甲斐田です。大変久しぶりに投稿します。
中川さんの前回の記事を受けて、昨年から、国際子ども権利センターが支援事業をおこなっているスバイリエン州で起きたレイプ事件についてお話したいと思います。
この事件にかかわったHCC(国際子ども権利センターのパートナー団体)のスタッフと、少女と両親から話を聞きました。
この事件は、2006年9月2日、HCCスタッフのピセットさんがバティという地域で子どもの人身売買防止のワークショップをしていたときに起きました。別のネットワークのメンバーで教育局次長の人から「コキー村でレイプがあった」とピセットさんに電話があったのです。
加害者は近くに住む若い男(27歳)で、家族同士仲良く、少女の家にもよく遊びに来ていました。この日も夕方6時に遊びに来て、ゲームをして少女やその友達と遊んでいました。少女の父は酔っ払って寝ていたところ、夜7時過ぎに友達みんなが帰り、男は5歳の妹にお酒を買いに行かせました。母親は家の前に座っていたそうですが、驚いたことに男は家の裏に少女を連れて行ってレイプしたというのです。
いつも遊んで慕っていたおじさんにいきなり暴力を受けてどんなにショックだったことかと思います。母親が少女の名前を呼びにきて、男は少女を離したのですが、たまたま少女のおじが現場を目撃し父親に告げました。初め、父は娘の名誉を汚すのかと怒って、信じようとしなかったそうです。けれども、7歳の娘がたくさん出血するのを見て何が起きたか悟り、村長に訴えにいきました。その村長から教育局次長に連絡があり、彼からピセットさんに電話があったのです。
ピセットさんがプレイコキー村の警察官にTELしたところ、夜なので家宅捜査できないと言われました。そこで、スバイリエン州都の警察に電話し、そこから人身売買局に電話が行きました。警察の中央から指示があったということで、地元警察はすぐ逮捕に踏み切りました。加害者は翌朝逮捕され、郡警察から州警察へ送られました。私たちが支援している人身売買のネットワークのおかげで素早い行動をとることができたことが、逮捕に結びつきました。
少女は州都にある病院に入院しましたが、あまりに小さいため、証拠が残せるくらいの治療ができるかどうかわからないと言われたそうです。私も会ったとき「こんな小さな少女に…」と言葉を失いました。
少女が入院した時点で、HCCから国際子ども権利センターに支援要請がきました。「ある少女がレイプで重傷を負って入院したが、貧しい家庭のため、資金繰りが大変。治療費、交通費、食費の支援をしたいが、予算がないので、国際子ども権利センターが支援してくれないか」という内容でした。国際子ども権利センターがこういうケースを支援するのは初めてで、どれだけ支援を続けることができるか、など懸念の声も挙がりましたが、最終的に要請された金額の支援をすることにしました。幸い、治療費はユニセフが申請したことで無料になりました。
少女は1週間後に退院しましたが、少女の家族は住んでいた村に帰れなくなってしまいました。というのも、この男はおじの家に住んで農業の手伝いをしていたのですが、このおじが権力のある人物で、第三者を通して被害者の両親に対して被害報告を取り消すよう脅迫したのです。それで 家族全員で別のところへ引っ越さざるをえなくなりました。
加害者は、スバイリエン州警察から逮捕状が出て、今刑務所で裁判を待っていますが、まだどういう判決が出るかわかりません。ピセットさんはHCCだけではこの問題を解決するのは無理と判断し、他のNGO【人権団体のADHOC(アドホック)や LICADHO(リカドー)】に捜査協力を求めています。
実はこの男は過去に2回レイプしていたのですが、証拠不十分で逮捕できませんでした。2回とも警察にお金が支払われたそうです。お父さんは、「村長に訴えにいったときには不安はなく、逮捕されて嬉しかった」と話していますが、加害者がもし数年で刑務所から出てきたら何をされるかわからず怖いそうです。
この男のおじはお金持ちで、村人にお金を貸しており、貧しい被害者の家族を見下しているとのことです。少女の親は、娘がまた被害にあうのではと心配で村に戻るのを恐れています。
「今親戚の所に身を寄せていて、仕事がなく収入がないため、できるだけ早く帰りたいが、夜寝ているとき 家を荒らされるのではないかと不安。25年は刑務所にいてほしい」と話していました。
