カンボジアだより シーライツ

国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクト・スタッフによるカンボジアの子どもとプロジェクトについてのお便り

<号外>カンボジア事務所ボランティアサラーンさんの紹介

2005年10月26日 19時47分02秒 | その他
みなさんこんにちは、平野です。
前回に引き続きAFESIPの保育サービスについてご紹介する予定でしたが、号外として、8月末より国際子ども権利センターカンボジア事務所でボランティアを始めてくれたチュープ・サラーンさんをご紹介します。サラーンさん、自己紹介どうぞ!

【みなさんこんにちは、サラーンです】

私は、1989年にインドシナ難民として、家族と日本に移住しました。以来日本での生活は16年になります。現在は、大学を休学し、カンボジアで母国語を習うため、長期留学をしています。カンボジアに来るのは、これで5回目ですが、これまでは、最長でも1ヶ月の滞在だったので、いろいろと戸惑うことも多い毎日です。国際子ども権利センターでは、カンボジア語通訳等のお手伝いをしています。また、日本では、「すたんどばいみー」という団体で、外国籍の子どもたちの学習支援活動やその他の活動をしています。「すたんどばいみー」の活動については、会報「子夢子明」の53号で紹介しますので、会員の方は、是非ご覧になって下さい

在日期間が長い私は、本当の意味でのカンボジアを知らずに育ったので、今回このような機会を得てよりカンボジア人らしくなれるようにと思っています。こちらでも、カンボジアの子どもの力になれように精一杯頑張っていきますので、温かく見守っていって下さい。

【平野から一言】

5歳から日本で暮らしてるカンボジア人、みなさんはあまりイメージがつかめないかもしれませんのでちょっと補足します。彼女自身の言葉にあるように、カンボジア長期滞在は初めてなので、プノンペンの地理は私の方がまだ詳しいような状態です。食べ物も、タランチュラや蛇など挑戦済みの私の方が経験豊富かもしれません。日本語に関しては、普通の意味では完璧ですが、カンボジア云々と関係なく、他の若者がそうであるように、乱れた“若者言葉”を使うので、度々私の“教育的指導”が入ります。

そういった意味では普通の日本の大学生、という感じかもしれませんが、やはり日本でも団体の中心メンバーとして、さまざまなバックグラウンドを持つ子どもたちとともに活動しているだけあって、どこか落ち着いたしっかりした印象も受けます。翻訳に限らず、さまざまな業務も手伝ってもらっており、大変助かっています。国際子ども権利センターとしても、助けてもらうだけでなく、サラーンさんにとっても有意義なボランティア活動になるようしていきたいと思っておりますので、みなさまのご支援を宜しくお願い申し上げます

AFESIP保育サービス進捗報告その1

2005年10月21日 13時10分18秒 | 人身売買・性的虐待 被害者支援
みなさんこんにちは、平野です。
これまで国際子ども権利センターの支援する団体の一つであるHCCの活動を主にご報告してきましたが、今回はAFESIP (ACTING FOR WOMEN IN DISTRESSING SITUATIONS= 困難な状況に置かれた女性のための活動)の活動の中で権利センターが支援している保育サービスについてご報告します。第一回は、保育サービスの概要についてです。

AFESIPウェブサイト↓

http://www.afesip.org/

【支援にいたった経緯】

予防活動により力を入れているHCC対し、AFESIPは被害者の救出と保護により重きを置いている団体です。様々な形の性的搾取の被害に遭った少女・女性たちを一時的に保護し、職業訓練や心理ケアによって、彼女たちを社会生活へと再び返すことを目標としています。

職業訓練には洋裁・調理・美容の3つのコースがあります。少女・女性はここから好きなコースを選択するわけですが、彼女たちの中には、幼い子どもがおり、その世話をしなくてはいけないため、職業訓練を受けることができない人たちもいます。そんな彼女たちが安心して職業訓練を受けられるように、保育サービスを始めたいと考えたAFESIPが、国際子ども権利センターに支援を求めてきて、開始されたのがこの保育サービスです。

