。ところが奨学金制度については、方針にあわないとの理由で支援を受けられず、今後どうなるかはNGOの資金調達にかかっています。奨学金が中断されれば、ほとんどの少女が中退せざるをえないほどの貧困家庭です。現在は、奨学金制度によって、両親が社会的なプレッシャーを受け、少女を中退させないような環境ができているのです。


少女たちをエンパワーするために
http://jicrc/pc/member/index.html

写真は奨学金を受けた少女と若者クラブの子どもたち

最貧困の少女たちを学校に!

2007年04月04日 14時40分03秒 | カンボジアの子ども
少女だけを対象とした奨学金制度


こんにちわ、中川かすみです。今回は、国際子ども権利センターの奨学金支援にも参考になるようなことを知ることができましたので、シェアさせてもらいます。教育機会を与えて貧困家庭の少女をエンパワーメントすることによって、少女たちが人身売買の被害に遭わないようにする目的で運営されているプロジェクトについて紹介します。わたしはそのプロジェクトの評価ミッションの一員として、タイと国境を接するバンテアイミエンチャイ州において、プロジェクトの支援を受けている少女や担当の教員、地方公共団体の職員たちのインタビューをしてきました。このプロジェクトはその背景がとてもユニークなので、まず簡単になぜ始まったかについて紹介します。

今回評価したプロジェクトは、「オペレーション・デイ」と名づけられており、デンマークの高校生が中心になって開始したものです。デンマークでは毎年1日、オペレーション・デイと呼ばれる高校生のための奉仕活動の日が設定されており、その日には学生が学校から外に出て何らかの活動をすることによって、社会奉仕活動のための資金集めをします。参加は強制ではないものの、多くの高校が参加しています。資金集めの活動としては、窓拭き、草刈り、街頭で歌を売う、など高校生が自分たちで考え、とにかくお金を集められればいいそうです。そのオペレーション・デイが2003年に選定した資金集めの目的が「カンボジアの少女たちに教育の機会を!」でした。カンボジア以外では、スーダンやタジキスタンの子どもを対象としたプロジェクトもこれまで実施されており、貧しい国の子どもたちに教育の機会を与えるというテーマが多いそうです。

さて、2003年にデンマークの高校生がその年に集めた資金(7,5百万デンマークコロン,約1億5千万円)は、カンボジアの少女に教育の機会を与えるとともに、少女が自立して生活するために必要な技術を得るため、2004年から2007年まで活用されました(プロジェクトはまだ継続中)。ちなみに、今回の評価ミッションには、デンマークから大学生が1人参加しました。彼女は資金集めをしたときは高校生で、プロジェクト立ち上げのために尽力したので、学生の代表としてプロジェクトの最終評価に参加しに来たのです。

オペレーション・デイプロジェクトは、バンテアイミエンチャイ州で4つの地区を対象として、3つの活動を実施しています。少女への奨学金、少女への技術訓練、そして小学校・中学校の生徒を中心とした若者クラブの活動です。若者クラブは男女とも参加していますが、それ以外は少女のみを対象としたプロジェクトです。プロジェクトを実際に運営しているのはカンボジアの2つのNGO、ポンルーコマー(輝く子ども)とCWCC(カンボジア女性クライシスセンター)です。両団体とも、少女と女性のエンパワーメントを目標として活動しています。

評価ミッションでは、わたしは主に奨学金制度と若者クラブの評価を担当しました。今回は、少女を対象とした奨学金制度について紹介します。奨学金は3年間継続支援となっており、最貧困の少女のみを対象として提供されます。奨学金の内容は、制服、靴、ノート、鉛筆、レインコートなどです。自宅が学校から遠い子どもには自転車も提供されました。また、貧困があまりにも深刻なので、世界食料機構(WEP)にも支援を要請し、米の支援(毎月15キロ)を受けた少女も数多くいます。

このプロジェクトは、少女だけを対象としているため、「男子を差別している」としてプロジェクトそのものが批判されなかったかどうか調査しました。結果は、プロジェクト開始当初はかなり苦情が出たとのことでした。奨学金を受けた少女から、実際に嫌がらせにあった事例を数多く聞きました。たとえば教室内で「奨学金を受けてるお前らはいいなー」と男子生徒から何度も叫ばれた少女はほとんど全員でした。ひどいケースでは、自転車で通学途中に男子生徒に邪魔をされ、自転車ごとひっくり返され、さらにタイヤに穴をあけられた少女もいました。そういった際には「いやな思いをした」ものの、両親や先生に相談した生徒は誰もいませんでした。少女たちは、「黙って耐えた」そうです。つらくても、両親にそれを伝えると両親を困らせてしまうのではないかと少女たちは心配したのです。3年が過ぎて嫌がらせはほとんどなくなったそうですが、今後は奨学金を男子にも提供してほしいというリクエストが保護者や教員からかなり出ました。貧困があまりにも深刻であるため、最初に学校をやめさせられるのが少女であったとしても、その後すぐ男子も退学せざるを得ないからです。


少女たちをエンパワーするために
http://jicrc/pc/member/index.html

写真は奨学金を受けた少女たち