カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

支援地域で起きた少女レイプ事件

2007年05月23日 23時04分13秒 | カンボジアの子ども
甲斐田です。大変久しぶりに投稿します。

中川さんの前回の記事を受けて、昨年から、国際子ども権利センターが支援事業をおこなっているスバイリエン州で起きたレイプ事件についてお話したいと思います。
この事件にかかわったHCC(国際子ども権利センターのパートナー団体)のスタッフと、少女と両親から話を聞きました。

この事件は、2006年9月2日、HCCスタッフのピセットさんがバティという地域で子どもの人身売買防止のワークショップをしていたときに起きました。別のネットワークのメンバーで教育局次長の人から「コキー村でレイプがあった」とピセットさんに電話があったのです。

加害者は近くに住む若い男(27歳)で、家族同士仲良く、少女の家にもよく遊びに来ていました。この日も夕方6時に遊びに来て、ゲームをして少女やその友達と遊んでいました。少女の父は酔っ払って寝ていたところ、夜7時過ぎに友達みんなが帰り、男は5歳の妹にお酒を買いに行かせました。母親は家の前に座っていたそうですが、驚いたことに男は家の裏に少女を連れて行ってレイプしたというのです。

いつも遊んで慕っていたおじさんにいきなり暴力を受けてどんなにショックだったことかと思います。母親が少女の名前を呼びにきて、男は少女を離したのですが、たまたま少女のおじが現場を目撃し父親に告げました。初め、父は娘の名誉を汚すのかと怒って、信じようとしなかったそうです。けれども、7歳の娘がたくさん出血するのを見て何が起きたか悟り、村長に訴えにいきました。その村長から教育局次長に連絡があり、彼からピセットさんに電話があったのです。

ピセットさんがプレイコキー村の警察官にTELしたところ、夜なので家宅捜査できないと言われました。そこで、スバイリエン州都の警察に電話し、そこから人身売買局に電話が行きました。警察の中央から指示があったということで、地元警察はすぐ逮捕に踏み切りました。加害者は翌朝逮捕され、郡警察から州警察へ送られました。私たちが支援している人身売買のネットワークのおかげで素早い行動をとることができたことが、逮捕に結びつきました。

少女は州都にある病院に入院しましたが、あまりに小さいため、証拠が残せるくらいの治療ができるかどうかわからないと言われたそうです。私も会ったとき「こんな小さな少女に…」と言葉を失いました。

少女が入院した時点で、HCCから国際子ども権利センターに支援要請がきました。「ある少女がレイプで重傷を負って入院したが、貧しい家庭のため、資金繰りが大変。治療費、交通費、食費の支援をしたいが、予算がないので、国際子ども権利センターが支援してくれないか」という内容でした。国際子ども権利センターがこういうケースを支援するのは初めてで、どれだけ支援を続けることができるか、など懸念の声も挙がりましたが、最終的に要請された金額の支援をすることにしました。幸い、治療費はユニセフが申請したことで無料になりました。

少女は1週間後に退院しましたが、少女の家族は住んでいた村に帰れなくなってしまいました。というのも、この男はおじの家に住んで農業の手伝いをしていたのですが、このおじが権力のある人物で、第三者を通して被害者の両親に対して被害報告を取り消すよう脅迫したのです。それで 家族全員で別のところへ引っ越さざるをえなくなりました。

加害者は、スバイリエン州警察から逮捕状が出て、今刑務所で裁判を待っていますが、まだどういう判決が出るかわかりません。ピセットさんはHCCだけではこの問題を解決するのは無理と判断し、他のNGO【人権団体のADHOC(アドホック)や LICADHO(リカドー)】に捜査協力を求めています。
実はこの男は過去に2回レイプしていたのですが、証拠不十分で逮捕できませんでした。2回とも警察にお金が支払われたそうです。お父さんは、「村長に訴えにいったときには不安はなく、逮捕されて嬉しかった」と話していますが、加害者がもし数年で刑務所から出てきたら何をされるかわからず怖いそうです。
この男のおじはお金持ちで、村人にお金を貸しており、貧しい被害者の家族を見下しているとのことです。少女の親は、娘がまた被害にあうのではと心配で村に戻るのを恐れています。

「今親戚の所に身を寄せていて、仕事がなく収入がないため、できるだけ早く帰りたいが、夜寝ているとき 家を荒らされるのではないかと不安。25年は刑務所にいてほしい」と話していました。

今滞在しているところでは、魚をとったり他人の家でたまに農作業の仕事があるくらいとのことでした。そんな中、「(国際子ども権利センターの支援で)米 2袋(1袋60キロ)と缶詰24缶を買うことができた。お米が全然なかったので、助かった。 2~3ヶ月はもつのでとても感謝している」と言ってもらえました。
 娘さんの体調が気になりますが、最初は、原因不明の熱や腰痛があったそうですが、その後は元気になったそうです。
 