【保育サービスの内容】

AFESIPの運営するシェルターの一つである「トムディーセンター」の中の1室を託児所として使用、粉ミルクやオムツ、オモチャなどの必需品を揃えたその託児所、保育スタッフが一人常駐します。勤務時間は7:30-12:00、2:00-5:00で、土日は休みという、カンボジアの標準的勤務体系です。子どもたちは朝・晩はお母さんと、そして昼は保育スタッフとごはんを食べます。5:00以降はお母さんと一緒です。

現在のところは、2人の子どもが入っています。同じお母さんの子どもです。他にもこのサービスを受ける事を希望しているお母さんが2名ほどおり、もうすぐこの「トムディーセンター」に来ることになっています。この保育サービスが成功裏に進み、子どもたちが健康で健やかに暮らすことができれば、これまで子育てのために職業訓練を受けられなかったお母さんたちが安心して職業訓練に打ち込めます

先日の「最貧困層支援」の話とも関連してきますが、「最も支援を必要としていながら、それゆえに最もそれを受けることが難しい」という人たちにアプローチしているという意味でも、意義深い活動です。

これから数回にわたり、このサービスを受けている母子や、保育スタッフの紹介を交え、報告させていただきます。

※写真は託児所の壁です。まだ書きかけですが、うさぎとおばあさんの物語が書かれているようです。

薬物乱用が路上で暮らす子ども、若者の間で蔓延

2005年10月18日 13時31分29秒 | カンボジアの子ども
みなさんこんにちは、平野です。
国際子ども権利センターのカンボジアプロジェクトにおける4つのパートナー団体のうちの1つであるMITH SAMLANH/FRIENDS(文中では“フレンズ”として表記)により、路上で暮らす子どもと若者の薬物使用についての調査が6月に行われ、英字新聞「THE CAMBODIA DAILY」に記事が出ました。今回はその記事の日本語訳を掲載いたします。路上で暮らす子ども、若者の間で薬物汚染が急速に進行していることがうかがえます。(10月17日付・小見出しは筆者による)

【より危険な薬物への移行】

プノンペンの路上に住んでいる、あるいはそこで働いている若者の間で、今年も薬物乱用が増え続けていることが、6月に実施され、9月末に刊行されたNGOの調査報告で明らかになった。フレンズの薬物プログラムによって行われた2271人の23歳までの子どもと若者に対する1日の調査で、調査された彼らのうちの半数近くが、シンナーからアンフェタミン(訳注:覚せい剤の一種)にいたる薬物を使用していることが判明した。

薬物使用者のうち61.5%がメタフェタミン(訳注:日本で一般的に言われる覚せい剤)を、20.7%がヘロインを使用しており、ともに昨年よりも増えていた。もはや路上における“入り口の”薬物となったシンナーの使用が大幅に減っていることもこの調査で分った。専門家は、2004年と比較してヘロインの使用(多くの場合注射で摂取される)が13.5%増えたことに懸念を覚える、と語る。

「私が警戒していることの一つに、静脈注射による薬物乱用があります。なぜならそれはHIVや血液を介する病気を感染する危険が最も高いからです」WHO(世界保健機構)のグラハム・ショウ氏は語る。「このことは、近い将来違法な薬物使用によるHIVの感染が、カンボジアにおける大きな健康面の、そして社会的な問題になるだろう、ということを示しています」

【加速する違法な薬物使用】

フレンズインターナショナルのテクニカルアシスタント、デビッド・ハーディング氏は、路上の子どもたちの薬物使用は異常な速度で加速していると述べる。「急速に物事が進んでいる。8年の間に、違法な薬物使用が事実上なかったカンボジアから、路上の子どもたちの間での大流行にまで発展してしまった」現在、路上に暮らす若者の77.5%がなんらかの種類の薬物を使用していることを調査は明らかにした。ショウ氏はこの増加の一因を薬物への容易なアクセスと手ごろな価格にあるとした。ハーディング氏は、ヘロインは今やヤマ(カンボジアでの覚せい剤の通称)よりも安く、瞬く間により多くの人が選ぶ薬物となるだろう、と述べた。