今滞在しているところでは、魚をとったり他人の家でたまに農作業の仕事があるくらいとのことでした。そんな中、「(国際子ども権利センターの支援で)米 2袋(1袋60キロ)と缶詰24缶を買うことができた。お米が全然なかったので、助かった。 2~3ヶ月はもつのでとても感謝している」と言ってもらえました。
娘さんの体調が気になりますが、最初は、原因不明の熱や腰痛があったそうですが、その後は元気になったそうです。
最初に事件のことを聞いたとき、お父さんがお酒のみで暴力を振るうと聞いたのも、とても心配になったことの一つだったのですが、事件後、お父さんの態度がすごく変わったそうです。
前はお酒を飲んでは、妻や子どもたちを殴っていたそうですが、それがなくなったというのです。驚いて理由を尋ねると、「娘がレイプされて、自分たちが村の中で見下されているということがわかったから」とのこと。加害者の家族から借りたお金をまだ返していなかったため、加害者のおじから「あいつらはまだお金を返していないから損害賠償で訴えてやる」と言われたそうです。それで、「これじゃダメだ、ちゃんとした仕事をしなければ」と思ったそうです。お酒の量が減ったのはこういう理由からでした。
HCCのスタッフ、ピセットさんは、貧しい人が正義を求めようとしてもお金持ちの権力のためにそれができない状況に対して怒りをあらわにしていました。
「とにかくこういう事件は嫌だ。二度と起きてほしくない」と話しています。
カンボジアで正義がもたらされるためには、汚職などさまざまな壁がたちはだかっています。国際子ども権利センターが支援している事業によって起こすことのできる変化は、これらの壁に比べたらほんの小さなものです。でも、1人でも多くの子どもたちや人々が「やっても無駄だ」と思うのではなく、法律の知識やネットワーキングによって力をつけていくこと通して、加害者が処罰される社会を築き、子どもや女性に対する性暴力をなくしていってほしいと思います。
子どもたちを性的虐待から守るために
http://www.jicrc.org/pc/member/index.html
写真は被害少女(後姿)とその家族です。左はピセットさん。写真を撮る際にご本人と家族の了解を得ました。
中川さんの前回の記事を受けて、昨年から、国際子ども権利センターが支援事業をおこなっているスバイリエン州で起きたレイプ事件についてお話したいと思います。
この事件にかかわったHCC(国際子ども権利センターのパートナー団体)のスタッフと、少女と両親から話を聞きました。
この事件は、2006年9月2日、HCCスタッフのピセットさんがバティという地域で子どもの人身売買防止のワークショップをしていたときに起きました。別のネットワークのメンバーで教育局次長の人から「コキー村でレイプがあった」とピセットさんに電話があったのです。
加害者は近くに住む若い男(27歳)で、家族同士仲良く、少女の家にもよく遊びに来ていました。この日も夕方6時に遊びに来て、ゲームをして少女やその友達と遊んでいました。少女の父は酔っ払って寝ていたところ、夜7時過ぎに友達みんなが帰り、男は5歳の妹にお酒を買いに行かせました。母親は家の前に座っていたそうですが、驚いたことに男は家の裏に少女を連れて行ってレイプしたというのです。
いつも遊んで慕っていたおじさんにいきなり暴力を受けてどんなにショックだったことかと思います。母親が少女の名前を呼びにきて、男は少女を離したのですが、たまたま少女のおじが現場を目撃し父親に告げました。初め、父は娘の名誉を汚すのかと怒って、信じようとしなかったそうです。けれども、7歳の娘がたくさん出血するのを見て何が起きたか悟り、村長に訴えにいきました。その村長から教育局次長に連絡があり、彼からピセットさんに電話があったのです。
ピセットさんがプレイコキー村の警察官にTELしたところ、夜なので家宅捜査できないと言われました。そこで、スバイリエン州都の警察に電話し、そこから人身売買局に電話が行きました。警察の中央から指示があったということで、地元警察はすぐ逮捕に踏み切りました。加害者は翌朝逮捕され、郡警察から州警察へ送られました。私たちが支援している人身売買のネットワークのおかげで素早い行動をとることができたことが、逮捕に結びつきました。
少女は州都にある病院に入院しましたが、あまりに小さいため、証拠が残せるくらいの治療ができるかどうかわからないと言われたそうです。私も会ったとき「こんな小さな少女に…」と言葉を失いました。