最初に事件のことを聞いたとき、お父さんがお酒のみで暴力を振るうと聞いたのも、とても心配になったことの一つだったのですが、事件後、お父さんの態度がすごく変わったそうです。

前はお酒を飲んでは、妻や子どもたちを殴っていたそうですが、それがなくなったというのです。驚いて理由を尋ねると、「娘がレイプされて、自分たちが村の中で見下されているということがわかったから」とのこと。加害者の家族から借りたお金をまだ返していなかったため、加害者のおじから「あいつらはまだお金を返していないから損害賠償で訴えてやる」と言われたそうです。それで、「これじゃダメだ、ちゃんとした仕事をしなければ」と思ったそうです。お酒の量が減ったのはこういう理由からでした。

HCCのスタッフ、ピセットさんは、貧しい人が正義を求めようとしてもお金持ちの権力のためにそれができない状況に対して怒りをあらわにしていました。
「とにかくこういう事件は嫌だ。二度と起きてほしくない」と話しています。

カンボジアで正義がもたらされるためには、汚職などさまざまな壁がたちはだかっています。国際子ども権利センターが支援している事業によって起こすことのできる変化は、これらの壁に比べたらほんの小さなものです。でも、1人でも多くの子どもたちや人々が「やっても無駄だ」と思うのではなく、法律の知識やネットワーキングによって力をつけていくこと通して、加害者が処罰される社会を築き、子どもや女性に対する性暴力をなくしていってほしいと思います。

子どもたちを性的虐待から守るために
http://www.jicrc.org/pc/member/index.html


写真は被害少女(後姿)とその家族です。左はピセットさん。写真を撮る際にご本人と家族の了解を得ました。

増え続ける子どものレイプ被害

2007年05月18日 23時32分43秒 | Weblog
こんにちわ。中川かすみです。今回は、カンボジアの司法制度における汚職の蔓延と、その弊害として多くのレイプの加害者が損害賠償支払いだけで無罪放免になってしまう現状を報告します。

カンボジアでは少女・女性に対する差別は深刻な問題ですが、それを象徴する問題が少女・女性に対する性暴力問題です。特にレイプに関する情報は新聞や雑誌などで連日報道されています。アドホック(ADHOC)というカンボジア全土に事務所を持つ人権保護団体の報告によると、2006年は前年度と比較してレイプの被害報告数が25.7パーセントの増加となっています。以前と比較して報告数が増えている大きな理由は、人権や法律の知識が多くの人に知られるようになり、被害者が沈黙を破って届け出るケースが増えているからです。したがって、単純にレイプの数が増加しているわけではありません。

さて、レイプの被害者の多くは子どもです。アドホックに2006年連絡があった478ケースのうち、71パーセントの被害者は5歳―18歳の少女でした。わたしが最近かかわったケースも、3歳と5歳の姉妹が同じ加害者にレイプされるというケースでした。カンボジアではレイプの加害者のほぼ100パーセントが被害者の知り合い(あるいは親族)です。多くのレイプは昼間に発生しており、少女が自宅や野原で一人でいる時を狙った犯罪がほとんどです。

レイプの被害者が子どもである場合、出血していたり泣いている場合が多いため、多くの保護者がすぐレイプに気がつきます。レイプ発生後、保護者はまずNGOに連絡することがほとんどです。一般市民の警察や公的機関(村長など)に対する信頼が極めて低いため、警察ではなくNGOに連絡することが普通なのです。なぜ警察や公的機関に連絡しないのでしょうか?その理由は、公権力は加害者と被害者の間に入って、金銭的な解決方法を指導する場合がほとんどだからです。加害者は被害者よりも裕福だったり権力を持っている場合が多いため、加害者は警察にわいろを払って損害賠償金を出来るだけ最小にとどめようとするのです。「子どもと女性への法律支援の会(Legal Support for Children and Women LSCW)」が最近担当したレイプ事件でも、弁護士が被害者側についたにもかかわらず、4000ドル(50万円弱)の和解金で訴追が取り下げになったケースがありました。検察も加害者から賄賂を得て、公訴を取り下げたのです。このような和解金の交渉役を果たすのが、警察であったり村長であるのです。


レイプが刑事事件であり民事訴訟(損害賠償)だけでは済まされないという認識が、警察官の間でもまだ知れ渡っていないという問題もあります。例えばラタナキリというベトナム・ラオスと国境を接する州では、警察官6人のうち1人しかまともに読み書きができないというほど、警察官に求められる要求水準は低いのです。警察官を対象とする人身売買取引調査の訓練に参加したことがありますが、「買春宿に取り締まりに入ろうと思ったら夜の場合がほとんどだが、その場合は勤務時間外だが法的に可能か」「共犯とはどういう行為を指すのか」など、初歩的な質問が出て驚いた経験があります。