【20歳にして使用歴13年の青年】

ボロボロの服を着た20歳の若者が、彼がバイクの見張り番として働き、また一人で暮らす場所でもある路上の縁石に腰掛けていた。彼は名前は明かさなかったが、シンナーを吸っていることは認めた。「ちょっとシンナーを吸ってくるよ」彼は言い、「今朝はヤマも2錠飲んだんだ」と付け加えた。彼は、7歳のときから薬物を使用しているということだった。フレンズの回復プログラムは知っているし、何日かそこで過ごしたこともあるが、薬物欲しさに逃げたという。

「やめたいとは思うんだけど、でももう中毒みたいなんだ」彼は言った。「いつもドラッグのことを考えているんだ」

※写真は篠田有史さん撮影のプノンペンのストリートチルドレンです。

“最貧困層支援を考える”番外編 ~物質的援助~

2005年10月11日 17時31分25秒 | 人身売買防止プロジェクト(収入向上)
みなさんこんにちは、平野です。
前回まで3回にわたり、国際子ども権利センター支援によるHCCのプロジェクト地、プレイベン州コムチャイミア郡での収入向上プログラム(家畜銀行)の進捗報告を通じて、“最”貧困層への支援についてみなさんと考えました。今回はその番外編として、天才経済学者にご登場願おうと思います。

【先進国にODA増額を要求し続ける男】

ジェフリー・サックスという人がいます。ご存知の方も多いかもしれませんが、ハーバード大でも数十年に一人の天才と言われ、20代で同大学の教授になった高名な経済学者です。そして今はミレニアム開発目標(極度の貧困及び飢餓の撲滅、普遍的初等教育の達成等、2015年までに達成すべき8つの目標)を推進するミレニアム・プロジェクトを率いる立場にいるこの50歳の男性は、先進国に対してODAの増額を求め続けており、日本に対しても「日本が貢献できることはたくさんあります。お金を出すことも職業訓練も技術協力も重要なのです」と発言しています。

【貧困撲滅にはお金がかかる】

サックス氏がその著書やさまざまな場で、下記の項目を貧困撲滅に必要なものとして挙げています。

・boosting agriculture (農業の強化)
・improving basic health (基礎保健の改善)
・investing in education (教育への投資)
・bringing power (電力の供給)
・providing clean water and sanitation (清潔な水と衛生)

これは誰しも納得できうる項目なのではないでしょうか。ただし彼は、これらの項目を挙げたのち、実在の一つの村を例にとり、それこそ数ドル単位から、必要な費用を試算していくのです。そして、一村いくらいくらかかる、国全体だといくらかかる、と算出し「さあ先進国のみなさん、お金を出しましょう」と持っていくのです。お金は、貧困撲滅の充分条件ではないが、必要条件だということですね。

【グローブとガウン】

これはなにも氏がばら撒き方の援助を推奨しているということでは、当然ながらありません。ただ、どれだけのお金があれば、どれだけのことができる、ということを端的に提示しているのだということでしょう。一方で、金銭的援助を、それこそ“忌み嫌って”いるように思えるNGOもあります。私見かも知れませんが、日本のNGOに比較的多く見られる傾向だと思います。

ボクシングは貧しい人にもチャンスのあるスポーツです。世界チャンピオンを目指す貧しい少年がいたら、サンドバックなどの器具類を送る援助よりも、科学的な練習メニューを作成するなどの援助の方が有効かもしれません。器具などなくとも2つの拳があれば練習できるのがボクシングです。

リングに上がるときも、きらびやかなガウンは要りません。しかし、それでも、グローブとトランクス、そしてリングシューズだけは必要です。いったい何がガウン(不必要な物的支援)で、何が「グローブ」(必要最低限の物的支援)なのか、持てるものが持たざるものに対してその判断を下すのはなかなかに傲慢で、かつ心苦しいものでもあります。

※写真はアナン国連事務総長にレポートを手渡すサックス氏です。

子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告第2弾<“最”貧困層支援を考える/第3回>

2005年10月08日 15時10分36秒 | 人身売買防止プロジェクト(収入向上)
みなさんこんにちは、平野です。
国際子ども権利センター支援によるHCCのプロジェクト地、プレイベン州コムチャイミア郡での収入向上プログラム(家畜銀行)の進捗報告を通じて、“最”貧困層への支援につい考える3回連載シリーズですが、今回で第3回となりました。最後となる今回は、“最”貧困層支援の難しさについてお話したいと思います。