少女が入院した時点で、HCCから国際子ども権利センターに支援要請がきました。「ある少女がレイプで重傷を負って入院したが、貧しい家庭のため、資金繰りが大変。治療費、交通費、食費の支援をしたいが、予算がないので、国際子ども権利センターが支援してくれないか」という内容でした。国際子ども権利センターがこういうケースを支援するのは初めてで、どれだけ支援を続けることができるか、など懸念の声も挙がりましたが、最終的に要請された金額の支援をすることにしました。幸い、治療費はユニセフが申請したことで無料になりました。
少女は1週間後に退院しましたが、少女の家族は住んでいた村に帰れなくなってしまいました。というのも、この男はおじの家に住んで農業の手伝いをしていたのですが、このおじが権力のある人物で、第三者を通して被害者の両親に対して被害報告を取り消すよう脅迫したのです。それで 家族全員で別のところへ引っ越さざるをえなくなりました。
加害者は、スバイリエン州警察から逮捕状が出て、今刑務所で裁判を待っていますが、まだどういう判決が出るかわかりません。ピセットさんはHCCだけではこの問題を解決するのは無理と判断し、他のNGO【人権団体のADHOC(アドホック)や LICADHO(リカドー)】に捜査協力を求めています。
実はこの男は過去に2回レイプしていたのですが、証拠不十分で逮捕できませんでした。2回とも警察にお金が支払われたそうです。お父さんは、「村長に訴えにいったときには不安はなく、逮捕されて嬉しかった」と話していますが、加害者がもし数年で刑務所から出てきたら何をされるかわからず怖いそうです。
この男のおじはお金持ちで、村人にお金を貸しており、貧しい被害者の家族を見下しているとのことです。少女の親は、娘がまた被害にあうのではと心配で村に戻るのを恐れています。
「今親戚の所に身を寄せていて、仕事がなく収入がないため、できるだけ早く帰りたいが、夜寝ているとき 家を荒らされるのではないかと不安。25年は刑務所にいてほしい」と話していました。
今滞在しているところでは、魚をとったり他人の家でたまに農作業の仕事があるくらいとのことでした。そんな中、「(国際子ども権利センターの支援で)米 2袋(1袋60キロ)と缶詰24缶を買うことができた。お米が全然なかったので、助かった。 2~3ヶ月はもつのでとても感謝している」と言ってもらえました。
娘さんの体調が気になりますが、最初は、原因不明の熱や腰痛があったそうですが、その後は元気になったそうです。
最初に事件のことを聞いたとき、お父さんがお酒のみで暴力を振るうと聞いたのも、とても心配になったことの一つだったのですが、事件後、お父さんの態度がすごく変わったそうです。
前はお酒を飲んでは、妻や子どもたちを殴っていたそうですが、それがなくなったというのです。驚いて理由を尋ねると、「娘がレイプされて、自分たちが村の中で見下されているということがわかったから」とのこと。加害者の家族から借りたお金をまだ返していなかったため、加害者のおじから「あいつらはまだお金を返していないから損害賠償で訴えてやる」と言われたそうです。それで、「これじゃダメだ、ちゃんとした仕事をしなければ」と思ったそうです。お酒の量が減ったのはこういう理由からでした。
HCCのスタッフ、ピセットさんは、貧しい人が正義を求めようとしてもお金持ちの権力のためにそれができない状況に対して怒りをあらわにしていました。
「とにかくこういう事件は嫌だ。二度と起きてほしくない」と話しています。
カンボジアで正義がもたらされるためには、汚職などさまざまな壁がたちはだかっています。国際子ども権利センターが支援している事業によって起こすことのできる変化は、これらの壁に比べたらほんの小さなものです。でも、1人でも多くの子どもたちや人々が「やっても無駄だ」と思うのではなく、法律の知識やネットワーキングによって力をつけていくこと通して、加害者が処罰される社会を築き、子どもや女性に対する性暴力をなくしていってほしいと思います。
子どもたちを性的虐待から守るために
http://www.jicrc.org/pc/member/index.html
写真は被害少女(後姿)とその家族です。左はピセットさん。写真を撮る際にご本人と家族の了解を得ました。