損害賠償だけでレイプ事件が解決されるだけでなく、被害者が加害者と結婚させられるケースも少なくありません。少女の価値が「処女であるか否か」で判断される傾向が強いため、被害者の保護者が加害者側に結婚を迫る場合もあるのです。また、加害者が被害者と結婚したいためにレイプする場合もあります。結婚の望みがない恋愛対象の少女をレイプし、自分の望みを達成するのです。そういった加害者と被害者との交渉において、仲介役を果たして手数料を得ようとするのも公的機関です。

レイプが10年から20年の処罰対象となる重大な犯罪だという認識を一般市民や警察の間で高める必要もありますが、警察などの公的機関にはびこる汚職を取り締まることがより重要です。罪のない市民を守るための警察が、罪のある市民を守る役割を果たしているのは許せません。性犯罪の被害者は圧倒的に少女・女性が多いため、被害者は被害にあったことで何度も苦しめられるのです。


もし自分が裁判官だったら?

2007年05月15日 13時01分51秒 | 子どもの権利の普及

こんにちわ。中川かすみです。今回は、子どもたちが子どもの権利について学んでいる様子について、プノンペンから車で30分程度離れたところにある中学校の活動を通じて紹介します。国際子ども権利センターは、同学校における子どもの権利普及活動に技術面でも資金面でも支援しています。

まず最初に、今回活動を紹介する中学校は、ジャヤバルマン7世中学校という名前です。ジャヤバルマン7世は、カンボジア人であれば必ず知っている歴史上の王様です。この王様は、15世紀にカンボジアを統治したアンコール王朝時代におけるもっとも有名な王様です。ユネスコの世界遺産であるアンコールワット遺跡群の建設、その中でも特にアンコールワットおよびバイヨン寺院の建設に全力を注いだ王様です。ちなみに、現在でも「理想的な妻」として頻繁に引き合いに出される女性はインドラデービーであり、ジャヤバルマン7世の妻(王妃)です。わたしが大学の講義で学生に「もっとも尊敬されていて理想的なカンボジア女性は?」と質問すると、必ず最初に名前が挙がる女性です(近現代で理想的な女性はいない様子)。その有名な王様の名前を持つ学校は、カンボジア全土で最初に「子どもクラブ」(子どもの権利を普及するための子どもの活動推進母体)がCRF(子ども権利基金 国際子ども権利センターのパートナー団体)の支援によって設立された学校です。偶然かもしれませんが、学校の哲学を示しているような印象を受けます。3000人以上の生徒を抱えるマンモス校です。


さて、4月30日に、同学校で子どもの権利について学んでいる様子を国際子ども権利センターのスタッフ(甲斐田さんと近藤さん)がモニタリングするのを一緒に見学しましたので、少し紹介します。この日は、中学生たちが子どもの権利条約の重要な原則について先生から学んだ後で、3つのケースを使って具体的に「子どもの最善の利益」という原則に従って、子どもの権利を守る方法についてグループワークをしながら勉強しました。1番目のケースは、「両親が離婚する場合、子どもはどちらと生活すればいいか。母親が裕福で父親が貧しいという設定で、家庭内暴力のない家庭」です。2番目は、「父親が子どもに対して暴力を振るっている家庭で生活する子どもは、誰と生活するのがいいか。母親が父親の暴力をとめることができない」という設定です。3番目は、「母親が娘を買春宿に売ってしまい、警察がその娘を救出したあと、その娘は誰と生活するのがいいか」。3つのケーススタディーすべてにおいて、子どもたちは「もし自分が裁判官だったらどう判断するか」を念頭において話し合いました。


印象的だったのは、話し合いの中で「子どもの最善の利益」について、常に考える子どもたちの姿勢でした。「NGOの施設に行くより、家庭に戻ったほうが温かい環境で生活できると思う。でもそのためにはお父さん(あるいはお母さん)に約束事をしてもらって、子どもが苦しまないようにしないといけない」、「子どもが毎日学校に通えるように、文房具を買うお金を与えるよう約束させる」、「子どもが間違った行為をしても、暴力を振るわずに優しい言葉で指導するように約束させる」など、具体的に解決法を探していました。


「もし自分だったらどうしてほしいか」、ということを多分きっと念頭に置きつつ、子どもの権利を守る具体策について子どもたち自身が考えるという学習方法は、とても効果的だと思いました。ケーススタディーの内容も、「もしかしたら自分が直面するかもしれない」と思えるような具体的かつわかりやすいケースを選んであり、とても適切なものでした。このようなやり方だと、「子どもの最善の利益」というちょっとわかりにくい原則も子どもたちが理解しやすいのではないでしょうか。けれども、こういった学習方法を取り入れている学校は、まだそれほど多くありません。今後、より多くの学校において、多くの生徒が子どもの権利について積極的にかつ楽しく学んでほしいと思いました。




少女たちをエンパワーするために
http://jicrc/pc/member/index.html