【この子に豚は・・・】

いくつかの家族に豚支援を断られた(昨日付けブログご参照ください)我々は、村の有力者たちの推薦を得て、いくつかの家庭を廻りました。支援の条件には、学校に行っている少女がたくさんいることや、家畜を一切持っていないことなどが含まれますが、状況が状況なので、細かい部分は条件に合致しない家庭も紹介されました。

そんな中、こんな家庭環境の少女の家を訪問しました。お母さんは既に他界、お父さんはシェムリアップで仕事、お兄さんも同地で建設労働のため、68歳と76歳の祖父母と暮らしている12歳の少女です。学校は辞めておらず、貧しさという意味でも、条件と合います。しかしHCCスタッフは「この子に豚を育てるのは無理だ」。年老いた祖父母との3人暮らしの中で、家事のすべてをこなしながら豚まで彼女が育てるのは、確かに無理があるのでしょう。

【持たざるものはさらに・・・】

“最”貧困層、とは最も助けを必要としている”人たちです。そしてそういう人たちへのアクセスこそ最も難しいのです。さまざまなNGOが、農業技術指導や、家畜銀行、職業訓練などの貧困削減プログラムを実施しています。その際、最も助けを必要としているから、と闇雲に最貧困層の人々を集めたらどうなるでしょう。豚を持たない人に豚飼育トレーニングを?文字の読めない人にレジメを?そこまで来る手段もお金もない人を職業訓練所で待つ?村で実施したとしても、いざとなったら誰も来ない。他の村人に聞くと「出稼ぎに行ったよ」。そんなことも起こりかねません。

結局のところ、多くのNGOが「毎回参加できること」「読み書きができること」「教わった事を実行に移せること」などを参加の条件としています。その結果、最貧困層はNGOの支援からさえ疎外されてしまいかねないのです。これまでお伝えしてきたSBPN(School Based Prevention Network=学校ベースの人身売買防止ネットワーク)も、学校に通っている生徒を対象にしています。このことは、貧しくて学校にも通えない子どもはどうなるのか、という問いにつながってしかるべきでしょう。

それぞれのNGOが、それぞれによかれと思ったやり方で一生懸命活動しています。それでもなお、最貧困層の支援はこれほどまでに難しいものです

(この項終わり)

※写真は動物シリーズ第3弾で、最も美しい動物、人間の子どもです(大きくて美しくないのも混じっていますが)。
 

子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告第2弾<“最”貧困層支援を考える/第2回>

2005年10月07日 20時20分26秒 | 人身売買防止プロジェクト(収入向上)
みなさんこんにちは、平野です。
前回(昨日付けブログ)でお伝えしました通り、国際子ども権利センター支援によるHCCのプロジェクト地、プレイベン州コムチャイミア郡での収入向上プログラム(家畜銀行)の進捗報告を通じて、“最”貧困層への支援についてみなさんと考えたいと思います。今回は第2回目として、そもそもなぜ村人が豚よりも牛を欲しがるのかについてお話します。

【牛は相棒】

カンボジアの牛は、乳牛でも肉牛でもなく、農耕牛です。日本ではトラクターがやる「田起こし」の重要な任務を担うのが牛なのです。以下、牛を持つことの利点を列記します。

①田起こしができる
 ・自作農の場合・・・お金を払って牛を借りる必要がなくなる
 ・小作農(労務提供を生活の糧にしている人)の場合・・・自作農になれる
②牛糞が得られる(貴重な燃料になり、堆肥の材料にもなる)
③いざというときの保険になる(売ればまとまった現金になる)

その上で、牛は④特に餌を用意してやる必要がなく(そのへんの草を食む)、⑤豚や鶏のようにたやすく死なない、という利点を備えているわけです。また、水牛もよくみかけますが、牛のほうが好まれるようです。よりおとなしく、より暑さに強く、より働くからです。

【投資よりも節約と確実性】

鳥インフルエンザの例を出すまでもなく、鶏は簡単にバタバタと死ぬことがあります。また、くず米だの籾殻だのを与えなくてはいけません。また豚も、やはり流行り病などで死ぬ危険があります。死なせずに売れたとしても、それまでの餌代は馬鹿になりません。

一方、現金収入という観点からは、豚や鶏の方が、うまく育てることが出来れば食肉として売ることができ、収入につながります。基本的に牛自体は現金収入を産み出しません(上記のような節約にはつながります)。それでも、仔牛を選んだ家族は、それが水田で活躍するまでに2年間かかることを承知で、豚よりも牛を選びました。“最”貧困の家庭にとっては、豚という投資が必要でリスクを伴う家畜よりも、しばらく待つという条件付きでも、牛が持つ特性が魅力的ということなのでしょう

【やはり稲作が大事】

カンボジア語では、日本語同様、食事をすることを「ごはんを食べる」と言います。日本では、そう言いつつピザを食べたりしますが、カンボジアの農村部においては文字通り「ごはん」です。牛に固執する彼らを見て、やはり稲作こそが第一であって、牛は欠かざるべき存在なのだ、ということも感じました。カンボジアの農民は“ネアック(人)・スラエ(水田)”=水田の人なのです。

(この項続く)

※写真は動物シリーズ第2弾で、水牛のアップです。かわいいですよ。

子どもの人身売買防止プロジェクト現地出張報告第2弾<“最”貧困層支援を考える/第1回>

2005年10月06日 17時47分34秒 | 人身売買防止プロジェクト(収入向上)
みなさんこんにちは、平野です。
これまで国際子ども権利センター支援によるHCCのプロジェクト地、プレイベン州コムチャイミア郡への出張報告を中心にこのブログに記事を投稿してきましたが、この出張報告の第1回(8月19日付)で収入向上プログラム(家畜銀行)についてお伝えしたのを覚えていらっしゃるでしょうか。今回からの3回では、この家畜銀行の続報を通じて“最”貧困層支援についてみなさんと考えたいと思います。

【やっぱり牛がいい】

上記第1回でもお伝えしたとおり、今回の支援家族は10家族、予算の関係から、そのうち8家族に牛、2家族に豚、となっています。牛、豚それぞれの家族の選定は、村長他村の有力者たち(ビレッジ・オーソリティー 覚えていただきましたか?カンボジアのキーワードです)を中心に、HCCのスタッフも交えて行われたわけですが、私の第1回の訪問時、支援家族から「やはり牛がいい」という声が再度挙がりました。もともと牛がよかったことと、最近流行り病があるのか豚が死んだ話をよく聞くから、ということでした。

言い分はわかるが、予算は予算でいまさら変わらない・・・という状態の中、豚を支援される予定だった家族が、既にHCCから他の家族に貸し付けられている牛から産まれた仔牛を欲しい、と言ってきました。そう、買い付けた段階で出産の迫っていた牛もいたのです。

【どうして豚ではダメなのか】

ここで上記8月19日付けの回でお伝えした牛銀行のルールをおさらいしたいと思います。
・種付けして産まれた1頭目の仔牛はHCCに、2頭目はその家族に、そして最初の牝牛をHCCに返す
そう、ルール的にはHCCが受け取る仔牛なので、それをHCCが別の家族に廻すこともまた可能です。しかし、確認しなくてはいけない点がいくつかあります。よって、HCCスタッフと私は、その家族のところに向いました。そしてどうして豚ではダメなのか聞いたところ、若干驚きを伴う答えが返ってきました。

「豚に食べさせるものがない」

私は浅薄でした。確かに豚は雑食とはいえ、牛のようにそのへんの草を食むというわけではありません。くず米なりもみがらなりをやらなくてはいけません。とはいえ、生まれたての仔牛が農耕牛として活躍するようになるには、2年以上待たなくてはいけません。そのことは何度も念押ししました。しかし、確かに何もないガラーンとした家で「牛がいい。豚にやるものがない」と、小さな声で、しかしハッキリと言う8人の子持ちのお母さんの言葉に、私の視線は虚空をさまようばかりでした。

(この項続く)

※重い話題ですが、写真は私のとっておきの子豚写真にしました!